[大衆演劇の入り口から 其之三十一] これぞ現代の芝居小屋!担当者の情熱に感動した「おふろcafé湯守座」取材記
(上段左)湯守座外観(上段中央)大衆演劇担当・柿市久子さん(上段右)湯守座内観(下段)エントランスの吹き抜け
「四日市温泉 おふろcafé湯守座(ゆもりざ)」は、三重県四日市市に半年前オープンした温浴施設。名古屋駅から電車と無料シャトルバスで1時間足らずで行ける。三重か、遠いな~と戻ろうとした他県の方はどうか待ってほしい。旅芝居の劇団は移動する。自分の好きな劇団や気になる劇団がいつ湯守座に乗って、三重遠征を計画するとも限らないのだから…。
さて湯守座は、もともと「天然温泉 ユラックス」として大衆演劇ファンに長年愛された施設だった。設立から23年を迎えた2017年11月、湯守座に生まれ変わってリニューアルオープン。そのコンセプトは――
「現代の芝居小屋」!
全体が江戸時代の芝居小屋を彷彿させる
細々したところにまで“和”が仕掛けられている。(左)カプセルホテルのロッカーの模様(中央)大衆演劇が観られる広間のライト(右)雑誌コーナーの柱の絵
施設全体が和風で、細部まで芝居小屋をイメージさせるデザイン。ちょっとしたアトラクションを体感している気分だ。
「湯守座の由来は『湯を守り、大衆演劇(舞台)を守る』なんです」
と、湯守座副支配人であり、大衆演劇担当の柿市久子(かきいち・ひさこ)さんが話してくれた。
湯守座が気になるんです!取材させていただけませんか?と筆者が依頼メールを出したのは、お風呂に大衆演劇をくっつけたのではなく、「まず大衆演劇を中心に置く」という構造に情熱を感じたからだ。ここから、柿市さんのご協力を得て、大衆演劇ファン向けの湯守座の楽しみどころをお届けしていきたい。
①ソファー、Wi-fi、無料ドリンクでくつろぎタイム
館内を歩いて特徴的だと思ったのは、くつろげるスポットの多さ。
代表的なのは、入場してすぐに目に入る大きなソファー。大きなサイズかつ、程よい弾力が気持ちいい。
柿市さん「ソファーに一回ごろんとなってみていただいたら分かるんですけど、動きたくなくなるんです(笑)」
1階から2階に突き抜けるタワーの踊り場一つ一つが、くつろぎスペースになっている。2階のマンガコーナーにも個室の休憩スペースがずらり。友達同士で、開演前や昼の部と夜の部の間をこんな所でおしゃべりして過ごせたら、時間はあっという間だ。
※土日は大変混んでいたので、個室の場所確保は難しいときもあるかもしれない…。1階のソファーは日曜の昼でも空きがあった。
マンガも大量に揃っている
PCスペースもあり、Wi-fiに無料ドリンクのサービスも。ノートPCやタブレットを持っていれば、芝居の開演を待つ間に一仕事できそうな気がする。観劇ブログやツイッターをされる方にもおすすめだ。
②どこからでも観やすく、撮りやすい
そして肝心な舞台と客席。湯守座の舞台は、センターとしては非常に大きめである。席数は186席。
4月公演だった春陽(はるひ)座
上記は一番後ろから撮影した舞踊ショーの写真だが、お分かりいただけただろうか…。一つ一つの席が広く、人と人との間にゆとりがあるので、後方の席でも前の人の頭が視界に入ってこないのだ。
撮影しても、足元まで障害物なく撮れる
舞台を左右幅広く、役者さんの足元まで観られるのは嬉しい!かつ、全席椅子付きなので楽ちん。
柿市さん「どこからでも観やすい造りだと思います。有料席はプラスアルファの代金をいただく分、やっぱり特等席です。特に前列の桝(ます)席ですね」
そこで桝席に行ってみた。桝席は26席ある。
相当広々としている。しっかりしたソファなので、全身を預けて舞台が観られそうだ。桝席の料金は800円。う、高い…と一瞬思ったが、ふと気づいた。
「入館料は1,380円なので、桝席で観劇すると2,180円ってことですよね?」
2,180円なら、大阪や横浜の劇場と同程度。湯守座では、その値段で一番良い席で観られる。しかもいったん予約した座席は、昼の部・夜の部を通して確保できる。
柿市さん「最初は高いと言われがちだったんですが、大衆演劇ファンのお客様のクチコミのおかげで、桝席の特別感が少しずつ広まってきて、ありがたいです」
さらに、オペラ座のボックス席のような2階席もある(席料500円)。2階席は16席。
舞台を見下ろす2階席
こちらは、公演する座長にも「VIP席や」と言われるほど舞台が間近で観られる席だそうだ。
※座席予約については記事末尾に詳細。
③そのまま泊まれる
遠征ファンにとって重要なのが宿泊。ユラックス時代は宿泊できないのがネックだったが、湯守座にはカプセルホテルも!
カプセルホテルの個室番号も“〇番札所”と凝っている
柿市さん「湯守座にカプセルホテルがあることをまだご存じいただいていない方も多くて、今のところ女性用は満室になりにくいですね。男性用はけっこういただいてます」
なので女性ファンの泊りがけ遠征には今がチャンス。
④「この世界を知ってほしい」大衆演劇担当者の思い
柿市久子さん。お客さんからの愛称は「カッキー」
見ていて気づいた。柿市さんは、忙しい業務の合間にも時々、大衆演劇が観られる広間と食事処の間の扉付近に向かうのだ。
大衆演劇が観られる広間の前の扉
なぜだろう?と思っていたら、お食事をしていたお客さんが、舞踊ショーの様子が気になるのか、扉の隙間から中をのぞいていた。柿市さんが声をかける。
「どうぞ!中でご覧ください」
声をかけられた方は、案内されるまま大衆演劇の空間へ入っていった。
「湯守座になってから、若い方を含めて新しいお客様が増えました。おふろcaféブランド『湯守座』へ来てくださるので、大衆演劇をまったく知らない方が、いっぱいいらっしゃいます。『何をやってるの?』ってのぞいていかれるんですけど、観るには別途お金がかかるって誤解されている方も多いようなので…」
たしかに、劇場にはないセンターの長所は、お風呂目当てで来たお客さんに大衆演劇を観る機会を提供し、新規ファンの入り口になりえることだ。たが、気になっていたことを率直に聞いてみた。
「おしゃれな"おふろcafé"を目当てに来た若いカップルのお客様は、正直、大衆演劇をやっている広間にはなかなか入ってこないようでしたが…」
「そうですね、特にお芝居のときは、最初だけ扉の隙間からのぞかれていても、残念ながら最後まで観ていかれる方は少ないです。ただ、舞踊ショーのときは後ろから観られている方がみえるんです。なのでショーの上演中は扉も3か所くらい開けさせていただいて、ちょこちょこ行っては、のぞいてる方に『どうぞ』ってお声かけをさせていただいています」
それで扉の近くに立っていらしたのか…。
「大衆演劇を知らないお客様にも、まずは観ていただいて、こんな世界があるんやってことを知っていただきたいです」
新しいファンを増やしたい――という思いが、口調ににじんだ。実は柿市さんご自身も大の大衆演劇ファン。当然、各劇団の情報にも精通し、ユラックス時代から現在まで大衆演劇担当としてお客さんに親しまれている。
3~5月の公演案内
びっくりした話がある。各劇団が湯守座に乗る前、柿市さんは挨拶のために他の劇場やセンターまで出向いているという。
「前の月に遠くに乗られるときは、2か月前とかに行きます。4月公演の春陽座さんは、3月は横浜でしたので、2月の明生座のときにお伺いしました。『〇月の湯守座、よろしくお願いします』という感じでご挨拶に行きますね」
ニコニコと心和む笑顔。けれど、その奥に「湯守座の大衆演劇を守る」という覚悟が見えた。最後に、これから湯守座へ来る大衆演劇ファンへのメッセージをお願いした。
「5月で、湯守座オープンから半年になります。より多くの方に『湯守座になって良かった』と言っていただけるように…。大衆演劇を楽しんでいただける舞台・客席だと自信を持って言えますので、ぜひぜひ足を運んでいただきたいです!」
扉の前にちょこんと立っている柿市さん。入りづらそうにしているお客さんに、ササッと寄っていって声をかける。
「大衆演劇というのをやってるんです~ぜひご覧ください」
そして扉の中へ案内する。毎日、数人ずつ、少しずつ、こうやって大衆演劇の世界が浸透していくのだろう。
湯守座公式Twitter(@yumoriza)より
オープンから【0.5周年】に当たる5月は、柿市さんが講師を務める「大衆演劇いろは講座」をはじめ、たくさんのイベントが企画される。
和風アトラクション気分が味わえて、Wi-fiが使えて、写真が撮りやすくて、VIP席があって、泊まれて、大衆演劇を愛する担当者がいる「現代の芝居小屋」。大阪からの所要時間は2時間前後だ。好きな劇団や気になる劇団が乗ったとき、ぜひ遠征を検討してみてほしい。
大衆演劇開演時間:昼の部12:30 夜の部19:00 ※夜は舞踊ショーのみ
座席予約は10日前からフロント・電話で受付。来館当日もフロントで予約可能。