『谷川俊太郎展』レポート 進化する表現と詩人の暮らし 小山田圭吾、中村勇吾とのコラボレーション作品も

レポート
アート
2018.2.5

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詩の表現は、新しい挑戦と進化の可能性に満ちている。使い古された言葉を、または無意識の中にある言語の記憶を、詩人は独自の世界観で生まれ変わらせる。1952年にデビューした国民的詩人・谷川俊太郎は、今なお詩界の先端にいる。

東京オペラシティ アートギャラリーでは、2018年1月13日(土)~3月25日(日)まで、『谷川俊太郎展』が開催されている。詩人の知られざる側面と、進化する表現に迫る注目の展覧会。その様子を紹介しよう。

撮影=深津瑞穂

撮影=深津瑞穂

谷川俊太郎は、1952年に詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。詩作のほかにも絵本、エッセイ、翻訳、作詞、脚本など幅広く活躍し、言葉の可能性を広げてきた。また、近年では、手紙の形で詩を送る「ポエメール」や、ゆれ泳ぐ詩を釣りあげてコレクションするiPhoneアプリ『谷川』など、詩の新しい表現にも挑戦している。

本展は、谷川の暮らしと仕事を見つめながら、詩が生まれる瞬間に触れる試みだ。谷川が影響を受けた音楽やもの、家族写真、書簡、ラジオのコレクション等を、選りすぐりの詩作品とともに展示する。日々の暮らしを基盤に詩作を続けてきた谷川。愛用品などを通し、等身大の詩人の姿が浮かび上がる。

『こっぷ』文=谷川俊太郎 撮影=今村昌昭 AD=日下弘 1972年 福音館書店

『こっぷ』文=谷川俊太郎 撮影=今村昌昭 AD=日下弘 1972年 福音館書店

詩のシャワーを浴びるような新体験!

ギャラリー1では、新しい詩の表現を体験できる。音楽家・小山田圭吾(コーネリアス)とインターフェイスデザイナー中村勇吾(tha ltd.)による、本展のための特別コラボレーション出品だ。 子供の頃、教科書で読んだ谷川の詩。その作品が今でも色褪せることなく、それどころか驚くほど斬新な表情を見せてくれる。

詩が、“読むもの”や“聴くもの”に留まらず、空間で“体験するもの”に進化していることに驚く。谷川の言葉に内在するリズムと、小山田サウンドの融合。全身で詩を浴びるような、新たな体験ができる。

谷川俊太郎、小山田圭吾(コーネリアス)、中村勇吾(tha ltd.)とのコラボレーション

谷川俊太郎、小山田圭吾(コーネリアス)、中村勇吾(tha ltd.)とのコラボレーション

展示風景

展示風景

子どもの頃の谷川俊太郎 1942年頃

子どもの頃の谷川俊太郎 1942年頃

ギャラリー2では、20行からなる谷川の詩「自己紹介」に沿って、20のテーマごとに谷川にまつわる品々を展示。会場には、詩を1行ずつ大きく記した柱が立ち現れ、それぞれに谷川が影響を受けた音楽や家族写真、書簡などが併せて展示されている。

谷川は、ラジオ・無線工学にも情熱を抱いていた。彼は熱心なコレクターでもあり、主にアメリカ製のヴィンテージラジオの幅広いコレクションと関連書籍を、京都工芸繊維大学に寄贈しているほどだ。本展では、そんな谷川のヴィンテージラジオコレクションの一部を展示している。

ラジオから聞こえる音声・音楽は、詩人の耳にはどのように聞こえているのだろう 撮影=新井まる

ラジオから聞こえる音声・音楽は、詩人の耳にはどのように聞こえているのだろう 撮影=新井まる

ラジオコレクション STEWART-WARNER Model R108X AN.5438-093 1933年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵

ラジオコレクション STEWART-WARNER Model R108X AN.5438-093 1933年 京都工芸繊維大学美術工芸資料館蔵

詩人のひととなりを感じながらもう一歩、その視点に近づいて読んでみるのも楽しい 撮影=新井まる

詩人のひととなりを感じながらもう一歩、その視点に近づいて読んでみるのも楽しい 撮影=新井まる

「夏はほとんどTシャツで過ごします」(「自己紹介」の一節)の柱の展示風景 撮影=新井まる

「夏はほとんどTシャツで過ごします」(「自己紹介」の一節)の柱の展示風景 撮影=新井まる

内覧会前日に谷川が書いて貼ったという直筆のメモ、何気ない一言がおもしろい 撮影=新井まる

内覧会前日に谷川が書いて貼ったという直筆のメモ、何気ない一言がおもしろい 撮影=新井まる

絵描きじゃないから展覧会は無理だ
音楽家じゃないからコンサートも開けない
今はマックで書くから手書き原稿もない
何を並べりゃいいのか知恵を絞った
(本展のために書き下ろした詩「ご挨拶に代えて」より、一部抜粋)

コリドールに展示された「3.3の質問」は、谷川が1986年に出版した『33の質問』(ノーマン・メイラーの「69の問答」にちなんで33の質問を作り、7人の知人に問いかけながら語り合う)が元になっている。本展では、その現代版として当初の33の質問から谷川が3問を選び、それに「0.3の質問」を加えた「3.3の質問」を作った。これらを各界で活躍する人々に投げかけ、その回答を作品として展示している。「人を殺すとしたら、どんな手段を選びますか?」というドキッとする質問もあるが、回答はいかに……?

いつも口ずさむ好きな歌や、つい手が伸びるお気に入りのシャツがあるように、折に触れて思い出すような特別な詩を一遍持っているのは素敵なことだ。懐かしい詩、新しい詩を探しに、ぜひ本展に足を運んでみてはいかがだろうか。

文=五十嵐絵里子

作家情報
谷川俊太郎
撮影=深津瑞穂

撮影=深津瑞穂


1931年東京生まれ。詩人。1952年第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。1962年「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詞賞、1975年『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、1982年『日々の地図』で第34回読売文学賞、2005年『シャガールと木の葉』『谷川俊太郎詩選集1〜3』で第47回毎日芸術賞、2010年『トロムソコラージュ』で第1回鮎川信夫賞など、受賞・著書多数。
 
展覧会情報
谷川俊太郎展 TANIKAWA Shuntaro

会期: 2018年1月13日[土]─ 3月25日[日]
会場: 東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間 : 11:00 ─19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館の30分前まで)
休館日: 月曜日(2月12日〔月〕は開館/ 2月13日〔火〕は振替休館)、2月11日〔日〕(全館休館日)
入場料 : 一般 1,200円(1,000円)、大学・高校生 800円(600円)、中学生以下無料
*( )内は15名以上の団体料金
*障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。
公式サイト:http://www.operacity.jp/ag/exh205/
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