蒼井優インタビュー、舞台『アンチゴーヌ』への思いを語る

インタビュー
舞台
2017.12.28
蒼井優 (撮影:中田智章)

蒼井優 (撮影:中田智章)

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ソフォクレスのギリシャ悲劇をもとに、『ひばり』で名高い20世紀フランスの劇作家ジャン・アヌイが著した『アンチゴーヌ』が、タイトルロールに蒼井優を迎え上演される。叔父である権力者クレオン王(生瀬勝久)に一人立ち向かうヒロインの鮮烈な生き様は、栗山民也演出、岩切正一郎の新訳を得て、いかに描き出されるのか。蒼井に作品への思いを聞いた。

――蒼井さんが十年前に出会い、何度も読み返してきたという戯曲に今回初めて挑戦されます。

ある舞台に出たときに、スタッフの方に何冊か戯曲をいただいたうちの一冊だったんです。当時は映像の仕事が多くて、こんなに舞台をやることになるとは思っていなかったんですが、頭が柔らかいうちに古典にふれておいた方がいいということだったんでしょうね。他に近松門左衛門作品もありました。『アンチゴーヌ』は芥川比呂志さんの訳のものをいただいて。ちょうどそのとき、アンチゴーヌと同い年だったんです。それと、私は子供のときから戦っている女の子が好きでした。たとえばドラマ「家なき子」の安達祐実さんが、すごく好きだったんです(笑)。自分は勇気のあるタイプの人間ではないので、こういうヒロインをいつか観たいなとずっと思っていました。だから、まさか自分がやるとは思っていませんでした。

それが、栗山さん演出の『あわれ彼女は娼婦』をやっているときに、栗山さんから、『アンチゴーヌ』をやりませんかというお話をいただき、びっくりしました。本当は観客として観たかったけれど(笑)、でも、栗山さんとまたご一緒したいと思っていたので、ありがたくやらせていただくことにしました。栗山さんの演出が好きなんです、私。すごくわかりやすい視覚的な演出をしてくださって、ここはクリムトみたいにとか絵画的な要素もあって。映画だとそういう演出はほぼなくて、外に出てくるものは何でもいいから自分の中を埋めてくれという感じなんです。でも栗山さんは逆で、外から埋めてくるものによって自分の中からも埋まっていくという感じが、面白いんです。

――改めて戯曲に向き合っていかがですか。

後悔するほどセリフが多くて(笑)。こんなにしゃべっていたっけという……。やると決まっていたわけじゃないときは、素敵だなと思って読んでいたのですが、これは恐ろしい挑戦になると思っています。一本調子になってはいけないし、集中力も必要だし、基本的に一対一の会話が多いんですよね。でも、相手の役者さんとキャッチボールする喜びはありますね。お客様を通した会話ではなく、役者同士がしっかりと直に向き合ってのエネルギーがお客様に届くといいなと思っています。もっともそれは私の勝手な思いであって、もし栗山さんが「お客様を通して会話して」とおっしゃるのであれば、もちろんそうしますけど。

――その「お客様を通して」というのは、一回言葉を客席に投げるということですか。

そうですね、私の中の感覚として、お客様に最初から投げる方と、役者に投げる方といらっしゃるなと思うんです。どちらがどうというわけではないですし、もちろん、作品によって皆さん使い分けていらっしゃると思うんですけれども。今回は本当に対話なので、セリフも大事にしたいし間も大事にしたいし、ドキドキしますね(笑)。お互いがちゃんと言葉の意図を感じていないと、ただのおしゃべりになってしまいかねない。でも、百戦錬磨の役者さん方が集まっているので、私が気をつければ大丈夫かと。

セリフを覚える作業は下ごしらえであって、私の場合、もしそこに役作りも入れながら、或いは感情もつけながら覚えてしまうと、相手の方がどういうセリフを投げてくれても変われない気がするので、まずは棒読みで覚えるんです。難しいです、無色のままセリフだけ覚えるって。フランス語はちょっとわからないのですが、今回の岩切さんの新訳と、芥川さんの訳と、それと英語版とを比較して、一つ一つのセリフの意味を着実に取っていけるようにしています。小川絵梨子さん演出・翻訳の『スポケーンの左手』に出演したとき、みんな原本も持って、何かセリフに違和感があるなと思ったら小川さんと一緒に稽古場でどんどん変えていった、それがすごく楽しかったので。蜷川幸雄さん演出の『オセロー』に出演したときも、翻訳の松岡和子さんがよく稽古場にいらっしゃったので、ここはどういう意味ですかと聞いたりしていましたね。

日本人の方が書かれる、日本人の、相手を気遣う言葉とかが、翻訳劇となるとないので、それも楽しいですね。ずばずばしゃべっていける。そこはやはり感覚が違うなと思います。

――作品の主軸として、クレオンとの対立、対決があるかと思うのですが。

そうですね、でも、アンチゴーヌの中での、自分との対立という気もします。自分をどうにか奮い立たせようとするから。すごく強い子ではないとも思いますし。これをクレオンに突きつけるということは彼女の中では決まっているけれども、すごく大きく嘆いたり悔いたりはしない。その微妙なところの揺れが、アンチゴーヌの中にはあるので、面白いキャラクターだなと思いますね。

クレオンはクレオンでね……。アンチゴーヌは世界に生まれた子という感じですが、一方、クレオンは社会に生まれてしまった、という感じがするんですよね。どちらも間違っていないというか。何か、世界に生まれた人間なのか、社会に生まれた人間なのか、そういう考えが自分の中にあって。もちろん、人間だから社会の法を守らなくちゃいけないんですけれども、いろいろなニュースとか見ていても、この人がやったことって動物としては間違っていないけど……と思うことが多いんです。世界対社会みたいな、それがけっこうつまっているところが面白い戯曲だと思うんですよね。20代で読んだときは完璧にアンチゴーヌ派でしたけれども、大人になってくると、クレオンの言っていることもすごくよくわかるなと。最終的にどちらに軍配が上がるわけでもないから、お客様にも何かを持って帰っていただける作品になると思うんです。政治についても年々考えなくてはいけないなと思っているんですけれども、「あの政治家は!」なんて言っている方にも観ていただきたいですね(笑)。政治に対する不安や不満が高まっている今、上演する意味も非常にある作品だと思っていて。今回、栗山さんのお考えもいろいろ聞けるのが楽しみです。栗山さんはあくまでご自分のご意見としておっしゃって、私たちの共感は求めないでくださるんです。自分の意見をやんわりと濁してしまう、何を考えているかわからない人が多い中で、栗山さんは自分がこう思っているということをはっきり言ってくださる、そこも魅力的だと思いますね。

――「自分は勇気のあるタイプの人間じゃない」とおっしゃっていましたが、舞台から受ける印象はむしろ逆でした。

勇気、ないです(笑)。せめてお仕事のときくらいは勇気を持ちたいと思っていますけれども。やはり、すごく怖がりなところがあると思いますね。本番より稽古の方が好きで、ずっと稽古だけできていたらいいなと思うこともあります。でも本番は本番で、千穐楽が来ると急に暴力的に私の魂も取られる感じですね。次の日から急にやらなくていいって言われるわけですから。なので、本番は本番で楽しんでやることが一番だなと思っています。でも、お客様の前に立つのがこわいことに変わりはないですね。

――それでも舞台に立たれる楽しみとは?

毎日発見がある。これでもかというくらい集中力をもって、一ヶ月とか二ヵ月とか突き詰めていって、お客様に教えられることが多いんです。なるほど!という発見が常にあるのと、その日のお客様によってお芝居が変わっていくのが楽しいですね。温度が変わったなとか、お客様はここでだれちゃうなとか、集中して観てくれているなとか、いろいろ感じながらやっているので。もちろん、役者同士で発見があったり、緩んだ糸を結び直したり、そういう作業も楽しいんですが。

とてもわかりやすい物語で、揺らぎはありつつもアンチゴーヌがクレオンに真正面からまっすぐ向かっていく作品なので、舞台をあまり観に来ない方にも観に来ていただきたいですね。今回、十字架状の舞台を四隅から客席が取り囲む形なので、舞台と客席との距離も非常に近いですし、一緒に作るつもりで、お客様には民衆役の一人と思って来ていただければ、と思います。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)  写真撮影=中田智章
ヘアメイク=石川智恵  スタイリスト=田畑アリサ

公演情報
パルコ・プロデュース2018 『アンチゴーヌ』

■作=ジャン・アヌイ  
■翻訳=岩切正一郎   
■演出=栗山民也 

<出演>
蒼井 優、生瀬勝久、
梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤 誓、渋谷謙人、
富岡晃一郎、高橋紀恵、塚瀬香名子
 
【東京】
2018年1月9日(火)~1月27日(土) 
新国立劇場 小劇場〈特設ステージ〉

 
【松本】
2018年2月3日(土)~4日(日)
まつもと市民芸術館〈特設会場〉

 
【京都】
2018年2月9日(金)~12日(祝/月)
ロームシアター京都サウスホール〈舞台上特設ステージ〉

 
【豊橋】
 2018年2月16(金)~18日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT〈舞台上特設ステージ〉

 
【北九州】
2018年2月24日(土)~26日(月)
北九州芸術劇場 大ホール〈舞台上特設ステージ〉
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