矢崎広 柳下大 小川ゲン 佐野岳&演出・田中麻衣子に聞く~『Shakespeare’s R&J~シェイクスピアのロミオとジュリエット~』稽古場訪問
もしも厳格な寄宿学校の男子高生が『ロミオとジュリエット』に出会ったら?
それぞれ、さまざまな舞台作品でキャリアを重ね、めきめきと頭角を表し始めている若手、矢崎広、柳下大、小川ゲン、佐野岳が4人芝居に挑戦する。
作品は、シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』をアメリカの劇作家ジョー・カラルコが脚色し、世界的に絶賛を浴びてきた『Shakespeare’s R&J~シェイクスピアのロミオとジュリエット~』。厳格なカソリックの学校で、寄宿生活を送る4人の男子高校生が、シェイクスピア作品の中でも特に卑猥な言葉が多く刺激的と言われる『ロミオとジュリエット』を演じているうち、虚実が入り乱れ、彼らの中に見知らぬ感情が芽生えていく……、という物語だ。
この作品に興味を覚えた筆者は、その創作過程がとても気になったので、稽古場を見学させてもらった。のみならず、演出の田中麻衣子、そして4人のキャスト(矢崎、柳下、小川、佐野)から話を聞くことができた。
『Shakespeare’s R&J~シェイクスピアのロミオとジュリエット~』稽古場
■稽古場レポート
この日は、劇中歌の稽古から始まった。
夜、寄宿舎のとある部屋。遊びながら演じている『ロミオとジュリエット』の中で、ちょっとフザけて、ロッカーや机をドラミングする学生たち。ひとしきりフザケた後、4人は美しい声でハミングを始め、〈学生1/矢崎〉の「ジュリエットの寝室」と場を伝えるセリフで、芝居に戻っていく。
歌稽古の後には、〈学生1〉扮するロミオと、〈学生2/柳下〉扮するジュリエットが結婚の誓いを立てるロマンティックな場面を演じる中、〈3/小川〉と〈4/佐野〉は囃し立て、〈3〉が突如、暴力的になり本を破る、というシーンの立ち稽古が行われた。
演者たちは、学生1、2、3、4としてのセリフを発しながら、『ロミオとジュリエット』の登場人物のセリフを発する時にはパッと表情・佇まいを変え、物語に入り込んだり、逆に抵抗してみせたりする。学生たちと、『ロミオとジュリエット』との距離感が多様に変化する様が、なんとも興味深い。
1シーンが終わるごとに、演出・田中麻衣子が演出席から立ち上がり、4人の中に入って相談をする。本を破るのはどんな衝動なのか、それに他の3人はどう感情を動かすのか。こうかもしれない、ああかもしれない、と演者にヒントを与え、意見交換をしていく。同じ場面を何度も繰り返すが、立ち位置も動きも声のトーンも、演じる度に変化していった。
閉ざされた空間で“危険な遊び”に興じる男の子たちを、覗き見しているような胸騒ぎも覚える。同時に、素の自分と役とを瞬時に行き来する、俳優という仕事の不可思議さを垣間見られる、バックステージもののようでもある。
さらには、シェイクスピアの魔法にかかっていく若者たちを通し、シェイクスピア戯曲の偉大さにも、改めて出会える作品となりそうだ。“一粒で2度おいしい”ならぬ、3度、4度とおいしい。きっと劇場に何度でも足を運びたくなるに違いない!
■演出・田中麻衣子に聞く
「この作品は、作家ジョー・カラルコが、『ロミオとジュリエット』を普通にやるだけでは表しきれない、危なっかしさや暴力性のようなものを表現できないかと、この設定を考えたらしいんですね。『ロミオとジュリエット』を演じるのは、寄宿制のエリート校に通っている、将来は官僚や学者になるような学生です。彼らは小学校からずっと厳格な環境で育ち、いろいろなことを禁じられてきた。そんな中、『ロミオとジュリエット』を手にし、知らなかった自分にどんどん出会っていくんです。
基本的には、4人の関係の話と思っていますが、恋愛に近い感情も芽生えてしまったり、ケンカが起きたり、寄宿学校で生活しているだけだったら生まれなかった感情や関係が生じてしまうという、非常に魅力的な作品です。
今回の4人の演者さんは、皆さん、若い頃からお芝居の世界にいるからなのか、修道僧に近いようなストイックさがあって、(演じる学生たちに通じる)エリート予備軍みたいな印象を受けます。この4人が、リアリティのある関係であればあるほど、面白くなるんじゃないかなと思っています。
ストーリーがわかりやすいかと言ったら、そうではないかもしれませんが、4人の関係性をつぶさに観て頂けると、感じることがいろいろあって、今までと違う演劇体験ができるんじゃないかなと思います」
■矢崎広、柳下大、小川ゲン、佐野岳にインタビュー
--『ロミオとジュリエット』を演じる男子高校生、という設定、多重構造で大変面白そうですね。
矢崎 僕は最初、設定だけ聞いて、高校生が頑張って演劇をやる、コメディチックな話かと思ったんです。ところが台本をいただいて読んだら全然違っていました。『ロミオとジュリエット』を演じながら、厳格な寄宿学校で育ってきた〈学生〉の部分も表現する。どちらの部分も難しいなと思いましたね。
矢崎広
柳下 『ロミオとジュリエット』の戯曲のセリフなのか、〈学生〉たちが喋っているセリフなのか、気持ちがどうリンクしていくのか、最初はわからずに読んでいましたね。でも読み進めていくうちに、彼らの気持ちが『ロミオとジュリエット』のセリフと重なってくる部分がわかってきました。
柳下大
小川 どこまでが〈学生〉の気持ちでいるのか、どこからが『ロミオとジュリエット』の世界に入ってしまったのか、境目がわからないんですよね。僕は、その曖昧さがすごくおもしろいなと感じました。読んだり、演じたりする度に、発見があります。
小川ゲン
佐野 僕は最初に、『ロミオとジュリエット』をやろうとしちゃダメだ、と危険を察知しました(笑)。この作品の中で言う『ロミオとジュリエット』のセリフは、〈学生〉を通しての言葉なんですが、シェイクスピアの言葉が強くて引っ張られちゃうんです。だから、僕の中でシェイクスピアは敵(笑)。負けないように〈学生〉役を作っていかないと、引っ張られて、作品が破綻してしまう。でも、複雑な構造になっているので、難しいからこそ、作っていく段階から楽しんでいけそうだと感じました。
佐野岳
--〈学生1〉〈学生2〉〈学生3〉〈学生4〉という役ですが、彼らのキャラクターや関係性はどんなふうに作っているんですか?
矢崎 セリフを読むだけだと、『ロミオとジュリエット』の戯曲のセリフが多いということもあって、〈学生〉としての個性はあまり出てこないんです。だから、演出の田中さんを中心に話し合います。みんなで本を読み解きながら、このセリフはこういう意味だよね、こういう方向性だよね、と共通認識を作っていくんです。個々のキャラクター付けというより、このとき彼はどうしてこういう言葉を言うんだろう、とか、彼にはこういう一面があるよね、ということがわかってくると、だんだん各々のキャラクターが見えてくるんです。
佐野 学生4人の関係性や性格は脚本には書いていないんですよね。たとえば「本を奪う」「女性のふりをするうちにどんどんおバカになっていく」とかいうト書きから、読み解いていくしかない。
矢崎 でも、本読みでみんなの声を聞いた時、学生たちのキャラが立体化しましたね。
小川 そうですね。本読みの後、立ってみると、受ける印象がだいぶ違ってくる。しかも、やる度に形を変えていく感触がありますね。
矢崎 僕がロミオ役で、大くんがジュリエット役をやるんですが、〈学生1〉と〈2〉として恋愛感情を抱いているようにも読めるし、果たしてそうだったのか?というふうにも読める。この2人というより4人の中で、『ロミオとジュリエット』をやることで喚起されるものが、恋なのか、嫉妬なのか、愛なのか、絆なのか、みたいなところが伝わるといいなと思います。
--4人の学生たちの親密な空気を作るために何か準備はされましたか?
柳下 ごはんに1回だけ行きましたね。でも、なにせみんなセリフが大変で……(笑)。
矢崎 楽しく飲めないんです。酔えないなあ、って(笑)。それからは、暗黙の了解で行ってない。行きたいお店はいっぱいあるんですけど、今は深く飲めないから。
柳下 でもゲンくんのセリフ覚えの完璧さときたら。セリフに詰まったときに、演出助手さんが教えてくださるんですけど、ゲンくんが教えられているのは見たことがない。
柳下大
小川 だって、僕はセリフをこんなに言ったことがなくて、どういう仕組で本番でちゃんとセリフが出てくるのかわからないから、不安がものすごく強いんです。初めてのことだらけでいっぱいいっぱいになるだろうな、セリフくらいは覚えておかないと大変なことになるだろうな、って思って。
矢崎 それにしてもすごいよ。その恐怖は僕も知っているんだけどね(笑)。恐怖が足りないのかな。
柳下 岳もすごいよね。
佐野 いやぁ……。ドラマの稽古で最初はあまり稽古に参加できなかったから、稽古の動画とかを見ながら、ああしよう、こうしようって予習をしてた。今日やるところは初めてだから、もう心配で心配で。
矢崎 心強いですよ。岳くんもゲンくんも大くんも、自分ひとりでは絶対たどり着けないところに稽古場ではたどり着かせてくれるので。もちろん自分でも一生懸命考えていますけど、3人に任せているところは大きい。
矢崎広
柳下 矢崎くんのことはほんとに信頼していますよ。経験が豊富で、いろんな角度からアイデアをたくさん出してくれるから。
矢崎 失敗するんだけどね。
柳下 稽古場ってそういうもんだからね。
佐野 でも、〈学生1〉〈2〉〈3〉〈4〉は、超ハマったベストな配役だと思いますね。
矢崎 みんなの性格が、それぞれの資質に合っているんですよね。持っているものだから、引き出しやすい。
--田中麻衣子さんの演出を初めて受けてみていかがですか?
小川 まず最初に、なんでも思ったことを言える環境を作ってくださり、同じ目線でディスカッションできる。これほど一緒に作っていく現場というのもこれまでで初めてなので、難しくもあるけど、楽しいですね。
矢崎 ゲンくんの言う通りだよね。田中さんもプランを考えてくれるんですけど、それ以上に、役者のことを信頼して役者から出てくるものを大事にしてくれる演出家さんだなと感じています。
佐野 否定されたことないですもんね。僕ね、最初、あまりになんでも言いやすくて、「本当は田中さんの中で固まっているのに、俺たち泳がされているんじゃないか?」って勘ぐったくらい(笑)。
佐野岳
矢崎 もちろん、これだ!というのも持っていらっしゃると思うんです。でも、ディスカッションしながら、そこに導いてくれるんですよ。
柳下 役者に寄り添ってくれる演出家さんですよね。自分の意見を言うのを控えたりする現場もあるんですけど、今回は、言えなかったら、本当に目指したいものが作れないと思うんです。劇中では、お互いをよく知っている関係性ですから、4人それぞれの個性を知るためにも言わないと。それを田中さんがみんなの中に植え付けてくださったと思います。
--観に来てくださる皆さんにメッセージをお願いします。
小川 今はまだ僕らも明確なゴールが見えていないんですけど、多分、観ていただいた方も、この芝居で伝えたいものはこういうことか、と単純に受け取れる作品ではないんだろうなと思います。でも、シーンごと、セリフごとに、何かを感じて頂けるんじゃないかなと。曖昧さみたいなものを楽しんで頂けたらなと思います。
小川ゲン
柳下 10年程前に日本でも上演された作品ですが、普通の『ロミオとジュリエット』とは違った、シェイクスピアの楽しみ方だなと思いますし、僕たちが目標にしているのは、なぜ彼らが『ロミオとジュリエット』をやったのか、学生たちを通してやることで何をお客さんに汲み取ってもらえるのか、学生と『ロミオとジュリエット』がリンクしていく様というのを観てもらえたらと思います。
矢崎 いろんな見方もできるし、お客様の感じ方次第だと思うんです。今、悩みながらテーマを見つけて戦っています。〈学生1〉〈2〉〈3〉〈4〉、誰の目線で観るかで感じ方も変わりますから、最低4回は観てほしいです(笑)。
佐野 4回じゃなく、10回くらい(笑)。全公演、観に来てほしいですね。
一同 (笑)
取材・文=みよしみか 撮影=高橋定敬
■原作:W・シェイクスピア
■脚色:ジョー・カラルコ
■翻訳:松岡和子
■演出:田中麻衣子
■出演:矢崎広 柳下大 小川ゲン 佐野岳
■主催:トライストーン・エンタテイメント
■提携:公益財団法人せたがや文化財団/世田谷パブリックシアター 後援:世田谷区
■料金:全席指定 7500円(税込)*未就学児入場不可
■オフィシャルHP: http://tristone.co.jp/RJ/
■会場:シアタートラム
■日程:2018年1月19日(金)〜2月4日(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
■日程:2018年2月7日(水)〜2月8日(木)