小寺里奈(ヴァイオリン)&福井あや那(ピアノ)が奏でる、愛すべき名曲たちの美しき調べ
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
“サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.11.5 ライブレポート
クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さいお子様の入場も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート『サンデー・ブランチ・クラシック」。11月5日に登場したのは、ヴァイオリニストの小寺里奈と、ピアニストの福井あや那だ。
東京藝術大学在学中から演奏活動をはじめた小寺は、現在クラシックのみならず、松下奈緒、絢香、ジェーン・バーキン、中孝介、秋川雅史、柚希礼音、平原綾香、T.M.Revolution、サラ・ブライトマン、ホセ・ジェイムズ、the FIELD OF VIEW、近藤真彦、ももいろクローバーZなど、ポップス、ミュージカル、アイドルと、国内外を問わず様々なジャンルのアーティストのライブやレコーディングに参加し、多彩な活動を続けている。
一方の福井は、現在東京音楽大学大学院修士課程に在学中で、院生として研鑽を積みながら、ジョイントリサイタルやコンサート活動も行っている。演奏の合間には福井が小寺を「お姉さま」と呼ぶなど、演奏家として前を歩く小寺に、福井が敬意を持って共にこの場に臨んでいることが伝わってくる、和やかな雰囲気の中、名曲の数々が演奏された。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
アンコールピースとして有名な楽曲から始まるコンサート
まず1曲目はエルガーの「愛の挨拶」。ヴァイオリンの数ある名曲の中でも、1、2を争うほど一般知名度の高い、多くの人々に愛されている佳曲だけに、ヴァイオリン・リサイタルなどでは、アンコールピースの定番ともなっているが、その耳に馴染んだ美しいメロディが冒頭で演奏されるのは『サンデー・ブランチ・クラシック』ならでは。小寺の奏でる華やかな音色が、会場を一気にクラシック音楽の世界に誘う。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
それぞれの自己紹介のあと、2曲目はトーマの「アンダンテ・レリジオーソ」。「ご存知ない方もいらっしゃるかも知れませんが、ヴァイオリンの教則本にも載っている曲です」との小寺の説明もあったが、ヴァイオリン学習者にはお馴染みの1曲だ。「敬虔に」という意味のレリジオーソの名の通り、祈りにも似た哀切なメロディーが徐々に膨らみ、後半では福井のピアノと対話するかのように音楽が広がりを見せて、クライマックスに向かう高まりが美しい。
そのまま続いて3曲目、モンティの「チャルダッシュ」へ。歌手であるレディー・ガガのアルバムや、フィギュア・スケートの浅田真央のプログラムに用いられたこともある有名な楽曲である。ゆったりとした序奏から、次第にテンポをあげて音楽が迸る様は高揚感たっぷり。ヴァイオリンという楽器だけでなく、小寺が全身に音を共鳴させて演奏しているのが伝わり、会場は踊り出したいような空気に包まれた。
小寺里奈(ヴァイオリン)
軽やかなピアノソロから、歌い奏でる弦楽器の神髄へ
迫力の演奏のあと、小寺がステージからいったん退場すると、ここで福井のピアノソロ、ショパンの「華麗なる円舞曲」から通称「仔猫のワルツ」が披露される。ショパンのワルツでは「小犬のワルツ」がよく知られているが、この「仔猫のワルツ」と呼ばれて親しまれている「華麗なる円舞曲」も、短い楽曲の中に装飾音符がふんだんについた、あたかも仔猫が走り回っているかのようなメロディーが有名だ。福井の軽快なタッチから生まれるフレッシュな音色がどこかコケティッシュにも感じられ、愛らしさに満ちた演奏になった。
福井あや那(ピアノ)
拍手の中再び小寺が登場し「休憩したので、ガッツリいきます。大好きな曲です」と宣言しての5曲目はヴィターリの「シャコンヌ」。哀愁に満ちたメロディーが、やがて迫力の重音となって響き渡る。小寺の奏でる重音は実に豊かで、深い。更に福井のピアノがユニゾンのように加わると、より力強さを増した演奏は、まるで天の高みを目指すかのよう。壮大な世界を描いた見事な演奏に「ブラボー!」の声も飛んだ。
そして6曲目がカッチーニの「アヴェ・マリア」。「アヴェ・マリアと言えばシューベルトが有名かも知れませんが」と二人は語っていたが、美しくドラマ性のある楽曲は、フィギュア・スケートのプログラムや、演劇の世界でも使われているので、耳にしたことがある人も多いと思う。「シャコンヌ」の迫力とはまた種類の異なる、静けさの中に芯の強さを秘めた小寺の音色が美しいメロディーによく合い、後半は伴奏とメロディーというよりも、小寺のヴァイオリンと福井のピアノがセッションと言える掛け合いを聞かせ、荘厳な時間が流れていった。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
大きな拍手の中、演奏を終えた小寺が「この曲が本編の最後だったのに、説明するのを忘れていまいました!」と笑いを誘う一幕も。その為、アンコールとして用意されていた曲が、引き続いて演奏され、マスネの「タイスの瞑想曲」へ。有名曲ばかりのプログラムの中、更によく知られた名曲中の名曲がたっぷりと歌うように奏でられ、これぞ弦楽器の素晴らしさ!と言いたい魅力に満ちていた。そのまま敢えて楽曲名は告げられずに演奏されたのは、山田耕作の「赤とんぼ」。秋深まるこの時期に相応しい歌曲が、静かなヴァイオリンの音色ではじまり、やがてピアノと多彩にからみあう編曲も面白く、聞きごたえのあるフィナーレとなった。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
鳴りやまない拍手に応えた二人の挨拶のあと、小寺が福井に「ドレスがよく似合うけど、髪飾りが落ちちゃったの知ってた?」と指さすと「え!? 本当ですか? 全然気がつかなかった!」と慌てる福井に「また次の機会にお客様に見てもらいましょうね」と、再会に期待の高まる会話も聞かれ、どっぷりと名曲に浸れた40分間が過ぎていった。よく晴れた日曜日の午後の、とても贅沢な時間となった。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
初心に帰り、新たな一歩ともなった二人の共演
演奏終了後、熱気も冷めやらぬお二人に、お話を伺った。
――素晴らしい演奏会でしたが、演奏していて会場の雰囲気はいかがでしたか?
小寺:皆さんがすごく静かに聞いてくださって。「もっと食べたり、飲んだりしていいんですよ!」と思っていたのですが、とても真剣に聞いてくださったので、こちらも真剣に演奏しました。でも皆さんが本当に温かったです。
福井:そうですね。本当に温かい雰囲気の中で熱心に聞いてくださったので、とても弾きやすくて、楽しく演奏することができした。
――小さなお子さんとも一緒にクラシックを聴くことができる、とても素敵な場ですが、選曲にあたってはどんな工夫を?
小寺:まずは自分が弾きたいなと思う曲をあげていったんですが。
福井:やはりお子さんたちもいらっしゃるということを1つのポイントと考えて、1曲があまり長くなく、聞きやすくて、有名な曲をということを1番意識しました。最後の「赤とんぼ」などは特にその想いが強く入っています。
小寺:耳馴染みのある曲は聞きやすいと思いましたし、せっかくのこういう場なので、皆さんに楽しんでいただけることを何よりも大切にしました。
――共演されてお二人、それぞれの印象は?
福井:“お姉さま”って呼ばせていただいていて。
小寺:もうここだけですよ! お姉さまなんて呼んでもらえるのは(笑)。
福井:素晴らしいヴァイオリンにリードしていただいて、色々なことを教えてもらって「とにかくついて行こう!」と思いました。
小寺:(福井さんが)本当に真面目。「わからないところがあったら言ってね」って言うんですが、必ず「大丈夫です」って。
福井:大丈夫じゃないんですけど(笑)。
小寺:ううん、本当によく勉強していらっしゃるから、これからが楽しみですね。彼女のようなフレッシュな人と一緒に演奏させてもらって、私もちょっと昔を思い出しながら演奏できました。
小寺里奈(ヴァイオリン)、福井あや那(ピアノ)
――刺激にもなりましたか?
小寺:そうですね。「あの頃私はどうやって弾いていたんだろう」と、初心に帰るような気持ちにもなりました。
――福井さんは、小寺さんから吸収することもあったのではないでしょうか。
福井:はい、たくさんありました。こういった小品ばかりを集めて演奏する機会もこれまでなかったので。学校に通っていると、ひたすらピアノソロの10分、15分ある長い曲をただただ1人で籠もって弾いている、という時間ばかりでしたから、合わせる楽しさが大きかったです。元々合わせることが大好きなので。
――では、またこのような機会があるといいですね。
小寺:本当にそう思います。
福井:是非!
――お二人の今後についても伺いたいのですが、演奏を続けていく上での抱負などは?
小寺:私はやはり「初心忘るべからず」を、常に持っていたいです。様々なジャンルの音楽をやる機会が多くなってきているのですが、私のベースはクラシックなので、それを常に忘れないで、これからも勉強し続けていきたいなと思っています。
福井:私は演奏家としてはこれからなのですが、家で1人で練習ばかりしているとやはり辛くなってしまいまして……。皆様の前でこうして演奏させて頂けると、その1回で家での練習以上のものが学べるので、これから色々な方たちとのご縁を大切に演奏していきたいです。今、ピアノを教えることもはじめていて、幼稚園生や、小学生のレッスンをしているのですが、小さな子たちは頭も感性も柔軟なので、ちょっと教えただけでするするっと弾けたりすることからも、発見がたくさんあります。毎日、様々なことから学んで進んでいきたいです。
――本当に楽しい素晴らしい時間でしたので、是非また演奏を聴かせてください。今度は髪飾りも見せていただきたいです(笑)。
福井:あー、そうなんです! これです!(振り返って髪飾りを見せる)
小寺:すごく綺麗にアレンジしてたのに、もったいなかったよね! ステージに出た時にはなかったから(笑)。
福井:もう全然気づかなかったです!
小寺:次はちゃんとつけて(笑)、また一緒に演奏できるといいですね!
福井:はい! よろしくお願いします!
――ありがとうございました。またお二人の演奏を聴ける日を楽しみにしています。
福井あや那(ピアノ)、小寺里奈(ヴァイオリン)
ステージへの距離だけでなく、演奏家たちの素顔にも近づける『サンデー・ブランチ・クラシック』。日曜の昼下がりに気軽にクラシックを楽しんでほしい。
取材・文=橘涼香 撮影=鈴木久美子
松田理奈プロデュース OTOART vol.3
『MUSIC × ALIVE PAINTING』
13:00~13:40
MUSIC CHARGE: 500円
12月3日(日)
米津 真浩/ピアノ&小瀧 俊治/ピアノ
13:00~13:40
MUSIC CHARGE: 500円
12月10日(日)
1966カルテット/女性カルテット
13:00~13:40
MUSIC CHARGE: 500円
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html?