『二十世紀の退屈男』再演に向け、南河内万歳一座・内藤裕敬が会見
-
ポスト -
シェア - 送る
『二十世紀の退屈男』の作・演出を務める内藤裕敬(南河内万歳一座) [撮影]吉永美和子
「“20代が終わりに向かっている”という焦りは、今も昔も共通なんじゃないかな」
兵庫県伊丹市の公立劇場[アイホール]が、09年から取り組んでいる「現代演劇レトロスペクティヴ」。1960年代以降に発表された日本の戯曲を、主に関西在住の演出家が現代的な視点を持って上演するという公演企画だ。今回は関西小劇場シーンを牽引してきた「南河内万歳一座」の代表作の一つ『二十世紀の退屈男』を、万歳座長の内藤裕敬自身の演出で上演。全員オーディションで選ばれたキャストたちとともに、21世紀にふさわしい舞台へとよみがえらせる。その会見が、大阪で行われた。
現代演劇レトロスペクティヴ AI・HALL+内藤裕敬『二十世紀の退屈男』イメージ画像
『二十世紀の退屈男』は87年初演で、万歳が初期に発表してきた「六畳一間シリーズ」と呼ばれるものの一本。青春の終わりに差しかかった人たちの焦燥感を、もっぱら六畳一間のアパートの一室を舞台として、あざやかに描き出したシリーズだ。内容は「スーパーセンチメンタリズム」と評されたほど感傷的かつリリカルなのに、演出は役者たちが舞台をはみ出さんばかりにパワフルに暴れ回るというそのギャップの衝撃もあり、万歳の代表的な路線となった。そして今回のオファーがあった時、まず内藤は「ついに俺もレトロなんだなあ……でも確かに30年前の戯曲だからなあ」と苦笑いしたそう。その一方で「この本は古いのか? 新しいのか? 賞味期限が切れてないかどうかが、すごく気になった」とも語った。
「この作品で書いたのは“こんなはずじゃなかった20代”。僕が10代から20代に差し掛かる頃は、これからいろんな出会いがあって、いろんな経験をして、何か大きくなっていくだろうという未知なる期待があったのに、いざ20代中盤になってみると意外と何もなくて。このまま何もない状態で、俺は30歳になっちゃうのか? これからどんどん可能性がはがれ落ちて、輝かしい青春の時代が終わっていくんじゃないか? こんなに孤独で退屈で何もないんだったら、何か他人や自分を傷つけるような悪いことでも起きた方が、20代の自分の証になるだけマシなのでは? という、僕自身が20代の時に感じていた焦りと苛立ちを反映しています。あとこの頃唐十郎さんに“僕は唐さんみたいに長台詞が並ぶ、三幕で3時間もある構成(の芝居)はできないです”と話した時に“内藤君は、果てしない一幕を書けばいいんだよ”と言われて(笑)。長いのを書くぞ! という覚悟で書いた所があるし、その後も“果てしない一幕”と向き合ってやってるなという気がします」。
舞台となるのは、都市の中にある六畳一間のモルタルアパート。ここで暮らす孤独で退屈な青年の元に、知らない女性からの手紙が届く。それをきっかけに、眉間に向こう傷を持った男や、かつてそこに暮らしていた家族や学生などが次々に現れて、部屋の居住権を主張。予想外の出来事の数々に青年が右往左往していくうちに、その手紙を投函した人物の姿と、かつてこの部屋で起こったある事件が浮かび上がってくる……。
内藤裕敬(南河内万歳一座) [撮影]吉永美和子
「都市の孤独の中で引っ越した、何十年にも渡る歴代の住人たちの痕跡が集まって、今孤独に暮らす青年をそそのかしていくという、一夜のお話です。今読み返すと“ザ・昭和”という感じの本だけど、企画が“レトロ”だから、下手に現代風にアレンジするのは良くないだろうと思いました。今の大学生と向きあうと、もしかしたら僕らの時よりも、結構生活が貧乏かもしれないという気がしてて。若者の現状というのは、(30年前と)あまり変わってないのかもしれないし、そうなると“20代が終わりに向かっている”と感じている主人公の気持ちは、今も昔も共通なのかなと。そこの所をしっかりフューチャーすれば、手直しをする部分があっても、決して現代風なアレンジにはならないんじゃないかなあと思っています。おそらく初演の万歳一座がやったのとは、匂いや温度は変わらないという作り方をしたいです」
こういう外部のプロデュースでは、ある程度気心の知れた俳優を数人メインキャストに入れるのが通例。しかし今回は「どうせなら若い人とやりたいし、演劇観を共有したい」と、あえてフルキャストオーディションを敢行。約60人の中から選ばれた18人のキャストは、現役の学生を含め、まだ名前は広く知られていないが、その分可能性を大きく感じさせる俳優ばかりをそろえたと、内藤は胸を張る。
現代演劇レトロスペクティヴ AI・HALL+内藤裕敬『二十世紀の退屈男』稽古場風景より。
「力量的にはもっと上手い人も(オーディションには)いたけど、下手でも野心的で威勢がよくて、暴力的に舞台を成立させるぐらいの筋力を持ってる人を選びました。作品世界にある程度共感できたり、そのイメージをリアルに感じて、それを反映させて舞台上に存在できないと成立しない作品だけど、今の稽古段階では違和感はないし、そのイキの良さはもう発揮されていると思います。彼らを見ていると、劇的な瞬間にしがみついてそれを具現化できないと、お客さんは観てくれないんじゃないか? と思って、暴れまくってた(初演)当時を思い出すんです。あとは生き物として、彼らがそれをどんな形で表現していくのか、あるいは僕がこの年令でどんな表現ができるのか? が、これからの課題ですね」。
最近流行の「2.5次元ミュージカル」などを例に出し「ああいう芝居を喜んでいる人たちが、こっちに来て面白がるかどうかはあまり期待できない気がするけど(笑)、今回のようなお芝居の中から、新しいムーブメントをもう一回起こしていかなきゃいけないんじゃないか、という思いが強い。今の若いお客さんには“えー!? ”という驚きがあるかもしれないし、面白さもあるかもしれないです」と内藤。
あくまでも小劇場と、無名だけどイキのいい役者たちとのコラボレーションにこだわり続け、その中で最高の表現を作ってきたと自負する内藤。30年前の若者の心象と、2018年を生きる若者たちの肉体を融合させることで生まれる世界は、きっとどでかい花火のように、痛快かつ見惚れるようなものとなるはずだ。
現代演劇レトロスペクティヴ AI・HALL+内藤裕敬『二十世紀の退屈男』公演チラシ。
取材・文=吉永美和子
■会場:アイホール(伊丹市立演劇ホール)
■料金:一般=前売3,500円 当日4,000円、25歳以下=各700円引
■出演:足達菜野、伊藤晃、井上雅貴、往西遼河、小笠原愛子、香川由依、笠河英雄、是常祐美、こんどうちひろ、西藤将人、笹野美由紀、里谷昌洋、長尾淳史、長尾ジョージ、まえかつと、山本知志、油利春香、和田遥奈(五十音順)
■公演サイト:http://www.aihall.com/retro29/