柿澤勇人『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2018』への熱い意気込み
(左から)ノーム・ルイス、柿澤勇人
ミュージカルの名曲を、フルオーケストラとトップスターの共演でお届けするコンサート『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2018』が2018年6月7日・8日に東京・Bunkamura オーチャードホール、9日に大阪・フェスティバルホールにて上演される。本コンサートに初出演となる柿澤勇人がインタビュー前、タイミングよく出演者のひとりであるノーム・ルイスと初対面し、コンサートに向けて今の思いを語ってくれた。
ーーノーム・ルイスさんとお会いになって、どんな印象を受けましたか。
お茶目で優しくて、心が暖かい方でした。お話を伺ったら、小さい頃から音楽をやられていたのではなく、26・7歳からプロのレッスンを受け始めたとか。新聞社で働きながら歌を続け、ある人に「ニューヨークに行きなよ」と後押ししてもらって、今のキャリアが始まったと。音楽以外の仕事をしていたこともエネルギーになっているとか、他の人からダメと言われても自分ではダメと思ってはいけないとか、深い話もお聞きしまた。『メリーポピンズ』もそうですけど、最近、海外の方とお仕事すると、考え方も文化も違って刺激になります。自分がいかに小さい人間だったかを思い知らされる瞬間があり、励みになります。
ーージョン・オーウェン=ジョーンズとノームさんを今までご覧になったことは?
聴いたことはありますが、生で見るのは初めてです。とにかく持っている楽器が桁違いで、恐ろしいくらい。一緒に舞台に立つ身としては不安ですよね。『メリーポピンズ』の大阪公演の休演日には練習しないと! もちろん張り合う意味ではなく、この共演は一生の思い出にしたいので、自分が出来る限りのことをしたいです。ブロードウェイやウエストエンド、世界のミュージカルの第一線でやられているお二人とこんなに近くにいられる機会はそうそうないでしょうし、一緒に歌えるなんてこの先あるかどうか。何か一つでも学べたらいいですね。
柿澤勇人
ーー彼らと同じ舞台に立てると聞いて、どう思いましたか。
僕はもともとミュージカルコンサートに出る人ではないし、これからも出るかどうかわからないですけど。なぜ出演を決めたかと言うと、フルオーケストラで歌える機会はそれほどない。しかもブロードウェイの第一線でご活躍されている大先輩と一緒に歌えるわけですから、僕にとって挑戦です。Bunkamuraオーチャードホールで歌うのも初めてで、楽しいのかプレッシャーなのかも、よくわかっていない(笑)。なるようになれ! と言う感じですね。
ーー日本人キャストで、春野寿美礼さんと宮澤エマさんが出演されますね。
エマちゃんは共演したことがありますが、春野さんとは初めて。皆さんの歌を聴くのも楽しみです。
ーーリハーサルで声を合わせるのはいつですか?
公演前日ですね。『メリーポピンズ』の大阪千秋楽が終わって、すぐ飛行機で東京に戻る予定です。『メリーポピンズ』で使うのは芝居の声で、歌おうとは思っていない。音を外してもいいから語ろうと歌モードではないので、このコンサートのために声を大阪で調整しないといけない気がします。結構、高いキーの歌を予定していますし。
ーー『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』『ジキル&ハイド』など有名ミュージカルの名曲が続々登場します。柿澤さんは『デスノート』や『紳士のための愛と殺人の手引き』から歌われるとか。
『デスノート』は、僕の役・夜神月の曲ではないナンバーを予定しています。だから反対に面白そうだなと。月の曲は今までもたくさん歌わせてもらったので。『紳士〜』の曲は コンサートで歌うのは初めてです。あの舞台を思い出しながら歌えたらいいですね。また9月に出演する『シティ・オブ・エンジェルズ』の曲も披露します。これはデュエット曲なので、相手の方に助けてもらいながら観客のみなさんに届けたいですね。
ーー役として作品の中で歌う時と、コンサートで歌う時の心持ちは変わるものですか。
僕もわからなくて。ノームさんに聞いたら、ノームさんも最初は違和感があったそうです。お客さまは曲を聴きつつ、演技をしている時の姿も見たいと。だから作品の感覚でパフォーマンスすることでだんだん慣れていったとおっしゃっていました。僕もそうなればいいかな。
ーーその点、『デスノート』は他の役の曲だから、今までにない感覚を味わえるでしょうね。
月として歌うと恥ずかしいんですよ。『デスノート THE CONCERT』をやった時も、どこまで演じていいのかよくわからなかった。だけど他の曲はいつも客観的に見て聴いているので、楽しめる気がします。
柿澤勇人
ーーこのコンサートも初挑戦ですし、現在公演中の『メリーポピンズ』では煙突掃除のバートとして今までと違うタイプの役柄、お芝居に挑戦していらっしゃる。今は新しいことにトライしたい時期ですか?
僕は役者でいたいので、そのためには新しい景色をどんどん見ないと生き残っていけないと思っています。今回のコンサートも、『メリーポピンズ』で初挑戦したタップも。この先タップを踏むことなんてないかもしれないけど、でもここまで自分に負荷をかけて泣きながら取り組んだ経験は、何かにつながると思います。「できない!」「嫌だ!」とか言っていたけれど、お客さまが喜んでいる姿を見ると、「ああ、やってよかった!」と思えて、少しは成長できたのかな。役者としてすごくいい経験になったので、このコンサートが次のエネルギーになればいいなと思っています。
ーーミュージカルの舞台に立つ上で、どんな役者像を目指していますか。
とにかく芝居ができないとダメだな、と。ミュージカルに関しては日本の場合、外国で作られた言葉が翻訳されて歌詞や台詞となります。その言葉を自分の言葉にすることが大事だと思います。どれだけその言葉を信じられるのか、稽古の時にどれだけ自分の言葉に近づけられるのか、近くないと感じたら相談して変えるのか。
とにかく、新鮮に芝居をすることが大切で……それは吉田鋼太郎さんから学んだことですね。シェイクスピアも翻訳劇ですから、いかに自分の言葉として喋るかどうか。ただ訳された言葉をロボットのように流暢に喋ったとしても、それは音でしかなく、心の言葉じゃない。鋼太郎さんはそれを自分の言葉にして、ちゃんとお客さんに伝えることができる。僕は『メリーポピンズ』でも納得のいかない言葉があれば毎日変えます。そこはすごくチャレンジしなければいけないところで、舞台の根本だと思います。ミュージカルの場合、そこに歌の技術が入ってくるので、トレーニングが必要ですが、根本となるのは芝居です。
『メリーポピンズ』については、動きが全部決まっているんですよ。セットがオートメーションで、一つ間違えると事故になるから、決めなければいけないんですけど。でも毎日、同じ芝居をして同じ音形で台詞を喋るのは、僕には耐えられない。それは僕が思うに、予定調和の芝居、洋画の吹き替え芝居みたいに思っちゃう。心がない芝居はあり得ないので、そこは絶対に変えていきたいと言う思いはあります。
ーー『メリーポピンズ』には名場面、逆さでのタップシーンがあります。あの時はどんな風景が見えているのですか。
今でも怖いですよ。5ミリ変わるだけで全く体感が違います。あの場面だけ毎回稽古してもらって、「怖い怖い」と言いながら、宙吊りの身体を「5ミリ近づけて、離して」と微調整します。ハーネスの締め具合によって全然違うんですよね。緩いと地上では楽だけど、上では不安定。逆にぎゅっと締めると、地上ではうっ血してしまう。バランスが難しいです。あのシーンは本当にスポーツ。アスリートになった気分です。
ーー最後に読者の方に一言お願いします。
僕が滅多に出演しないコンサートに出させていただきます。しかも共演は世界を代表するミュージカルスター達と、日本を代表するミュージカル女優陣。最強の布陣です。あ、僕以外ね(笑)。フルオーケストラでミュージカルナンバーが聴ける、至福の時間になるでしょう。僕も追いつけるように、皆さんに楽しんでもらえるように、『メリーポピンズ』で逆さ吊りになりながら、稽古場で一人練習します。その成果を観に来ていただけたら嬉しいです。
柿澤勇人
取材・文=三浦真紀 撮影=岩間辰徳
公演情報
読売日本交響楽団
円光寺雅彦(指揮)
読売新聞東京本社文化事業部
03-3216-8500(平日11:00~18:00)