第25回読売演劇大賞贈賞式レポート~大賞・最優秀女優賞の宮沢りえ「これからも表現者としてひたむきに」
第25回読売演劇大賞贈賞式
2018年2月28日(水)第25回読売演劇大賞贈賞式が都内にて催され、今回の大賞・最優秀女優賞に輝いた宮沢りえをはじめ、受賞者が登壇し、喜びと感謝の言葉を口にした。
読売演劇大賞は、1994年から読売新聞主催により、演劇のすべての分野を網羅し、舞台芸術の発展を願って設立された記念事業。正賞は佐藤忠良制作のブロンズ像「蒼穹(そうきゅう)」、副賞は大賞受賞者に200万円、その他の最優秀賞、杉村春子賞、芸術栄誉賞、選考委員特別賞受賞者に各100万円が贈呈される。
例年どおり、前回の受賞者がプレゼンターを務める流れで始まった贈賞式。各賞の受賞者たちと、その人柄や演劇愛が垣間見えるコメントを紹介しよう。
■杉村春子賞:シライケイタ
(『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』『袴垂れはどこだ』の演出)
シライケイタ
普段100人足らずの劇場で活動をしています。小劇場でも、お客さんが少なくても真摯に作品を作り続けていれば評価していただける。このようなおっさんでも、43歳でも「新人賞」をいただける、そんな勇気をいただきました。演劇は一人では絶対にできません。全員でいただいた賞だと思っています。
この2作品はくしくも「革命」というテーマで共通しています。世の中のあり方に疑問を持った若者たちが、自分たちの理想の世界を作ろうと立ち上がったお話です。その途中、彼らは殺人を犯します。僕は、この2作品で起こる殺人を決して肯定しません。自分たちの理想を保持するための暴力。価値観の違いで人を殺すこと。これを僕は否定します。けれども、彼らが平和と平等を旗印に蜂起した時の純粋な思いもまた「真実」なのだと思っています。
僕たちの稽古場は、(作品に登場する)彼らを理解しようとする稽古場でした。2作品のどちらも僕の経験の中でもとりわけ激しく、俳優さんたちとぶつかり合いました。もう幕が開かないかもしれないと何度も絶望しました。しかし、その絶望を乗り越えられたのは「言葉」「対話」の力でした。他者と繋がり合おうとするその行為は、他者を理解しようとする行為であり、他者の目を持とうとする行為でした。そして、その行為こそが、未だ実現していない彼らが目指した理想の世界に近づくための唯一の手段なのではないかと、そんな思いをいだきながら稽古をしました。
僕は、武力と暴力を否定し続けます。そして、他者の目を持とうという努力をし続けます。つまり『演劇』をこれからも続けていこうと思っています。それこそが、僕がこの二作品を演出させていただいた意味であると思うし、このように賞をもらう意義だと思っています。
■選考委員特別賞:『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
◆堀義貴(ホリプロ代表取締役社長)
堀義貴
2002年にこの作品の映画を観て感動して、その後エルトン・ジョンがミュージカル化をするという記事を読み、すぐに現地のプロデューサーに「うちで上演させてくれ」と頼み込みました。2005年にロンドンで舞台化されたものを観たときは、あまりにすごくて悔しくて。腹が立つほど本当にすごい舞台だったんです。どうしてもやりたくて一度は断られたものの、その後なんとかやらせていただけることになりました。
まず、子ども全員のオーディションを2年かけて行いました。一定の身長を超えたら(ビリー役を)やってはいけない、声変わりしたらやってはいけない、などの条件がありました。主役のビリー役の5人の子どもたちが決まり、Wキャストが決まり、全公演を一人でやるキャストが決まり、アンサンブルが決まり…。結果的に4か月で16万人という入場者数となりましたが、当初は(の売れ行き)が全く動かず、何億もの赤字を出す覚悟をしていましたが、お客様はちゃんと評価をしてくださいました。日本ではできないだろうということをやれて、しかもこんな賞をいただけて嬉しく誇らしく思っています。(壇上にビリー役の4人を招き)この子たちに出会えたのが奇跡だと思っています。
スタッフたちは「また再演しましょう」と誰も言わないんです(笑)。それだけしんどかったんでしょうが、ぜひ近いうちにまた本作を再演したいです。
◆ビリー役の4名 加藤航世 木村咲哉 前田晴翔 山城力 ※未来和樹は受験のため贈賞式を欠席
(左から)加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、山城力
こんなすばらしい賞をいただけたのは、スタッフの方々や他の共演者とみんなで頑張ってきたからなので、本当に嬉しいです。
今まで教えてくださったバレエの講師さん、スタッフの講師さんやいろいろな先生や人に助けられたからこんな賞をいただけたんだと思います。
僕は声変わりもし、身長も10cm以上伸びて、今ビリーの役をまたやりたいと思ってももうできないです。あの時ビリーの役を出来たことは奇跡だなと実感しています。
僕は最近成長期で、足のサイズもどんどん大きくなっているんですが、今回受賞のお祝いにタップシューズとダンスシューズとバレエシューズを買ってもらいました。いつもよりちょっといい種類のシューズなんです(笑)。これからはビリーみたいに本物の表現者になっていきたいです。
■最優秀演出家賞:永井愛(『ザ・空気』の演出)
・プレゼンター:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
立派な4人の子役たちの挨拶の後、毎度毎度、休憩時間のような挨拶をしてしまい誠に申し訳ありません。最初に謝っておきたいと思います。役者さんはいろいろな演出家を知っていると思いますが、演出家は他の演出家がどんな演出をしているのか、分からないんです。稽古場に行かないから。行くと迷惑になるから(笑)。だからどういう演出がなされて作品が出来上がっているのか、本当に分からないんです。どんな立派な過程を経て「本当にすばらしい稽古場なんだよ」と言われても出来上がったものが全然ダメだったらダメな訳で、どんなにいい加減な演出でも出来上がりが素晴らしければ読売演劇大賞の演出家賞を受賞できます(笑)。
未だにインタビューをされるとき、「蜷川(幸雄)さん亡き今」とか「蜷川さんがいなくなられて演劇界が寂しくなっていますね」などと言われます。昨年の贈賞式は亡くなられて間もなかったので分からなくもないですが、一年経ってもまだそう言われる。それはもちろん僕もそう思うし、蜷川さんの大きさを改めて感じます。でも、僕が言うのもおこがましい話ですが、たぶん蜷川さんは「もういい加減、俺のことはいいんじゃないかな?」って言ってるように思うんです。インタビュアーにそう言わせてしまうのもいけないんでしょうが、そろそろ我々も頑張っていかないと。
僕は3年連続この贈賞式に出席していますが、かつてはこういう賞にはまったく縁がないと思っていました。「何が読売演劇大賞だ、知ったことか!」と思っている……すると意外と受賞できます(笑)。それを申し上げたいとおもいまして。本日はおめでとうございます。
◆永井愛
永井愛
台本の上がりが遅れ、現場を大変な混乱に陥れ、それでも頑張ってくれた出演者の皆さん、スタッフの方々のおかげでこの賞をいただきました。私が独り占めしてしまい申し訳なく思っています。この作品の原動力となる「政治権力からの圧力」「メディア上部からの圧力」そういったものに抗って、知らせたいことを知らせよう、と日々励んでいる報道関係者の方々、決して多数派ではないこの方々の活動の存在がこの作品を支えてくれました。この作品を観に来て現場で支えてくださった観客の皆さん、次回作への大変な励みとなりました。ありがとうございます。
・優秀演出家賞
小笠原響
小笠原響
小山ゆうな
小山ゆうな
日澤雄介
日澤雄介
和田憲明
和田憲明
■最優秀スタッフ賞:土岐研一(『天の敵』『散歩する侵略者』の美術)
土岐研一
大変光栄に思う反面、責任も感じています。この賞に恥じないようにこれからもより一層努力を重ねてきたいと思います。また、これまでご指導をいただいた方、共に作品を作ってきた方々、それぞれが持っている演劇に対する情熱と物を作ることへの責任感がなければ今の自分はなかったと思います。これからも心を新たにして演劇に対する情熱を、そして時に失敗するかもしれませんが、思い切った挑戦をこれからも続けていきたいと思います。東京でまだ誰も知らない頃、16、17年くらい前でしょうか。自分にホームグラウンドを与えてくださった「イキウメ」という劇団にこの場を借りてお礼を言いたいと思います。みんなありがとう! これからもよろしく!
・優秀スタッフ賞
鎌田朋子
鎌田朋子
塵芥 ※代理:鈴木めぐみ
塵芥 ※代理:鈴木めぐみ
乘峯雅寛
乘峯雅寛
前田文子
前田文子
■最優秀男優賞:橋爪功(『謎の変奏曲』の演技)
・プレゼンター:中川晃教
中川晃教
僕も昨年この日を迎えた事を先ほど思い出していました。ミュージカル、演劇をはじめ、「今、日本でエンターテイメントが熱い!」そう実感できることが素敵なことなんだなと皆さんのスピーチを聞きながら、またこの会場の熱を感じながら思っています。たくさんのかたの想い、熱、応援があるからこそ僕もステージに立つことができています。まだ若輩者ではありますが、本日橋爪さんを初め受賞者の方々にトロフィーをお渡しします。皆さんと一緒にお仕事ができるよう、これからも精進してまいります。
◆橋爪功
橋爪功
今日ここに来る途中から緊張し始めました。今日は年甲斐もなく感動しております。年甲斐もなく、という話ですが、最近いろいろ話を聞いたり人に会ったり挨拶されて「ああ、どうも」と返事をし、3歩歩いて後ろを向くともう忘れていることがあります。本当に記憶が薄れていくというか、余分なことを覚えなくなったというか。本来ならこの場にいらっしゃる方々の名前を挙げてお礼を申し上げたいんですが、ほとんどの方を覚えられず(笑)。
忘れてはいけないのは演出家の森新太郎と、共演してくださった井上芳雄くん、この二人です。森新太郎はシンガポールに行っているため、この場にはいないのですが、森新太郎に鞭打たれたおかげで僕も台詞を覚えることができましたし、井上くんが本当に真摯で情熱を持って僕の芝居を支えてくださったからこそ演じ切ることができました。本当に感謝しております。
この芝居、本当のことを言うとウェルメイドの二人芝居ということであまり乗り気じゃなかったんです。でもいろいろな方に引っ張り出されたんです。なかでも家内が3年くらい前から「あなた、この芝居をやりなさいよ」と言われていまして。最後までケツをひっぱたいてくれた家内のおかげと思っています。ありがとう!
・優秀男優賞
市村正親
市村正親
佐川和正 ※代理:田中章子
佐川和正 ※代理:田中章子
佐藤誓
佐藤誓
中村雀右衛門
中村雀右衛門
■最優秀作品賞:『子午線の祀り』(世田谷パブリックシアター)
・プレゼンター:藤田俊太郎
藤田俊太郎
『子午線の祀り』この言葉の響きと壮大さ、一観客としてこの芝居を観させていただき、日本人であることの喜びを感じることができました。ほかの3作品からは言葉の恐ろしさと共に言葉の奥深さ、言葉の美しさを感じました。作品賞を受賞した全関係者の皆さま、本日はおめでとうございました。
◆野村萬斎(世田谷パブリックシアター芸術監督)
野村萬斎
世田谷パブリックシアターが20周年を迎えるということで精力的に活動しておりました。そのなかでもメインとなる作品が評価され、皆さまに感謝しております。私は基本的に世田谷の仕事をするときは着物を着ないようにしているんです。古典芸能をやっている人がいるっていう状態がなんだか感じ悪いかなと。現代劇に寄り添おうと思っていまして(笑)。でも作品が作品なだけに今日はあえて着物を着ております。
木下(順二)先生がギリシャ悲劇とシェイクスピアを想起しながら作られた作品であることを意識しながら取り組みました。先ほどケラさんが蜷川さんは卒業しよう、とおっしゃっていましたが、思い起こせば蜷川さんとアテネに行ってギリシャ悲劇をやったな…そしてホリプロさんのおかげでロンドンで『ハムレット』をやったな…そんないろいろな経験が今回やった作品に活かさせていると思います。
「源平もの」というのは能や狂言では「真骨頂」ということもあり、私に全権を任せていただきました。その成果が作品賞として評価いただき、みんなで喜びをわかちあえることを素晴らしく感じております。松井るみさんの美術と服部基さんの照明で「光と時代の波を作る」という無茶なお願いをしたり、ブレヒト幕を水平方向に使ってみよう、洋服の上に着物を着てみよう……そして「群読」というスタイルと取るなどしてみました。
キャストのみなさまにも御礼申し上げたいです。全部が盛り上がった結果が作品賞になりました。「公共劇場」という民間とは違った立ち位置ではありますが、これからもご支援いただければと存じます。
・優秀作品賞
『ザ・空気』(永井愛)
『怪人21面相』(和田憲明)
『屠殺人ブッチャー』(名取敏行)
名取敏行
■芸術栄誉賞:仲代達矢
先ほど橋爪さんが年寄りじみたことを言ってましたが、私が本物の年寄りの役者です(笑)。このような光栄な賞をいただき感謝しております。70年近い俳優人生で今までどうにか現役でいられたのはいろいろなすばらしい演出家、監督、共演者たちとの出会いのおかげだと思います。40数年前、亡くなった女房(宮崎恭子/隆巴)と共に「無名塾」という私塾をやっており、みんなと一緒に芝居をやってまいりました。本日賞をいただいたのはみんなの力のおかげ。あまり稽古場では言いませんが、次世代の役者たちに感謝をしております。85歳を過ぎました。もうそろそろかなと思いましたが、この賞を励みにもう少し頑張っていきたいと思います。
仲代達矢
■大賞・最優秀女優賞:宮沢りえ
『足跡姫~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~』『クヒオ大佐の妻』『ワーニャ伯父さん』の演技
プレゼンター:鈴木杏
鈴木杏
今日受賞された方々は、私のような若輩者がトロフィーをお渡しするなんて恐れ多いと思う役者です。すごく恐縮しており、昨年より緊張で汗だくになっています。また皆さんと共演できるよう、精進していきたいと思います。(宮沢)りえさんとはご縁があり、4度ほど共演させていただき、りえさんからは「ストーカー」と呼ばれています(笑)。お会いするたびに人を惹きつけて離さない力がどんどん増していて、もしかしたらりえさんは魔女なのでは?と思っていたんですが、さきほど大賞を受賞された女優さんのお名前(杉村春子、森光子、黒柳徹子、大竹しのぶ)を聞いて「ああ、やっぱりりえさんは魔女なんだ」と確信しました(笑)。もちろん誉め言葉です!これからさらにパワーアップして魔女になっていくりえさんをストーカーできるよう、私も精進いたします。
◆宮沢りえ
宮沢りえ
緊張しています。素晴らしい先輩たちを差し置いて(大賞受賞者の)あの席に座っていることの居心地の悪さったらなくて。
最初に舞台に立ってから15年くらい経ちました。そのなかで、爪がはがれるんじゃないかというぐらい高すぎるハードルを与えてくださったプロデューサーの方たち、ダメ出しばかりでちっとも褒めてくださらない演出家の方たち(笑)のおかげで、今、私はここにいるんだと思います。大賞を受賞された先輩方の名前を聞いて膝が震えました。この賞の重さと歴史を感じ、これをいただくには本当に覚悟が必要だと思っています。
宮沢りえ
15年間の間で素晴らしい言葉をたくさんの方からいただきましたが、そのなかで特に忘れられないのが、蜷川さんの言葉です。蜷川さんがある役者さんに「自分をもっと疑えよ、なんでもっと疑わないんだ!」と叱咤されていた、その言葉が私の心の中にすごく響いて。役と向き合って生きるには「本当にこれでいいのかな。こんな自分でいいのかな」と疑い続けることが誠実さにも繋がると思っています。今までもそうですし、これからも「表現者」としてひたむきに参りたいと思います。本当にありがとうございました。
・優秀女優賞
新橋耐子
新橋耐子
藤井由紀
藤井由紀
森尾舞
森尾舞
若村麻由美
若村麻由美
取材・文・撮影=こむらさき