“実写化ドラマ”の制作にNetflixが最適な理由とは?『僕だけがいない街』下山天監督が日本との製作姿勢の違いを明かす

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2017.12.18
『僕だけがいない街』下山天監督

『僕だけがいない街』下山天監督

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三部けい氏の同名漫画を原作としたNetflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』が12月15日よりNetflixで世界配信されている。自分の意思とは無関係に時間が巻き戻る「リバイバル」という現象に巻き込まれる青年・藤沼悟(古川雄輝)が、母の殺害と少年時代に周囲で起きた連続児童誘拐殺害事件の真相を、時間を遡りながら解決してゆくミステリーだ。

実写映画、テレビアニメに続き3度目の映像化ながら、原作が完結してから初のドラマ化ということで、その内容と完成度に注目が集まっている。くわえて、今回は高品質なオリジナル作品を数多く世界中に届けてきたNetflixオリジナルドラマとしての配信。日本のテレビ業界とはまるで異なると言われるNetflixの製作体制は、クリエイターに、そして視聴者に何をもたらすのか。本作の監督・下山天氏に話を聞いた。

 

Netflixのリクエストは「10年先のお客さんにも響くもの」「TVドラマではなく1本の長い映画」

-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

――Netflix作品の制作は日本のテレビや映画と比べて、どう違いましたか?

あらゆることが違いましたね。まず、技術的な仕様からしてすべて違いました。17:9比率画面(通常のHDは16:9)の4K RAWデータで撮影し納品も4K、それと5.1chのサウンドで作らないといけないんです。

――それが最低条件であると?

はい。テレビや映画だったら、公開時期や放送時期の観客に合わせて企画を作りますが、Netflixは向こう10年間ずっと色あせない作品を配信し続けるのを目標にしているそうで、そのためには大変ですけど、「あなたの作品を向こう10年間、全世界に対して最高のクオリティで我々は配信し続ける。そのために今は大変ですが、これだけの仕様で撮ってください」と。それに、彼らは「これは連続ドラマではない」という言い方をするんです。「1本の長い映画として考えて演出をしてください」と。1つの作品に対して一人のクリエイターが全責任を負うということです。

――テレビドラマのように各話ごとに監督を変えたりせず、一人で全話監督するということですね。

そうです。それに脚本も全話完成してからジャッジするという姿勢でしたし、撮影後の編集も12話全て出来上がったものに対してチェックを入れるという姿勢でした。テレビの連続ドラマだったら、当然1話目から納品しないといけませんから、さみだれ式にチェックを受けますが、「これは1本の映画だから、最後までつながってから我々はプレビューします」というスタンスなんです。

――具体的に彼らからどんなフィードバックがありましたか。

お芝居、演出、カット割りとかには、Netflix側は何も言ってきませんでした。ただし、1話でのテンポと話の凝縮度、それと掴みのシーンで派手さがあるか。それと「3話目までもっと観たい」と思えるかどうか。1話で観るのをやめてしまった人は二度と帰ってこないですが、観てくれた方は2話、3話と続けて観てくれるそうで、3話目までが勝負だと。3話まで観てくれた方はかなりの確率で最後まで観ていただけるそうで、4話から先は一切何も言われなかったですね。あとは映像のトーン……照明や色合いも含めたルックですね。日本のテレビドラマとは真逆のオーダーで、もっと暗くても良いので、“映画らしいルック”にしてくれと。

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

――国内向けではなく、世界中のNetflixユーザーに向けて作ってるってことなんですね。しかも向こう10年の。そこを意識したことによって、作品の質に違いが出たと思われますか。

そうですね。さっき言った映像のトーンの問題にしてもそうなんですが、編集しかり、色合いしかり、あと説明台詞的なものを入れてわかりやすくしなければとか、今回は全くそういうことを考えませんでした。ある程度マニアックでも世界中のこういうものが響く人たちに対して、しっかり支持されるモノを作る。世界配信だからといってハリウッド的なものとか、無国籍なものを作るということではなくて、堂々と強靭なジャパンオリジナルなものを作ると輸出作品にできるんだ、と今回は思いましたし、今ではそれをNetflixも要求してたんじゃないかなと思います。

 

世界に配信するためのキャスティングと実写化に最適なドラマの“尺”

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

――Netflixで作ったからこそ実現できたシーン、あるいは演出などはありますか?

あらゆる全ての事です。

――このクオリティはテレビでは実現できなかった、と。

そうですね。もちろん、Netflixさんの制作姿勢と、日本の製作委員会の粘り強さと、何回かの予算の増強があってこうなったんですけど。例えば北海道のシーンですが、当然予算的には本当は本州で撮影してほしいわけですよ(笑)。最初にお仕事を引き受けた時に、三部先生がどんな場所をイメージして描いたんだろうと思ってひとりで苫小牧を放浪してきたんです。そしたら、「ああ、先生はここでこういうシーンを」という発見がたくさんあって。子ども時代の舞台となる街は先生の故郷の苫小牧がモデルで非常に愛着を持って描いていらっしゃいますが、実写でやるからには、そんな三部先生の想いや、観客に悟や加代(編注:柿原りんか演じる悟のクラスメイト)が感じた北海道の寒さなども含めて体感してもらうことが大事だし、やはりこれは苫小牧で撮らないと世界に出せるものにならないと思ったんです。

――北海道のシーンは全編苫小牧で撮影されたんですか。

家の中から教室、バスのシーンも全部苫小牧です。あのバスもすごい探しました。やっぱりご縁があって、今走っていない市営バスを払い下げた方がいらっしゃって、喜んで貸していただけましたね。加代のアパートも、先生が住んでいらっしゃった頃と同じものはその場所にはないんですけど、それと同じような市営アパートを見つけることができました。

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

「僕だけがいない街」-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会

――キャスティングに関しても下山監督が主導権を持って決めることができたんですか。

そうですね。そもそもキャスティングは監督一人では決められませんが、かなりシンプルに決まっていきました。というのは、日本の芸能界的な縛りも一切なくて。日本で数字持ってる有名アイドルなどを起用しても、今度は海外の人はそれを観るかという話になってきますし、「とにかくキャラクターにあった実力のある人を選んでくれ」という感じで。結果的に、本当に満足いくキャスティングになりました。

――漫画の実写化って最近いろいろ言われるますが、原作ファンのことを意識されることはやはりありましたか。

僕は今まで何度か、漫画や小説を映画化してきましたが、やっぱり映画の二時間という枠に収めるために、どうしても一部割愛せざるを得なかった時があって、ファンの方から沢山の批判を受けたこともあります​。原作の中の小さなキャラ一人ひとりにも、ファンの方って思い入れがあるんですよね。単純にその人が登場しないだけでもうダメだとなるくらいに。自分が今まで映画を撮ってきたなかで、そういうファン心理を痛感してきました。でも、Netflixは1話に対して特に時間の決まりを求められないので。

――なるほど。尺が何分でも構わないということは、原作ファンの思いを汲み取るにはも良いプラットフォームかもしれませんね。

そうですね。地上波だと1話何分にしなきゃいけないだとか、CMを何分いれなきゃいけない、とかありますけど。今回は1話を見てもらうためのテンポを作るためのカッティングはしましたけど、以降の話数は大事なものは切らないで、できるだけ原作の時間軸を正確に見せたつもりです。多分、この辺も日本の作り手は経験したことがないことだと思います。クリエイターの満足にもなるし、ファンやユーザーの満足にもなる、そういうプラットフォームが今まで見当たらなかったっていうことなんですよね。

 
 
Netflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』は配信中。
 
インタビュー・文=杉本穂高
 
作品情報

Netflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』

 
出演: 古川雄輝 優希美青 白洲 迅 内川蓮生 柿原りんか 矢野聖人 江口のりこ 眞島秀和 戸次重幸 黒谷
友香 他
原作:『僕だけがいない街』三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
監督:下山天(『SHINOBI』『L-エル-』他)
脚本:大久保ともみ(『アンフェア the special ダブルミーニング
』他)
制作プロダクション:関西テレビ放送 コクーン
製作:ドラマ『僕だけがいない街』製作委員会
【ストーリー】
漫画家を志すもうだつの上がらない藤沼悟は、自分にだけ起こる現象【リバイバル】-何か「悪いこと」の原因が取り除かれるまで、そのきっかけとなった場面に巻き戻される現象-に悩まされていた。ある日、家に帰った悟は、自宅で母・佐知子が殺されているのを目撃する。犯人を追う悟だったが、逆にはめられ、自分が母親殺しの犯人として 追われることになってしまう。母親の死を食い止めたい悟は【リバイバル】を強く願うが、リバイバルした先は18年前。小学校5年時にまでさかのぼった。 それは、同級生・雛月加代が殺される直前の時期だった。この時代に起こ った雛月加代を含めた連続児童殺人事件に、母親が殺されることになった原因があると確信する悟は、同級生の小林賢也や担任の八代学の助けを借りて加代を救おうとすると同時に、事件の謎を追うことにする。
Netflix:https://www.netflix.com/jp/
-(C) 2017 ドラマ「僕だけがいない街」製作委員会
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