東京バレエ団「アルルの女」「小さな死」公開リハーサルと、上野水香&ロベルト・ボッレの会見をレポート

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2017.9.4
(左から)上野水香、ロベルト・ボッレ (C)Kiyonori Hasegawa

(左から)上野水香、ロベルト・ボッレ (C)Kiyonori Hasegawa


東京バレエ団は9月8日から〈20世紀の傑作バレエ〉としてローラン・プティ振付「アルルの女」、イリ・キリアン振付「小さな死」、モーリス・ベジャール振付「春の祭典」を上演する。プティ、キリアン、ベジャールという20世紀を代表する振付家たちの代表的な作品を取り上げ、3作のうち2作(「アルルの女」「小さな死」)がバレエ団初演となる意欲的な公演だ。

公演に先立ち、「アルルの女」「小さな死」の公開リハーサルが実施された。また上野水香とともに主演を踊るロベルト・ボッレ(ミラノ・スカラ座バレエ団)がリハーサルと記者会見を行った。

「アルルの女」公開リハーサルより (C)Kiyonori Hasegawa

「アルルの女」公開リハーサルより (C)Kiyonori Hasegawa

■バレエ団初演となる「アルルの女」全幕上演

フランスの小説家アルフォンソ・ドーデの小説「アルルの女」に作曲家ジョルジュ・ビゼーが付随音楽を作曲、それに基づき、ローラン・プティが1974年に創り上げた1幕物のバレエが今回の「アルルの女」だ。

「アルルの女」の幻影を追い求め次第に精神が崩壊していくフレデリと、その婚約者ヴィヴェットの悲しみが、次第に疾走感を増しながら悲劇へと突き進んでいく。ガラなどで抜粋が踊られることはしばしばあるが、東京バレエ団が全幕上演するのは今回が初となる。

公開リハーサルでは主演フレデリ役のボッレとヴィヴェット役の上野水香、そして群舞の男女16人が登場し、冒頭の前奏曲部分をはじめ、いくつかのシーンを披露した。主演2人によるガラ公演を目にする機会が多いからか、16人のダンサーが加わると雰囲気ががらりと変わり、音楽共々ボッレの表情が来るべき悲劇を予感させ、重苦しさが強まる。

手をつなぎ足踏みし跳んで……といった群舞の動きは太陽と土の香りが立ち込める南仏の土着的な味わいがあり、衣裳を着けるとどうなるのだろうという興味も掻き立てられた。

一つのパートが終わるごとに、振付指導のジリアン・ウィッティンガムと斎藤友佳理芸術監督が腕の伸ばし方、肩の動き、視線など細かい部分を指導。フレデリがヴィヴェットを振り切るシーンでは「倒れ方を自然に」と斎藤が上野に告げるなど、リアリティのある人間の心模様、ドラマを描き出そうとする様子が見て取れた。

「アルルの女」公開リハーサルより (C)Kiyonori Hasegawa

「アルルの女」公開リハーサルより (C)Kiyonori Hasegawa

■12人の男女が綴るキリアン「小さな死」

続いて行われたリハーサルはイリ・キリアンの「小さな死」。これは1991年のモーツァルト没後200年を機につくられたもので、音楽もモーツァルトの「ピアノ協奏曲23番」「ピアノ協奏曲21番」が使われている。

リハーサル指導をするエルケ・シェパースは、かつてほとんどのキリアンの作品で主演を務めた名ダンサー。この「小さな死」の初演も踊っており、東京バレエ団の初演にはこれ以上ないほどに心強い存在だ。

この日リハーサルを行っていたのは9月8日、10日に出演する川島麻実子、奈良春夏、沖香菜子、三雲友里加、金子仁美、崔 美実、柄本 弾、秋元康臣、岡崎隼也、杉山優一、入戸野伊織、ブラウリオ・アルバレスの12人。

男性は弓なりにしならせたフェンシングの剣で女性を抱え込むなど、剣が象徴的なアイテムの一つとなっている。また女性は滑車の付いた黒いドレスのトルソーを使い、滑るような動きもありと、男女それぞれの存在や、それをみせる表現方法がユニークだ。それでいてモーツァルトの音楽がしっとりとした男女の世界に彩を加え、なんとも大人の情緒的な世界が感じられる。

踊り終えるとシェパースはそれぞれのペアごとに注意点、改善点を伝えるが、「Very Good!」が何度も聴こえたのが印象的。仕上がりに向けてリハーサルは上々、着々と進んでいるようだ。

■「プティ作品でダンサーとして、芸術家として大きく成長した」

リハーサル後、「アルルの女」の主演を踊るボッレと上野の記者会見が開かれた。

ボッレは1997年の「世界バレエ・フェスティバル」で来日して以来、何度も来日を重ねている。東京バレエ団とは2004年「白鳥の湖」、2015年「ジゼル」で共演。また2015年にモスクワのクレムリン・ガラで上野と共にまさにこの「アルルの女」の抜粋を踊ってもいる。

今回の公演に際し、ボッレは「また来日でき大変うれしい」と挨拶。彼自身は2008年にミラノ・スカラ座の公演で初めて「アルルの女」全幕を踊り、その際にプティから直接指導を受け、「キャリアにとってとても重要なことだった。プティは私にとって、ダンサーとしてのレパートリーの幅を広げてくれた、芸術的な成長を助けてくれた、いわば恩師ともいえる人」と話す。

ボッレが初めてプティ作品を踊ったのは19歳の頃の「シャブリエの六つのダンス」で、それ以来、「アルルの女」「カルメン」「若者と死」「ノートルダム・ド・パリ」など様々な作品を踊ってきた。「プティの作品は登場人物が強い個性を持っており、役柄を解釈したうえで、それを踊りで伝えなければならない。フレデリの絶望的な人間の苦悩、ホセの情熱や性的な思いなど、普通なら内面に秘めている感情を踊りで見せるというのは、ダンサーにとって非常に難しい経験だが、自分の成長にはとても貴重なものだった。さらにマクミラン、クランコ、ベジャール、プティなど20世紀の重要な振付家らの世代のなかで、私は唯一プティとだけ仕事ができた。これもまた重要な経験で、自分にとって貴重な財産になっている」と振り返る。

上野もまたプロとしてのキャリアを歩み始めた頃に最初に踊ったプティ作品が「シャブリエの六つのダンス」であることから「(ボッレに)共感するところが非常に多い。私のキャリアにとってもプティは非常に重要な存在」と話す。また今回のボッレとの共演についても「いつか組んで踊ってみたいと思い、実際にリハーサルをしてみて、自分を成長させてくれる大きな力があると感じた。今回の共演は非常にうれしい」と語り、ボッレもまた「(上野は)以前ガラでも組んだが素晴らしいダンサーでヴィヴェットの役柄にもぴったり」と話す。

■「プティはダンサーを挑発し200%を要求する」

それぞれにプティと積み重ねた時間を有する2人。プティとの思い出を、という質問に対しボッレは「プティはリハーサルの際に、ダンサーに200%の力を出すよう要求し、挑発する。それにより自分の中から自分が想像しなかったような反応が出てきて、自分自身も驚くのだが、そうすることで表現を引き出してくれる」と話す。上野もまた「挑発」というボッレの言葉を受け、「言葉ではなく、指導を付けるポーズや目線が非常に語っていた。あれが挑発だったのかも」と話す。

またプティ作品について「彼のボキャブラリーはシンプルだが、パトスがある。一つひとつのパを効果的に使い、その積み重ねが結果的に大きな感動に繋がっていく。それが実に効果的で、プティが抜きん出ている点だと思う。だから60年、70年を経てなお踊られる名作が数々あるのだろう」とも。そしてプティ作品を踊る際、「自分の中にある、これまで経験した感動や苦悩の積み重ね、芸術的な成熟を出すこと。それができれば視線や仕草などは本物になり、よりドラマ性が出せると思う」とその見どころ・演じどころを語ってくれた。

■ボッレ、10年ぶりの「アルルの女」はまったく新しいものに

今回の「アルルの女」全幕上演はボッレにとっては10年振り、上野は初となる。

公演に向けて上野は「今回はどうしたって悲しい役。希望を見出したいのに失うしかない。こういう悲しい人間を表現するのは今回の課題だが、悲しみの中にも優しさ、美しさを持たせていきたい。最後のクライマックス(フレデリの自殺)に向け、私が悲しい愛を注ぐことがその死へのより大きな力になるのだと思う。私のキャリアにとってもこの時期にこの作品、このパートナーに出会えたことはとても大きな意味がある。自分のすべてを注いでいい舞台にしたい」と意欲を語る。

ボッレは今回10年振りでこの作品を踊るが、「再発見、というより新たな出会い。以前踊ったものとは違い全く新しいもののようで、深い感動がある。私自身も10年間で成長し辛さなど、人間として深みを増している。みなさんぜひお楽しみになさってください」と締めくくった。

ロベルト・ボッレ (C)Kiyonori Hasegawa

ロベルト・ボッレ (C)Kiyonori Hasegawa

いつまでも若々しさを失わないボッレ。時代と共にダンサーが踊り続けられるピークの年齢が伸びている今、「人間的な熟成を舞台で表現できるようになった」と話す通り、人間の内面を描くドラマに一層厚みの加わった舞台に期待が持てる。さらにボッレは「プティ、キリアン、ベジャールという20世紀の三大振付家のレベルの高い、美しさも抜きんでている作品を1つの公演で上演するのは素晴らしいことだと思う」とも。今回の東京バレエ団の公演はファンにとっても非常に貴重な機会と言えるだろう。期待したい。

東京バレエ団「アルルの女」プロモーション映像
舞台写真: Teatro alla Scala / (C)Marco Brescia
リハーサル写真:長谷川清徳
 

取材・文=西原朋未

公演情報
東京バレエ団 〈20世紀の傑作バレエ〉「アルルの女」「小さな死」「春の祭典」
 
■公演日時:
2017年09月08日(金) 7:00PM 
2017年09月09日(土) 2:00PM 
2017年09月10日(日) 2:00PM
■会場:東京文化会館大ホール (東京都)

 
◇「アルルの女」 
振付:ローラン・プティ
音楽:ジョルジュ・ビゼー 
出演:
ロベルト・ボッレ(フレデリ)/上野水香(ヴィヴェット) (9月8日、10日)
柄本 弾(フレデリ)/川島麻実子(ヴィヴェット) (9月9日)

 
「春の祭典」 
振付:モーリス・ベジャール
音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
出演:
奈良春夏(生贄の女)/岸本秀雄(生贄の男) (9月8日)
伝田陽美(生贄の女)/入戸野伊織(生贄の男) (9月9日)
渡辺理恵(生贄の女)/岸本秀雄(生贄の男) (9月10日)

 
「小さな死」 
振付:イリ・キリアン
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
出演:
◎9月8日(金)、9月10日(日) 出演予定者
川島麻実子、奈良春夏、沖香菜子、三雲友里加、金子仁美、崔 美実
柄本 弾、秋元康臣、岡崎隼也、杉山優一、入戸野伊織、ブラウリオ・アルバレス
◎9月9日(土)出演予定者
吉川留衣、岸本夏未、伝田陽美、二瓶加奈子、政本絵美、榊優美枝
宮川新大、岸本秀雄、和田康佑、海田一成、安楽葵、樋口祐輝

 
※音楽は特別録音による音源を使用します。
 
■公式サイト:http://thetokyoballet.com/
 
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