河瀨直美の初演出で名作オペラ『トスカ』を上演!稽古場レポート&囲みインタビュー

レポート
クラシック
2017.10.8


新潟、東京、金沢、魚津、沖縄5都市による全国共同制作プロジェクトとして、10月15日のりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館を皮切りに、12月7日の沖縄コンベンションセンターまで、プッチーニの歌劇『トスカ』が、映画監督・河瀨直美の演出による《新演出》作品として上演される。

全国共同制作プロジェクトとは、日本のオペラの振興を目的とした平成21年度から開始されたプロジェクト。近年では野田秀樹演出でモーツァルト『フィガロの結婚』(平成27年度/全国10都市 計13公演)、笈田ヨシ演出でプッチーニ『蝶々夫人』(平成28年度/全国4都市 計5公演)等を開催し、好評を博している。

今回の大きな話題は、映画監督の河瀨直美が演出を手がけることで、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、最新作『光』も、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されるなど、その才能を高く評価される河瀨監督が、初めてオペラと取り組み、どのような『トスカ』を作り上げるのか、大きな期待が寄せられている。

さらに注目は、映像と舞台美術の融合で、河瀨の強い希望で舞台美術をデザインするのは、ニューヨーク在住の気鋭の建築家・重松象平。河瀨率いる世界最高峰の映像スタッフと、世界をまたにかけて活躍する建築家とのコラボは、この作品に新たな息吹を吹き込むことだろう。

また歌手陣は、ヨーロッパ最高峰の歌劇場で活躍する名歌手、ルイザ・アルブレヒトヴァ(ソプラノ)とアレクサンドル・バディア(テノール)を招聘するとともに、三戸大久(バリトン)や森雅史(バス)三浦克次(バス・バリトン)など世界水準の歌手陣が競演する。指揮は、新潟・魚津・沖縄を大勝秀也、東京・金沢は広上淳一がつとめる。

原作の舞台は、ナポレオン時代(1800年代)のローマ。恋人同士の画家カヴァラドッシと歌姫トスカ。そこへ警視総監のスカルピアに追われた友人アンジェロッティが逃げ込み、彼をかばったことによりカヴァラドッシは処刑され、最後にはトスカも身を投げてしまう。

河瀨直美による新演出『トスカ』の舞台は、古代日本の雰囲気が漂う「牢魔」という名のとある集落。そこで起きるスリルに満ちた陰謀、壮絶な愛と死を、「祝祭の1日に起きた悲劇」として描き出し、その悲劇性の中から一筋の光を見出し、死と生をテーマに未来へ向けた希望を描き出す。

役名もトス香〈トスカ〉、須賀ルピオ〈スカルピア〉、カバラ導師・万里生〈マリオ・カヴァラドッシ〉、アンジェロッ太〈アンジェロッティ〉、堂森〈堂守〉、スポレッ太〈スポレッタ〉というかたちで日本名に変えて、まったく新しい『トスカ』像を作り出す公演となる。その開幕を間近に控えた稽古場で、場面の一部をプレス用に公開、また囲み取材が行われた。

【稽古場レポート】

どこかリラックスした趣の稽古場で、トス香〈トスカ〉のルイザ・アルブレヒトヴァと須賀ルピオ〈スカルピア〉の三戸大久に、河瀨直美が丁寧に演出をつけている。時折り凛とした表情も見せる河瀨からは、今作にかける並々ならぬ決意が読み取れる。演出プランはすでに整っているようだ。

場面は食卓を囲んでいるシーン。三戸が演じる須賀ルピオが、トス香をどのように誘惑していくかについて河瀨と入念に話している。河瀨は三戸の演技を見ながら、トス香にどのように接していくのが良いのか詳細にアドバイスする。

トス香役のルイザ・アルブレヒトヴァも、通訳を通しながらも真剣に聞いている。彼ら3人のやり取りから新しい『トスカ』を作り出すための情熱がうかがわれる。新しいものを貪欲に吸収しようとする三戸の真摯な表情と、それを受け止め、トス香の演技を膨らませようとする熱心なルイザ。オペラ通ならずともその名を知っている名作オペラ『トスカ』に、どのような新しい光を差し込ませるか、河瀨の熱い想いや、燃え盛る情熱が胸に刺さってくるような稽古風景だ。

いよいよその場面が始まる。トス香の運命を握っている須賀ルピオの三戸の迫力あるバリトンの歌声は圧倒的で、聴く者を引き込んでいく。

ルイザもそこでトス香の有名なアリアを披露するのだが、その深い悲劇性に満ちたソプラノは絶望を感じさせ、涙を誘う。

最後に倒れた須賀ルピオに燭台を置き、彼の体の上に赤い羽をゆっくりと置くトス香。愛のために生きようとするトス香の激しくも美しい生き方が、河瀬監督の美意識あふれる演出によって、より鮮明に伝わってくる。

この日は1場面だけだったが、作品の全体像が観られる開幕への期待がさらに高まる稽古風景だった。

【囲みインタビュー】

プッチーニの歌劇『トスカ』の稽古場見学の後に、囲み取材が行われ、河瀨直美、広上淳一、大勝秀也、ルイザ・アルブレヒトヴァ、アレクサンドル・バディア、三戸大久、森雅史、三浦克次、与儀巧らが登壇した。

河瀨直美(演出)

河瀨直美(演出)

河瀨直美(演出)

オペラは、すでに脚本があり、セリフも変えることができず、音楽も劇伴のように後からつけるわけではないので、映画とはまったく違います。そこから、どれほどオリジナリティを出せるのか考えています。『トスカ』というと誰しも知っているストーリーですし、結末もみなさんわかっているのですが、お客様に新しい風を吹き込むことができたらと思っています。『トスカ』を読んで、カヴァラドッシは女たらしだと思っていましたが、演じるアレクサンドルさんも女たらし度が高いんです(笑)。ルイザのトス香は敬虔なクリスチャンというピュアな役で、2人の絡み合う関係性が全面に浮き出たらいいですね。私が先ほどまで稽古場で演出をつけていた須賀ルピオの三戸大久さんは、とても優しい人なのに怖い人を演じなくてはいけない。そのバランスをどう作っていくか考えています。というのも、私は、原作のスカルピアをかっこいいじゃないかと思ってしまったんです。これは『トスカ』を知っている人にはびっくりする感覚かもしれないですね。スカルピアの愛情や独裁的な色彩がつよい性格は、男性の本質的なものじゃないですか。そういったことを色々考えながらとても楽しく稽古をしています。

広上淳一(指揮/東京・金沢)

広上淳一(指揮/東京・金沢)

広上淳一(指揮/東京・金沢)

一番嬉しいことは、畑の違う監督が新鮮な感覚で僕らにいろんなアイデアを提供してくれることです。それはみなさんの想像したことのないような形になって進行しています。大勝先生とは、34年ぶりに再会し、一年先輩だったので威張っていたんです。ですが、34年間に各国のシアターで国際的なオペラの修行を積んできた成果が現れて、僕は先輩として頭が上がらなくなってきました(笑)。英語やドイツ語やイタリア語も自由自在に操りながら稽古場を勇敢に大胆に仕切っている姿は、全く別人ですね。彼がタクトを振るう新潟と魚津と沖縄もぜひ来て下さい。東京だけでは、河瀨さんの伝えたいことが、100%伝わらないかもしれませんよ。ゲストのルイザさんとアレクサンドルさんは素晴らしい歌手ですが、性格も素敵な方達なので現場で助かっています。僕たちの意図を上手に理解されて、歌の実力もさることながら、我々の現場の中に偏見もなく溶け込んでいただけています。三戸大久さんをはじめ、ここにいらっしゃる歌手たちは、これから10年後の日本のオペラ界を背負って立つ人たちです。全力で舞台に取り組んでいるので、その姿もぜひ楽しみにしていただきたいと思います。明るい稽古場なので成功すること間違いなしですね。

大勝秀也(指揮/新潟・魚津・沖縄)

大勝秀也(指揮/新潟・魚津・沖縄)

大勝秀也(指揮/新潟・魚津・沖縄)

今回のプロダクションに関していえば、河瀨さんの着眼点は新鮮です。僕たちは楽譜を読んで、歌い手と一緒に作り上げていくのですが、河瀨さんはドラマに流れる音楽から裏側に隠された真実を見ようとされる。僕らは30年以上やっていると『トスカ』に対する先入観があって、ルーティーンになっていた部分もありました。そこに新しい風が吹いているのを全員が感じています。奇をてらっているというわけではなく、テキストから誰もが持っているエゴや欲望を本当によく表現されていて、今の世の中だったら、こんなことあるよねと納得してくださると思います。オペラは普遍性を感じさせる芸術ですし、それを捉えて離さず再現することが河瀨さんの天才的なところですね。僕たちマエストロは、歌手たちとプッチーニとをつなげる役割をしながら、舞台からお客さんへの橋渡しが仕事ですからそこに集中できますね。ゲストは、こんなにいい人はいない、こんなにいい声の人はいない人たちです。若い歌手たちも勉強になっていますが、演技もとてもナチュラルです。歌も演技も日本にはないパッションが出ているんですね。若い人たちも刺激になっているだろうと思いますし、その影響を受けて音楽もパッショナリズムになってケミストリーが生まれている現場だと思います。

ルイザ・アルブレヒトヴァ(トス香)

ルイザ・アルブレヒトヴァ(トス香)

ルイザ・アルブレヒトヴァ(トス香)

私にとって大切なのは、一面的ではない何層にも積み重なったような役を、いかに、希望や絶望、嫉妬や笑いで、みなさんを納得させる説得力の持てる演技と歌にするかです。できれば、最後に涙を誘うことができれば嬉しいですね。例えば、この作品は、殺人や自殺と行ったネガティブなことがクローズアップされますが、それだけではなく、人々の人生は常に続くんだという生きることの喜びに誘っていけるように、太陽が毎日登るように希望を感じてもらえたら。そのために私は演じるのではなく、歌うのではなく、役そのものを生きたいと思っています。

アレクサンドル・バディア(カバラ導師・万里生)

アレクサンドル・バディア(カバラ導師・万里生)

アレクサンドル・バディア(カバラ導師・万里生)

日本に来ることが決まった時に、仕事仲間や友人に、日本に来て仕事をすることはセラピーを受ける感じだよねと話しました。とてもリラックスしています。英語があまり得意ではないので、オペラについて書かれた素敵な文章を少し読みます。これは愛、名誉、そして殺人の物語。そして悲しいけれど感動せずにはいられない恋愛の物語、それも、トスカとカヴァラドッシの恋の物語。同時に、アンジェロッティとの友情の物語でもある。それがスカルピアによって犠牲になってしまう。そして美しきトスカが悪魔の生まれ変わりを殺すわけです。『トスカ』の初演で歌ったのがハリクレア・ダルクレーですが、彼女は当代を代表するソプラノ歌手でした。彼女の出身地は私と同じルーマニアです。そして生まれた場所はブレイラ、つまりの私の妻が生まれた所でもあります。今回のお仕事で、素敵な方達とご一緒させていただけることを心から嬉しく感謝しております。忘れてはならないは河瀨さんで、私たちは新しい世界を見せていただいています。これは一つのチャレンジですね。彼女の見せてくれる美的世界の地平線の向こうに見える新たな世界を楽しんでいただきたいと思います。

三戸大久(須賀ルピオ)

三戸大久(須賀ルピオ)

三戸大久(須賀ルピオ)

スカルピアは初役ですが、バリトンの人は絶対やりたいという役を41歳にしてやらせていただき幸せです。僕らがいつも考えているスカルピア像を最初の立ち稽古で河瀨さんはぶち壊したんですね。僕らがステレオタイプに思っていたスカルピアを全く違うところからアプローチしていただいて、戸惑いながらも全力で演じ切りたいです。歌は、大勝先生、広上先生の音楽に助けていただいて切磋琢磨して歌わせていただいています。ゲストもお世辞抜きでいいやつなので現場も楽しいですね。同じ世代の森くんと話し合ったり、先輩の三浦さんからご指導いただいているのもいい経験です。ひとすじの希望の光をどのように見せられるか、探っていきたいと思います。ぜひいらしていただければと思います。

森雅史(アンジェロッ太)

森雅史(アンジェロッ太)

森雅史(アンジェロッ太)

オペラの幕開きに最初にお話しをさせていただく役ですが、一幕でいなくなってしまう。けれど、河瀨さんは、生に執着したアンジェロッ太を作っていらっしゃった。深い人間味を出せるのか、三浦さんやアレクサンドルにアドバイスをもらいながら演じていきたいです。とても刺激的で観たことのない『トスカ』になると思います。故郷の富山でも歌わせていただくので、『トスカ』の導入はもちろんですが、オペラという芸術でみなさんを感動させられるような公演に携われて幸せです。

三浦克次(堂森)

三浦克次(堂森)

三浦克次(堂森)

スカルピアとアンジェロッティは演じたことがあるのですが、堂守の役は初めてです。大変な役所で、この役をやることになって音楽的にも演劇的にもとても苦労しています(笑)。みんな死んでしまう悲劇的なオペラの中で、一筋の光のように、少しホッとできる役ですから。スカルピアはスカルピアで、その時に一番いいと思ったことをやった結果が悲劇につながって、いい人、悪い人、面白い人、面白くない人の区別はないとお客様がトータルで感じていただければと稽古に励んでいます。『トスカ』を含め、オペラは30年以上も演じていますが、先入観で頭が固くなっているところを、毎日の稽古で河瀨さんにサジェスチョンをいただくと、『トスカ』に対する固定観念が壊れていくんです。こんな稽古場は初めてです。そして、河瀨さんの映画のファンの方がオペラをご覧になられる。オペラのファンの方が河瀨さんの映画をご覧になられる。そんな相乗効果が2倍だけではなくて4倍になってくれたら嬉しいですね。さらには、オペラと映画、クロスオーヴァーしてお客様が加わっていただき、どちらの業界の垣根がなくなるきっかけになればいいと思います。

与儀巧(スポレッ太)

与儀巧(スポレッ太)

与儀巧(スポレッ太)

1つのプロダクションに2人の指揮者がいるということにまず驚きました。主役はスーパースターで、世界で活躍されているお2人。本当に勉強できるなと思っています。個人的にはアレクサンドルさんとは2回目で、彼の仕草を盗みたいと思っています。僕の演じる役は、ほとんど触れられることのない小さな役なんです。ですが、河瀨さんが、一言一言、鋭い質問を投げかけてくるんです。ですので、こんなに重要な役なんだ、こんなに重要な言葉を発しているんだというのを再認識しています。彼のテクニックを盗む前に自分の演技に飲み込まれているぐらいです。早く河瀨さんに納得していただける演技をして、彼のテクニックを盗もうと思っています。僕の出身は沖縄なので、沖縄代表として言わせていただくと、北から南まで、風土も気候も違います。マエストロも変わりますし、オーケストラも変わります。それぞれの劇場、それぞれの地域で、まったく違った素晴らしい演奏が見られると思いますので、全国の皆さん、メンソーレ・ウチナーンチュ。

【質疑応答】

──日本のどこかの集落と思われる舞台ですが、その意図はどこにありますでしょうか。また、ほとんどの登場人物が死んでしまう絶望のドラマですが、そこからどのような希望を紡ごうとしますか。

河瀨 とある日本の集落ですが、いつの時代かはっきり明記しておらず、いつかのどこかの集落、という設定にしています。そうした方が人間の普遍的な感情を感じてもらえると思ったからです。例えば、日本で、ローマの教会を出せば異国の物語を見ているような感覚になってしまうんですが、少し時代と場所をアバウトにすることで、人間そのものが際立って見えてくるかなというのが最初のアイデアでした。ですから、小道具さんが悩んでいて、これは何時代の何ですかと問われることもあります。私の映画も初期の若い時は、美術部さんに「あの屋根の色は何色にすればいいんですか」と言われて、「私が撮影している場所の半径何キロぐらいのところを見てきてください。その中でよかった色に塗ってください」と言うと、この監督は思想がないと思われたこともありました(笑)。美術や道具にだけリアリティーを持たせるのではなくて、むしろ人間の内面や人間そのものの普遍性を持たせるところから始めようと考えています。このお仕事をいただいたときに、どうして私ですかと聴いた時に、河瀨さんなら、絶望の先にかすかに希望を見いだせると感じたので依頼されたそうです。確かに、人間は悪いやつだし、世界もそんなに良くないと思っているので、だからこそ、どの時代も宗教やルールの中で人間は人間を殺しちゃいけない、悪いことしちゃいけないと学んでいくと思うんです。それでも、動物ですから、そこに刃を向けるのは本質で、そこに過剰に反応していくと国家や民族間で争いになっていく。世界の戦争からなくなったことがないとはいえ、芸術で一筋の光を見出すことが、戦争がなくなるきっかけになるのではないかと信じています。今回の『トスカ』でも、須賀ルピオが悪いのではなくて、その時代のその瞬間の人間関係がこの悲劇を産んだと描きたいです。

──チラシやポスターの『トスカ』の題字を担当されていますね。

河瀨 私は自分の作品のタイトルはすべて自分で書いているんです。『トスカ』も新潟の方がデザインをされるということで、私の奈良の事務所に来ていただいて、たくさんのみなさんに囲まれ、打ち合わせをしているところに、題字も書いていただけたらということで、筆ペンを持って書きました。トス香は鷹みたいな女性だと思っていて、激しさの中の情熱を表現しました。

――ご自身で製作された映像はどの程度の比重があるのですか。

河瀨 オペラは音楽と歌とそこで体現している役者たちが前に立っていないとダメだと思っています。それを邪魔しないように映画監督として作る映像を取り入れて、舞台をうまく作用させられたらと思っています。ですので、決して映像が前に出ることはないと思います。スクリーンが、出入り口にもなる舞台を作っているので、そこから役者が出たり入ったりします。今はどんな映像になるのかわかってなくて、自分だけがイメージできている状態で、言葉で説明しながら稽古をしています。実際に映像ができて、みなさんが立って動いてやっと初めて新しい何かが生まれてくると思います。

──トスカは、40代をすぎて声が成熟して歌えるという意見もあると思いますが、ルイザさんは、トスカは初役でしょうか。

ルイザ 今回で3回目です。確かに、女性・男性関わらず、レパートリーは幾つになったら歌うのがふさわしいということは昔から言われてきました。歌劇場に属し、じっくりと小さい役から始め、指揮者の方や、ソプラノの方から役をいただいて階段を登っていくのですが、目まぐるしく変わる現代の歌劇場ではステージディレクターからこの役を歌ってくれないかと申し出を受けます。ですから、どんな役もいただけるのであれば嬉しいですね。それから、ソプラノ歌手の過去の偉大な方を見ていると25歳ぐらいで大きな役を歌っているので違和感はありません。そういったチャンスに巡り会えたということを嬉しいと思うとともに、このまま続けていけたら素敵だなと心に秘めながら歌わせていただいています。

──河瀨さんが音楽にもたらしてくれる新しい視点はありますでしょうか。

大勝 公演をご覧になっていただければわかりますよ(笑)。私たちはプッチーニのスコアはしっかりと再現しているんです。その上で、演出家は演出をどのようにやるのか指揮者は見るのですが、空間の間ということに関しては、音楽をやっている人ではない感性とインスピレーションを感じます。目をつぶって耳をそばだてれば、プッチーニの『トスカ』ですが、河瀨さんの演出した空間を目の当たりにするとまったく新しい『トスカ』になっている。プッチーニのスコアをリスペクトしてくれていますので、今まで味わったことない音楽になっていますね。

広上 僕らが抱くのとは違う視点を持っていらっしゃいます。気がつかなかったことを発見させてくれる嬉しさがありますね。例えば、スポレッタはあまり台本に書かれていない、ただ動作しか書かれていないのに、河瀨さんは凄まじい生命を吹き込むことがお上手です。さらに、音楽を尊重してくれ、それぞれの歌手の良さを引き出しながら、最終的には、何を伝えたいのだろうというコンセプトや理想があるので、それがお客様に伝わるようにすることが我々の使命ですね。大先輩の武満徹先生は、映画館が唯一の癒しの場だったそうです。1000曲以上の映画音楽を書いていらっしゃいます。若い頃の彼の出す作品は、日本の批評家に叩かれて、泣く場所は夜中の深夜の映画館だったそうです。そして新しい曲を書いて、世界で認められるようになって、感謝の気持ちを込めて映画の曲を書いたという逸話があります。まさに視点の違う才能を受け入れて舞台を作る喜びに僕らは浸っているところなんです。

 

公演情報
東京芸術劇場シアターオペラvol.11 全国共同制作プロジェクト
プッチーニ/歌劇『トスカ』《新演出》

全3幕 日本語字幕付 イタリア語上演
題字:河瀬直美

題字:河瀬直美


■演出:河瀨直美
指揮:
大勝秀也 ※新潟(10/15)、魚津(11/12)、沖縄(12/7)
広上淳一 ※東京(10/27・29)、金沢(11/8)
■配役:
トス香(トスカ):ルイザ・アルブレヒトヴァ(ソプラノ)
カバラ導師・万里生(カヴァラドッシ):アレクサンドル・バディア(テノール)
須賀ルピオ(スカルピア):三戸大久(バリトン)
アンジェロッ太(アンジェロッティ):森雅史(バス)
堂森(堂守):三浦克次(バス・バリトン)
スポレッ太(スポレッタ):与儀巧(テノール)
シャル郎(シャルローネ):高橋洋介(バリトン)
看守:原田勇雅(バリトン)
牧童:鳥木雅生(ボーイソプラノ)
■演奏:
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢 ※新潟(10/15)、金沢(11/8)
東京フィルハーモニー交響楽団 ※東京(10/27・29)
群馬交響楽団 ※魚津(11/12)
琉球交響楽団 ※沖縄(12/7)
合唱&児童合唱: 各地の合唱団
副指揮:辻 博之、垣内悠希

■日時・会場:
2017年10月15日(日) 14:00 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(新潟県新潟市)
2017年10月27日(金) 18:30 東京芸術劇場 コンサートホール(東京都豊島区)
2017年10月29日(日) 14:00 東京芸術劇場 コンサートホール(東京都豊島区)
2017年11月08日(水) 19:00 金沢歌劇座(石川県金沢市)
2017年11月12日(日) 14:00 新川文化ホール 大ホール(富山県魚津市)
2017年12月07日(木) 19
00 沖縄コンベンションセンター(沖縄県宜野湾市)
■東京芸術劇場公式サイト:http://www.geigeki.jp/performance/concert115/

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