柳家三三、この秋も全国で落語行脚! ~6ヶ月連続独演会『嶋鵆沖白浪』&独演会『ニッポンあちらこちら』
『嶋鵆沖白浪』&『ニッポンあちらこちら』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
年間の高座が600席を超す(!)とも言われる落語家の柳家三三が、今秋も2つの企画を携えて全国津々浦々で独演会を行う。ひとつは5月から名古屋、大阪、福岡の3都市でスタートした6ヶ月連続独演会『嶋鵆沖白(しまちどりおきつしらなみ)』。全12話を1ヶ月に2演目ずつ聞かせる長編人情噺シリーズが、10月で最終回を迎える。1話ごとに山場があるので、もちろん最終話のみでも楽しめるのが嬉しい。もうひとつは、恒例の旅ツアー『柳家三三独演会 ニッポンあちらこちら』。今年も兵庫、京都など全国8ヶ所で行う。それぞれの見所について、柳家三三に訊いた。
柳家三三
「柳派の総領・談洲楼燕枝が残した長編人情噺、面白いので地方でもやります!」
ーーいよいよ10月で長編人情噺シリーズ『嶋鵆沖白』が最終回を迎えます。
『嶋鵆沖白浪』は江戸末期から明治時代にかけて、自作長編で名人と言われた江戸の三遊亭圓朝と同時代を生き、やはり自作長編で双璧をなした初代・談洲楼燕枝(だんしゅうろう・えんし)が残した演目です。圓朝は「牡丹灯籠」など後世にたくさんの作品が残っていますが、燕枝の作品はなぜかやり手がぷっつりと途絶えてしまっている。燕枝は柳派の総領でもあり、前々から「もったいねえな、一度触れてみたら面白いんじゃないか」という思いがありました。そこで、文語体で書かれた読本や弟子の速記などをあたり、これを現代の聴衆に楽しんでいただくにはどういうサイズが良いのかとまとめて。だいたい1ヶ月に2時間ずつ前後編でしゃべって半年ぐらい。全12話を6ヶ月で、と構成がみえてきた。
柳家三三
ーー初挑戦は2010年、その時は前編のみを3回に分けて、翌2011年に横浜にぎわい座でほぼ全編を6ヶ月連続で口演し、現在の原形となりました。2016年には「月例 三三独演」の一環としてイイノホールでの、6ヶ月連続口演が再び実現しました。
昨年、久々にやらせてもらいました。東京で一回やると次は数ヵ月とか先になるので、練り上げる作業ができない。どうにか続ける方法はないかと考えて。そういえば、地方公演ではどうしても喜んでもらえるような鉄板ネタしかやらず演目が限られがち。ましてや笑いを主体としない人情噺の長編物はやらないに等しいな、と気づいて。だったら地方の方にも自分が面白いと思える長編噺を持っていこうと。そうすれば、練り上げる作業も同時にかなうので。お陰さまで『嶋鵆沖白浪』は回を追うごとにお客様が増えてきました。このまま最終回まで「面白いものを聞いたな」と思って貰えたら、嬉しいですね。
柳家三三
ーー流刑地に始まる『嶋鵆沖白浪』は、実話がベースのお噺だそうですね。
読んでみて、「なんで作った噺の方がスケールダウンしてんだよ!」と思うぐらい、実話の方がダイナミックでした(笑)。江戸時代に流刑地だった伊豆・八丈島からは、脱獄する者は多かったものの、そのほとんどが海の藻屑と消えていた。そんな江戸時代の二百数十年の歴史を通して、唯一脱獄に成功した者たちがいた。それが佐原の喜三郎(下総の侠客)と島でたまたま出会ったお虎(花鳥)という江戸生まれの美人花魁です。それを下敷きに、落語では燕枝が舞台を三宅島に移し、勝五郎(流刑地の罪人の長)、庄吉(三日月小僧の異名を持つ巾着切)、玄若(なまぐさ坊主)、梅津長門(江戸・番町の旗本で優男)など、それぞれに魅力的なキャラクターを織り混ぜながら描いている。
柳家三三
ーーシリーズものとは言え、最終回だけ見ても楽しめる。
もちろん。その回だけでも十分に聞き応えがあったねと思っていただけるように毎回、前回までのあらすじをお配りしています。噺家なら本来はしゃべってお伝えしたいところですが、回を追うごとにあらすじが長くなるので。以前、試したら30分放送なのに前半10分ぐらいを前回のシュートシーンの再現とかに使っちゃう、アニメ『キャプテン翼』みたいになりかけました(笑)。昔の寄席では、昨日のあらすじを3分の2なぞって残りが新作という、「今日はただのつなぎの回だね」ということは本当にあったと思う。当時の寄席はローカル芸能ですから。いまみたいに晩ごはんを食べた後にテレビを見るような感覚で、毎晩寄席に来ていた方も多かったでしょうし。ごく日常にあるものという感じで、許されたのだと思います。
三三さんが毎回手書きするという演目解説
「五代目市川團十郎と親交を深めた燕枝は、人間を善悪で割りきらない面白さを書いた人」
ーー資料を噺としてまとめる、編集作業はお好きですか。
人間には向き不向きがあって、僕はゼロから新作を作るより、もともとある素材をアレンジして、「より良い姿にして楽しんで貰うためにはどうしたらいいだろう」と考える方が向いている。今回も本とにらめっこしながら1時間程度で噺をおさめたいと思ったら、何となく噺ながら欲しいボリュームで噺を終えることができる。計算したわけでもないのに、出たとこ勝負で帳尻を合わせるのが上手いんです。ただ、昔の本はそこまでちゃんと校正していないので、間違いには気を付けないと。ある日、五街道雲助(ごかいどう・くもすけ)師匠が言っていました。三遊亭圓朝の『鰍沢』という噺の中で、師匠が何十年も使っていた言い回しが誤っていたそうで、「カッコいいなと思って使っていたのに、最近になってそれは間違いだよって言われたんだよ。落語CDにもなっちゃってるのに!」って爆笑していました。
柳家三三
ーー(笑)。『嶋鵆沖白浪』を通して感じた、談洲楼燕枝の魅力とは?
もとは柳亭燕枝という名前でしたが、五代目市川團十郎と親交が深かったため、彼の名前をもじって「談洲楼(だんしゅうろう)」としたそうです。歌舞伎には落語の長編人情噺が元ネタになったものもありますし、燕枝も歌舞伎から随分と影響を受けていたようです。ダイナミックな時代がそうさせた部分もあるでしょうし。いわゆる黙阿弥ものの時代。勧善懲悪とは違う、逆に悪い者がスポットライトがあたるような歌舞伎でいう世話物が好まれた時代です。燕枝は人間には良いところもあれば悪いところもある、善悪で人を割りきらない面白さを書いたひとだと思います。今回『嶋鵆沖白浪』を聞いてくれたお客さんからも「これ、芝居でやったら面白いだろうね」という感想を随分といただきました。お芝居にすると絵になるような場面がたくさん描かれた作品ですね。
柳家三三
ーー今秋は並行して、恒例の旅ツアー『柳家三三 ニッポンあちらこちら』も始まります。2013年に47都道府県を47日間で廻り47日連続で独演会を行って以来、全国各地の高座に上がるのか通例となりました。
せっかく各地でご縁ができたので、「またあの町でおしゃべりをしよう」という企画ですね。中でも西宮と京都は、13年から毎年欠かさず来ている場所。どちらも普段落語会をやらないような会場で、環境がすごく良い。兵庫は灘の酒の本場の酒蔵通り煉瓦館、京都は建物全体が佃煮色をした築100年以上の大江能楽堂でやらせてもらいます。演目は西宮の昼公演が「三味線栗毛」、夜公演は「五貫裁き」。京都は「居残り佐平次」です。
柳家三三
ーーどちらの公演も楽しみです。ちなみにパワーの源でもあるスイーツ好きの三三さん。ツアーでは、ご当地名物も楽しみのひとつでは?
地元スイーツを自分で探すこともあれば、人様が教えてくれることもあります。先日、岡山へ伺った時は差し入れが「(広島名物)紅葉まんじゅう」で、全然ご当地じゃねえじゃないか!となりました(笑)。楽屋にたくさんスイーツが集まることもありますね。出演者2人のところケーキ8個、そのうち6個は「三三さん用」との指定付き。いくら好きでも、そんなには食えない(笑)。
柳家三三
取材・文・撮影=石橋法子
『嶋鵆沖白浪(しまちどりおきつしらなみ)』~最終回~
2017年10月12日(木)18:30開演
■会場:大須演芸場
2017年10月13日(金)19:00開演
■会場:ナレッジシアター
2017年10月8日(日)14:00開演
■会場:倉吉交流プラザ 視聴覚ホール
2017年10月15日(日)13:00開演/16:30開演
■会場:酒蔵通り煉瓦館
2017年10月21日(土)13:00開演
■会場:広島市南区民文化センタースタジオ
2017年10月22日(日)13:00開演
■会場:大江能楽堂
2017年10月23日(月)19:00開演
■会場:クリエート浜松2Fホール
2017年10月28日(土)13:30開演
■会場:NTNシティホール 小ホール
2017年11月8日(水)19:00開演
■会場:道新ホール
2017年11月12日(日)13:00開演
■会場:新潟 りゅーとぴあ 能楽堂
■公式サイト:http://www.yanagiya-sanza.com/