新国立劇場バレエ団 新制作『くるみ割り人形』公開リハーサルより~華麗にしてハード。「ダンサーにはチャレンジを」

2017.10.26
レポート
クラシック

撮影:西原朋未


新国立劇場バレエ団の2017-2018年シーズンを飾る新制作『くるみ割り人形』。クリスマスシーズンにはあちこちで上演される人気作品を、元英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルにして現在振付家として活動しているウエイン・イーグリングが手掛ける。同バレエ団では『眠れる森の美女』(2014年)に続くものだ。

一体どのような作品になるのかという注目を集めるなか、先頃行われた公開リハーサルでその一端が披露された。イーグリングが「ダンサー達にチャレンジの場を与えたい」と語る通り、優雅な場面をハードな振り付けで踊るシーンが次々と展開された。

■既存のイーグリング版とは違う「新国立劇場のオリジナル版」

今回の公開リハーサルに登場したのは木村優里&渡邊峻郁、池田理沙子&奥村康祐、小野絢子&福岡雄大、そして米沢唯&井澤駿の主演ペアと、ドロッセルマイヤー役の貝川鐵夫、菅野英男だ。

リハーサルは1幕、くるみ割り人形が王子に変身したあとのパ・ド・ドゥ、2幕冒頭の夢の世界への到着、クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥと、ストーリーの順を追って行われた。

イーグリングはイングリッシュ・ナショナル・バレエやオランダ国立バレエなど様々なバレエ団に『くるみ割り人形』を振り付けているが、今作はそうした既存のバージョンとは違い、コール・ド・バレエも含め「新国立劇場バレエ団のオリジナル作品になる」という。

まずは木村&渡邊ペアが登場。昨シーズンの『ジゼル』公演では瑞々しい表現力で感動的なドラマを生み出した、注目著しい人気急上昇中の2人だ。

木村優里、渡邊峻郁 撮影:鹿摩隆司

場面は1幕、ねずみの王様との戦いの後。貝川演じるドロッセルマイヤーの魔法により、ねずみの王様と戦い倒れたくるみ割り人形が生き返り、王子に変わる。悲嘆にくれていたクララは、しかし王子となって生き返った姿を見て思わず笑顔に。そしてパ・ド・ドゥへと続く。木村が演じるクララの、王子を目にしたときの涙が乾き切らないなかで笑う表情が実に絶妙で、これだけで本番が楽しみになる。

しかし『くるみ割り人形』屈指のロマンティックな曲とともに踊られる、胸がキュンとなるシーンでありながら動きは非常にスピーディー。リフト、女性が飛び込んでからの回転など、実にめまぐるしい。

華麗なフィニッシュを決めた後にゼイゼイと2人の息遣いが聞こえるところに、どれだけハードな動きだったかがうかがえた。

■気球にのって夢の世界へ。難易度の高い男性の振り付け

2幕冒頭、池田&奥村、そしてドロッセルマイヤーの菅野により、気球に乗って夢の世界へ到着するシーンが演じられ、それに続いて小野&福岡ペアがクララと王子のパ・ド・ドゥを踊る。

池田理沙子、菅野英男、奥村康祐

この『くるみ割り人形』は主演男性がドロッセルマイヤーの甥、くるみ割り人形、王子の3役をやるうえ、「このバレエ団のダンサーならできると思った」とイーグリングが語るように、今回福岡が披露したシーンの振付は跳躍・跳躍・回転からさらに跳躍、さらにそこにリフトが入るなど、連続技のオンパレードだ。公開リハーサル開始前に大原永子監督が「男性は非常に大変で酸欠になるし、リフトも多いので腕が棒のようになる」と語っており、また奥村も「腕を取り替えたいくらい大変」と語るのもなるほど、と納得する。

福岡雄大、小野絢子 撮影:鹿摩隆司

しかしその難易度の高い踊りを軽々とこなす福岡の技術には恐れ入るし、小野のしなやかな身体が予定通りといわんばかりの動線を描くように福岡へと飛び込み、リフトへと続く流れはよどみなく、呼吸もぴったりだ。イーグリングからも「Very Nice!」と声が飛んでいた。

■思わず見入る2幕のグラン・パ・ド・ドゥ

最後に登場した米沢&井澤ペアは2幕のクライマックスで踊られるグラン・パ・ド・ドゥを披露した。

通常「金平糖の精」の踊りとして知られるが、このバージョンでは「金平糖」は登場せず、クララと王子が夢の世界を締めくくる。

井澤駿、米沢唯、ウエイン・イーグリング 撮影:鹿摩隆司

今回踊ったのは最初のパ・ド・ドゥの部分。ゆったりとしたピアノの曲は変わらず、また米沢も正確な踊りをみせているが、一方で運動量が非常に膨大で、リフト多用の空中プレイが続く。曲がいよいよ終わるというクライマックスの部分はピルエットからアラベスク、「これでもか!」と言わんばかりの5連続回転からのフィニッシュ。

米沢が後に「ホントにキツイです。振りも難しく覚えることがたくさん」と語ったように、音楽に振り付けた“情報量”が膨大だ。「音楽と振付の化学反応を見ていただきたい」(福岡)というのもなるほどと納得する。

一通り踊り終えた後、リフトのタイミングやポーズの際の角度、立ち位置などを確認して、この日のリハーサルは終了となった。「息を合わせて、本番にはちゃんと世界を作れるところまで持って行きたい」(米沢)と言う通り、この作品をダンサー達がどのように仕上げ、新国立劇場バレエ団らしい濃厚な物語世界を見せてくれるのか、実に楽しみだ。

■「ダンサーすべてがプリンシパルのようにベストを尽くしている」

リハーサル終了後、「『くるみ割り人形』は新国立劇場バレエ団では3作目。皆さんに愛されるような作品となるようにしていきたい」と小野。木村もまた「温かな気持ちを持って帰っていただけるよう、頑張ります」と語る。

またこの『くるみ割り人形』は、「クララ、ドロッセルマイヤーとその甥の、3人のドラマに注目」(井澤)だが、加えてねずみの王様も重要な役で、踊る場面が非常に多いという。今回は奥村、渡邊、井澤の3人が配されており、渡邊は「王子とねずみの王様の両方をやるため、時々動きがこんがらかってしまうのですが(笑)、うまくこなせるようにしていきたい」と語った。

イーグリングは「このバレエ団はコール・ド・バレエはじめすべてのダンサーが、まるで全員がプリンシパルのように、それぞれの役にベストを尽くしている。その精神が若手を支え、作品のクオリティを押し上げている」と語った。

ダンサー一丸となった新制作『くるみ割り人形』は、衣装を『ホフマン物語』で好評を博した前田文子、照明は沢田祐二、舞台美術を川口直次が担当する。当日の指揮はおなじみのアレクセイ・バクランだ。

このハードな踊りをダンサー達がどこまで華麗に、優雅に仕上げてくるのか期待したい。

(文章中敬称略)

取材・文=西原朋未

公演情報
新国立劇場バレエ団 「くるみ割り人形」
 
■会場:新国立劇場 オペラパレス (東京都)
■日時・出演:

 
【10月28日(土)14:00】
クララ:小野絢子
王子:福岡雄大
ドロッセルマイヤー:菅野英男
ねずみの王様:奥村康祐
ルイーズ(クララの姉):細田千晶
雪の結晶:飯野萌子、広瀬 碧
花のワルツ:柴山紗帆、飯野萌子、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【10月29日(日)14:00】
クララ:米沢 唯
王子:井澤 駿
ドロッセルマイヤー:貝川鐵夫
ねずみの王様:渡邊峻郁
ルイーズ(クララの姉):奥田花純
雪の結晶:柴山紗帆、渡辺与布
花のワルツ:寺田亜沙子、細田千晶、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【10月31日(火)13:30】※貸切公演
クララ:池田理沙子
王子:奥村康祐
ドロッセルマイヤー:菅野英男
ねずみの王様:渡邊峻郁
ルイーズ(クララの姉):細田千晶
雪の結晶:飯野萌子、広瀬 碧
花のワルツ:柴山紗帆、飯野萌子、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【11月3日(金・祝)13:00】
クララ:米沢 唯
王子:ワディム・ムンタギロフ
ドロッセルマイヤー:貝川鐵夫
ねずみの王様:井澤 駿
ルイーズ(クララの姉):池田理沙子
雪の結晶:柴山紗帆、渡辺与布
花のワルツ:寺田亜沙子、細田千晶、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【11月3日(金・祝)18:00】
クララ:小野絢子
王子:福岡雄大
ドロッセルマイヤー:菅野英男
ねずみの王様:奥村康祐
ルイーズ(クララの姉):細田千晶
雪の結晶:飯野萌子、広瀬 碧
花のワルツ:柴山紗帆、飯野萌子、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【11月4日(土)14:00】
クララ:木村優里
王子:渡邊峻郁
ドロッセルマイヤー:貝川鐵夫
ねずみの王様:奥村康祐
ルイーズ(クララの姉):奥田花純
雪の結晶:飯野萌子、広瀬 碧
花のワルツ:寺田亜沙子、細田千晶、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
【11月5日(日)14:00】
クララ:米沢 唯
王子:ワディム・ムンタギロフ
ドロッセルマイヤー:貝川鐵夫
ねずみの王様:井澤 駿
ルイーズ(クララの姉):池田理沙子
雪の結晶:柴山紗帆、渡辺与布
花のワルツ:寺田亜沙子、細田千晶、原 健太、浜崎恵二朗
新国立劇場バレエ団

 
■芸術監督:大原永子  
■音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー  
■振付:ウエイン・イーグリング  
■指揮:アレクセイ・バクラン  
■管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団  
■合唱:東京少年少女合唱隊  
■公式サイト:http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/

※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる場合がございますが、出演者・曲目変更などのために払い戻しはいたしませんのであらかじめご了承願います

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