地球はキャンドルであり、レコード!? 「新惑星主義」の奇想【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.12 和田永(アーティスト)

コラム
アート
2017.12.26

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、アーティストの和田永さんが、新たなアートの潮流「新惑星主義」のアーティストについて語ってくださっています。

みなさんは、これまでにどんなアートと出会い、そこから新たな刺激や影響、衝撃を受けてきましたか? 今日は、僕が最近出会って大興奮したアーティストと作品、そして新たなアートの潮流をご紹介したいと思います。

地球、いや、宇宙自体もキャンパス!? 「新惑星主義」とは

無数の人工衛星が飛び交い、“宇宙からの視点”が生活の様々な場面で意識されるようになった今日この頃。「地球自体がひとつの巨大なキャンパスだ!」という考え方で作品をつくりはじめているアーティスト達もいます。古くはナスカの地上絵、そして1970年代にはランド・アートとして、広大な砂漠や平原に自然の素材を使って絵を描いたり造形物をつくる作品が数多く生まれました。その流れを汲みながらも、宇宙へとその規模を広げていく潮流が「新惑星主義」と呼ばれはじめています。

ロバート・リコ《キャンドル・アース》

アメリカ在住のアーティスト、ロバート・リコは、インターネットの発達によって多くの人々が同時に“今”を共有している感覚に着目して、宇宙空間からのみ観測できる巨大なアートをつくり出そうとしています。

彼はSNSをはじめ、テレビCMや新聞の広告欄を使って、ある呼びかけを始めました。それは、戦争で亡くなった人々への追悼の意味を込めて、ある決められた時刻に一定時間、家の電気を消灯させ、そして再び点灯させようというものです。それを宇宙から観測し、光が変化する様子を捉えるというのです。数年前から始まったこのプロジェクト、はじめはほとんどわからなかった光の変化が、徐々に参加者が増えていくことで、ようやく観測できるほどになってきました。今後さらに参加者が増えていけば、もっとはっきりと認識できるようになるだろうとのこと。リコは、「電気の集合はキャンバスでありキャンドル」「これは現代におけるひとつの祈りである」とも言っています。この作品《キャンドル・アース》は、まだまだ完成には遠い道のりがありそうですが、今後の展開に注目です。

ちなみにリコの代表作としては、ある地域で沈んだばかりの太陽が、反対側の地域に顔を出す様子を、携帯電話を使って映像的に“受け取る”という《太陽のキャッチボール》が有名です。時刻と地域で撮影指示が送られ、太陽に向けて撮影することで、遠く離れた地球の反対側に暮らす見ず知らずの人と、太陽をキャッチボールできるというわけです。地球が回り、その上に人々が生きているということを実感する、不思議な体験と映像が今も生まれ続けています。

ミヒャエル・ルードリッヒ 地球のレコードプロジェクト

地球を巨大なレコードとして解釈しようという作品も生まれています。ドイツ出身のミヒャエル・ルードリッヒは、地球の地形そのものが、レコードの溝のようだと気づき、「地形とは、地球が刻んできた振動の痕跡であり、ひとつの音楽である」という考え方を示しました。その地形を人工衛星を使ってスキャンし、そのまま音の波形として聞くというプロジェクトを数年前から始めています。この音源はウェブサイトで試聴できるほか、LPレコードでのリリースも計画中とのこと。地球は球体なので、どんな経路で聞くかによって全く違った音楽になるのだそうです。さらに、彼は「自分の声を地形として刻み込む」という宣言もしていて、なんと既に、ある砂漠地帯に自作のロボットを使って「Danke(ドイツ語でありがとう)」という声を刻んだとか。ゆくゆくは地球の回転方向に合わせ、東西100kmに渡って歌を刻み、宇宙から読み取って再生することを夢想しているそうです。

エカテリーナ・アルハンゲリスカヤ 惑星そのものをつくるアート構想

ロシアのエカテリーナ・アルハンゲリスカヤは、さらに突飛なアイディアを掲げています。そう、彼女が提唱するアートは「惑星そのものをつくること」だというのです。かつてソビエト時代、SF映画『惑星ソラリス』で描かれたような、創造的な知能を持った海に覆われた惑星をやがてつくれるだろう、と彼女は言うのです。人々は日々変化する惑星を望遠鏡によって観測ではなく、鑑賞するというのです。もうついていけません! しかし、想像はどこまでも膨らみます。

今回紹介した「新惑星主義」のアーティストたち、実は……

さて、長々と読んで頂き、ありがとうございました。

実は、いま紹介したアーティストも作品も、現実には存在しません。すべては、このコラムを書きながら筆者が巡らせた勝手な妄想でした。その自由さをお伝えしたかったのです! そして、あらゆる表現をしている人々は、そんな夢想奇想に取り憑かれながら、今日もどこかでなにかを生み出していることでしょう。それらの作品は、出会った人々に新たな“概念”や“ものの見方”を示してくれるに違いありません。そんな表現や作品に出会う旅に出掛けてみてはいかがでしょうか!

次回は、未来から音が飛んでくる!? 多次元宇宙を取り入れながら奏でるスイス発の「量子音楽」と、若い自分と年老いていく自分が合成技術によって対話する様子を60年間かけて撮影していくという驚異の映画『老い』を撮り続けている日本の映画監督・尾山悟杉(おやまさとすぎ)さんについてご紹介していきたいと思います!

「テクノロジーを使って、テクノロジーでは辿り着けないものを刻むんだよ!」(尾山)

お楽しみに!

和田永オススメの展覧会情報

レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル

会期:2017年11月18日(土)~ 2018年4月1日(日) ※会期中無休
会場:森美術館
公式サイト:http://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/LeandroErlich2017/index.html​

鈴木康広 始まりの庭

会期:2017年8月5日 (土) 〜 2018年2月25日 (日)
会場:彫刻の森美術館
公式サイト:http://www.hakone-oam.or.jp/specials/2017/spontaneousgarden/

野生展

会期:2017年10月20日(金)〜2018年2月4日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1、2

 

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