天児牛大主宰の山海塾『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり』記者会見~ウミユリとの対話から生まれる舞踏
天児牛大、大原永子
日本が世界に誇る舞踏集団・山海塾の公演『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり』が、2017年11月25日(土)・11月26日(日)に東京・新国立劇場 中劇場にて上演される。9月22日(金)に本作の記者会見が催され、新国立劇場舞踊芸術監督の大原永子と、山海塾主宰の天児牛大(あまがつうしお)が登壇し、マスコミに作品の制作意図、見所などを語った。
本作は、新国立劇場の開場20周年を記念して上演される舞踏の一つで、2015年3月に世界初演した山海塾の最新作。
まずは大原から挨拶。バレエダンサーとして現役の頃、外国人に「永子、山海塾を知ってる? すごくエキサイティングなんだよ!」と聞かれたとのこと。その頃は山海塾をよく知らなかったが、世界から注目されている日本の舞踏があると知り日本人として誇りを持った、と語っていた。
大原永子
演出・構成・振付を担当し、自身も出演する天児は「山海塾は今年で44年、ヨーロッパに出て38年が経ち、46か国でツアーをしてまいりました。坊主頭で全身白塗り、という見てくれへの物珍しさもあるとは思うんですが、作品が持つ言葉や考えと舞踊の一ジャンルとして、こういうアプローチがあるんだということがある程度認められたと感じています」と今日に至るまでの道のりを振り返った。
作品の内容について天児は話を続ける。「今回のモチーフはウミユリ。名前は植物っぽいですが、実際は動物なんです。僕は海外ツアーの合間に美術館や自然史博物館などを訪れることが多いのですが、そこでウミユリの化石を見たんです。我々が知らない地球上の自然の断面がそこにある。何かが気になって自分の中でウミユリの存在を咀嚼していました。2億5千万年前。海が反映していた頃に生きていたウミユリが地盤の変化などで陸の上に出てきて化石になった。彼らは言語を持っている訳ではありませんが、私に何か勝手に語り掛けてくるんです」
ウミユリとの心の対話で天児は、時間の変遷の中で常に揺れ動くフラジャイルなものに、人類史との共通点が見いだせるのではと考え、「人間の感情、希望、絶望…など賑わいと静寂を対比させながら表現しようとしています」と語っていた。
天児牛大
山海塾の独特な舞踏について、踊り手にどのような演出をつけるのか?という質問をしたところ、天児はまず山海塾の作品ができるまでを説明。「新作を作るとき、最初の1週間はものすごく迷いますね。踊り手には抽象的だったり具体的だったりしますが、(天児が描くイメージを)最初にレクチャーし、一度思い描いたものを表現してもらいます。思惑倒れだったり、これはいけるんじゃないかなって思うこともあります。それらを調整するという試みから始まり、不要な部分を削っていく作業を行います。さらに振付が入り、衣装が入り、最後に照明が入る。すべてに関して時間と空間、演出をするので、あるパーツだけを切り取って演出することはないんですよ」
さらに、山海塾ならではの稽古の特徴について聞くと、天児は「『質問をしたら答えてくれ。質問をする前に余計なことを言うな』というルールがあるんです。踊り手は皆、個人活動もしているので『君はここをもっとこうしたらいい』などと相手に言うのはナシにしています。だってクリエイターって、個々人で思案しているときに人にナビゲーションされるのは好きじゃないでしょ?」と笑った。
天児牛大
「山海塾の稽古場は、音がない、鏡がない、何をやっているかわからないと思います。ただひたすらに集中する場所なので、何かを発散できる場所ではないではないでしょうね。ちょっと異常な空間だと思います」と天児が表現すると報道陣から思わず笑いがこぼれていた。
タイトルにある「めぐり」という言葉は「回(めぐる)」の漢字があてられる。それは水の回流する形やすべて回転するものの象形文字であり、ある順序に従っての移動や循環することにも用いられる。
取材・文・撮影=こむらさき
ダンス
舞踏の今 その1
山海塾「海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり」
Sankai Juku “MEGURI―Teeming Sea, Tranquil Land”
■会場:新国立劇場 中劇場
■演出・振付・デザイン:天児牛大
■音楽加古隆、YAS-KAZ、吉川洋一郎
■出演
山海塾
天児牛大
蟬丸、岩下徹、竹内晶
市原昭仁、松岡大、石井則仁、百木俊介
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/33_009654.html
日時:2017年11月26日(日)14:00開演 公演終演後
会場:新国立劇場 中劇場
出演:天児牛大(山海塾主宰)、石井達朗(舞踊評論家、愛知県立芸術大学客員教授、慶應義塾大学名誉教授)
料金:無料
入場方法:『海の賑わい 陸(オカ)の静寂―めぐり』の両日いずれかの本公演をご提示ください。