佐々木蔵之介「今まで見たことがない『リチャード三世』」、醜い男の魅力的な渇望と興亡を描くシェイクスピア史劇いよいよ開幕へ

2017.10.17
レポート
舞台

佐々木蔵之介『リチャード三世』


佐々木蔵之介主演の『リチャード三世』が、2017年10月18日(水)から10月30日(月)まで、東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。シェイクスピア作品の中でも人気の高いピカレスク(悪漢)ロマン。王座を手にするために、敵も味方も肉親も、欺き、口説き、唆し、殺す。世界各国の名俳優が手がけてきた、醜く魅力的な希代の悪人リチャード三世を、佐々木蔵之介が大胆に演じる。演出はルーマニアの巨匠、シルヴィウ・プルカレーテが手がけ、出演者は男も女もすべて男性俳優が演じる。役者たちが口を揃えて「今まで見たことがない『リチャード三世』」と断言するほど、ビジュアル豊かで想像力を体の芯から刺激する、強烈な舞台。本作のゲネプロと取材会が10月15日(日)に行われ、その模様が明らかとなった。

物語は、15世紀のイングランド。王位をめぐるランカスター家とヨーク家の争い(=薔薇戦争)の渦中、ヨーク家の王の弟リチャード(佐々木蔵之介)は王冠を手にするために、バッキンガム公(山中崇)を味方に知略を尽くし、残虐の限りに手を染めていく。幕開け、天井を突き抜けるような壁に囲まれた広い部屋の中央で、白いシャツを着た人々が祝杯をあげる。ダンスのような動き、楽器の生演奏、子どもがシャボン玉を飛ばしたりと、喧騒と狂乱のさなか、舞台が始まる。

『リチャード三世』

リチャードがまず狙うのは、兄王とその妻(植本純米)と息子・娘たち、二番目の兄・クラレンス公(長谷川朝晴)。母を騙し、兄に諫言し、世間に噂を広め、一人ずつ手にかけていく。そして対立するランカスター家のヘンリー6世を亡き者にし、その王子の妻アン(手塚とおる)を誘惑し、さらに幼い王位継承者エリザベスとも結婚しようなどと画策する。佐々木は「だいたい殺してます。敵、味方、肉親、全員」と残虐非道の役をあたかも楽しんでいる様子。その殺され方もさまざまで、水や光などを効果的にもちいたビジュアルは、美しい悪夢を見ているように幻想的だ。

佐々木蔵之介、植本純米『リチャード三世』

しかし残忍なシーンが続くわけではない。佐々木は自身が演じるリチャードについて、「今まで知られているリチャード三世は極悪人。でも今回はちょっと道化・ピエロのよう。プロレスのヒールのように、楽しませたり、脅したり……と様々な、これまでに見たことのないリチャード三世となります」と紹介。舞台上でリチャードは、臣下らの前では滑稽なほどの大芝居をうち、子どもの前ではピエロの鼻をつけて道化にもなったり、色仕掛けと愛の言葉で誘惑したりと、手段はいとわない。さまざまな表情の佐々木を見ていることが楽しく、醜いが魅力的、大胆ながら滑稽な姿に惹かれてしまいます。そうやって観客もリチャードの姦計にはまっていく。それを演じる佐々木について植本は「蔵ちゃん、いい。すごくいい」と重みのある物言いで太鼓判を押した。

登場人物のビジュアルは、白塗りや派手なメイクでおどろおどろしくもある。会見登場してすぐの佐々木は「ハロウィンでもないのにこんな仮装をして……と思われるかもしれませんが、大真面目です」と笑わせ、肩を剥き出しにした真っ赤なドレスの手塚も「座組最年長の55歳でこんな格好ですが、一番若い“乙女”を演じるんです」と話に乗っていた。今井朋彦も「自分も生きているか死んでいるのかわからない摩訶不思議な存在で……」とメイクの話で盛り上がるほど、ハロウィンの仮装という言葉が妙に当てはまるが、これが舞台で見ると大変に美しい。「演劇はイマジネーションですから。舞台だとすごいですから」と佐々木が言うように、シンプルな舞台美術の向こうに壮大なイングランド史を見せてくれる。

プルカレーテは国際的な演出家として、スコットランドやアイルランドなど各国で数々の賞を受賞している。火や水などを大胆に用いながらも奇抜ではなくそれが必然となる演出は、日本の演劇人にもファンが多い。今作にあたってプルカレーテは舞台美術・衣装と音楽家をルーマニアから呼び寄せ、ともに独特の世界を創り上げた。長谷川は、「将来的に『あの伝説の舞台を観たんだ!?』と言われる舞台になるのでは。新しい刺激が多い舞台。楽しみたいです」と興奮気味に語り、山中も「刺激的な日々を送っています。出演者もお客さんも今まで味わったことのない演劇体験になるでしょう」と言葉を続ける。手塚は「これまで期待していたシェイクスピアとぜんぜん違う」とシェイクスピアファンに向けても自信を見せた。プルカレーテについて佐々木が「稽古初日から毎日『そんな角度からこの脚本を読むの!?』と刺激的。これは演劇人として幸せなこと。こんなに凄いことを毎日やらせてもらっています。見たことのない毎日です」と言えば、周囲も、まったく見たことのない真の芝居だと、大きく頷いた。さまざまな個性の演出家と数々の舞台に臨んできたベテラン演劇人たちにとっても、やりがいのある稽古の日々を送ったようだ。

『リチャード三世』

陽気なようでどこか暗い音楽や、暗みがかった照明や美術の色合いが、リチャードの心の中に迷い込んだように感じさせる。次々とあらわれては消える舞台美術の転換が、とても美しい。それについて長谷川が「ベテラン俳優も子役も自分たちが裏で舞台美術を動かしたり、役者もアートの一つになっているんです」と明かす。佐々木も「演劇はいかにマジックを見せるかが醍醐味ですから『どうやってできたの!?』と感じていただけるといいなと思っています」と紹介した。「舞台全体が絵や彫刻のよう」との表現がぴったりの、動く芸術作品を見ているような2時間半だった。いや、見ているだけではない。観客もその世界の一部となるかもしれない。

しかしプルカレーテ自身は「自分としては大胆なアレンジをしたつもりはありません」と言う。「400年以上前に書かれた英国史ですから、それを現代の人が興味を抱くように手は加えましたが」と説明。たしかに一見奇抜なようだが、混合しがちな外国名も気にならず、物語はわかりやすく、その刺激的なビジュアルにより、リチャードの欲深さや慢心、哀れさ、滑稽さが深く伝わってくる。リチャードに振り回される周囲の人々に渦巻く感情も、淀んだ色がついて見えるようだ。

出演者がほぼ男性であることについては、「男ばかりの作品にすることは、日本でオーディションをしている中で決めました。でも男性だけの舞台というのは歌舞伎もギリシャ劇もそうですから」と言う。愛の駆け引きの相手が男性であることで、むしろ艶めかしく感じられることもあれば、男女の枠にとらわれない人と人との関係性が際立ちもする。体当たりで臨んだ日本の俳優らについてプルカレーテは「敬愛すべき才能の豊かな人々。完璧にプロフェッショナルで、非常に優しい」と、充実した日本滞在であったことをうかがわせる。

今作のテーマは「あえて言うなら“悪”。私たちそれぞれのどこかに存在しているもの」としながら、プルカレーテは観客にむけてただ「観て、感じてほしい。この作品そのものが、私が日本のみなさんに送るメッセージです」と述べた。
シェイクスピアがリチャード三世という残虐な男を通して“人間”というものを描いた『リチャード三世』。その人間の中に渦巻く“悪”を、今作にしかない独自の世界観で見せていく。佐々木蔵之介の体現するリチャードという男に、ぜひ会いにきてほしい。

佐々木蔵之介『リチャード三世』

取材・文・撮影=河野桃子

公演情報
『リチャード三世』

■日時・会場:
【東京公演】2017年10月18日(水)~30日(月)東京芸術劇場 プレイハウス
※10月17日 プレビュー公演 
【大阪公演】2017年11月3日(金・祝)~11月5日(日)森ノ宮ピロティホール
【岩手公演】2017年11月8日(水)盛岡市民文化ホール 大ホール
【愛知公演】2017年11月15日(水)日本特殊陶業市民会館ビレッジホール


■作:ウィリアム・シェイクスピア
■演出・上演台本:シルヴィウ・プルカレーテ
■演出補:谷賢一
■翻訳:木下順二

■出演:
佐々木蔵之介/手塚とおる 今井朋彦 植本純米(植本潤改メ)/
長谷川朝晴 山中崇/山口馬木也 河内大和 土屋佑壱 浜田学 櫻井章喜/
八十田勇一 阿南健治 有薗芳記 壤晴彦/渡辺美佐子

■公式サイト:https://www.richard3-stage.com/


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