不朽の傑作ミュージカル『ラ・マンチャの男』囲みインタビューレポート

レポート
舞台
2015.10.14
 舞台写真提供/東宝

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ブロードウェイミュージカルの日本上演から50年。この歳月を支えてきたと言って過言ではない、歌舞伎俳優であり、ミュージカル俳優である松本幸四郎が、ライフワークとも定める、不朽の傑作ミュージカル『ラ・マンチャの男』が、有楽町の帝国劇場で上演中だ(27日まで)。
 
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1965年に誕生したこのミュージカルは、1966年にブロードウェイに進出。5年6ヶ月のロングランを記録する大ヒット作品となり、トニー賞ミュージカル作品賞ほか計5部門での受賞を果たす成功を納めた。ミゲール・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」を原作に、デール・ワッサーマンの脚本、ミッチ・リーの音楽により、教会を侮辱した罪で投獄されようとしている作者セルバンテスが、申し開きの為に囚人たちを配役して即興劇を演じることを思いつき、その劇中劇の中で、田舎の郷士アロンソ・キハーナと、キハーナが創り出した人物である、遍歴の騎士ドン・キホーテを演じるという、三重構造で進められる革新的な作品となっている。
 
舞台写真提供/東宝

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そんな作品の日本での初演は1969年。落成間もない帝国劇場で、当時市川染五郎だった現在の九代目松本幸四郎が、弱冠26歳で主演を務めての出来事だった。
 
当時の日本はミュージカルの黎明期にあり、まだ1年間に上演されるミュージカル作品はわずかに1、2本。しかもショーアップされた明るく楽しいハッピーミュージカルが主流という時代に、この「見果てぬ夢」をはじめとした美しい数々のナンバーを持つとは言いながら、決して明るいとは言えない複雑で哲学的な作品である『ラ・マンチャの男』の上演に踏み切った東宝と、松本幸四郎の勇気には、現代では推し量りようもない大きなものがあったと思う。それでもまるで劇中のドン・キホーテ/セルバンテスが語る「一番憎むべき狂気は、あるがままの人生に折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ」という深いセリフに後押しされるが如く、幸四郎はこの作品と共に歩みを続けていく。

日本初演の翌年1970年には、日本人として初めてブロードウェイからの招待を受けて、単身ニューヨークに渡り、名門マーチンベック劇場で全編英語の台詞で海外の役者に伍し、計60ステージを務め上げた。また上演を重ねた日本公演は、前回2012年の公演、8月19日に1,200回目の上演を達成。脚本の故デール・ワッサーマンが遺した「この作品にふさわしい人に渡して欲しい」という意志のもと、記念すべき1,200回目の上演日に、ワッサーマン夫人よりトニー賞のトロフィーが幸四郎に授与されるという、輝かしい栄誉も得た。彼があるべき姿のために戦い続けたからこそ、作品はその後日本におこったミュージカルブーム、また数多いミュージカル作品群の中で淘汰されることなく、不朽の名作として輝き続け、今また世界初演から50年を数える今年、2015年、アルドンザ役に元宝塚歌劇団月組トップスター霧矢大夢ほか、新キャストを加え、東京公演初日に、1,236回目からの新たな歴史を刻んでいる。
 
舞台写真提供/東宝

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撮影/橘涼香

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【囲みインタビュー】

そんな作品と共に遍歴の旅を続ける、松本幸四郎、霧矢大夢、駒田一が、10月4日、初日を数時間後に控えた中、囲み取材に応えた。
 
撮影/橘涼香

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──初日を控えたいまの意気込みを。
松本 初日は何十回迎えても興奮して緊張します。
駒田 初日だけでなく毎日が緊張の連続なので、今日が初日なんだという感じですかね。頑張ります。
霧矢 私は今回初参加で、初めて帝国劇場にも立たせて頂きますので、毎日が緊張との戦いですけれども、自分らしく頑張ります。
──今回の初日で1,236回目の公演となりますが。
松本 そうですね。帝劇が出来て来年で50年になると伺いまして『ラマンチャの男』の初演が46年前ですから、帝劇とほとんど同じ年数を歩んできた訳ですね。ですから上演回数というよりも、僕にとっては何回最高の舞台があったか?を考えているうちに1,200回になっちゃったという気持ちです。いつも今日こそは!と思うのですが、なかなかやはり舞台というのは生き物ですから。
──3年ぶりの上演ということですが。
松本 今回、73歳を過ぎまして、ドン・キホーテの歳にだんだん近づいてきましたので、そういう意味では色々な経験もしました。お芝居の歌を歌う、踊りを踊る中に自分の人生経験が垣間見えることを感じます。
──初参加の霧矢さんについてはいかがですか?
松本 彼女が歌う「Its'all the same」を最初に聞いた時に、あ、カルメンのようだと思いました。曲が「ハパネラ」のようで、周りの男性がドン・ホセのようでね。掴みから見えてきましたね。宝塚出身で男役が女性になるとこういう魅力が出るんです。
霧矢 光栄な例えをして頂きましたけれども、まだまだ私の中では修行の日々でございます。
 
撮影/橘涼香

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──幸四郎さんと共演するということは?
霧矢 今、こうしてお話していても、また舞台上で対峙していても、ふっと「あ、私、松本幸四郎さんと共演してる!」と実感する時があったりして、夢みたいだなと思います。
松本 それは良い意味で?(笑)
霧矢 もちろんです! 役柄としてではなく、観客として感動してしまう時があって、それはいけない、役柄としてちゃんと対峙しなければ、と日々戦いでございます。緊張します。
松本 彼女がこの『ラ・マンチャの男』に出て、アルドンザ役をやって良かったなと思えるような千秋楽を迎えたいですね。
──駒田さんはいかがですか?
駒田 20年やらせて頂いているのですが、それでも未だに緊張しますが、言えなかったことが年々言えるようになったかなとか、舞台上でもだんだんやれることが増えてきたかなと。まだまだなんですけれども。
松本 その緊張は良い意味で?(笑)
駒田 良い意味です!もちろんです! 昔は触ることさえできなかった。今はこうして触れるようにもなりました!
松本 (『ミス・サイゴン』の)エンジニアが何を!
駒田 やめてくださいよ~(笑)。日々戦いながら幸四郎さんとお芝居ができるというのは、僕にとっても非常に勉強になりますし、前向きにひとつひとつ、今日の良いところを見つけていけたら、と思いながら毎日お芝居しています。
 
撮影/橘涼香

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──駒田さんから見た霧矢さんは?
駒田 初めて共演させて頂いたのですが、ずっと長年一緒にやらせて頂いていたかの如くで、『ラ・マンチャの男』にも昔からいたんじゃないかぐらいです。
松本 本当だね。
霧矢 いえいえ、私は初々しい気持ちで(笑)。
松本 稽古から先月の舞台まで3ヶ月、もう皆さんと同じ生活をしているのでね。苦しみも悲しみもありましたけれども、でも役者というのは、苦しみや悲しみをそのままに終わらせるのではなくて、苦しみを勇気に、悲しみを希望に変えるのが仕事だと思うんです。我々の歌や踊りやお芝居をご覧になったお客様が、苦しみや悲しみを感動に変えてくださったら。もうそれだけの為に我々役者は生きているようなものですから、そう思って毎日やっています。
──染五郎さんや松たか子さんは観にいらっしゃれるのですか?
松本 染五郎は大阪で芝居をしています。松たか子も稽古をしていまして、おかげ様で家族皆忙しくさせて頂いていて(笑)。孫は観に来ると思うのですが、ちょっとまだ難しいかも知れません。でもありがたいことですね。73にもなって『ラ・マンチャの男』を46年間も演じることができて、また今日は(亡くなった脚本家の)デール・ワッサーマンさん夫人がまたご観劇くださるということで。3年前にデール・ワッサーマンさんが受けたトニー賞のトロフィーを、「ドン・キホーテに一番相応しい人にあげてくれ」という遺言により、私が頂戴した時には、役者をやっていて良かったと思いました。そういう思いで今回の3年ぶりの『ラ・マンチャの男』を霧矢さんや駒田君はじめ、スタッフ・キャスト全力を挙げてお目にかけたいと思いますので、是非帝劇の方へいらしてください。
 
撮影/橘涼香

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──46年間演じられて、今は演出も兼ねておられるので、すべての場面が頭に入っているのでは?
松本 いえいえ、そうでもないですよ。間違えることも、上手くいかないこともあります。やはり芝居というのは生き物ですから、ただ一生懸命やれば良い芝居ができるか?と言えばそういうことじゃなくて、お客様を含めてその時間、空間のすべてが左右してきますから。とても難しいですね。
──46年前の初日のことは覚えておられますか?
松本 26歳でした。もうあまり覚えていませんが、その時はアルドンザ役の女優さんが3人いらしたので、舞台稽古を含めてすべての稽古を3回ずつした覚えがあります。それは大変でしたけれど、今にして思えばそれだけ稽古ができたということですよね。
──その時、46年演じ続けて1,200回という上演回数に行くと思われていましたか?
松本 いやいや、初演の頃はなかなか厳しくて。こういう作品ですしね。僕もそうですが、皆毎日現実に折り合いをつけて生きている訳です。でも、それでもあるべき姿はあるのではないか?人間にとってあるべき姿とはどういうものなのか?を考えさせてくれる芝居だったので。それまでミュージカルと言えば綺麗で歌って楽しくてという作品が多かった中に、出て来たこの作品ですので、最初は大変難しかったです。でもその時菊田一夫先生が「染五郎君続けようよ、続けてくれよ、日本にミュージカルが根付くまで続けてくれ」とおっしゃった言葉が未だに忘れられなくて。今やミュージカルは日本国中のどこかで毎月演じられているような時代になりました。だからその菊田先生の言葉が、この『ラ・マンチャの男』の「見果てぬ夢」のテーマのように思えてね。今でも僕は「見果てぬ夢」を歌う度に、亡き菊田先生の顔や、46年間出て来たこの帝劇や、この作品を上演するきっかけを作ったくれた亡き父親や、母や、色々思い出します。それを霧矢さんはじめキャストの方々が、本当に一生懸命、夏の暑い時だったのですが、稽古の時からついてきてくれました。まぁ霧矢さんなんて稽古の虫で。僕はとてもびっくりしました。日本のお芝居もこういう女優さん、また俳優さんが出て来て、やってくれれば大丈夫だな!と思いましたね。
 
撮影/橘涼香

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──ミュージカルの座長年齢として、森繁久彌さんを越えて最年長ということになりましたが。
松本 『屋根の上のヴァイオリン弾き』でしょう?その森繁さんの年齢を僕が超えたんですか?あぁ、そうでしたか!
──森繁久彌さんは72歳で。
松本 そうなんですね!いやこれは、もう笑うしかないですね(爆笑)。森繁さんとは晩年色々な思い出があって「あんたと友達で良かったよ」と言ってくれたんですが、それからしばらくして亡くなってしまって。僕を褒めてくれる人がどんどん亡くなってしまうので、寂しいんですけれども。でもまぁ本当に僕は今、この時、今日が最高の舞台にならないかな?ということだけなのでね。最年長とか言うことには、あまりピンと来ませんが。霧矢さんと駒田さんと並んで、『ラ・マンチャの男』の初日について話している、今この瞬間が本当にキラキラしています。生きているという感じがします。
──お幾つまで務めたいと?
松本 それは神のみぞ知るですね。よく「一世一代」と言われるのですが、僕は役者はあまりそういうことは言わない方がと。苦しみが勇気に、悲しみが希望に変えられなくなった時が、役者の引退の時だと思うので、そういう日がいつかはくるとは思いますが、こういういい共演者に恵まれて『ラ・マンチャの男』の灯がまたともるんですから、そんなことは言っていられないですね。
 
撮影/橘涼香

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──では改めて最後に意気込みを。
駒田 今月ひと月ですが、旦那(松本)がおっしゃったように1回1回を集中して怪我のないように、お客様に感動を届けられるような舞台にしていきたいと思います。是非劇場にいらしてください。お待ちしております。
霧矢 素晴らしい作品に出演させて頂けている喜びを噛みしめながら、精一杯自分らしいアルドンザを演じていきたいと思います。そして幸四郎さんとの共演という幸せを、毎日感謝しながらやっていきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。
松本 この『ラ・マンチャの男』というお芝居は、役者だから女優だから演じなければいけないというお芝居じゃないんです。人間だからどうしてもお客様にお見せしたいお芝居なんです。本当にあるべき姿とはなんなのだろう?ということを、どうぞ帝劇の『ラ・マンチャの男』をご覧になって考えてみてください。お待ちしております。
 
撮影/橘涼香

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【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/東宝】
 
公演情報
ミュージカル『ラ・マンチャの男』
撮影/橘涼香

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脚本◇デール・ワッサーマン 
作詞◇ジョオ・ダリオン
音楽◇ミッチ・リー 
演出◇松本幸四郎
出演◇松本幸四郎、霧矢大夢/駒田一 、ラフルアー宮澤エマ
石鍋多加史、荒井洸子、祖父江進、宮川浩 、上條恒彦  ほか
●9/2~21◎シアターBRAVA! (終了)
●9/26~28◎まつもと市民芸術館 主ホール(終了)
●10/4~27◎帝国劇場 
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
 〈料金〉S席¥13,500 A席¥8,000 B席¥4,000(全席指定・税込)

演劇キック - 宝塚ジャーナル
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