名古屋・てんぷくプロ10年ぶりの“超立体朗読劇”は、〈くだん〉を描いた津原泰水の『五色の舟』に挑む!

2017.11.24
インタビュー
舞台

前列左から・矢野健太郎、入馬券、柳原耕平、原みなほ、鵜飼恭子 中列左から・岡本理沙、うえだしおみ、ジル豆田、水野詩織 後列・いちじくじゅん

 

“恋しい”という普遍的な想いを軸に立体化する、見世物小屋の一家と未来を予言する怪物の物語

名古屋のベテラン役者集団・てんぷくプロによる“超立体朗読劇”が久しぶりに帰ってくる! 2007年にてんぷくの新たな拠点となった、名古屋・滝子の「アトリエ昭和薬局前」のお披露目も兼ねて上演された『超立体朗読劇 怪人二十面相』は、昭和の風情を残す建物2階の和室の特異な構造を生かし、江戸川乱歩の妖しげな世界を見事に出現させて大好評を博した作品だ。

1階には板張りの稽古場とコンクリート張りのたたき場も有する同アトリエは、レンタル稽古場として他団体にもよく利用されているが、ここで公演が行われるのは5年ぶりとなる。そんな待望の“超立体朗読劇”第2弾『五色の舟』が、今週末25日(土)から12月3日(日)まで8日間に渡って上演される(11/29は休演)。

てんぷくプロ 超・立・体・朗読劇『五色の舟』チラシ表  イラスト/あいまいもこ

『五色の舟』は、幻想小説からSF、ファンタジーまで幅広いジャンルの作品を手掛け、短編の名手と称される津原泰水の短編小説集「11 eleven」に収録された一篇である。戦時下の広島を舞台に、見世物興行で糊口をしのぐ異形の家族と、半人半牛の生物〈くだん〉との物語をパラレルに描いた作品で、その内容はこうだ。

【あらすじ】
太平洋戦争末期の広島。元旅芝居の花形役者で脱疽により両足を切り落とした〈お父さん〉の雪之助と、生まれつき両腕がなく耳の聞こえない〈僕〉こと和郎(かずお)、結合双生児の生き残りで蛇女として生きる〈桜〉、小人症だが怪力の〈昭助兄さん〉、膝の関節が逆に曲がっている牛女の〈清子さん〉という血の繋がりのない5人は、川面にもやった舟を住処として家族のように暮らしていた。ある日、一家は未来を予言するという、頭が人間で体が牛の怪物〈くだん〉の噂を聞きつけ、新たな見せ物として購入すべく岩国へ向かう。そこで手に入れることはできなかったが、目を合わせた和郎は、その日から大海原で家族が次々と別の舟に乗り移って行ってしまう夢をみる。「これは〈くだん〉が見せた夢だ」と確信する和郎。やがて一家と再会した〈くだん〉は、驚くべき事実を語り始め…。

 
【津原泰水プロフィール】
1964年広島生まれ。津原やすみ名義で少女小説家として活動後、1997年「妖都」を上梓、幻想小説作家として活動を始める。2006年に刊行された「ブラバン」がベストセラーに。2011年「五色の舟」を収録する短編集「11 eleven」を河出書房新社より刊行。第2回twitter文学賞を受賞のほか各種ランキングを席巻する。「五色の舟」は近藤ようこにより漫画化され、文化庁メディア芸術祭漫画部門大賞を受賞。

 

稽古風景より

さて、今回彼らはなぜこの作品を選び、【超・立・体・朗読劇】としてどう劇化するつもりなのだろうか。上演場所でもある「アトリエ昭和薬局前」での稽古にお邪魔し、2014年の『ふなぞこ』以来演出を手掛け、自身も出演するいちじくじゅんに話を聞いた。

── 今回はなぜ『五色の舟』を上演することになったんでしょうか。〈くだん〉が出てくる話ということで、メンバーの小熊ヒデジさんが出演されているKUDAN Projectの『くだんの件』も思い浮かびますが、何か関連もあったりしますか?

てんぷくのメンバーのスケジュールがみんな忙しかったりして、公演を行うのがだいたい2年に1回ぐらいのペースになっているんですけども、それも淋しいなと。なんとかもっとやれないかなと去年あたりから話していて、だったらアトリエでやろうかと。以前上演した『怪人二十面相』と同じようなスタイルで朗読劇をやろうということになって、みんなで本を探したんです。その中で、喜連川不良さんとうえだしおみさんが津原さんの本を見つけてきてくれて、「この中の『五色の舟』っていうのが面白いけど、どうだろう?」ということで皆で読んで。江戸川乱歩の奇譚モノとはちょっと雰囲気は違うけど、これをやってみるのはいいんじゃないか、と。僕が気に入っちゃったっていうのもあるんですけどね。そういうことで、特にKUDAN Projectを意識したわけではないんですよ。

── 前回の『怪人二十面相』がとても素晴らしかったので、この10年、早く第2弾が観たいなと心待ちにしていました。

何か封印していたというわけでもなく、誰も言い出さなかったっていうだけなんですけどね(笑)。劇場での公演を2年に1回やったり、なんだかんだとみんなスケジュールが入っちゃうんです。今回も小熊さんとか、くらっしゅ(のりお)さんとか滝野(とも)君とスケジュールが合わなくて。できるだけウチは全員でやりたいなぁとは思うんですけど、待ったりするとなかなか出来ないので、思い切ってやっちゃおう! と。

── 今作に於いて、演出面でポイントにされている点というのは?

朗読劇なんですけども、普通に朗読をしても我々は決して上手い朗読者ではないわけです。普段は覚えたセリフを言ってるんですけども、それと同じような形に自分たちがなれたらいいなと思って。これはとても素敵な小説ですけど、文学という部分に自分たちが寄っていってしまうと、たぶんあまり良いものにはならない。だから文学というところから遠く行こうとするぐらいがちょうどいいんじゃないかなと思って。

セリフとして僕が書き足した部分もあるんですけど、元の言葉をできるだけ変えずに構成台本を作りました。そこが難しいところでね、朗読劇なんで、あまり動いてしまうと半立ち稽古みたいになっちゃうんです。それを見せるのは不細工なので、戯曲のリーディングスタイルに近い状態に持って行きながら、てんぷくは身体性がある劇団だと思ってますので、みんなの身体性が出てくる内容を考えながらいろいろと。今回はだから、《身体》とは何かというと《声》、というね。客演してくださる方たちも含め、役者さんの《声》、それが《身体》だという点ですね。普通の朗読劇に比べると、動いてもいるんですけどね。

稽古風景より

── 書き足された部分というのは、具体的にはどんなところを?

小説の登場人物は人間が6人しか出てこないんですね。あと〈くだん〉という架空の生き物が出てくるわけですけども、今回我々はこれを10人でやります。主人公の未来の姿っていう人達が、いわゆる「読み手」という形で出てくるんですけども、僕の中でダブルイメージがあって、主人公の原みなほちゃんがやってる役(和郎)と、(うえだ)しおみ姉さんがやってる役は同一人物なんですね。〈くだん〉に乗ってパラレルな世界に行ってしまう話なんですけども、並行世界に行って生きながらえて歳を重ねた姿がしおみ姉さんで、みなほちゃんがやってた役が戦時中の当事者の主人公という二重構造にしてあるんです。それがたぶん小説にはないところで。あとは他に男の人が出てきたりしますけども、これも主人公の和郎君と陸続きで、だから衣装はみんな似たようなものを着てます。しおみ姉さんも全部陸続きで、どれも和郎君といえば和郎君なんですね。

── 舞台美術は、今日お稽古で拝見した状態のまま(かつて小学校の理科室で使われていた木製の椅子が、上手側に幾つも階段状に積まれている)ですか?

そうそう。トタンの張ってある奥の空間も素敵なんで、これを素で見せるとかね。

ここで補足を少し。昔、うどん屋を営んでいたという古い建物を改装したアトリエは、2階部分の窓の向こうにトタン張りの家があり、その間に屋根を設けて繋げてあるという不思議な構造になっている。そのため、客席から窓を開けた状態を見ると、間に外の空間があり、奥にもう1軒家があるように見えるのだ。

── 奥の空間もすごく広いんですね。

そう、あの空間も使っていこうと。

── あと、具体的に動きをつけている部分というのは、どういうところなんでしょう?

ダンスとかは振りをつけてやってますけど、動きに関してはね、僕は実はそんなに付けるのは好きじゃないんですよ。役者さんが持ってるポテンシャルの中で動いてもらう。立ち位置であるとかココに固まりましょうとか、ビジュアル的なことでココに、っていうのはあるけど、皆さんの身体的な動きに関して何か縛りがあったりとかはないです。それぞれの個性で動いてもらえば。

── 皆さんが各々発想した動きで演じてらっしゃるんですね。

そうですね。あんまりキメキメにはせずに、できるだけギリギリまで役者さんのポテンシャルで、できるだけボイスで、そこでどれだけニュアンスを込められるかっていう。それでも歌ったりダンスがあったりするから、その時点で朗読劇じゃないじゃんって(笑)。

稽古風景より

── 身体性としての《声》を重視されているということは、発声の仕方などにも気をつけていらっしゃるんでしょうか。

発声の仕方っていうわけじゃないんですけども、例えば出し方っていうので、文章を読むのではなくて「セリフを読む」っていう方向へ、みんなに向かってもらってます。朗読というと文章を読むための身体になってしまう。でもセリフを読む身体というのは普段僕らがやってることで、その時の身体は全然違う。その身体から出てきた言葉は、やっぱり文章ではなくて喋る言葉になってる。そういう形を目指してますね。

── ダンスはどういうところで入ってくるんですか?

終わりのちょっと前ぐらいです。小説をお読みになった方はわかると思うんですけど、〈くだん〉は途中で死んで、そのあと「日本に原子爆弾が落ちなかった戦後」の話が始まってくるんですけども、そこに話を持って行くのにダンスを入れてます。その曲が(OMDの)「エノラ・ゲイの悲劇」(エノラ・ゲイは、広島に原子爆弾を投下したアメリカ軍のB-29爆撃機の機名)で、ダンスの最中にどこかでB-29の映像を出そうかなと思ってます。

── 昨年の前作『トランジット・ルーム ii』に続き、今回も客演の方が多いですね。

登場人物が少年だったり少女だったり、腕が無かったり、結合していた一人が死んで切断された片割れだったりという感じなので、若い人にやってもらおうと。岡本理沙ちゃんと原みなほちゃんは、以前も客演で出くれたことがあって、彼女たちの役者さんとしてのポテンシャルを僕らは知っているので。榊原耕平君は以前から芝居を観ていて「一緒にやってみたいなぁ」と思っていて、話したら彼も「やってみたいです」ということで、水野詩織ちゃんもたまたま出会って。2人ともてんぷくは初めてなんですけども、何回か稽古を見て、やっぱりいいなぁと。年齢層が高くなってきて、今回ウチのメンバーでは私とジル豆田が一番年下なんですよ。てんぷくも出来るだけ若く新しい人たちとの出会いを、っていうことでね。

稽古風景より

── アコーディオンの生演奏をされる鵜飼恭子さんはどういった経緯で参加されることに?

のっぴきならない娯楽室(’79年から80年代初頭に北村想が率いていたTPO★師団のメンバーを中心として2009年に結成された劇団)の公演に出演されていた第8旅団というバンドでアコーディオンを弾いたりされていて、喜連川さんとか入馬券さんとか矢野さんが共演していたんです。それで、「今回こういうお話だし、アコーディオンの生演奏がいいんじゃないか」っていうので、喜連川さんが鵜飼さんに声を掛けてくれたんです。それで参加してもらって、オリジナルで作曲もしてもらっていますね。

── 他に演出としてこだわっていらっしゃる点はありますか。

あまり奇をてらったことをやるつもりはなくて、その登場人物が流れの中で一番立つというか、そこでの必然というんですかね。必然があるところで切っていくと、普通の文章の句読点を無視した、小説という文章からかけ離れたものになっていくんですけど、かといってこちらのセリフを言いたいための都合で文章を変えるっていうことはできるだけしないようにして。津原さんの小説の文章どおりのものをいろいろ切って入れて、そこに僕がちょっと書いたものとか足したものとかを混ぜ込んで、それもわからないような状態にはしてあります。

読み手の人たちが全部で4人出てくるんですけどね、この人たちがこの後〈くだん〉をやるんですね。声がダブルボイスやトリプルボイスになったり、グラデーションのように変わっていったり。大変なんですけどね、それはちょっと頑張ります。

あと思うのは、なんか恋しいっていう感覚。恋人同士とか夫婦とか、家族が恋しいっていうことなのかもしれないけど、そこにすごく普遍性を感じるんです。まだ失ってもいないのに、将来失うかもしれないことを思って家族を恋しがる主人公なんですね、この和郎君は。〈くだん〉が予言してることっていうのは、最終的にはそれなんじゃないのかなっていう。「あなたは将来、何かを失ってその失ったものを恋しがるであろう」って。まぁ当たり前のことなんですけどね。その普遍性みたいなものがあって、全編通して“恋しい”という感覚を出せたらなぁと思ってますね。赤ちゃんだってママのおっぱいが恋しいって泣いたりするわけだから、“恋しい”っていう感覚はずっとあるんだろうな、人間には。

── 見世物興行が盛んだった時代が舞台になっているので、一見すると理解が難しい部分もあるお話かもしれませんけど、読み進めていくと家族を思う気持ちだったり、切なくて優しい雰囲気が漂っている作品なんですよね。

そうですね。彼らは決して擬似家族ではないんですよ。形としては血が繋がってないから本当の家族ではないけど擬似家族ではない、というのが僕らがこれをやりたいと思ったことのひとつかもしれないですね。完全に家族であるという。だから失うかもしれないと思った時の、喪失感も予測できちゃうっていうんですかね。『怪人二十面相』よりもコアなお話なので、その物語性をどれだけ今度は伝えられるかっていうことなので、前回とはまた違う方法を取らなきゃなぁと。とにかく、《声》という《身体》でどこまで勝負できるかな、と思ってやってます。

一読したメンバーの心をわしづかみにしたという傑作小説をテキストに、“見る”要素もふんだんに取り入れ、身体性を重視してどこにもない新しい朗読劇を目指す、てんぷくプロ。魅力的な空間で彼らが立ち上げる【超・立・体・朗読劇】は、あの心にいつまでも残るラスト一行へとどんな風にたどり着くのか、その目でしかとお確かめを!

取材・文=望月勝美

公演情報
皆様と共に走る てんぷくプロ 第39弾『超・立・体・朗読劇 五色の舟』

■作:津原泰水(河出書房新社 刊/「11 eleven」収録)
■構成:菊永洋一郎
■演出:いちじくじゅん
■出演:岡本理沙(星の女子さん)、柳原耕平(よこしまブロッコリー)、原みなほ(劇団翔航群)、水野詩織、いちじくじゅん、うえだしおみ、喜連川不良、ジル豆田、入馬券、矢野健太郎 アコーディオン/鵜飼恭子

■日時:2017年11月25日(土)18:00、26日(日)18:00、27日(月)19:30、28日(火)19:30、30日(木)19:30、12月1日(金)19:30、2日(土)18:00、3日(日)18:00
■会場:アトリエ昭和薬局前(名古屋市昭和区滝子町22-10)
■料金:前売2,000円、当日2,500円 学生(大学・専門学校生)1,500円 高校生以下1,000円 ※各回定員25名につき予約はお早めに。学生・高校生以下は前売・当日同料金、当日学生証を持参
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「荒畑」駅下車、3番出口から南へ徒歩10分、または「金山」総合駅バスターミナルから市バスで10分、「滝子」停下車、北へ徒歩3分
■問い合わせ:てんぷくプロ 080-3618-5632 tenpukuprosince1985@icloud.com

■公式サイト:http://tenpukupro.fc2web.com
  • イープラス
  • 北村想
  • 名古屋・てんぷくプロ10年ぶりの“超立体朗読劇”は、〈くだん〉を描いた津原泰水の『五色の舟』に挑む!