白井晃演出×多部未華子主演舞台『オーランドー』稽古場レポート 時空も性別も越える不思議な物語

レポート
舞台
2017.9.13
『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

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ヴァージニア・ウルフの原作を、白井晃が演出し、多部未華子が主演する舞台『オーランドー』が2017年9月23日(土・祝)からKAAT神奈川芸術劇場<ホール>にて上演される。初日の約1か月前となる8月29日(火)、本番に向けて徐々に熱を帯びる稽古場の様子を見学した。

『オーランドー』は不思議な作品だ。美貌の青年オーランドーが、ある日突然女性になり、16〜20世紀までを生きる。恋をして、旅をして、さまざまな人に出会う様子を詩的なセリフで表現している。日本初演ということもあり、役者も演出の白井晃も「どんな作品になるのかわからない」と言う。今回訪れた稽古場ではその片鱗が見えた。

「時は20世紀!」

小芝風花のセリフで時代が変わる。この日稽古していたのは20世紀のシーン。オーランドーを演じる多部未華子は、澄んだ声でひとつひとつ確かめるように言葉を発する。エリザベス女王役の小日向文世は、大きく膨らんだスカートを身に付け登場。ほかの役者は一人が何役をもこなす。今日が最後まで通す日らしく、セリフはあやしいところもあるが、プロンプ(陰セリフ)を受けながらも演技を続ける。

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

『オーランドー』稽古風景  撮影=岡千里

最後のシーンを終えると、みんなに安堵の表情が浮かぶ。「やっと最後までできたね」とでも言うようだ。しかし休む間はない。白井はすぐに立ち上がり、「このシーンはもっと慌ただしくした方がいいと思います」などとダメ出しが始まった。ステージの真ん中まで来て演じながら演出をする白井に、多部は真顔で真剣に頷き台本に書き込んでいく。小芝は「はい!」とまっすぐに返事をし、動きながら言われたことをすぐさま確認している。

戸次重幸池田鉄洋野間口徹らベテラン俳優は、白井の演出に対し「淡々とした方がいいかな」「それわかりやすいね」などすぐに自分の中で噛み砕いていく。白井が「今のより15%くらいスピードアップしたらいいかな」と言えば池田が「15%……」と呟き、「もう一回やってみよう」と演技を再開するとすぐに対応していた。

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

『オーランドー』稽古風景  撮影=岡千里

白井は「~してくれ」とは言わず、「~した方がいいと思いました」などと表現する。控えめだが、貪欲さを感じる言葉だ。直後のインタビュー(別途公開)で野間口が「白井さんはすべての可能性を試したいのでは」と言うように、白井はこうした方がいいかなと感じたことをまずやってみる。演劇を手に取って眺めては「やっぱりこっちかな」「これも面白いぞ」と吟味していくような丁寧な作業だ。

白井と付き合いの長い小日向文世は「ここの動きはこうした方がスムーズじゃない?」とどんどん提案していく。白井も小日向に対し「セリフをちょっと変えてみたんだけど、どうかな」と確認し、小日向が「ああ、全然違って聞こえるね!」と面白がるなど、信頼があるからこそ互いにアイデアを出し合う。ここでも白井は「一回これでやってみましょう。正解じゃないかもしれないけど」と容易に答えはださない。まだまだ時間をかけて、より良い可能性を探っていくつもりだ。

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

『オーランドー』稽古風景  撮影=岡千里

『オーランドー』はたった6名の役者が20役以上を演じる。見どころはそれだけでなく、5世紀もの時代を超える舞台装置の転換も役者自身がおこなう。数秒の間にいくつかの旗を舞台上に並べるシーンでは「旗の位置はもっと後ろじゃないと面白くないね」と、白井はどうすればお客さんが面白がってくれるかを考える。「旗を並べる時はもっと慌ただしく。サイレント映画のコマ送り的な感じで」とイメージが浮かぶ演出をし、お洒落でジャジーな曲に合わせ戸次と小芝が慌てた動きをする。それを見た白井は次に「小芝居いれてみよう。町の喧噪みたいな感じで。場が面白くなるかもしれない」と指示。すぐに戸次がセットを運びながら小芝に「そっちに置けよ」とからむジェスチャーをする。受けて小芝もジェスチャーで返す。どんどん新しい芝居がうまれていく。

時には小芝が「あ、(イスを片付けるのを)忘れてた!」「ああ(旗が)足りない!」と慌てながらも、すぐにやりなおす。一生懸命で明るいムードメーカーだ。戸次が「彼女がいると良い風が吹く」と言うと、他の役者もみんな頷くように、風通しの良い雰囲気だ。

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

『オーランドー』稽古風景 撮影=岡千里

役者たちが次々と舞台で別の演技を見せる、白井は「良いですね」と嬉しそうだ。役者から貪欲に「もうちょっと激しくしてもいいですか?」と提案が出ると、「いいかもしれない。今日はここまでだけどまた新しく試してみようね。今度はセットを動かす人数も変えてみよう」と、また違った見せ方をトライしてみたいようだ。より良い舞台のために、積み重ねては壊し、積み重ねては壊し……三歩進んで二歩下がるような稽古だった。何度も試行錯誤を繰り返すからこそ、観客を驚かせ、楽しませる作品ができるのだろう。

白井はこれまで劇場を幻想的な世界に変えてきた。観客の心を現実とは別世界へ誘う白井の舞台は、『オーランドー』という時空も性別も超えた夢のような作品によく合っていると、稽古を見て感じた。白井晃の手により劇場に魔法がかけられるのではと期待が高まる。


取材・文=河野桃子 撮影=岡千里

公演情報
KAAT×PARCOプロデュース​『オーランドー』

【神奈川公演】
日程:2017年9月23日(土・祝)~2017年10月9日(月・祝)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
【兵庫公演】
日程:2017年10月21日(土)~10月22日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【東京公演】
日程:2017年10月26日(木)~10月29日(日)
会場:新国立劇場 中劇場


■原作:ヴァージニア・ウルフ
■翻案・脚本:サラ・ルール
■演出:白井晃
■翻訳:小田島恒志・小田島則子
■出演:多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世
■演奏:林正樹 相川瞳 鈴木広志


 

 

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