公衆電話を旅する参加型アートプロジェクト『ポイントホープ』とは? 記者会見をレポート

レポート
アート
2017.10.5
記者会見で笑顔をみせたプロジェクトメンバー。(右から)遠山昇司、玉井夕海、芋生悠、磯崎寛也、芹沢高志

記者会見で笑顔をみせたプロジェクトメンバー。(右から)遠山昇司、玉井夕海、芋生悠、磯崎寛也、芹沢高志

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全国の公衆電話を起点とする参加型アートプロジェクト『ポイントホープ』(期間:2017年9月30日-2018年9月30日予定)の記者会見が9月28日、コンファレンススクエアM+(丸の内)にて行われた。

『ポイントホープ』は、全国の公衆電話ボックスを通して鑑賞者自らが物語を紡いでいくという企画。注目したいのは、ツールを携帯電話ではなく公衆電話に限定しているという点で、物語を追っていくと自然と未知の旅へと誘われていく仕組みとなっている。

Photo by Kenshu Shintsubo © Production committee POINT HOPE

Photo by Kenshu Shintsubo © Production committee POINT HOPE

企画への参加は、公衆電話から「029-284-1900」に電話をかけるところからはじまる。受話器越しに物語のプロローグを聞き、続きを聞くためにウェブサイトから参加を申し込み、地図とテレホンカードを受け取る。次に、それらを片手に地図に記された水戸市内の電話ボックスを目指し、電話をかけて物語の続きを聞く。これを繰り返していき、計5箇所の電話ボックスを訪れることで物語がいったん綴じられる。

単に物語を聞くだけでなく伝言を残すこともできる。こうして集められたメッセージは最終的にtwitterで公開され、作品の一部としてアーカイブされていく。

時代の遺構のように佇む電話ボックスに始まり、数多の足跡や伝言が集積することで、街の公衆電話がポイントホープ(希望の場所)となる瞬間をめざす本企画。会見では、ディレクターの遠山昇司、出演者の玉井夕海と芋生悠、実行委員会委員長の磯崎寛也、スーパーバイザーの芹沢高志が登壇し、それぞれの想いを語った。

忘れ去られた遺構に息を吹き込む

遠山昇司

遠山昇司

「使われなくなったオールドメディアに興味があり、そこに価値を見出す手法を探っている」。こう語る本企画の発起人である遠山昇司は、映画監督として活動するほか、舞台作品や展覧会などの企画・プロデュースを行うディレクターでもあり、アートプロジェクトによる地域振興のあり方に一石を投じた「赤崎水曜日郵便局」(http://www.akasaki-wed-post.jp/)の仕掛け人でもある。

「赤崎水曜日郵便局」は2013年にスタートし、惜しまれつつも2016年に閉局したが、今年の12月6日より宮城県・鮫ヶ浦での再開局が決定している(https://samegaura-wed-post.jp)。 Copyright © Town Tsunagi All Rights Reserved.

「赤崎水曜日郵便局」は2013年にスタートし、惜しまれつつも2016年に閉局したが、今年の12月6日より宮城県・鮫ヶ浦での再開局が決定している(https://samegaura-wed-post.jp)。 Copyright © Town Tsunagi All Rights Reserved.

「赤崎水曜日郵便局」は、水曜日の出来事を記した手紙を送ると、見知らぬ誰かによる水曜日の出来事を記した手紙が返送されるという企画。廃校となった熊本県の小学校を利用し、地域の公共の場として役目を終えた空間が、人と人をつなぐ場所として生まれ変わらせた手法は、今回の『ポイントホープ』の原点ともいえる。 

「希望の場所」の意で名づけられた「ポイントホープ」は、「実在するアラスカの最北端に位置する村からとった」という。遠山は「アフリカの喜望峰のように、最果ての地はこういう言葉がつけられる傾向があるのかな」と語ったうえで、「プロジェクトは神社のイメージ。多くの人に伝言メッセージを残してもらって、たくさんの願いが蓄積されたら」とプロジェクトの展開に期待を寄せた。

舞台は水戸。震災の傷を乗り越える力へ

磯崎寛也

磯崎寛也

本企画の主な舞台となるのは茨城県の中央に位置する水戸だ。遠山が監督した映画『マジックユートピア』(2015)に感銘を受けた磯崎が、その上映を水戸の映画館に誘致したことがきっかけとなり、“水戸の旦那衆”たる水戸の若手経営者たちと遠山が出会い、本企画の開催へとつながった。

茨城県水戸市は、南関東と東北を結ぶ中継地点のような存在であり、北方奥に福島第一原発を臨む東日本大震災の被災地でもある。

「地震が起こったことで、あらためて水戸がどういう場所なのか気づいた」と語る磯崎は、「県北芸術祭が77万6千人を動員して、街のなかでアートリテラシーが高まっている今だからこそ、「ポイントホープ」をきっかけにして、生きる希望を見出す場所に変わっていければ」と語った。

玉井夕海

玉井夕海

芋生悠

芋生悠

「『ポイントホープ』のようなプロジェクトを必要としてるのは、地方よりむしろ都会の人のように感じる。水戸まで行くのは困難かもしれないが、人生のなかで大切なものを得て帰ってくることができる企画だ」(玉井) 

「希望をもらえるような大きな企画。私は熊本出身なので、熊本の大切な人に参加してほしい」(芋生)

行政ではなく個人へ。新しいカタチのアートプロジェクト

本企画は、そのユニークな発想もさることながら、行政主導ではなく、発案者と地方の旦那衆がタッグを組み民間主導で実施している点でも目新しく、近年増えている地域振興のアートプロジェクトとはまた異なる展開をしている。

芹沢高志

芹沢高志

さいたまトリエンナーレや別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」に携わってきた芹沢は次のように語った。

「地方の芸術祭が増えてきたが、予算や組織が用意された上でスタートするケースがほとんど。今回のように、実行委員自身が自分から面白がって動いていて、市民側のほうから立ち上げていく様子に可能性を感じている」。

さまざまな魅力をもちあわせたアートプロジェクト『ポイントホープ』。さっそく近くの公衆電話をさがしてみてはいかがだろう。

イベント情報
アートプロジェクト『ポイントホープ』

期間:2017年9月30日(土)~2018年9月30日(日)
会場:全国の公衆電話、水戸市内の公衆電話(4箇所)
公式ウェブサイト: https://point-hope.jp/
鑑賞キット:1,500円(税込。500円分のオリジナルテレホンカード付き。公式ウェブサイトで購入可能)
*ファーストコンタクトの電話料は含まれません
 
プロジェクトディレクター・脚本:遠山昇司(映画監督)
出演:玉井夕海(女優、ミュージシャン)、芋生悠(女優)
スチール撮影:新津保建秀(写真家)
サウンドデザイン:宮本賢志(パブット)、須山真怜(パブット)
動画撮影:加藤信介(カメラマン)
 
ロゴデザイン:吉本清隆(吉本清隆デザイン事務所)
ポスター・チラシデザイン:吉本清隆(吉本清隆デザイン事務所)
ウェブサイトデザイン:泉田茜
 
プロデューサー:遠山昇司、山本敦子(marge)
スーパーバイザー:芹沢高志(P3 art and environment)
主催:ポイントホープ実行委員会

特別協賛:水戸商工会議所
協賛:水戸ヤクルト販売株式会社、株式会社フジクリーン茨城、茨城トヨペット株式会社、日本料理山口楼、磯崎寛也
技術協力:NTT東日本
後援:水戸市、水戸市教育委員会
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