異才フィリップ・ドゥクフレに直撃! 全国三都市で話題作『新作短編集(2017)』を上演
フィリップ・ドゥクフレ
才気煥発、自在な発想を持ち味に自由奔放でミラクルな世界を繰り広げる──。フランスを代表するダンスカンパニーとして名高いフィリップ・ドゥクフレ カンパニーDCAが、2018年6月29日(金)に始まった彩の国さいたま芸術劇場公演を皮切りに北九州芸術劇場、びわ湖ホールで『新作短編集(2017)―Nouvelles Pièces Courtes』 を上演する。ドゥクフレが東京都内で合同取材に応じた。
ドゥクフレといえば1992年に当時31歳の若さでアルベールビル冬季五輪の開会式・閉会式の演出を手がけ、スケールが大きく魅惑的なステージが話題となったのは記憶に新しい。日本にはカンパニーDCAを率いてたびたび来日し、また横浜での長期滞在制作作品『IRIS』(2003年)、楳図かずお原作のミュージカル『わたしは真悟』(2016年)などを発表している。
『新作短編集(2017年)』(2017年初演)は表題の通り短編集で、5つの作品(数え方によっては6つのパート)から成る。なぜ今、短編なのだろうか。ドゥクフレは強い影響を受けたアメリカ前衛ダンスの巨人であるアルヴィン・ニコライ、マース・カニングハムそれに20世紀初頭にディアギレフが率いたバレエ・リュスが主に短い作品に取り組んだ歴史的系譜を挙げる。そこを踏まえ1980年代以降のフランスでは公的支援を受けるなどして1時間半の「作品」を創る使命を帯び「退屈を引き起こすようなものになりがち」な状況のなかで「ある意味自由な形に自分は立ち返りたいと思いました」と心情を明かした。実際の作業としては長編を発表する時にも「小さなモジュールをパズルのように合わせていくという創り方をしていますが」と前置きし「今回はそれをわざと1本にまとめずに、それぞれ異なった方向性へと向かえるような形で短いままでご紹介します」と話す。
フィリップ・ドゥクフレ
まず1つ目は「音楽とダンスの関係に関する小品」。男女2人の出演者はダンサーであり歌が上手く、男性はピアノを、女性はフルートを演奏できるという。「ここでは彼らが同時に踊り唄ったり、アクロバットをしながら演奏したり、演奏しながら体を動かしたりできるかどうかに挑戦しました」。
2つ目は「穴」が中心的なテーマで、ドゥクフレにとって「知識人でありミステリーなところもあり、深い穴のようだった」と懐かしむ彼の亡き父親へのオマージュが込められている。とはいえ「作品を観ると全然そういう感じはしません。私の作品を創るうえでの栄養になっている部分ではありますが」とフォローがあった。
3つ目は「ヴィヴァルディの音楽にのせた純粋なダンス作品」で、アフリカの民族衣裳からインスピレーションを得ている。クラシック音楽に対してネオクラシカルな振付をほどこしているが「衣裳が狂気・クレージーさというズレをもたらしているかと思います」と解説した。
4つ目をドゥクフレたちは「進化」と呼ぶ。映像の研究が中心で、舞台前に3台のカメラがあり、ライブ映像を投影し、それがダンサーの身体とリンクし交錯する仕掛けだ。「空間の中でリアルなものとリアルでないものが混乱を起こしたりするような状況になったりします」。音楽で時折みられる、自ら演奏し録音した音源を再生しながら一人で複数の音を鳴らし演奏するような試みを映像でもやりたいと願っており「自分のクローンと一緒に踊ることが今回できるようになりました」と喜ぶ。そして、この後に空中演技のあるパートが独立したような形で入る。
フィリップ・ドゥクフレ
5つ目となる最後の小品は「日本への旅」。「旅」に関する作品を創りたいと構想したのが前回カンパニーDCAとして来日した時で、ダンサーたちに日本からモノや音、思い出、文章といった要素を持ち返るように頼み、その記憶を基に創作した。「日本は凄く好きな国ですがミステリアスであり続ける国でもあります。たくさんの愛情そして尊敬、そしてたくさんのクエスチョンマークが私にとって浮かぶ国です。たくさんの愛をこめて、軽やかなタッチで扱っています」。作中にボサノバの曲を使っているが、それは来日時に表参道を歩いていると聴こえてきた曲で「ブラジルの音楽ですが、日本の思い出と結びついています」と笑顔を見せた。
出演者は8人で(埼玉公演は7人)「多様な才能を持った人たちが集まっています」と自負する。ミュージシャンもいれば、映像の専門家もいて踊ったり舞台で使うライブ映像を撮影したりと大活躍。また文学的な才能を持つ女性がいて、セリフは彼女が書いたという。こだわりは生・ライブな感覚を大切にしていること。「生の生きたものを皆にお届けするという方針で創っています。映像はライブですし、音楽も最大限そうですし、もちろんダンスも生。生きたもの、生のものをお見せして、たくさんのバイブレーションを皆さんにお届けし、分かち合っていきたい」。そのうえで「あらゆる方々に向けてお届けしたい作品です。特別な知識を必要とするわけではなく、いろいろな解釈の仕方があると思います」とアピールした。
今回はドゥクフレも舞台に立つ。父へのオマージュを捧げた2つ目の小品でソロを踊り、最後の「日本への旅」を扱う場面にも登場する。後者では坂東玉三郎と歌舞伎へのオマージュを捧げ、女形を演じる(埼玉公演)のが話題だ。歌舞伎を扱うが、六本木で観たキャバレーショーの印象も強く、それも混ざった世界が展開される。「すごく高いヒールを履いて演じますので、足をくじかないようにするのが挑戦かもしれません。足のサイズが45(27.5㎝)なので凄いことになります(笑)」。舞台に立つ理由を問われ、その答えの一つとして「大好きだから」と断言し、「舞台では悲しいとか嬉しいとかといった感情、それに仮に悪いエネルギーでも、それを変換させて美しいものにしていくことができます。それは本当に素晴らしいことだと思います」と語った。
フィリップ・ドゥクフレ
取材・文・撮影=高橋森彦
公演情報
6月30日(土) 15:00 開演
7月1日(日) 15:00 開演
30日(土)公演をお持ちの方はどなたでもご参加いただけます。
出演