ザ・クロマニヨンズ 最新ツアーにみたラッキーでヘブンな本物のロックンロール
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
ザ・クロマニヨンズ ツアー ラッキー&ヘブン 2017-2018 2018.4.8 オリンパスホール八王子
『ラッキー&ヘブン』は、ちょっと変わった印象のアルバムだった。ザ・クロマニヨンズが得意とする疾走するエイトビートが少なく、ときに軽快にときにねばっこくスウィングするミディアムテンポが多かった。どっちにしても“ロックンロール!”であることに変わりないが、聴き心地は落ち着いていてハートウォーム。これはライブが面白いぞと思っていたら、編集部がレポートの仕事をくれた。ラッキー。およそ半年にわたるツアーのセミファイナル、4月8日のオリンパスホール八王子。ちょうど花祭りの日というのも、なんだか縁起がいいじゃないか。
オリンパスホール八王子は、近代的なビルの中に組み込まれた、木目調の壁にバルコニー席のついた3階構造。クラシックを聴くのが似合いそうな場所に前説者が現れ、「八王子のロックンロール・ピープルのみなさん!」と煽る。いきなり楽しい。どうやらこのツアーの設定は、みんなでロックンロールの船に乗ってラッキーなヘブンを探し行こうぜ、ということらしい。後にひるがえる、ツアータイトルを描いたフラッグが海賊みたいでかっこいい。直後に大歓声を浴びて登場するマーシー、コビー、カツジ、ヒロト。「オーライ、ロッケンロー!」とヒロトが叫ぶ。一発目はアルバムと同じ「デカしていこう」だ。渋めのオールドタイプのロックチューンで、聴き心地は爽快だが、ものすごい重低音のせいで椅子がビリビリ震える。バンドの調子は良さそうだ。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
ここからアルバムの曲順通りに「流れ弾」「どん底」、そしてシングルのカップリング「ぼー」と、王道パンクロックを三連発。「どん底」では盛大な手拍子が会場を包み込み、「ぼー」は3人のワイルドなコーラスで盛り上げる。日本一落ち着きのないロックンローラー・ヒロトの駄々っ子みたいなステージアクションは、いつ見ても笑っちゃうほどかっこいい。ステージ上には楽器以外何もなく、照明はピンスポットが3つか4つ当たるだけで、派手さを抑えた暗めのモノトーン調。秘密の遊び場っぽくていい感じだ。
「みんな元気だったか? 元気じゃなくても元気になるからね。…もうなってるか(笑)」
ヒロトのすっとぼけた、でも限りなく優しい言葉がうれしい。「足のはやい無口な女子」はラテン調のブルースのようなちょっと不思議なムードの曲で、どことなく昭和歌謡を思わせるノスタルジーがいい感じ。「ハッセンハッピャク」はマーシーの弾くファンキーなリフが最高にかっこよく、「嗚呼!もう夏は!」から「盆踊り」へと、お祭りビートに乗って春だというのに気分はもう夏。ヒロトが気に入って「シェー」のポーズを繰り返す。夏休みにはしゃぎまくる小学生みたいだ。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
「ここまま行くと10分ぐらいで終わっちゃう。このへんでほかのアルバムの曲を」
アルバムがいっぱいあるから、急に言われても困るから、ちゃんと練習してきました!と胸を張るヒロト。当たり前だろと突っ込むのも忘れて、ウオー!と応える我々。どっちもおかしい。曲は『YETI VS CROMAGNON』から、高速ビートチューン「チェリーとラバーソウル」「ヘッドバンガー」だ。会場全体が一体化する「Oi! Oi!」の掛け声に包まれる、『JUNGLE 9』からの「今夜ロックンロールに殺されたい」へ。得意のラモーンズタイプのパンクロックに乗せて<ただ無敵なだけ>と歌うヒロトが神々しい。客席はもれなく総立ち、総手上げ、総毛立ち。これは紛れもなくアンセムだ。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
「ここ、オリンパスホールっていうの? オリンパスのOM-1っていうカメラを中学生の時に買ったんです。戦前の話ですけどね」
へえ、ヒロトってカメラ好きだったんだ。豆知識をひとつ仕入れたあと、三たび『ラッキー&ヘブン』の世界へと舞い戻り、「ユウマヅメ」から「ジャッカル」まで怒涛の4連発。このセクションが最高に素晴らしかった。「ユウマヅメ」ははるかな郷愁を誘うロック童謡みたいだし、「ルンダナベイビー」はキングトーンズやオーティスあたりを思わせるあたたかいポップ&ソウル。ヒロトが突然“ガルルル~”とうなりだしたので何事かと思ったら、「ワンゴー」は犬の歌だった。その次の「ジャッカル」もイヌ科だから流れはバッチリで、ねばっこいブギーロックに乗せてヒロトがご機嫌なハーモニカを吹きまくる。『ラッキー&ヘブン』で一番おいしいバラエティが、一番おいしい形で今目の前にある。
ヒロトがハーモニカで吹く「リトル・レッド・ルースター」「メリーさんの羊」「ユー・ガッタ・ムーヴ」など、一節ごとに盛大な拍手と歓声が沸き上がる。何気ない即興だが、こういう楽屋裏みたいなシーンが見られるライブは楽しい。「アルバムの残り1曲は最後にとっておきます」ということでここから一気にラストスパート、「ペテン師ロック」「エルビス(仮)」「紙飛行機」「ナンバーワン野郎!」と威風堂々のシングル曲を4連発だ。ザ・クロマニヨンズの、もっと言えばザ・ハイロウズの、いやザ・ブルーハーツの時代から1ミリも揺るがない、ヒロトとマーシーが作り上げたこの国のロックンロールの一つの原型が次々と披露される。コピーでもオマージュでもない、本物のオリジナルが今目の前で聴けるなんて、今ここにいる人間はなんてラッキーでなんてヘブンなんだろう。
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理
照明がいつのまにかギラギラと色を増し、青と赤のライトが渦巻く中、「エルビス(仮)」の間奏でこの日初めて、マーシーとコビーがステージ最前線に踊り出た。さらなる重低音をひねり出すかのように、ただでさえ低いベースポジションがどんどん低くなる。「紙飛行機」のイントロでは、マーシーが得意げにピックスクラッチを決めてニヤリと笑う。「ナンバーワン野郎!」ではヒロトと観客が「イエー!」「イエー!」とホットなコール&レスポンスを交わし合う。「ライブは一回限り。2018年、4月8日バージョンです」とヒロトが叫ぶ。ラストチューンはアルバムと同じく「散歩」で、フォークロック調の爽やかな曲調が、強烈なロックンロールを浴びすぎて火照った体に心地よく沁み込む。うん、『ラッキー&ヘブン』の曲はやっぱりいい曲ばかりだ。
アンコール。マーシーとコビーはいつも通りに上半身ハダカ。「突撃ロック」「ギリギリガガンガン」、そして12年前の1stシングル「タリホー」というパーフェクトな選曲で、飛び跳ねるオーディンエンスの振り上げられた無数の拳でステージが見えない。横を見ると、上は50~60代から下は10代以下まで幅広い世代の笑顔が見える。ザ・クロマニヨンズが三世代ロックになったなんてビックリだが、本物のロックンロールが時代を超えて受け継がれてゆくのが嬉しい。様々なグルーヴを揃えた『ラッキー&ヘブン』の全曲に、代表曲をずらりと並べた素晴らしいロックショー。2018年4月8日のザ・クロマニヨンズは、今日も最高だった。
取材・文=宮本英夫 撮影=柴田恵理
ザ・クロマニヨンズ 撮影=柴田恵理