山椒は小粒でもぴりりと辛い、富士吉田市ハタオリマチフェスは規模は小さいがおしゃれ感度が高い層が注目!

インタビュー
イベント/レジャー
アート
2017.10.7

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 都心から約1時間半くらいだろうか。山梨県の富士吉田市役所には「富士山課」という部署がある。富士山課! なんか聞いただけで壮大で、ありがたい、日本一なネーミングだ。この部署では夏休みシーズン、富士山にある救護所やトイレなど3施設の管理運営を担いつつ、観光に関する取り組みなども行っている。2年前に配属された女性職員・勝俣美香さんは上司から「女性目線で街中に観光客を呼び込むことを考えて」というミッションを告げられる。目立った観光施設があるわけでも、飲食店が数多くあるわけでもない富士吉田市。行政マンとして自身もこのマチを観光という視点で眺めたことがなかった勝俣さんは悩みに悩んだ。

 ここがパラドックス的なところなのだが、富士山の五合目は富士吉田市なのだ。河口湖I.Cを降りてすぐのところにある富士急ハイランドも富士吉田市。富士山が世界遺産登録されたことで参拝者が増えた北口本宮冨士浅間神社も富士吉田市。農林水産省がふるさとの味の中から「農山漁村の郷土料理百選」に選定した「吉田のうどん」も富士吉田市の名物だ。これらを合わせると、富士五湖を抱える周辺自治体に比べ観光入込客数(実人数)が抜群に多い。

富士山のふもとのテキスタイルのマチを元気に!

 この富士吉田市では、富士山のきれいな湧水のおかげもあって古くから織物業が盛んだった。けれどOEM(original equipment manufacturer=他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業)のため、国内外の超有名ブランドメーカーの製品を手がけてきたものの、表明できないため日本国内で織物の産地として有名にはなれなかった。わかる。僕が住んでいるマチもそうだから。言えばいいじゃん、とか思うが言えない。これがなかなか歯がゆいのである。あれも、これもここで作っているんだけどなー。

「山中湖や河口湖になくて、富士吉田市にしかないもの、それが織物でした。機織りで栄えたこのマチを好きだと言ってくれる人もポツポツ現れてくれていたんです。そして何より織物の家業を継いでいる二代目、三代目の若者たちが富士吉田市を織物のマチとして元気にしていきたいということで“ヤマナシハタオリトラベル”というチームを立ち上げ、都心の有名百貨店やセレクトショップでPRを頑張っている。そのことを知ったのも富士山課に移ってから。じゃあ観光を通して、彼らを有名にしたい、そのために街中に人を呼べるフェスをやろうと。それがハタオリマチフェスティバルのきっかけだったんです。市内の西裏地区には昭和の初期に栄えた飲屋街があって、手が加えられていなかったので、昭和レトロとしてメディアに取り上げられ始めていました。滞在制作をしていくアーティスト、デザイナーの皆さんが間近に見える富士山にインスピレーションが湧くと言ってくれる。地元に住んでいるとなかなか気づかない魅力を、彼らに表現してもらおう。観光は外から来てくれるわけだから、そういう人たちにこのマチを上手にPRしてもらって、このマチがいいねと言ってくれる人たちを増やしていけばいいと考えたんです」(勝俣)

ハタフェスをキーワードにした奇跡の出会い、そしてマチが動き始めた

 そこから勝俣さんは奇跡の出会いを重ねていく。まずはハタオリトラベルのメンバーを軸に紹介した県発行の「LOOM」(機織りという意)というフリーペーパーに感動した。それは山梨の人や暮らしを伝えるフリーマガジン「BEEK」を製作・発行している土屋誠さんが手がけたものだった。さらに出版記念イベントで富士吉田のミュージシャンが「LOOM」からインスピレーションを得た歌をライブで披露したのを聞きまたもや感動した。その曲のバックには機織りのガッシャン、ガッシャンという音が流れていた。

 「若いお客さんたちがこの曲を聞いて感動している姿を見て、機織りで栄えた時代を背負い作り上げてきたおじさま、おばさま方にこのことをもっとちゃんと伝えたいと思って。このマチをこんなに素晴らしく伝えてくれる人たちにハタオリマチフェスのプロデュースをしてほしい」と勝俣さんは考えた。

 そこでまず軸になる存在として3人に白羽の矢を立てた。まずは前述の土屋さん。富士吉田市と慶應義塾大学の連携事業の地域おこし協力隊に参加し、独立後はゲストハウス「SARUYA」を拠点にマチを元気にするイベントを行っていた赤松智志さん。さらに手紙社で布博を立ち上げた経験を持ち、山梨県に引っ越してきた藤枝大裕さんだ。彼らに行政の立場から押さえるべきポイントのみ伝えて、フェスのプロデュースを委託した。そこからは彼らがアイデアや経験、ネットワークをフル活用してぐんぐん推進してくれた。またその動きを前向きに支えてくれた上司や同僚の存在も大きかった。

 「あまり行政的な堅苦しいイベントにしたくなかったんですよ。大事なのはお客さんが面白がってくださることですから。そして出店者も“ハタオリのマチ富士吉田”をしっかり発信できる方々を集めたかったんです。ですから織物関係の皆さん、そして“吉田の道具市”と称して古道具屋さんやカフェなどの飲食店の皆さんなど、いろんな地域で頑張っている方々にも出店、参加していただきました」(勝俣)

 富士山課はあくまで黒子に徹することができた。広報はターゲットを関東圏にしぼって、中央線沿線を数日かけてこだわりあるセレクトショップなどにチラシの配布もした。

 結果、おしゃれで、温かみのある幸せな空間ができあがり、高い注目度を集めた。若いお客さんからは、これからが楽しみだという言葉をたくさんもらった。

 同時に勝俣さんが喜んでいるのは、このフェスをきっかけにさまざまな展開が始まったことだ。たとえば東京の企業と前述のSARUYAが「MEET A TEXTILE」というツアーを開き、このマチにお店を出したい、永住したいという人たちを案内してくれた。実は富士吉田市には織りにたどり着くまでのあらゆる工程の職人がそろっており、そうしたメンバーがまとまって活動しようという「ハタ印」という事業が立ち上がった。大学の先生や学生やボランティアも含めてバーベキューをしながら意見交換する機会もできた。カメラマンの濱田英明さんが富士吉田市の風景を写真や映像で発信してくれたことで一人旅でやってくる女性が増えた。マチが動き始めた。

 「いろんな人たちがSNSでつぶやいてくれることで認知度が少しずつ上がってきている実感があります。日本の伝統技能をたずさわっている人たちをスタイリッシュに発信することで後継者を作ろうとする活動があったり、経済産業省が技術者の育成に力を入れているのも後押しになっています。マチの技術をかっこよく見せて、観光で人を呼ぶのは大事なことかもしれない。これが10年前だったらフェスをやってもこういった感想は得られなかったかもしれません。時代がよかったんです」(勝俣)

 さて、立ち上げの物語ばかりになったが、今週末、10月7日・8日に第二回のハタオリマチフェスティバルが開催される。規模も昨年よりも広がり、コンテンツも多彩になってきた。協力者も増えている。

 「全国の織物関係の方々が集まるようなイベントがないので、富士山を見下ろせるこの立地で、ハタオリマチフェスティバルがそうした皆さんが集まってくれるものに発展してくれたらうれしいですね。感度の高い人たちが来たいと思ってくれ、街中で販売、ワークショップができたら」と将来の夢を語る勝俣さん。ハタオリマチフェスティバルには、大事な立ち上げのきっかけになった思いが、さまざまな若いメンバーの心に受け継がれている。何よりそれが素晴らしい。

 今年の詳しい内容は公式サイトでご確認を。おかえりには、吉田のうどんを、ぜひ。

 
イベント情報
ハタオリマチフェスティバル

日時:2017年10月7日(土)・10月8日(日)10:00〜16:00
会場:富士吉田市まるさくたなべ、他(ハタオリ工場祭)、小室浅間神社(吉田のまちの道具市)、下吉田界隈(ワークショップ/音楽会など)

【ハタオリ工場祭】真田織物 / ハタオリマチのハタ印 / 産地の学校 / Haco Textile / かえる舎 / momo et associés / WATANABE TEXTILE / フジチギラ / 田辺織物 / 渡小織物 / YLINUM / terihaeru / SANKAKU QUILT / pole-pole / 山梨県織物整理株式会社 / テンジン / 槙田商店 / 武藤 / 羽田忠織物 / 光織物 / 前田源商店 / aoya bags / Srilanka Textile Project / Suno&Morison / tamaki niime / tukuwa textile: / 流しの洋裁人 / 西染物店 / nocogou / はらっぱ / Aneqdot / ヤンマ産業 / レピヤンリボン / rumbedobby

吉田のまちの道具市】ReBuilding Center JAPAN / 古道具燕 / コトバヤ / mogura books / maitoparta / cocochi / ALNICO DESIGN nigaoe shop / 不二御堂 / 古道具 hacomori(ハコモリ) / tsuzuri お花のアトリエ / THE SOIL by YardWorks / PICNIC / ninjinsan / mountain bookcase / 25ris / atelierRust / etelä / 岡崎直哉 / OCTUPLE / otanishop / kashuka / こどももり / hammock / PAPYRUS / Poulpe Sympa / Fil et bijou / 古道具・熊川 / 古道具オドル / ぺぺぺ似顔絵店 / monbus

 
【FOOD】amijok / 山角/やまゆり / ラムヤート / 本町大好きおかみさん会 / ショイコタツ / キッチンオハナ / NICE TIMECAFÉ / mountain*mountain w/cafe flat / asa-coya / 明日への語らい処 囲炉裏 / Naomi Camp / Belle et singe (ベル・エ・サンジュ) / AKITO COFFEE / octopa / cafe citron / カレー屋サーカス / coffee grains mane / お菓子と天然酵母パン tobira / 豊鮨 / お菓子とアロマのおみせ nid / 発酵酒場かえるのより道 / ヤマとカワ珈琲店

【イベント】ハタ屋で落語会(10/7) / ALDIN×石川ゆみ『ちくちく手縫いのミニバッグ作り』(10/8) / 【ワークショップ】おさるのシルクスクリーンプリント(10/7・10/8) / サンデーブースのカメラ小屋(10/7・10/8) / オーガニックコットンのお話会と布ナプキン作り(10/7) / ジャズ演奏付き特別交流会(10/7) / 織物工場を巡るバスツアー(10/7) / 織物工場を巡るバスツアー(10/8) / WATER WATER CAMELライブ 「ハタオリマチニヒビクウタ」(10/8) /【Talk】舟久保織物 舟久保勝×イイダ傘店 飯田純久「布を織る人、デザインする人(10/8) /【まちあるき】街をスケッチしよう編(10/8) /【まちあるき】あなたの知らない下吉田編(10/7・10/8)

 
■問合せ:ハタフェス実行委員会 Tel.0555-22-1111(富士山課)
 ハタオリマチフェスティバル公式サイト http://hatafes.jp/2017/
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