ダンス界夢のコラボ! マリア・パヘス&シディ・ラルビ・シェルカウイ『DUNAS-ドゥナス-』が来日会見
(左から)シディ・ラルビ・シェルカウイ、マリア・パヘス (撮影:髙村直希)
フラメンコ界屈指の舞姫マリア・パヘスとコンテンポラリーダンスの鬼才であるシディ・ラルビ・シェルカウイがタッグを組む『DUNAS-ドゥナス-』が日本に上陸する。2018年3月~4月、東京・Bunkamuraオーチャードホール他で公演が行われる。スペイン・アンダルシア出身で4歳からフラメンコとスペイン舞踊を学んだパヘスと、ベルギーのアントワープでモロッコ人の父親とベルギー人の母親の間に生まれ世界を股にかけて活躍するシェルカウイ。バックグラウンドの異なるふたりがコラボレーションのプロセスを大いに語った合同取材会見をレポートする。
運命的な出会いと再会
── おふたりはどのように出会い『DUNAS-ドゥナス-』を創られたのですか?
シェルカウイ 2004年にモナコのモンテカルロで行われたダンスフォーラムのレセプションでマリアに会いました。マリアの作品を観ていて好きでしたし、ふたりともシンプルな人間で、人生や振付、踊り、ダンスの話をして、とても気が合いました。その後、メキシコ、中国などで運命的な再会が重なり、2006年にふたりで一緒に何か創ることになりました。2009年に初日を迎えたので創作期間は3年間でした。マドリードだったりアントワープだったり世界のいろいろな国で時間を見つけては作品を創っていきました。
パヘス モンテカルロでの出会いが決定的でした。ラルビがモナコ公国モンテカルロ・バレエ団のために創った『In Memoriam』を観て共感する部分がたくさんありました。その後パーティーで話したのですが彼はオープンで親切でした。そのときがこの「旅」の始まりになったと言えます。その後の再会は運命的でした。『DUNAS-ドゥナス-』の創作過程は凄く均衡に恵まれた旅だったと思います。お互いに対する尊敬、学びたい、何かを吸収したいという気持ちがあるプロセスでした。大切なことは、この作品を創るきっかけが外からの圧力からではなく、自分たちふたりで何かを創ろうとしたことです。
タイトルが訴える豊かなイメージ
── 『DUNAS-ドゥナス-』とは、スペイン語で「砂丘」を意味するとのことですが、そのタイトルになったのはどうしてですか?
パヘス コンセプトとして「砂漠」がありました。大きな空間で何もないけれど、いろいろなものが生まれる可能性があり、常に変化していくというイメージがありました。お互いに「砂漠」というものを何かが始まる場所として捉えるのがいいのではないかと話をしました。タイトルを『DUNAS』に決めたのは私の息子の提案です。ふたりで創っているのにスペイン語にするのは気が引けたのですが、ラルビが「音もいいし、ふたりの母国語ではない英語で『DUNE』とするのもおかしいし」と言ってくれ『DUNAS』にすることに決まりました。
シェルカウイ マリアが話した通りです。ふたりとも「砂」ということがとても好きでした。小さくか弱いけれども同時にふたりで大きな絵を創れるという思いがありました。「砂丘」というのは小さな砂からできているので、いいコンセプトだと思います。ふたりとも地球というものに魅力を感じました。マリアが木というものが好きだと言っていて、最終的にこの作品で使われているすべての要素は自然からとっているものです。木から根っこ、土、砂という風に連想していきました。「砂」「砂漠」という言葉も脳裏に浮かびましたが、DUNASという言葉がより詩のような感じがしますし、いろいろなイメージを持っている言葉だと思いました。メランコリックであり、希望もあり、癒しもあり、そして常に変わっていくというイメージは我々に訴えるものがありました。
「出会い」から生まれる、奇妙なラブストーリー
── 動画を観ましたが非常に美しい作品で、「動く絵画」のような印象を受けました。いっぽうで攻撃的で、暴力を連想させるような振付があったりしますが、あのシーンは何かを象徴しているのでしょうか?
シェルカウイ 男女のなかにも暴力が存在すると思います。しかし作品のなかではアラブとスペインの関係を示しています。アンダルシアでは歴史的にアラブの文化とスペインの文化が一緒でしたが宗教的な理由で離された歴史を持っています。ひとつであったものが暴力によって分かれてしまうことを見せたかったのです。
パヘス 『DUNAS-ドゥナス-』には人間関係に関する大きなメッセージが込められています。そういったものが動き、あるいは音楽、またはダンスという意図でつながっていると思います。『DUNAS-ドゥナス-』において対立が描かれてはいますが、それよりも重きを置いているのは「出会い」です。
シェルカウイ ひとつ付け加えると、暴力を描くことによって繊細さを引き出すことも表現方法としてはありだと思います。この作品のなかでそれぞれが暴力をふるう者、服従する者という役を演じたりしますが、それがどんどん柔らかくなってきて、最終的にはひとつになります。最初は(日本公演の)ポスターに使われている写真と同じように左右対称だったりしますが、そこから少しずつ違いが顕著になり、対立が無くなって、ひとつになります。ある意味、奇妙なラブストーリーのような作品といえるかと思います。
フラメンコとアラブ音楽のミュージシャンが共演する音楽にも注目!
── 音楽について教えてください。
パヘス ラルビの作品で作曲している方、自分のカンパニーのミュージシャンに参加してもらい一緒にオリジナルの音楽を創りました。もちろんスタイルも曲の作り方も違いますが、アイディアを出し合いながら創っていきました。アラブ音楽の歌手、フラメンコの歌い手もいますし、ポーランド人のピアニストもいますし、ヴァイオリニスト、パーカッショニストもいます。いろいろな文化の音楽的な要素を取り入れているのですが、そこに「出会い」があり、会話が生まれ、ひとつのものを創っていく── 。その結果、本当に美しく、何度聴いても飽きない音楽が出来上がったと思っています。
シェルカウイ アラブの音楽、フラメンコの音楽の会話を目撃できたのは興味深かったです。アラブ音楽とフラメンコの歌い方には、大きな声で感情をこめて歌うという共通点があります。ただアラブの方は精神的なところから、フラメンコはどちらかといえば民衆から発生した歌が多い。いろいろな音楽をミックスするのは面白かったです。
共通する部分を見出し取り入れるおもしろさ
── フラメンコとコンテンポラリーは一見異なるジャンルのような気がしますが、踊る上での共通点、相違点はありますか?
シェルカウイ 初めてマリアの踊りを見たときの印象は、エレガントであり、動きが正確で、感情が現出してくるという思いでした。フラメンコというレッテルを貼る前に、一人の女性が動いている── 。そこにはピナ・バウシュと共通する部分があると思います。自分はジャンル分けをして違いを観るのではなく、共通する部分を見出す方がおもしろい。マリアとは最終的に伝えたいメッセージが同じです。マリアがフラメンコ的な動きをしたり、自分がコンテンポラリーに寄った動きをしたりすることもありますが、取り入れていくおもしろさがあると思います。
パヘス お互いのルーツや仕事のやり方が違っても、それを理解することが大切です。ラルビはオープンです。彼は必ずミュージシャンを使いますが、それはフラメンコでも同じで音楽は生でなければいけない。違うダンスの分野のふたりですが、同じような創作のプロセス、同じような舞踊言語を持っています。ラルビは舞台装置を振付に組み込む才能を持っていますが、自分も舞台のすべての要素を振付のなかに組み入れようと努力しています。ふたりとも同じ土俵の上でスタイルのことは考えずに協同作業ができたと考えています。
取材・文=高橋森彦 撮影=髙村直希
DUNAS-ドゥナス-
■出演:マリア・パヘス、シディ・ラルビ・シェルカウイ ミュージシャン7名
■日程:
2018/3/29(木)19:00開演
2018/3/30(金)14:00開演
2018/3/31(土)14:00開演
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■料金:S・¥12,500 A・¥10,000 B・¥7,000(税込)
■問合せ:Bunkamura 03-3477-9999(10:00-17:30)
■日程・会場:2018/4/5(木) アートピアホール
■問合せ:中京テレビ事業 052-588-4477(平日10:00~17:00)
■日程・会場:2018/4/6(金) 豊中市立文化芸術センター 大ホール
■問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)