“欲望のままに扱われる少女たち”の姿が表すものは何か?『ブリムストーン』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第四十三回

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2018.1.10
 (C)2016 brimstone b.v./ n279 entertainment b.v./ x filme creative pool gmbh/ prime time/ the jokers films/ dragon films

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
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昨今、ディズニーでも『ズートピア』(16)や『モアナと伝説の海』(16)のように、自立した女性を描く作品が目を引くようになってきた。現代はもう、王子様を待つお姫様の時代ではなく、自分で運命を切り開くヒロインたちが活躍する時代となったのだ。しかし、もっとままならぬ時代に、運命と戦い続けた女性を描いた作品がある。2018年、今だからこそ観てほしいと思う西部開拓時代のスリラー『ブリムストーン』だ。

19世紀のアメリカ。小さな村で助産師として働くリズは、とある事情で言葉を発することはできないものの、年の離れた夫と2人の子どもたちと幸せに暮らしていた。そんなリズの前に、ある日鋼のような肉体と信仰心を持つ牧師が現れる。牧師に「汝の罪を罰しなければならない」と告げられたリズは、壮絶な過去を思い起こし、家族を守ることを決意する。はたして彼女の罪とは。そして牧師は一体何者なのか。


ハードなキャラクターに説得力を持たせる実力派俳優たち

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本作は現在と過去を行き来する4章で構成され、リズと牧師の関係や、牧師の言うリズの“罪”が徐々に明かされてゆき、最初は全体像がつかめないまま話が展開していく。しかし、主演2人の鬼気迫る芝居が醸し出すただならぬ空気に、息つく暇もなくのめり込まされてしまう。

リズ役のダコタ・ファニングは、劇中ではほぼセリフを発しないで、ほとんどのシーンを手話で演じ切っている。『アイ・アム・サム』(01)などの子役から変貌を遂げたファニングが、幸せな家庭に身を置きながらも、どこか遠くを見ているようなアンニュイな表情を浮かべるのがたまらなく良い。彼女とともに言葉を失い、ただただ息をするだけで精一杯になるほど……それほどの緊迫感が伝わってくる。リズを追う、ガイ・ピアース演じる牧師もわかりやすい“ワル”ではない。ピアースは、『欲望のバージニア』(12)で演じたクズ捜査官役もとても良かったのだが、本作の“蛇のようにまとわりついて離れない狂気の男”も負けず劣らず素晴らしい。

性差別にとどまらない、“理不尽”との戦い

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舞台となった19世紀のアメリカは西部開拓時代。現在よりもはっきりとした男社会だ。本作では、女性が虐げられることが当たり前の世界で、年端もいかない少女たちは娼館で男たちの欲望のままに扱われ、反抗しようものなら厳しい制裁が加えられる。妻は夫に口答えすることも許されず、逆らおうものならば、ガミガミ女のくつわ(口うるさい女性を黙らせるために使われる拷問器具)を装着されて辱められる。そこまでではないが私の父親も、「家長が白と言ったら黒いものも白」と考えるいわゆる亭主関白だったので、共感を覚えゾッとした。本作で描かれているのは虐げられる女性たちの姿だが、男女問わず、現代社会にも様々な差別や理不尽な抑圧は存在している。いじめや偏屈な上司など、私たちの日常は戦うべき場面と常に隣り合わせだ。

ただひとり、本作のヒーロー(あえてこう呼ぶ)・リズは、抑圧に負けず戦い抜く。口喧嘩をする声も持たぬ彼女は、現代に生きる、声なき弱者たちの代弁者だ。だが、本作は決してファンタジックな英雄譚ではない。これは因果応報の現実的な物語である。反抗するだけではいけない、戦うということは憎しみを断ち切ることでもあると、クライマックスの覚悟ある決断をもって、リズは私たちに教えてくれる。

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最後になるが、このコラムでストーリーについて一切触れなかったのには理由がある。ぜひ、余計な事前情報をあまり入れずに、本作の世界に入り込んでほしいからだ。私もそうして観て、わななき、あまりのえぐさに涙が止まらなかった。

無慈悲なまでに恐ろしく、そして美しい戦いに、あなたも涙するに違いない。

『ブリムストーン』は公開中。

作品情報
映画『ブリムストーン』
 

(2016年/オランダ・フランス・ドイツ・ベルギー・スウェーデン・イギリス・アメリカ/英語・オランダ語 デジタル上映/148分)
【キャスト】 
ガイ・ピアース『エイリアン:コヴェナント』『ロックアウト』『メメント』『L.A.コンフィデンシャル』 ダコタ・ファニング『アメリカン・バーニング』『ランナウェイズ』『I am Sam アイ・アム・サム』 エミリア・ジョーンズ『ハイ・ライズ』『海賊じいちゃんの贈り物』『グランドフィナーレ』 カリス・ファン・ハウテン『ドクター・エクソシスト』『ブラックブック』『ワルキューレ』 キット・ハリントン「ゲーム・オブ・スローンズ」『ポンペイ』
【スタッフ】 
監督・脚本:マルティン・コールホーヴェン 
製作:ウーヴェ・ショット『愛、アムール』、エルス・ファンデヴォルスト『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』 
音楽:ジャンキー・XL『デッドプール』『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』撮影:ローヒエ・ストファース『君への誓い』 
編集:ヨープ・テル・ブルフ『エル ELLE』
衣装:エレン・レンス『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』 
レイティング:R15+
原題:BRIMSTONE
配給:クロックワークス 
公式サイト:http://world-extreme-cinema.com/brimstone/
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