中村勘九郎、「いずれは息子たちも…」と想いを大阪で語った! ~中村勘九郎 中村七之助『特別公演 2017』
『特別公演 2017』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
中村勘九郎、中村七之助が全国を巡業する、恒例の舞踊公演『錦秋特別公演』が上演される。今年は群馬、岐阜など全国にある芝居小屋から8箇所を廻る特別企画。同時に大阪や兵庫など、その他の地域では『特別公演』と称し、通例のホール公演を行う。演目は共通で第1部「芸談」(大阪)・「歌舞伎塾」(兵庫)、第2部「棒しばり」、第3部「藤娘」。勘九郎は「王道なのに分かりやすく、華やかな両作品が出揃うまたとない機会」と自信を覗かせる。大阪・兵庫公演へ向けた合同取材会で見所を語った。
中村勘九郎
「『棒しばり』はコミカルかつ躍動感があり、『藤娘』は今の七之助にぴったりの演目です」
ーー今年はなぜこの演目に?
今回はホールと並行して全国の芝居小屋を廻るので、歌舞伎を初めてご覧になる地元の方々に楽しんで頂けるものをと、古典の中でもスタンダードであり、なおかつ分かりやすく華やかなものを選びました。第1部の「歌舞伎塾」をなぜ大阪でやらないかというと、去年やってしまったから(笑)。「芸談」も今年一年の舞台を振り返る数少ない機会なので、裏話のようなものをお楽しみ頂けると思います。
中村勘九郎
ーー演目についてもう少し。具体的にはどのような点が歌舞伎らしく、面白いのでしょう。
『錦秋特別公演』は舞踊の公演ですが、例えばヒップホップなど、現代的なダンスの派手さはないんですね。日本舞踊の場合は、芝居よりも難しいなんて声もあるほどです。そこで「棒しばり」なんですが、そもそも六代目(尾上)菊五郎と七代目(坂東)三津五郎という二人の踊りの名手の手を縛ったらどうなるかという所から、狂言の演目だったものを歌舞伎の舞踊に取り入れたので、コミカルかつ躍動感があり、芸としては非常に難しい。
中村勘九郎
ただ内容としては、棒に縛られてもなお、主人の目を盗んで酒を飲みたい太郎冠者(鶴松)と次郎冠者(勘九郎)の話なので。「そうまでして!?」と、特に酒飲みの男性には共感して頂けると思います(笑)。「藤娘」は短いですが、その中に踊りの基礎がすべて詰まったような作品です。衣裳、装置の美しさもありますし、今の七之助にもってこいの演目だと思います。
中村勘九郎
ーー今の七之助さんに、ぴったりとは。
「藤娘」は、生前うちの父(十八代目中村勘三郎)も「まだちょっと…」と上演をためらうほど、初心者に踊りやすく、踊りを積み重ねてきた者には「なんて難しい踊りなんだ!」と、また初心に返っていくような演目なので。そこを一歩越えるか越えないかの境にいま七之助がいると思います。(坂東)玉三郎のおじさまと二人で踊る「藤娘」など、色々と経験を積んできた今の彼の新たな一面が見られると思います。
中村勘九郎
ーー『錦秋特別公演』では、勘九郎さんが踊る「棒しばり」は06年のご出演以来、11年ぶりです。
私の中では、うちの父(中村勘三郎)と(十代目坂東)三津五郎のおじさまが踊った「棒しばり」が強いイメージとして残っています。過去に何度も踊らせていただいた中で、やはり次郎冠者と太郎冠者のあうんの呼吸が必要になってくると感じます。今回、(中村)鶴松が初役で太郎冠者を演じますが、少しでも良いコンビネーションをお見せして、お客様の心を掴めれば。
中村勘九郎
ーー中村鶴松さんは、どんな所が魅力でしょう。
子役時代は本当に天才だなと思いました。古典の子役はもちろん、例えば『野田版 鼠小僧』のさん太なんて絶品でしたから。そこから彼も青年になり色んなお役を経験していく中で、もちろん挫折を経験したり壁にぶつかったり、そこを共に乗り越えてきたので。今年から大学を卒業して歌舞伎一本になりますが、これからも一緒に精進できればと思いますし、期待しています。
中村勘九郎
「歌舞伎の舞踊は歌詞にもご注目いただくと、いっそう楽しめると思います」
ーー昨年大阪で上演した「歌舞伎塾」は、楽屋の様子を公開する趣向が好評だったとか。
「歌舞伎塾」は初めての方から何度も見てくださっている方まで、どうやったら歌舞伎の面白さを伝えられるだろうかと考えて発案しました。昨年は楽屋入りの風景から役になるまでの過程をリアルタイムで見て頂き、僕もお客様の反応をみながら横で解説をしていましたが、とても楽しかったです。専門用語が多く、言葉だけでは伝わりきらない部分を実際にお見せすることで、分かりやすくなるんでしょうね。「作品が見やすくなった」とか、あんなにも反響があるんだなと驚きました。今回は男性が女形という生き物になる過程をご覧頂く予定です。続く「棒しばり」、「藤娘」につながるような効果音や装置の説明もできればと考えています。
中村勘九郎
ーー歌舞伎における、舞踊の楽しみ方とは。
歌舞伎の舞踊で最も多いのが「当て振り」と言って、歌詞に当てた型がついたもの。例えば「棒しばり」では最初の棒術の場面で、「うち据える」という歌詞にかけて「打っていいのはうどん、そば」「月夜で狸が腹鼓」など、言葉もどんどん変化していくので、歌詞を聞き取って貰うのが一番いいのですが、これがなかなか難しい。あとは言葉を越えたところで見えてくるものがあるんじゃないでしょうか。例えば「桜」を台詞なしで表現する場合、踊り手としては日頃どれだけ対象物を見ているかが重要になってくる。自分のなかの想像力を鍛え、型を極めていく。美しいかたち、良い格好を目指して踊っています。
中村勘九郎
ーー歌詞カードがあれば、舞踊がより楽しめそうですね。
それが一番ですよね。今もあらすじ程度に書いたものはありますが、全部を文字にするとなると相当な枚数が必要になるので……いや、前向きに考えましょう。イヤホンガイドもせっかくの音(歌詞)が聞き取れませんし、やっぱり紙にするのが一番ですよね(笑)。
中村勘九郎
ーー(笑)。勘九郎さんの中で『錦秋特別公演』とは、どのような位置付けでしょう。
毎回、会場で初めて歌舞伎をご覧になる方を聞くと、まだまだ手を挙げる方がたくさんいらっしゃる。やはり、続けることが大事なんだなと思います。難しい、料金が高い、分からない。それもありますが、一度体験していただくと「こんな演目もあるんだ」と気づいて頂ける。食わず嫌いが一番残念に思うことなので。年々観劇してくださる方が増えるのは嬉しいことですし、次に繋がることだと思います。そもそも、うちの父が僕らを連れて始めた「親子会」をきっかけに、兄弟で継いだのが始まりなので。また何年後になるか分かりませんが、子供たちにも続いていけばいいなと思います。
中村勘九郎
ーー最後に、お客様にメッセージを。
継続は力なりで、『錦秋特別公演』(ホール版の名称は『特別公演』)が今年で13回目を迎えました。弟の七之助をはじめ中村家一門、切磋琢磨、精進を重ね続けて来れたのも、お客様一人ひとりのお力添えのお陰だと思います。「棒しばり」「藤娘」が一度に楽しめる公演もなかなかないので、初めての方もこれを機に観に来ていただければ嬉しいなと思います。
中村勘九郎
取材・文・撮影=石橋法子
■演目:一:芸談(大阪)・歌舞伎塾(兵庫)、二:棒しばり、三:藤娘
2017年11月7日(火)
■会場:文京シビックホール
2017年11月8日(水)
■会場:フェニックス・プラザ大ホール
2017年11月21日(火)
■会場:森ノ宮ピロティホール
2017年11月22日(水)
■会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCOホール
2017年11月23日(木・祝)
■会場:コラニー文化ホール大ホール