キムラ真×鈴木裕斗対談「劇場をワンダーランドにしたい」 極上文學 第12弾『風の又三郎・よだかの星』
鈴木裕斗、キムラ真
2018年3月8日(木)から、東京・紀伊國屋ホールにて極上文學 第12弾『風の又三郎・よだかの星』の公演がスタートする。日本にあまたある素晴らしい文学作品を独特の世界観で舞台化していくこのシリーズ。演出家のキムラ真は、今回どのような作品に仕上げていこうとしているのか。また、今回『風の又三郎』では一郎役、『よだかの星』では鷹役を演じる鈴木裕斗(Wキャスト)は、声優としての仕事にとどまらず「極上文學」シリーズで何を掴もうとしているのか。二人に話を聞いた。
誰かの思い入れのある作品をやる、それが「極上文學」シリーズ
――そもそも「極上文學」で、この作品をやろうと決める際、何を「決め手」としているんでしょうか?
キムラ:「誰かの思い入れのある一作」が舞台化されているんです。誰しも必ず忘れられない作品があると思うんです。作品全体なのか、1シーンなのかは人それぞれですけど。「極上文學」チームにも多くの人がいるんですが「自分が思い入れのある作品はこれです!」と提案してもらうんです。そういう作品ってやっぱり良いんですよ。観に来る人の中にも必ずその作品にハマった人がいるはずなんです。僕もこの「極上文學」シリーズで初めて触れた作品もたくさんあるんです。何で今まで触れる機会がなかったんだろうと思いますね。
――『風の又三郎』『よだかの星』はどのくらいご存知でしたか?
鈴木:作品の存在はもちろん知っていましたし、『風の又三郎』というタイトルも知っていました。でも『よだかの星』はまったく知らなくて。周囲の人に聞くと当たり前のように幼い頃、学校で勉強した、読んだ、一度は通ってきたと言われました。そこで読んでみたら、幅広い世代の人たちに響く作品なんだなと実感しました。
――私も子どもの頃に『風の又三郎』も『よだかの星』も読んだ一人ですが、『風の又三郎』については「結局、又三郎って人間? 妖精? そして物語の結末はどうなったんだろう」と記憶に霞がかかっています(笑)。
鈴木:確かに物語の中でも、幻想の部分と現実の部分が織り交ざって描かれているから「又三郎って結局何者?」って思いますよね。
キムラ:文学ってすごいなあと思うのが、昔読んだ時と今読んだ時とで感じ方が違ってくるところ。例えば『風の又三郎』を読むと、どうしても僕は東日本大震災のことを思い浮かべてしまったり、さらに読み進めると「子どもが大人に変わる瞬間」ってどういう時なんだろうと考えてしまうんです。昔はそんな読み方をしていなかったのに。
――『よだかの星』も子どもの時に読んだ印象と、大人になってから読んだ時の印象がかなり違いました。
キムラ:こんなにも泣ける本があるとは!ってね。
キムラ真
「極上文學」シリーズ初登場!「語り師」とはどんな役どころ?
鈴木:藤原祐規さんと現場で会う度に話しているんです。「今回は難しいよね」って。声に特化した役割の人がいると聞いたんですが、自分は“声優”なのもあってキムラさんに「声が武器だよ」とこれまで言われ続けてきたのに(笑)、その声を細分化されると自分の見せ方はどうなるんだろう、と。声が武器ではあるけれど、そこだけではない演じ方を自分の中でより追求し、人にどう見せるかということを考えていかなければと思っています。
キムラ:音響も照明も、他のスタッフが出来ることはそちらでやればいいと思っています。「語り師」だからできること……例えば効果音にしても人間の口でやった方がいいならそうするし、音響さんがやったほうが効果的となればそっちでやります。「読み師」にしても同じ。裕斗がやる方がいい、「語り師」さんがやる方が、と細分化していく。それらがすべて合わさったときに「極上文學」でしかできない作品が出来上がるんじゃないかな。
鈴木:台本を読ませていただいて「語り師」の台詞が極上文學の中で特別な役割を持ち「読むこと」に徹することでより深みを増していくんだろうなと思いましたね。この3つの役割がどう作品を作るのか、楽しみです。
Wキャストだけどお互いの演技は見ない!?
――Wキャストで演じるとなると、稽古場でもお互いの演技を見ながら一つの役を作り上げていくことになるかと思いますが……。
キムラ:「極上文學」のWキャストは基本的に相手の演技を見ないんですよ。場当たりを無理やり同時に見せるくらいです(笑)。それぞれが自分ならではの役を創り上げようと考えているので、お互いの演技はあえて見ないんですよ。芝居の軸となる演出があればちゃんと芝居はできるので。(鈴木を見ながら)Wキャストの相手とほぼ芝居の相談はしないでしょ?
鈴木:はい。しないです! 最初は僕も慣れていなかったのでアドバイスをいただいたりもしましたが、最終的には180度違う役になりました(笑)。
キムラ:これこそライブかなと。もちろんアバウトではなく、エチュードでもなく、しっかりした軸があってこそ。違うアプローチで生まれた演技でセッションするからよりおもしろいんです。すべてが自由という訳ではないです。
――鈴木さんの得意なこと、白柏さんが得意なこと……それぞれのキャストが得意なことをその時の組み合わせでやっていくので、毎回少しずつ違う舞台が出来上がっていくんですね。
鈴木:僕は普段、“声優”として活動し表現しているので、作品に対するアプローチの仕方もほかの人とは異なっている部分があります。「極上文學」はマルチキャスティング。一人ひとりのキャストが毎公演、同じキャストの組み合わせにならないようにしているので、それぞれに違う味を出し、自分たちの良さ、相手の良さを出していけるようになっています。「この人はこんな表現をするんだ」「自分はこういった表現ができるんだ」と常に自然体で演じていくことができます。僕の中では良いことしかないですね。
鈴木裕斗
舞台経験が声優の仕事にも変化をもたらしています(鈴木)
――声優のお仕事とは大きく違うことがたくさんあったんでしょうね?
鈴木:“声の表現×身体の表現”を掴むまでは大変でした。アフレコの仕事では知ることができなかったたくさんのことを「極上文學」の中で経験させていただいて、またその経験をアフレコの仕事にも活かすことができるようになりました。声だけでなく感情の機微を感じることができ「芝居の本質ってここだよな」と肌で感じました。声優としての仕事にも大きく活かされましたね。
――舞台に出るようになって自分の変化を感じた瞬間はありましたか?
鈴木:声の仕事でも、ベテランの先輩方は声だけでなく気持ちも最大限声に乗せているんです。身体は動かしていないのに。「極上文學」を経験した後のアフレコ現場では「あれ? 何か変わったね?」と言われました。「極上文學」に携わったことで周りから見ても変化が見えるようになったんだろうなあと実感していますね。
キムラ:そういえば最初に僕らが出会った時、ほぼ初舞台だった?
鈴木:たぶん、そうだと思います。最初「極上文學」は“朗読劇”と聞いていて、そのまま参加したのですが、現場に入って最初に「これはただの朗読的じゃない! 大変だ!」って確信しました。想像していたものと違っていたので皆に付いていけるだろうかと思っていました。
キムラ:最初の舞台はWキャストで、裕斗が後から合流する形だったんです。その時のもう一人(天羽尚吾)は「動き」が得意な子だったので、その子に合わせて役を作ってしまったがために、裕斗も同じことをしなければならなくなって大変だったと思います。
でも、裕斗は表情がすごく良くて、特に笑顔が本当にいいんです。声優としてはその笑顔を仕事で見せることってあまりないと思うんですが、僕は裕斗が表現者としていいものを持っているように感じていたので、今回は声だけでなく、考えてきたものを目一杯出して、いい意味で「やりたいことをやれよ!」と思っています。
鈴木裕斗、キムラ真
―― ……ということは今までの鈴木さんは、少し自分でブレーキをかけていたような感じだったんですか?
キムラ:これはやっていいのかどうか、という線引きがあったんでしょうね。
鈴木:最初は考えましたね。『春琴抄』は先に出演した『走れメロス』の時より稽古に入れる時間が少なかったんですが、都度キムラさんが「好きに動いていいよ」「自由にやっていいよ」と言ってくださったので、固さもなくなりました。
キムラ:裕斗はやらされたらダメな子なんです(笑)。いい子だからこそ、見本となるものがあるとなぞってしまいがち。でも「自分からやりたいことをやっていいよ」と伝えるとものすごいパワーを出してくるし、誰にもできないことをやるんです。……だから、今回、裕斗に関しては本当に何も言わないかも(笑)。
鈴木:(笑)。見透かされてますね!
キムラ:僕からは時々軌道修正するくらいでね。
お客様の「上」も演出したい!(キムラ)
――演出する側として今回の「極上文學」で特にやりたいことはありますか?
キムラ:前作から1年以上ブランクが空いたので、やりたいこと、やりたい表現が盛りだくさんで!おそらく今までで一番いろいろなことをやるんじゃないかな? それが難しいです。海鮮丼から天ぷら丼、うな重……どれを食べようかという感じで、豪華すぎて大変です(笑)。
――今言える範囲でやりたいことの一部を教えていただけますか?
鈴木:僕も知りたいです。
キムラ:お客様の「上」の空間も演出したいです。ステージと客席が離れているのが嫌で、劇場すべてが「極上文學」の世界になっているといいなあと思っています。客席の上にも空間があるのに、そこが演出されている舞台をほとんど観たことがないので。今回は、せっかく「風」「空」がテーマとなっている作品なので、ぜひやってみたいですね。紀伊國屋ホールだからこそできることがあると思います。座席に座って上を見上げたくなる舞台にしたいです。
鈴木:物語の広がりがすごく出ますよね。
キムラ:そして、観る人の「五感」を刺激したいですね。朗読劇ですから「人はどこまで声で表現できるのか」に毎回チャレンジしていますが。呼吸の仕方など、アナログなことも。衣裳の美しさも含め「より極上に」を目指したいです。
キムラ真
――衣裳と言えば、又三郎がセーラー服姿であることに驚きました! 小学生でセーラー服を着ていると、どこか都会のいいところのお坊ちゃんの感がありますね。
鈴木:一郎たちとは明らかに違う存在っていうのがわかりますよね。
キムラ:『風の又三郎』って言うと、皆似たり寄ったりの衣裳……例えばマントを着せるとか、考えると思うんですが、僕はこの衣裳案が出てきたことに驚きましたね。
――衣裳はどなたが主導で考えられているんですか?
キムラ:普通の舞台だと、演出家、衣裳さん、デザインさんが考えるんでしょうが、この舞台はオールスタッフで考えています。むしろ演出家より、周りのスタッフのほうが「どうやったらこの子がかっこよくなるか、かわいくなるか、美しくなるか」とこだわっていてそれがすごいなと思います。舞台を観たお客様にどうするとキャッチーになるかも考えていますから。その衣裳を着るキャストたちもテンションあがりますからね! 僕が考えるのは機能性くらいです(笑)。裕斗の「鷹」の姿もめっちゃかっこいいよな!
鈴木:あれ、いいですよねー。「よだか」との比較もあって、鷹のキャラクターが衣裳から小道具からものすごく作り込まれているんです。細かいところまで観ていただきたいですね。
鈴木裕斗
見どころは「役者・鈴木裕斗」です(キムラ)
――最後になりますが、公演の中で特にこだわりたいところ、見せたいところを教えてください。
キムラ:原作自体、今回で言うなら宮沢賢治は「答え」を出していないんですよね。又三郎と三郎の関係とか。毎回そういう作品に対して「極上文學」としての答えを出してきました。今回の作品もこれが「極上文學」としての『風の又三郎』『よだかの星』ですと言いたいです。
もうひとつは、紀伊國屋ホールがワンダーランドになればいいなと思っています。紀伊國屋書店に入って4階に来て、をもぎられてロビーで物販を見て、劇場への階段を上ったらそこからがワンダーランドであってほしいです。また、紀伊國屋書店の中の劇場だからこそ舞台を観て興味が出たら原作を買って読み、ほかの人にその魅力を伝え、お客様が劇場にいらしてくれたら最高ですね。
鈴木:演じ手としてはキムラさんが演出される世界は毎回刺激的です。僕らが舞台袖からステージに出ていく段階ですでにその世界が出来上がっているんです。だからこそ僕らも思いっきり飛び込んでいけるし、ひたすらその世界に浸ることできて毎回が楽しいんです。演じ手としても「極上」なんです。だからこそお客様にはまず劇場に足を運んでいただき「極上」の世界に浸っていただきたいですね。そして作品が持つどこか切なさ、はかなさを感じていただきたい。それぞれの二作品を観ていただき、作者が答えを出さなかったが故に生まれる「余白」の部分も楽しんでほしいです。
キムラ:あ、大事な見どころがありますよ! 「役者・鈴木裕斗を見てほしい」。子どもから大人になる瞬間を描いている今回の作品ですが、裕斗の一番いい時期をこの作品で観ることができるのが何より素晴らしいことです。今まで以上に役者である鈴木裕斗を見てもらいたいなと思いますね。
鈴木:嬉しいです!
鈴木裕斗、キムラ真
取材・文・撮影=こむらさき
『風の又三郎・よだかの星』
絵:ますむらひろし (C)ますむらひろし (C)2017 CLIE/MAG.net
劇場:紀伊國屋ホール
演出:キムラ真(ナイスコンプレックス)
脚本:神楽澤小虎(MAG.net)
音楽・作曲演奏:橋本啓一
<読み師>又三郎/納谷 健、深澤大河 よだか/藤原祐規、三浦海里 一郎・鷹/鈴木裕斗、白柏寿大 嘉助・弟/松本祐一、市瀬秀和
<語り師>赤羽根健治、折笠富美子、竹内順子、田丸篤志、三浦祥朗、山口智広(五十音)
【】
料金:極上シート 8800円、一般 5900円
一般発売中
【公式 Twitter】@MAG_play
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