「失ってはならないものがある」 東憲司が語る舞台『砦』(トム・プロジェクト プロデュース)~国家と闘い続けた夫婦の物語 

インタビュー
舞台
2018.3.26
東憲司

東憲司

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ダム建設反対運動を主導し、国を相手に闘い続けた室原知幸氏の半生を描いた、トム・プロジェクト プロデュース『砦』が再演される。作・演出を手がけたのは今、熱い人気を集める劇団「桟敷童子」の東憲司。今回は、演劇に触れる機会の少ない離島やへき地で公演を行う文化庁の戦略的芸術文化創造推進事業として、北海道も巡演した。故郷を守ろうと13年間闘い続けた男と妻の物語を、現代の日本へどう届けるのか、東に聞いた。

――この題材に出会ったきっかけは何でしたか?

岡田潔さん(トム・プロジェクトのプロデューサー)から渡された『砦に拠る』(松下竜一著)でした。国家の公共事業に私財を投げ売り、命を懸けて反対し続けた男の姿をまざまざと読み、すごいと!思ったんです。反骨魂の象徴として「蜂の巣城」という壮大な砦をつくり闘い続けた。ただ、原作はドキュメンタリーで “物語” ではない。登場する人間も多いので舞台にするには苦労しました。お客さまに壮大なイマジネーションをもってもらえばいいのだと思い踏み切りましたね。舞台の書き手としては、ドラマや人間感情の部分を創作していきました。

――平成の今を生きる書き手としてはどう感じましたか? 日本はいろんな問題が渦巻いています。

この脚本を書いているときに福島や沖縄のことが起き、ニュースに蜂の巣城紛争のことが出てきたりしていて、今も生き続けているのだと感じました。国家のために誰かが犠牲になって、ふるさとを捨てなくてはいけないことは現代も起きていますが、室原さんの精神は引き継がなくてはならないと思います。

――昭和32年に下筌ダムの建設計画が伝えられたとき、室原さんは60歳目前でした。

人生の晩年に降ってわいたような災難ですよね。静かに山を見て残りの人生を過ごそうと思っていたのに、闘争が始まった。それにはお金がいる。ふるさとを守るための闘争なのに、その山を売らなくてはお金ができない、という矛盾とも戦いながらの13年間。最初は純粋にふるさとを守る闘いでしたでしょうが、同士たちは脱落していき、60年安保などが始まり、ほかの陰謀にも巻き込まれていく。非常に大変だったと思います。

――室原さんは闘士というだけではなく、どこか人間臭さもあります。

そうなんです。非常に愛らしい人でもあるんですね。牛やアヒルを闘争に参加させてゼッケンをつけさせたり奇想天外。苦しい争いになるなら音楽を鳴らそう、祭りをやろうという。ただ同時に、布団が一ミリずれただけでも奥さんを怒鳴りつけるなど非常に偏屈な人でもあったそうです。

――とりまく建設省の人たち、そして奥さんの物語も丁寧に描かれていますね。

奥さんは、ダムができると聞いたときも、これから何が起こるか大変さにも気づいていなかったと思いますね。闘争の中で、生活を続けた奥さんもすごいと思うんですよ。日常を続けていくエネルギーは大変なもの。そこもピックアップしたかった。ダム反対運動に闘士を燃やした男と、淡々と日常生活を続けようとした妻。夫婦の愛の物語を絶対忘れてはいけないと思いました。

――夫婦役には村井国夫さん、藤田弓子さんとキャストも魅力的です。

村井さんは、昔から舞台も見ていて、すてきな役者さんだなと思っていました。エネルギーがものすごい。色っぽいですし、存在感もとびきりでいてお茶目ところもあって、ぴったりだと思いました。藤田さんが出られると聞いたとき、小踊りしたぐらいです。『泥の河』『遠雷』は大好きな映画なんです。日本的で古風で、耐えながらも夫を見守り続けているヨシに絶妙な女優さんとだ思います。

――今回は離島やへき地を回る事業で、車で何時間もかかる北海道の斜里町、中標津町、興部町、歌登町も公演されていますね。

へき地という呼び方がいいかどうかわからないですが、過疎化も進み芝居を見慣れていないお客さんも多くいらっしゃるでしょうから、この作品はぴったりだと思います。いろんなものを感じ取っていただき、僕自身も発見ができる。大都市ばかりの公演ではなく、こういう形で地方とのバランスは大事だと思いますね。

――東京在住ですが、いつも故郷の九州など地方からの目線で作品を書き続けていますね。

もしかしたら一段と険しい風景もあったかもしれないけど、そんな日本を捨ててはならない、失ってはならないと思います。東京にも雑多な人間がいて物語はたくさんあるのは確かなのですが、まだまだ知らない日本がたくさんあるので、それを見てみたいと思うんです。

――では、東さんの故郷での演劇の原点は何だったのでしょうか?

両親とも教師だったのですが、演劇鑑賞会のたびに託児所に預けられて面白くなかったなあという思い出かな。祖父が筑豊で剣劇をやっていたそうですが、見てはいないです。東京に出てきたのはシナリオライターになりたかったから。映画小僧でした。

――最近は、シナリオライターの仕事も増えていますね。

『めんたいぴりり』はドラマに続いて映画(2019年1月公開予定)の脚本も書いています。これは小説版も準備中です。ただ、シナリオやっていると映像の仕事の楽しさと同時に、ぼくは演劇がつくづく好きなんだなと思うんですよ。

――その演劇活動にどんな手ごたえを感じていますか? 桟敷童子は演劇関係者に大人気で、が入手困難な劇団になりました。

手ごたえなんて……。劇団に関しては、まだまだ試行錯誤です。来年で結成20周年なのですが、いまだに何をすればいいかわからないですね。舞台セットも自分たちで作っているので、ヘトヘトになるのですが、劇団員には「このスタイルはあとしばらく変わらないので、健康にだけは気をつけてくださいね」って言っています。とりあえず今は、このスタイルで踏ん張れるだけ踏ん張ってもみようかとは思っています。でも、この世界のことは本当に難しくて、落ち込んだり、落ち込んだり、落ち込んだりの繰り返しです。これでいいのか、といつも思いながらやっています。

――では、具体的にやってみたいことは?

それが漠然としていて、自分でもわからないんです。小説を書きながら、劇団の公演があって、夏に3人芝居があって、9月にはトム・プロジェクトさんで『にっぽん男女騒乱記』(仮)があります。何をやりたいというのはないですね。仕事をいただけるだけでありがたいので、どんな作品でも1本1本を大切にしていきたいと思っています。

取材・文・撮影=田窪桜子

公演情報

トム・プロジェクト プロデュース『砦』
■会場:両国シアターΧ(カイ)
■日程:2018年4月10日(火)~4月15日(日)
■作・演出:東憲司
■原作:松下竜一『砦に拠る』
■出演: 村井國夫 藤田弓子 原口健太郎 浅井伸治 滝沢花野
■公式サイト:http://www.tomproject.com/peformance/toride2018.html
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