雪山ナチス・ゾンビの奇才がシリアスなディストピア映画を手がけたワケ 『セブン・シスターズ』トミー・ウィルコラ監督インタビュー
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トミー・ウィルコラ監督
10月21日(土)から公開される映画『セブン・シスターズ』は、2073年の人口過剰となった超大国“ヨーロッパ連邦”を舞台に、厳格な1人っ子政策の中で生まれた7つ子が、政府の目を欺きながら生き延びる姿を描いたSFサスペンス・アクションだ。主演のノオミ・ラパスが、異なる個性を持つ7つ子を1人で演じ切り、日本に先駆けて公開されたフランスでは、5日間で興行収入400万ドル(約4.4億)、 動員数50万人を超えるオープニングを記録している。
メガホンをとったトミー・ウィルコラ監督は、『キル・ビル』のパロディ映画『キル・ブル ~最強おバカ伝説~』や、医学生が雪山でナチスゾンビと死闘を繰り広げるアクション・ホラー『処刑山 -デッド・スノウ- 』、グリム童話をモチーフとしたSFアクション『ヘンゼル&グレーテル』などを手がけてきた奇才。荒唐無稽なバイオレンス・コメディで知られるウィルコラ監督は、なぜシリアスなテーマを持つSF作品を手がけることになったのか。ポール・バーホーベン監督(『ロボコップ』『エル ELLE』)からの影響や、ノオミ・ラパスとの絆など、製作にまつわる逸話とともに語ってもらった。
雪山ナチス・ゾンビからシリアスなディストピアSF映画へ
(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
――『セブン・シスターズ』は、ウィルコラ監督がこれまで手がけられてきた映画に比べると、かなりシリアスで、いわゆるディストピア(管理社会)を描いた作品だったので驚きました。
たしかに、わたしのこれまでの作品とくらべるとシリアスかもしれません(笑)。ただ、ところどころに私なりのユーモアやアクションも散りばめているつもりです。
――『セブン・シスターズ』を監督することになった経緯を教えていただけますか?
最初にこの企画は、私の友人でもあるモルテン・ティルドゥムのところに持ち込まれたんです。ただ、その後彼は『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を作ることになりました。私は彼を通じて脚本を読んで、男性だった主役を女性にすればもっと面白いし、もっとリアルだし、もっと主人公の脆い部分を出せると思ったんです。それが、私がこの企画をやりたいと思ったきっかけですね。もちろん、脚本がブラックリスト(※編注:ザ・ブラックリスト。映画スタジオの重役たちが選ぶ、映画化されていない優秀な脚本リストのこと)に入っていましたので、有名であることは知っていました。
――ノオミ・ラパスさんが一人七役で演じた主人公の姉妹がとても魅力的でした。ウィルコラ監督は、彼女の大ファンだそうですが、“ファンだから”起用したのでしょうか? それとも、配役から考えてオファーしたのですか?
その両方ですね。彼女は有名なスウェーデンの女優さんで、私はノルウェー人。彼女が出演している『ミレニアム』シリーズや、それ以外の北欧の映画もよく観ていたので、ファンだったんです。実は、彼女とはある実現できなかったプロジェクトのために会って話をしたことがあったので、仲良くなったんです。「いつか一緒に仕事をしようね」と話したり……そういうことがあったので、この脚本を読んだときに、すぐに彼女のことを思い浮かべました。ノオミは内なる力を持った人で、『セブン・シスターズ』の主人公の姉妹たちにも、同じような内なる力が必要だと思っていたんです。主人公の姉妹は、非情な世の中で、ユニークな存在として生きていかなければならないので。同時に、恐れを知らない俳優を求めていました。7人を演じ分けるということは、非常に恐ろしいことです。それをやってもいいと思える、恐れ知らずな人が必要だったので、ノオミが適任だと思ったんです。彼女と仕事をできて、すごくいい時間を過ごせました。
(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
――7人のキャラクターそれぞれが非常に個性的で興味深かったです。ノオミさんもキャラクター作りにも関わられているのでしょうか?
彼女はキャラクター作りに非常に深く関わっています。主人公を男性から女性に変える段階で、新しい脚本家(ケリー・ウィリアムソン)に参加してもらいました。彼女は、4人の姉妹に囲まれて育った女性の脚本家なんですが、そこに私とノオミも脚本の段階で参加して、キャラクターを作っていったんです。ただ、とても短い時間、2時間ほどしかないなかで観客が7人のキャラクターを覚えることができて、かつ共感できるものを作らなければいけない。脚本には、「肉体派」とか、「パーティーガール」とか、「オタク(NERDGIRL)」とか、「仕事一筋」と書いてあったのですが、それ以上のものが必要だったんです。ノオミがそこに微妙なニュアンスやディティールを加えることで、それぞれのキャラクターが生き生きとしてきました。彼女はコスチューム選びにも関わっているので、本当にチームワークで7人のキャラクターを作っていったと言えます。
――7人それぞれの香水まで選んだと聞いていますが。
その通りです。ノオミには香水をつくることが出来る友人がいました。ノオミはそれぞれのキャラクターをその友人に説明して、香水を作ってもらったんです。ノオミには、7人それぞれのキャラクターを演じ分ける上での、彼女なりのやり方がありました。メイクを落として、シャワーを浴びて、違うキャラクターのメイクをして、洋服を着て、最後にキャラクターの香水をつけることで、彼女なりにスイッチを入れる、というルーティーン(習慣)があったんです。
――ノオミさんは、役作りで体を鍛えることが多いようですね。今回もすごくビルドアップされていましたが、これは監督の指示ですか?
今回の映画のためというよりも、彼女はもともとフィットネスフリークで、毎朝5時にジムに行くような人なんです。撮影のときには十分に体が仕上がっていて、すごく助かりました。というのも、アクションシーンがたくさんあって、キャラクターによって戦い方も違うので。セリフなど、ドラマの部分がそれぞれ異なるだけじゃなくて、戦い方や走り方も違うんです。そういう意味では、彼女の身体の強さは非常に役に立ったと思います。
被虐の肉体派女優ノオミ・ラパスとポール・バーホーベンの影響
(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
――ノオミさんは、『ミレニアム』シリーズで暴行されたり、『プロメテウス』でエイリアンの卵を生みつけられたりと、とにかく酷い目に遭う役を演じることが多いです。そこから立ち上がって戦う姿が美しい女優さんだと思いますが、そういった魅力を意識しながら演出された?
おっしゃる意味はすごくよくわかります。私は、苦悶する女性にはある種の魅力があると思っています。彼女たちには力があって、苦悶しているときにその強さが見えるから魅力的なんだと思います。以前、「あなたは女性に対して暴力を使いすぎではありませんか?」と質問されたことがあります。たしかにそうだと思いますが、これが男性だったら、誰も疑問を感じないと思うんです。残虐なことを男性にやることは、みなさん見慣れている。それを女性がやることによって、非常にもろさを感じると思うんです。そういうこともあって、主人公を男性から女性に変えたのですが。ただ、おっしゃるとおり、私は自分の映画で女性を拷問するのが好きで、今回もそれをやったわけです(笑)。
――監督の作品は全体的にバイオレンス色が強いものが多いと思います。そういったところは、ポール・バーホーベン監督の影響を強く受けてらっしゃるそうですね。
非常に影響を受けています。特にこの映画には、彼からインスピレーションを受けた部分が多いです。『ロボコップ』や『トータル・リコール』、『スターシップ・トゥルーパーズ』に影響を受けているんです。なぜかというと、彼の映画で描かれているアイデアはとてもリアルに感じることが出来るからです。それと同時に、娯楽性が高くてとても楽しい。そういった、色んなトーンが混ざり合ってとてもユニークなものになっている部分に、非常にインスピレーションを受けました。
(C)SEVEN SIBLINGS LIMITED AND SND 2016
――「一人っ子政策」だったり、人口爆発や食料問題といったテーマもあります。こういった設定には、以前からご興味をお持ちだったんでしょうか?
こういった問題を知ってはいたんですが、このプロジェクトに関わることになって、改めて本を読んだり、ドキュメンタリーを見たり、脚本家にも調べてもらったりしました。こういう問題が確かに存在していて、それをリアルに感じてもらえるように意識して作ったつもりです。つまり、200年後ではなく、20年程度後にはこういう状況になりえるのではないか?という描き方をしたかったんです。私も、この作品に関わることになって色んなことを調査したことで、より深く関心を持つようになりました。
――今回のようなシリアスなテーマを織り交ぜつつ、コメディタッチの作品を作る気持ちはありますか?
もちろん状況によるとは思いますが、こういった新しい素材にはチャレンジしていきたいです。ただ、重要なメッセージを持ったものもいいですが、やはり娯楽も欲しいので……これまでのようなテイストのものも作っていきたいですが、同時にメッセージも娯楽もある作品を作り続けていきたいです。
――『セブン・シスターズ』はメジャースタジオ製作でもなく、ヨーロッパ・コープ(※編注:リュック・ベッソンの製作会社)の作品でもない。主にヨーロッパ(イギリス、フランス、ベルギー)の資本で製作されていますね。こういったエンタテインメント性の高い作品、あるいはビッグバジェットの作品をヨーロッパで作りやすくなってきたのでしょうか?
今回プロデューサーとして参加してくれたフランスのファブリス・ジャンフェルミは、ジェイク・ギレンホール主演の『ミッション: 8ミニッツ』や、ニコラス・ケイジ主演の『ロード・オブ・ウォー』だったり、結構な大作を手がけてきた人です。こういった形で、ドイツ、フランスや、ノルウェーなどの北欧でお金を集めて、ハリウッド大作と競合できるものが作られるようになってきていると思います。『セブン・シスターズ』をいわゆるスタジオシステムの外で作ることが出来たのは、非常に嬉しいことでした。というのも、自由度が高くなったので。ヨーロッパでも、こういった作り方が出来る機会や、ファイナンスの選択肢は増えてきていると思います。
――最後に、ウィルコラ監督の今後の作品『処刑山3(DEAD SNOW 3)』と、『ヘンゼル&グレーテル』の続編企画の進捗を聞かせてください。
『ヘンゼル&グレーテル』の続編は映画では難しいと思っていて、テレビドラマとしてどんな世界観にするか、ストーリーを考えているところです。『処刑山3』についてはまだ何も書いていないのですが、脚本家たちとアイデアを投げ合っているところです。願わくば、2、3年後に撮影にとりかかることが出来ればいいな、と考えています。『処刑山』シリーズは、もともと三部作のつもりなので終わらせたいと思っていますし、クレイジーなストーリーの案もあるので、いつかは製作にとりかかりたいと思っています。
映画『セブン・シスターズ』は10月21日(土)より新宿シネマカリテほか、全国順次公開。
映画『セブン・シスターズ』
原題:What Happened to Monday?
監督:トミー・ウィルコラ 『ヘンゼル&グレーテル』
出演:ノオミ・ラパス 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』
グレン・クローズ『アルバート氏の人生』
ウィレム・デフォー 『スパイダーマン』
脚本:マックス・ボトキン、ケリー・ウィリアムソン
撮影監督:ジョゼ・ダヴィッド・モンテロ
製作:ラファエラ・デ・ラウレンティス、フィリップ・ルスレ、ファブリス・ジャンフェルミ
製作総指揮:ティエリー・デミシェル、ガイ・ストーデル
【ストーリー】
世界的な人口過多と飢饉による食糧不足から、厳格な一人っ子政策が敷かれた近未来。そこでは二人目以降の子供は児童分配局によって親から引き離され、枯渇した地球の資源が回復する日まで冷凍保存される。セットマン家の七つ子姉妹は、唯一の身寄りである祖父によって各曜日の名前を付けられ、それぞれ週1日ずつ外出して共通の人格を演じることで30歳まで生き延びてきた。しかしある夜、マンデー(月曜)が帰宅しなかったことで、姉妹の日常は狂い始める。
提供:ハピネット
配給:コピアポア・フィルム
宣伝協力:プリマステラ+ブラウニー