蒼井優と生瀬勝久が熱演する『アンチゴーヌ』が1/9開幕~生瀬「演劇史に残る自信がある」、ゲネプロレポート

2018.1.9
レポート
舞台

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

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20世紀フランスの劇作家ジャン・アヌイの代表作『アンチゴーヌ』が岩切正一郎の新訳、栗山民也演出のもと、2018年1月9日から新国立劇場などで開幕する。蒼井優がアンチゴーヌを演じ、生瀬勝久が王クレオンを演じる。初日前に行われた総通し稽古=ゲネプロと取材会の様子を写真を交えながらお伝えする。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

あらすじを簡単に振り返っておきたい。

アンチゴーヌ(蒼井優)は反逆者として野ざらしにされていた兄の遺体に弔いの土をかけたことで、捕らえられてしまう。王クレオン(生瀬勝久)は一人息子のエモン(渋谷謙人)の婚約者である彼女の命を助けるため、土をかけた事実をもみ消す代わりに、遺体を弔うことを止めさせようとする。

だが、アンチゴーヌは「誰のためでもなく、自分のために」と、法に背いても自分を貫こうとする。兄を弔うことを止めず、自分を死刑にするようにクレオンに迫るアンチゴーヌだが......クレオンは国の秩序を守るため、苦渋の決断を下す。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

今回、最大の特徴としてあげられるのは、舞台機構だ。舞台が十字になっており、観客は四方から観劇をする。役者陣が客席に降りてくることもしばしばあり、非常に緊迫した空間で、役者たちの息遣いや細かい表情までが見て取れるのだ。

舞台機構について、蒼井は「今までで一番お客様と近い舞台。とにかく舞台の上に集中しながらも、客席の方に降りていくことも多々あるので、お客様にご迷惑が掛からないように頑張りたいと思います」と語る。生瀬は「僕は小劇場出身なので、昔はこういうところでずっとやっていました。その時にはお客さんをとにかくいじっていましたが、今回いじることはできないので(笑)。どうやってお客さんを意識せずにアンチゴーヌと対峙するのかということに集中しなきゃいけないと思います」と答えた。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

2時間10分。決して平易な内容ではないし、気が遠くなるほどの膨大なセリフ量だが、それぞれの役者がそれらを血肉とし、上質な舞台に仕上げている。

蒼井が「演出の栗山さんから嘘はない舞台にしましょうという言葉をいただいた。日々、毎回公演ごとに“真実”、“本当”が変わってくると思うので、何が“本当”かということをとても大切に、それだけを大切にしながら1回ずつ頑張っていきたいと思います」と語るように、この舞台は何が“真実”なのか、“本当”なのか、常に観客に問いかけてくる。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

ここまで見やすく、それでいてぐいぐいと観客の心をつかむ作品となったのは、演出の栗山民也の腕だろう。

今回で3作品目のタッグとなる生瀬も、栗山の演出について「稽古の後のダメ出しが全て腑に落ちることが一番ですね。抽象的なことも仰いますが、『ここで止まって次にセリフが始まることをやってくれ』などのテクニックも仰る。見え方の結果がどうなるか、栗山さんの中で見えている。僕らはそれをやればいい」と語り、信頼を寄せている。

また、蒼井は栗山の演出について「役の内側の説明よりも、まずは立ち位置や出はけなどの外見を説明してくださる。『この時にこの体勢になる』というのを全部つけてくださるんです。外堀からガチッと埋めていかれる方で、最初は違和感があったり、どうやってこの位置に行けばいいんだろうと思っていても、栗山さんが仰った場所に行くこと、栗山さんが仰った体勢になることがスムーズに行った時に『あ、内側は自分で埋めて、外は栗山さんが埋めてくださるんだ』と感じます」と説明する。

シンプルな舞台だけに、そこをどう役者で見せるか。栗山自身の明確なヴィジョンがよく伝わってくる。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

劇中、蒼井と生瀬だけのおよそ40分強の芝居も非常に見応えがあった。セリフのやり取りだけでも十分凄みがあるのに、その間の沈黙や目線さえも芸術的。一瞬一瞬、何か訴えかけてくるものがある。

『アンチゴーヌ』という作品を19歳の時に初めて読み、機会があることにこの戯曲に触れてきたという蒼井。「まさか自分が演じるとは思っていなかった」と蒼井自身は語るが、彼女の持つ存在感と透明感、芯の強さはまさにアンチゴーヌにぴったりだと感じた。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

「僕は基本コメディーとかによく出るんですけど、今回は一切笑いを起こすところがない役なんですよ」と語る生瀬だが、今回のクレオン役で、改めて、彼の役者としての力量を見せつけられたと思う。蒼井が「(生瀬は)舞台上では凄すぎて、飲み込まれそうになる」と語るように、クレオンという人物の深みや苦悩を見事に表現。本人としてはプレッシャーも多々感じていたようだが、「蒼井優さんとこの二人で演じる、この『アンチゴーヌ』を演劇史に残る自信はあります」と胸を張る。

演劇ライターとして、少しでも多くの方に、この緊張感あふれる舞台を思う存分堪能していただきたいと思う。2018年の観劇始めにもぜひ。

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

『アンチゴーヌ』ゲネプロの様子(撮影:阿部章仁)

『アンチゴーヌ』に出演する蒼井優と生瀬勝久(左から)

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取材・文=五月女菜穂

公演情報
パルコ・プロデュース2018 『アンチゴーヌ』

■作=ジャン・アヌイ  
■翻訳=岩切正一郎   
■演出=栗山民也 

<出演>
蒼井 優、生瀬勝久、
梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤 誓、渋谷謙人、
富岡晃一郎、高橋紀恵、塚瀬香名子
 
【東京】
2018年1月9日(火)~1月27日(土) 
新国立劇場 小劇場〈特設ステージ〉

 
【松本】
2018年2月3日(土)~4日(日)
まつもと市民芸術館〈特設会場〉

 
【京都】
2018年2月9日(金)~12日(祝/月)
ロームシアター京都サウスホール〈舞台上特設ステージ〉

 
【豊橋】
 2018年2月16(金)~18日(日)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT〈舞台上特設ステージ〉

 
【北九州】
2018年2月24日(土)~26日(月)
北九州芸術劇場 大ホール〈舞台上特設ステージ〉
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