短編演劇の祭典『劇王Ⅺ 〜アジア大会〜』熱き闘いの3日間、その全貌をレポート

レポート
舞台
2017.10.2

 

劇作家協会東海支部長の面目躍如! 【劇王】の座は、平塚直隆が防衛

去る9月15日から3日間に渡って愛知・長久手の地で熱戦が繰り広げられた『劇王Ⅺ ~アジア大会~』(開催概要はこちらの記事を参照)。日本劇作家協会東海支部と「長久手市文化の家」の共催による『劇王』とは、「上演時間20分以内」「役者3名以内」「数分間で転換可能な舞台」というルールのもと、参加チームが得票を競い合う短編演劇のコンテストだ。

この『劇王XI ~アジア大会~』で【第11代劇王】に輝いたのは、日本劇作家協会東海支部の支部長で【第9代劇王】として決勝進出者を迎え討った、平塚直隆の『救急車を呼びました』。全13チームの頂点に立ち、見事【劇王】防衛を果たすまでの経緯をレポートしていこう。

【第11代劇王】となった平塚直隆

【第11代劇王】となった平塚直隆

4年ぶりに大きな大会として復活した今回は、全国各地の予選を突破した9チームに加え、韓国、シンガポール、香港から海外チームも招聘。3ブロックに分かれて全12チームの予選を行い、各ブロックを勝ち抜いた3チームが決勝へ進出。決勝戦ではそこに現劇王の平塚チームが加わり、4チームで対決するという仕組みだ。『劇王』の公式キャラクター“合戦くん”の衣装を身にまとい全編の司会を担当したのは、『劇王』の発案者で元支部長の佃典彦である。

ゲスト審査員は、安住恭子(演劇評論家)、天野天街(劇作家・演出家)、坂手洋二(劇作家・演出家)、西田シャトナー(劇作家・演出家)の4名と、決勝戦のみ劇作家協会会長の鴻上尚史(劇作家・演出家)が加わって務めた。勝敗はすべて観客投票と審査員票の合計で決まり、観客は最も良かったと思うチーム1つを選択、審査員は各回の入場観客数を審査員の人数で割った持ち点を参加4チームに振り分けるという方式だ。各プログラム終演後すぐに投票が始まり、開票・発表が行われた。

まず第1日目、15日(金)夜の《Aプログラム》は、関東代表、韓国代表、関西代表、東北代表が上演。投票の結果、総得点が2位の関西代表とわずか1点差の51票で、東北代表の遠藤雄史(トラブルカフェシアター)作・演出による『アツモリ』が決勝に進出。初日から僅差の闘いとなり盛り上がりを見せた。

2日目の16日(土)昼の《Bプログラム》は、東海代表、九州代表、中国地区代表、シンガポール代表が対戦し、中国地区代表の亀尾佳宏(亀二藤)作・演出による『前兆とか』が勝利。夜の《Cプログラム》は、香港代表、甲信越代表、四国代表、北海道代表から、北海道代表の上田龍成(星くずロンリネス)作・演出による『言いにくいコトは、、』が勝ち抜いた。

《Aプログラム》《Bプログラム》《Cプログラム》の予選審査結果

《Aプログラム》《Bプログラム》《Cプログラム》の予選審査結果

そして3日目、17日(日)の《決勝戦》で、『アツモリ』『前兆とか』『言いにくいコトは、、』『救急車を呼びました』の4作が対決。観客187名の投票と審査員5名の得点が発表され、主に観客から大きな支持を得た『救急車を呼びました』の優勝が決定。平塚直隆が支部長のメンツをかけ、【劇王】の座とチャンピオンベルトを守り通したのだ。

《決勝戦》審査結果

《決勝戦》審査結果

平塚自身も出演し、所属するオイスターズの代表で相棒の中尾達也と二人芝居で挑んだ『救急車を呼びました』は、とある会社の休憩室で男1(平塚)が、愛妻弁当を食べている初対面の男2(中尾)に「大丈夫ですか? 救急車呼びましょうか?」と唐突に声を掛けることから始まる不条理コメディーだ。

『救急車を呼びました』上演より

『救急車を呼びました』上演より

審査員の安住恭子は、「とぼけた問いかけで相手をどんどん追い詰めていくのはいつもの平塚さんの作風で、「あぁまたか」とちょっと引いて見ていたんですが、ご飯を食べるあたりから加速度がついた気がしました。男2が妻にかけた電話なのに、なぜ男1が妻のように応対するのかとか、観客が思っていることをどんどん逆手にとっていくことの加速度がついて、「あぁこういう展開か」と面白く見ました」と。

鴻上尚史は、「絶滅危惧種である不条理演劇がここで生き延びてるのを見る感じがあって、非常に面白かった。ただ、男2がわりと早めに引っ掛かってくるのがもったいない。不条理的な世界に引き込まれながらも、観客が「なるほど、これはもう巻き込まれざるを得ないわ」っていう、もうひとつ力技があってくれると。男2は具合が悪くなって最後ずっと苦しんでるんだけど、見てるとだんだん「去ればいいのに」っていう風に思いたくなる。去れない何らかのもうひとつ何かがあると抜群に、不条理演劇としての凄さが出てくるんじゃないかと。そこが惜しいのになと思いながら見ていました」と講評を述べた。

ここで、決勝戦を奮闘した3チームに対する審査員講評も少しご紹介を。

まず2位の上田龍成『言いにくいコトは、、』について。

天野天街「ともかく楽しませていただきました。1回目見たときの前半が結構かったるいんですね、ある意味。言葉遊び的なものがありそうで無かったり、中途半端だったり。なめきった感じが観ている側に芽生えたところから裏返していくから、脳内の快感の純度が後半に向かってガーッと上がっていくという仕組みで面白うございました」

坂手洋二「私たち、演劇を若い時に始めた者たちが昔習った早口言葉だけでできているのが僕はちょっと。この方法でいくなら、逆にみんなが知らない難しい言葉を使う手もあったかもしれないですね。あの手この手でどっちの振り子にいくかで変わってくるので、そこをいろいろ想像しながら。タイトルが、口が回らないから言いにくいことと内容が言いにくいっていうことを掛けてることを使うとすると、なんかもう一個仕組みがいるんじゃないかなという気がどうしてもして。登場人物を大らかに描くことでうまくいく作品もあるんだけど、この作品はもうちょっと自己評価も他人の評価も高い人にした方が、困るときの困り方とかうまくいくかもしれません」

『言いにくいコトは、、』上演より

『言いにくいコトは、、』上演より

3位の亀尾佳宏『前兆とか』について。

西田シャトナー「一見動きの少ないお芝居なんですけど、大変フィジカルに見ました。声が響いてくるし、その声が単に大きな声じゃなくて、言葉と音ってこんなに違うんだなと、意味を持った言葉が聞こえてくる。昨日の上演で真相を知って2回目を見ると、笑い声が沸いてることとかがさらに恐ろしく感じました。笑いをとっていいような話として最初は展開するのに、それが全部ぞっとするような方向に裏返っていってる。理屈とフィジカルをあんなに静かな中でやるお芝居を自分でやれるかといったら、なかなか難しい。2人で創るっていうことの濃密な時間を最大限に生かした、素晴らしいお芝居だと思いました」

坂手洋二「ここでない者の話、つまりお母さんと子どもの話を話してる教師2人がいるっていう印象なので、2人の個性がもう少し見たくなる。2回目を観た今回、ちょっと物足りなくなったのは、彼らが抱えている日常とかいろんな鬱屈とか、この2人の先生の物語がもっとあるべきじゃないかなと。物語的な面白さ、手つきの面白さもあるしタッチもとてもいいと思うんですね。俳優の魅力もあるから非常にうまくいってるんだけど、最終的にこの2人がそれぞれの何かを見つける、みたいなことになっていくとさらに相対化されていって、ものすごく可能性がある作品だなと思いました」

『前兆とか』上演より

『前兆とか』上演より

そして4位の遠藤雄史『アツモリ』について。

安住恭子「離婚を巡る夫婦のバトルのように見せながら、実は3.11で亡くなった妻への思いを断ち切るという話だと思うんですが、プロレス風の夫婦のバトルも元気良くやって、奥さんの方の動きがすごかったと思うんですけども、まず3.11を絡める必要があるのか?と。それから、死体が確認できなくて死亡届に判を押せなかったということで喪失感を描いたということだと思うんですけども、喪失感というのは終わらないと思うんですね。そういうことがちょっと段取りっぽく作ってあったような気がしました」

西田シャトナー「僕はとても面白かったです。もちろん全パーツについてこれが必要なのか、考えるんですよ。でも必要かどうかわからないところに埋まってるものがあるので。3.11とか社会的にたくさんの人々が衝撃を受けた出来事を扱ってしまう時に、そこに意味のないものを扱っちゃダメだと言われることもあるかもしれないけど、僕は扱っていいと思ってます。いろんな事情がある夫婦の一例として普通に扱ってくれたとすれば、その方が嬉しい。もし僕が連れ合いと生き別れるようなことがあったとしたら、何か自分が救われるような気がして、それをプロレスという優しい、だけどバトルをするようなエンターテインメントで見せてくれたことを大変感謝しながら見させていただきました」

『アツモリ』上演より

『アツモリ』上演より

こうして結果発表と講評が行われた後、佃典彦とはせひろいちより、2人の名を冠した《彦いち賞》の発表が。俳優に向けたこの賞を受賞したのは、香港代表のマン・チャン作・演出の『高野山で僕のアイドルに出会う』に出演した、アンソン・ラムである。【Cプログラム】に於いてわずか7票差で2位となったこの作品でアンソンは、伝説のAV女優と対話する様を、全編日本語の一人芝居によって、コミカルな動きを交えながら不気味かつチャーミングに演じた。

続いて、【第11代劇王】平塚直隆のチャンピオンベルト授与式が行われ、長久手市より長久手産の米で造られた日本酒も贈呈された。

平塚は「本当に観客票がまさかこんなに入ると思わなかったので、観客の皆様ありがとうございました。僕は観客のために芝居をやっております。審査員の方の仰られていることも至極当然だと思います。勉強になります。ただ、(参戦者に向かって)僕ら10年経ったらあそこの位置(審査員席)にいきましょうね。これからも頑張っていきます。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました」と喜びの言葉を述べ、閉幕となった。

チャンピオンベルト授与式の様子

チャンピオンベルト授与式の様子

多くの創り手たちの作品に触れられたメイン企画の【劇王】ほか、全国の劇作家協会支部長が一堂に会した【支部長座談会】、ゲスト審査員の天野、坂手、西田が劇作家の悩みに応える【三賢者に訊け! ー劇作家お悩み相談室ー】といったラインナップに加え、ホワイエでは物産展も開催されるなど、“アジア大会”の名にふさわしいお祭り感満載のイベントに。加えて、影アナ(上演前の諸注意アナウンス)を担当した東海支部員・天野順一朗も功労者のひとりとして触れておきたい。マイケルジャクソンから刑事コロンボの吹き替え、『ルパン三世 カリオストロの城』まで、声真似とパロディを巧みに駆使したアナウンスは、「お見事!」のひと言で会場を大いに沸かせた。

【三賢者に訊け! ー劇作家お悩み相談室ー】より。左から・坂手洋二、西田シャトナー、天野天街

【三賢者に訊け! ー劇作家お悩み相談室ー】より。左から・坂手洋二、西田シャトナー、天野天街

こうして盛況を博した『劇王Ⅺ ~アジア大会~』だが、少しだけ欲を言うなら、海外からお越しいただいた招聘組をクローズアップした企画(各国の演劇事情や日本の演劇に対する思いなどを聞けるシンポジウムやトークショー的なもの)があれば良かったな、というのが筆者の個人的な意見。

とはいえこの3日間、観客の立場から鑑賞してみて思うのは、やっぱり『劇王』イベントは面白いということ。劇作そのものの精度と、そこに演出と俳優の演技力や魅力が加わった上演での完成度。審査員も私たち観客も審査基準に迷いつつ、さまざまな思いを巡らせながら自らの手で票を投じ、結果に一喜一憂する。そして帰り道でも飲みの場でも、延々と上演作について語り合ってしまう面白さ! 開催告知の記者発表でも述べられているが、このイベントが創り手の向上心を煽り作品の質を高め、なおかつ観る側の意識をも高めるのだと改めて実感させられた。やはり『劇王』はスゴイのだ。

今後の予定はまだ未定だが、今回惜しくも敗退した面々もさらに腕を磨いて参戦してくれることを願って、次の開催を心待ちにしたい。


■問い合わせ:長久手市文化の家 0561-61-3411
■公式サイト:
 日本劇作家協会東海支部 http://jpatokai.php.xdomain.jp
 長久手市文化の家 
https://www.city.nagakute.lg.jp/bunka/ct_bunka_ie.html
シェア / 保存先を選択