「こんなに成功するとは!」~『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』初演秘話を相葉裕樹・橋本じゅん・中川晃教が語り合う

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2017.11.25
(左から)橋本じゅん・相葉裕樹・中川晃教 (撮影:中田智章)

(左から)橋本じゅん・相葉裕樹・中川晃教 (撮影:中田智章)

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素舞台に大道具のセットが組まれつつ、照明、音響、衣裳、制作、小道具、演出部と、各スタッフがどのように舞台に取り組むのか、その先の終演後の撤収までをリアルに、かつコミカルに描くミュージカル『HEADS UP!』が2年ぶり、待望の再演となる。新人舞台監督・新藤祐介役の相葉裕樹、演出部の大道具担当・久米長一郎役の橋本じゅん、劇場付雑用係・熊川義男役の中川晃教が、初演の思い出や作品の魅力を語り合った。

--初演の思い出を教えてください。

橋本 全てが大変でしたね。今、ここで笑っていられるのが信じられないくらい。

相葉 ゲネプロ後の囲み取材で記者さんたちに「どうですか?」と聞かれて、みんな「はあ」「新鮮なミュージカルです」みたいに歯切れが悪くて、自信なさそうでした(笑)。

中川 ああ、僕もよく憶えてるよ!

相葉 本音を言うと、僕も9割方自信なかったです。でも、いざ開幕したらお客様がすごく盛り上がってくださって、驚きました。

中川 その奇跡が起きたのはなぜだと思う?

相葉 最初は演者がこの作品の面白さを客観視できていなかったように思います。僕はお客様の拍手で、初めて気づきました。僕は舞台監督役として、幕が開いてきちんと下ろすまでの進行が、常に頭のどこかにあった。でも中川さんは劇場さん側の役だから、お客さん同様に客観視できていたのかもしれませんね。

中川 舞台の仕込みとバラシって、舞台人にとっては普通のことだから、どこまでショーとして成立するのか、お客様に受け入れられるのかは想像つかなかったんですよね。『HEADS UP!』ってこういう作品ですって言葉にしづらくて、記者の方に聞かれても言葉が詰まってしまった。でも幕が開いてお客さんの反応を見て、僕たちの舞台に懸ける思いや、各部署で携わる人たちの情熱をお客さんも感じてくれている!とわかった瞬間、気負いことなくやり通すことができた気がします。それぞれの役と仕事によって思いがあっただろうから、今の相葉くんの発言は新藤らしいなぁと。僕は劇場付雑用係だから、何が起こってもこの船は必ず港に着きます、絶対に大丈夫ですという目線で考えられたんだと思う。大道具のじゅんさんは?

橋本 劇構造をお客さんと同時進行で感じていかなければならないと思っていました。家に喩えると、どんな玄関で、どんな廊下があり、居間とトイレはどこにあるのか。大道具として、構造をしっかり見せようという意識が強かった。基本的に舞台上で起こる話なので、舞台と客席から見えていない袖、その境目を決めようとか。

中川 袖にいる人たちが舞台を見守るシーンがあって、最初、どこが袖でどこからが舞台?と混乱して、じゅんさんが言ってくださったんですよね。

橋本 「ドルガンチェの馬」という劇中ミュージカルが上演される栃木・黎明会館の舞台はこうなっているという共通認識、いわゆる約束事を統一したんです。僕は大道具だから、ここからここは見切れるとか気づいたんでしょう。

中川 そんな積み重ねから、チームワークが生まれて、ハードな状況をみんなで乗り越えたわけだけど。もしかして相葉くんは余裕だった?

相葉 まさか! 全然余裕ないですよ。

中川 ゲネプロ(総通し稽古)の時にソロ曲が届いて、必死に覚えていたものね。

--音楽の玉麻尚一さんは横浜の路上に停めた車の中で作曲したとおっしゃっていましたから。オリジナル作品で新作となると、創作過程は大変でしょう。その意味では、お客さんが入って本当に完成した作品ですね。

中川 誰もが幕が開いて奇跡が起きたと感じました。それをお客さまも感じてくださったところが、『HEADS UP!』の人間力かと。

橋本 誰が欠けても無理だったでしょう。まさに人間力というか、舞台は一人ひとりの心の力が大事だと肌で教えてもらいました。

--『HEADS UP!』に出演して、裏方の仕事に興味が湧きましたか。

橋本 このために、裏方の仕事をプロが僕たちにレクチャーしてくれたんですよ。

相葉 照明の付け方とか習いましたね。

橋本 僕は稽古場のバラシを終わるまで見ました。そうしたら、役立つヒントがいっぱいあった。

相葉 僕も仕込みやバラシにすごく興味が湧いて、『HEADS UP!』の最終のバラシをずっと見ていました。実際に僕らが演じているドラマが、目の前で起こっているのが面白くて。自分の引き出しになりました。

中川 僕は舞台監督に目がいくようになったなぁ。何度もご一緒する舞台監督さんたちがいるのですが、その方々のスキルが毎回進化している。道具、設備、環境が変わるのに伴い、自分もアップデートしていかないと取り残されてしまう世界です。古い新しいではなく、今、必要なこと、求められることにどこまで応えられるか。それは役者も同じこと。また舞台を裏で支える方々との心の距離が近くなった気がします。

--楽しかった、または好きだったシーンを教えてください。

相葉 大道具3人組の登場シーン。ゴーストバスターズみたいに掃除機を背負い「裏方~」と、ノリノリのナンバーです。

中川 ああ、そこは僕も好きでした。踊りがいかにもミュージカルで、これが見たかった!って思える。

橋本 あの3人組のフォーメーションは稽古が始まる前に意見を出し合って決めたんです。役の人物像に合わせた動きを考えて、イキイキと腑に落とした状態にする作業が面白かった。そして稽古が始まる直前に、演出のラサール石井さんに「こんなことを考えているんですが」とプレゼンして、調整していきました。個性に合わせて、寝る、胡座をかく、立つ、と高中低のコントラストをつける。同時に3人組として揃えるところはバッチリ揃えて。

中川 じゅんさんの芝居、すごく覚えてます。「俺は裏方なんだ、絶対出ねぇ!」という、あの決め台詞!

相葉 僕は新人の役だから、ベテラン役の方々に「お前ができるのか!」と、常にいじられ、振り回されていました。そのドタバタが楽しかったなぁ。

橋本 物語が進むにつれ、その関係性が変わっていったね。

中川 新藤くんは加賀美さん(哀川翔)とはどんな師弟関係だったの?

相葉 加賀美さんの助手だった頃は、甘えていたと思います。でも急に、「お前が一人でやれ! 俺はサポートに回る」と言われてこの物語が始まるわけです。師弟関係でありながら、ある種、父親みたいな存在かな。

--公演中、生につきもののハプニングはありましたか。

橋本 雪がなかなか降ってこなかったことが。

中川 機械トラブルの時ですね。

橋本 たった1片だけ降ってきて、思わず「それでいい!」って言ったら、お客さんがドッカーン!と大受け(笑)。

相葉 まさに奇跡でしたね。

中川 神が降りてきたとしか言いようがないです。

--この作品はオーバーラップの嵐なんですね。キャストと実際のスタッフが重なり、実際のスタッフも自身をその部署のキャストに重ね、ラストにはお客さんも重なってゆく。本当に不思議なパワーのある話です。

中川 ラサールさんのピュアな気持ちから生まれた、劇場を愛し愛されている人たち。彼らが舞台に集まった時に降りてくる笑いの神様。もちろんみんな真面目にコツコツやっているのだけど、その気持ちが通った瞬間に劇場で花開く不思議な力を、この作品は教えてくれますね。

橋本 確かに、そんな奇跡のオンパレードだった。今回もまたそんな体験ができるように頑張りたいです。前回は初日が開くまで死ぬ思いだったけど、初心に戻るその覚悟で。

相葉 はい。その心意気で挑みたいです。

--最後に、メッセージをどうぞ。

相葉 舞台を初めて見るお客様でも十分楽しめますし、「♪馬、馬!」という面白いナンバーもあります。最後は口ずさみながら帰っていただけたら嬉しいですね。ぜひ劇場で一緒に楽しい空間を共有しましょう。お待ちしています。

中川 ラサールさんが再演にあたってブラッシュアップしていきたいとおっしゃり、果たしてどうなるのか、僕たちもお稽古で実感すると思います。初演をご覧いただいたお客様が再び足を運んでくださって、「これこれ! これを見たかったの!」と思っていただけることが僕たちのゴールです。2年の時を経て、再び集結したキャストそれぞれの2年間がプラスされて、新キャストも加わり、『HEADS UP!』が新たに生まれる。きっとオリジナルがまた生まれるという気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。ご期待ください。

橋本 再演だからと前回をなぞらないように、と思っていましたが、こうして話してみると結構覚えていないので、なぞりようがなさそうで丁度いいです(笑)。今回集まったメンバーでできる最大のことを目指して、想いの力で到達できると信じています。舞台の知識も何もいりません。年齢性別問わず、こんなエンターテインメントがあることを体験していただけたら。劇場でお待ちしています。

取材・文=三浦真紀  写真撮影=中田智章

公演情報
ミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』
 
■脚本:倉持裕 
■原案・作詞・演出:ラサール石井 
■作曲・音楽監督:玉麻尚一 
■振付:川崎悦子
 
■出演:
哀川翔 相葉裕樹 橋本じゅん 青木さやか 池田純矢
今拓哉、芋洗坂係長、オレノグラフィティ、陰山泰、
岡田誠、河本章宏、井上珠美、新良エツ子、外岡えりか、
福永吉洋、大竹浩一、森内翔大、香月彩里、谷須美子、伊藤結花、小林佑里花、
大空ゆうひ 中川晃教
 
【神奈川公演】
■日時:2017年12月14日(木)~17日(日)
■会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

 
【東京公演】
■日時:2018年3月2日(金)~12日(月)
■会場:TBS赤坂ACTシアター

 
【富山公演】
■日時:2018年1月20日(土)
■会場:オーバード・ホール(富山市芸術文化ホール)

 
【長野公演】
■日時:2018年1月26日(金)~27日(土)
■会場:サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール

 
【大阪公演】
■日時:2018年2月2日(金)~4日(日)
■会場:新歌舞伎座

 
【名古屋公演】
■日時:2018年2月15日(木)~16日(金)
■会場:刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール

 
■公式サイト:http://m-headsup.com/
■公式twitter:@KAATHEADSUP

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