『未来のミライ』トークイベントレポート “手書きとCGのハイブリッドな表現”に込められた、細田守監督の想いとは?

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2018.8.5

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2018年8月4日(土)、映画『未来のミライ』とドコモ未来ミュージアムがコラボレーションしたデジタルアートワークショップ「デジタルがひらくこどもアートの世界」が、東京・デジタルハリウッド大学で開催された。この日登壇予定だった細田守監督は体調不良のため急遽欠席となり、『未来のミライ』プロデューサーの斎藤優一郎氏、CGディレクターの堀部亮氏、デジタルハリウッド大学の南雲治嘉名誉教授らが登壇した。

画家志望だった細田守監督ならではの、手書きとCGで描かれた世界

(左から)斎藤優一郎氏、堀部亮氏

(左から)斎藤優一郎氏、堀部亮氏

パネルディスカッションの最初のテーマは、「映画『未来のミライ』について」。斎藤氏いわく、細田監督は「自分の家族の中で起こっているおもしろさや問題意識というのは、世界中のどの家族でも起こっている。だから、自分の家族の中で起こっている問題を解決したら、それが世界中の家族が持つ問題解決にもつながるんじゃないか」と考えながら作品制作にのぞんでいるという。そのため、斎藤氏は「今回の『未来のミライ』も、監督の身近な体験から生まれた話だと思います」と考察した。

続くテーマは、「手書きとCG」。細田監督の映画にはCGが使われている一方で、キャラクターの絵コンテは紙と鉛筆で、背景美術も絵の具を使って描かれているのが大きな特徴だ。もともと監督は、金沢美術工芸大学で油絵を専攻する画家志望の学生だったということで、斎藤氏は「絵描きになりたかった人がアニメーション映画を作っていく時に、自分で描くことで線に宿るエネルギーを使いつつ、絵筆を変えるようにしてデジタルも使って、作品の広がりを有効的に描いている」と語った。特に『サマーウォーズ』以降は、堀部氏とともにCG表現を積極的に取り入れるようになったという。そういった手書きとデジタルのハイブリッドは、カンヌ国際映画祭でも大いに評価されたそうだ。

「映画の中で風を吹かせたい」というアイディアから生まれたCG表現

続いて、絵コンテから背景、CG、作画に至るまでの「アニメーションの作り方」が説明された。

『未来のミライ』のために描かれた絵コンテは、全部で918カット。細田監督がすべてひとりで手がけたという。とはいえ、『バケモノの子』では約1600カットだったため、918カットというのはかなり少ない方なのだとか。

また、CGがどういった動き方をしているのか、背景からCG部分のみを抜き取っての解説もあった。この背景のCGについては、『おおかみこどもの雨と雪』で、細田監督から「映画の中で風を吹かせたい(背景の草花を動かしたい)」という要望があったという。しかし、通常のアニメーションでは、背景の草花は一枚の絵として描かれることが多く、これらに動きをつけることは非常に難しかったのだそう。斎藤氏は、「最初どうしようかと思いました、細田監督は画家なので難しいことを言う」と苦笑しつつも、その結果、アニメーションでも草花が風に吹かれて動くさまを実現するまでに至ったと話した。

アニメーター以外のクリエイターも数多く携わった『未来のミライ』

本作でもかなりインパクトの強い「未来の東京駅」のシーンでは、くんちゃんの作画以外の背景や通行人は、ほとんどCGで作られているという。通行人は、「未来の東京」ということで、日本人以外の様々な人種もイメージして描かれているそうだ。また、これら多くの通行人の動作にはAIが使われているため、人々がぶつからずに歩くよう自動的に設定されているという。

この東京駅のシーンだけでも、レイアウトから映像が完成するまでに半年ほどの時間を要したというからおどろきだ。人物以外にも、案内板や広告モニターが数カ国語で作られているなど、非常に細かな部分にもこだわりが感じられる。ぜひ、劇場の大きなスクリーンで、これらを隅々まで鑑賞してほしい。

東京駅のシーンでは、遺失物係と時計の駅長という個性的なキャラクターにも注目だ。もともと、細田監督は様々なアイディアや表現を映画に取り入れたいと考えていたそうで、この遺失物係と時計の駅長のデザインには、あえてアニメーターではなく人気絵本作家・tupera tuperaを起用した。

さらに、「くんちゃんの家」のデザインも、建築家であるに谷尻誠氏を中心としたチームによって設計されているほか、「黒い新幹線」のデザインも、川崎重工業車両カンパニーで実際に車両デザイナーとして活躍する亀田芳高氏が手がけている。この「黒い新幹線」については、ざっくりとしたイメージを伝えたのみで、細かいデザイン案は発注していなかったそうだが、亀田氏が「“生きている新幹線”はどうですか?」と積極的にアイディアを出し、最終的なデザインになったという。

細田監督が描く“入道雲”は、“変化し続ける子ども”のイメージ

最後に、斎藤氏は“夏休み”にちなんで、細田監督と入道雲の関係性について以下のように話した。

「細田監督の映画には、よく入道雲が出てくるんです。なぜ、監督が入道雲を描くかというと、雲は“変化し続ける”から。アニメーションは子どもの成長を励ますためのものなので、常に変化する雲を描くことで、子どもの成長を表現しているんです。子どもたちは、変化、変容していく未来を見ているんじゃないか。大人になると、どうしても未来って不安なものだと思ってしまいますが、子どもたちが見ている未来は、きっとみずみずしくてバイタリティにあふれていて、ものすごくキラキラした世界なんじゃないか。そういった思いを込めながら、一枚一枚絵を描いて、映画を作っています」

映画を作るということは、多くのスタッフが多大な時間を費やして、ひとつの夢の世界を実現させるということ。

そんな『未来のミライ』の制作の裏側は、9月17日(月・祝)まで東京ドームシティ 「GalleryAaMo(ギャラリー アーモ)」で開催中の『未来のミライ展~時を越える細田守の世界』でも目の当たりにすることができる。多くの人々が携わった手仕事を、この折にぜひ堪能してほしい。

『未来のミライ展~時を越える細田守の世界』のレポートはこちらから

イベント情報

未来のミライ展~時を越える細田守の世界
『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』
日程:2018年7月25日(水)~9月17日(月・祝)
※開催期間中無休
時間:10:00~18:00
※最終入館は閉館の30分前まで
場所:GalleryAaMo(ギャラリー アーモ)
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