おしゃれに、壮大に、疾走する――1966カルテットの新たなるUKロックの世界
1966カルテット
“サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.9.3. ライブレポート
日曜の午後のひと時を、クラシック音楽を楽しみながら過ごす『サンデー・ブランチ・クラシック』。9月3日に登場したのはヴァイオリン2人と、チェロ、ピアノの女性4人からなる「1966カルテット」だ。クラシックをしっかり学んだ彼女らが、その確かなテクニックをベースにビートルズなどのロックをカバーした音楽で、ミュージック・シーンに新たな風を起こしている。
3回目の登場となる1966カルテットの今回のテーマは「UKロック・ヒストリー」。彼女らが礎とするビートルズに加え、ザ・ローリング・ストーンズ、スティング、エリック・クラプトンやクイーンなどの楽曲をにぎやかな女子トークとともに初披露してくれた。
客層にはリアルタイム世代も。さらに幅広いロックの世界へ
登場した1966カルテットの4人は赤いチェックのブラウスに黒のボトムという、シンプルながらどこかロンドンらしい装い。1曲目は彼女たちの、そしてUKロックの礎ともいえるビートルズから、「ロックン・ロール・ミュージック」が演奏される。リーダーの松浦と花井の奏でるヴァイオリンがかわるがわる主旋律を奏で、まるで会話のように空間を行き交う。
松浦梨沙
花井悠希
1曲終わったところで、松浦の挨拶。この日演奏される曲目は全て本邦初公開ということで、会場の期待も俄然高まる。
続いて演奏されたのはザ・ローリング・ストーンズ「サティスファクション」、コールドプレイ「美しき生命」。周りを見ると客席は通常より男性が多く、特に60年代から90年代に今日の「UKロック」を聞きまくった、いわばリアルタイム世代が目立つ。彼女らのファンは世代が幅広い。
林はるか
江頭美保
インスタライブ実施中「年越しライブ希望者はリクエストを!」
3曲を終えたところで再びトークに。今回ビートルズ以外のロックを編曲し演奏したことで「和声などが結局ビートルズに帰っていく。ビートルズはとても洗練されているんだなぁと、改めて気づきます」と松浦。
また最近インスタグラムで「インスタライブ」を行っており、『年越しライブ』も計画中だという1966カルテットは、「300人以上集まったら会場でライブをするので、ぜひ事務所にリクエストを(笑)」とライブ実現に向けてアピールをおこなった。ちなみに「昔のラジオDJみたいに、お葉書きがうれしい」「面倒だよ、それ」「じゃあお葉書を写メで」「それもっと面倒(笑)」というにぎやかな女子トークも展開され、会場は笑いの渦に巻き込まれる。
トークは再び音楽に戻り、CD未収録のビートルズのナンバーから「ペイパーバック・ライター」、そしてプッチーニのオペラ『トゥーランドット』から「誰も寝てはならぬ」が演奏される。
この独自にアレンジされた『トゥーランドット』のゴージャス感が素晴らしく、スピード感も加わり実にかっこいい。これまでのロックとは一味違ったスケールの世界が展開され、華麗かつ壮大だ。さらに演奏はスティング「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」、エリック・クラプトン「いとしのレイラ」と往年のロックが続く。
花井悠希、林はるか、松浦梨沙、江頭美保
クイーン×1966カルテットのパワーあふれる疾走
クライマックスはなんとアンコールを含めてクイーン3連発。「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」、そして「愛という名の欲望」という、名曲のオンパレードとなった。フレディ・マーキュリーのあの顔、あの姿が脳裏に浮かんできそうなヘヴィでパワフルなこれらの曲が、女性4人の軽やかな弦とピアノが加わり、まるで宙を駆け抜けるような疾走感あふれる音楽に生まれ変わる。後ろから背中を押されるような、そんなパワーに満ちあふれた演奏に会場からは万雷の拍手。あっという間の50分であった。
終演後はサイン会
ビートルズは原点と改めて気づいた「UKロック・ヒストリー」
終演後、サイン会を終えた4人にお話を伺った。
――今回3回目の登場は「UKロック・ヒストリー」でしたが、選曲などはどのように行ったのでしょう。
松浦:テーマを「UKロック」と決めた時点で、外せないアーティストを挙げて行きました。
林:外せないアーティストの外せない曲で、また有名でみんなが知っているような曲ですね。
松浦:演奏する曲は自分たちで編曲をするので、選んだなかから自分たちが弾いてカッコイイ曲を精査していきました。編曲してもオリジナルに勝てないようなものや、自分たちの音楽とは違うものは外して。私たちがやる意義があるものというものを残していくって感じでしたね。
――ビートルズからUKロックに広げるというコンセプトは前から考えていたのでしょうか?
松浦:いろんなアーティストの曲をやってみたいな、というのは前からありましたね。インタビューでもよく「ビートルズ以外はやらないの?」とか「これをやったら面白そうだよ」という話も出ていましたし。でも実際何をやろうかとなると、私たちからビートルズは外せないし。
花井:「ビートルズ以外で」となった時、どれか一つのアーティストに決めてしまうと何かズレてしまう、というものも感じたんですよね。また今のUKロックを辿って行けばビートルズが作った礎のところに発展するのでは、とも思い、だったらヒストリーにすればと。
江頭:今までビートルズをやってきたので、そこで培ったものが活かせるとなると、やはりアメリカじゃなくUKかなとも。
――となると、UKヒストリーである一方で、ビートルズが築いたものの軌跡という原点に戻っていく感じですね。
松浦:やってみて、改めてビートルズが洗練されていることに気付きましたね。
林:ビートルズってカッコよさのなかに緩さがあるんですよね。しかも曲のなかにいろいろな音が鳴っていて、それはコーラスの間も続いている。すごいのはその鳴っている音に要らないものが何もないってことなんです。ビートルズの後にUKロックを演ってみると、いろいろ鳴っている音を整理しなきゃならないんですよ。そう思うとビートルズは計算されているかどうかわからないけれど、とてもバランスよく作られているなぁというところに気付きます。すごいです。
――UKロックをやることで、ビートルズという原点の魅力にも改めて気付くわけですね。そうしたなかでもクラシック『トゥーランドット』が、これがまた素晴らしかったです。
花井:『トゥーランドット』で空気が変わりましたよね。客席の方々の抱く風景が変わって見えるほどの壮大な曲というのは、これはクラシックの持つ強い要素だなと思いました。
林:ロックを演奏する場合、その瞬間に鳴っているビートだったりカッコよさだったりを見つけ、そこでそれぞれの演奏で起こる化学反応を楽しむというのがあるんですが、クラシックの場合は私たち全体のメロディの流れや響きが共鳴し合ってさらに大きくなるという、響きを楽しむ感じです。音の楽しみ方が違うということを、両方弾いてみて改めて感じました。
――ビートルズという原点に戻りつつも、クラシックをやることで新しい表現の幅が広がる、いわば相乗効果が生まれているわけですね。最後のクイーン3曲連続の疾走感もパワフルでした。
林:3曲やるとまたすごいですよね。クイーンは色彩がブリリアントですごくわかりやすい。それぞれの曲に元気があってグイグイと押される感じです。
――トークで出ていた年末の年越しイベントの実現はいかがでしょう?
松浦:年越しライブはどこかでやりたいですね。私たちが言って誰かが動いてくれればいいなと(笑)。
1966カルテット
ラジオ番組をやったら楽しそうな、賑やかな4人組・1966カルテットは、12月10日の『サンデーブランチ・クラシック』にも出演予定。にぎやかな女子トークともども、一味違ったイカしたロックを楽しみたい方は、ぜひお越しあれ。
取材・文=西原朋未 撮影=福岡諒祠