MUCCミヤのバースデイライブ 想像を越えたカバーに次ぐカバーの名演
MUCC
2018年7月26日。MUCCのリーダーでありメインコンポーザーであるミヤは30代最後の誕生日を迎えた。
そんな記念すべき誕生日の前夜、東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、『MUCC 2018 Birthday Circuit ~全員強制杉並 -cover PARADE MUCCを添えて-~』と題した、この日しか観ることの叶わないライブを行った。
このライブは、各公演メンバーのバースデーライブとして行われる『MUCC 2018 Birthday Circuit』の第1弾であり、7月25日の東京・恵比寿LIQUIDROOMはミヤ(G)、8月13日の愛知・名古屋ボトムラインはSATOち(Dr)、21日の茨城・水戸VOICEは逹瑯(Vo)、11月5日の東京・TSUTAYA O-WESTはYUKKE(B)と、誕生日を迎える主役自らがプロデュースを務めるという特殊なスタイルだ。
リーダー・ミヤの発案は【~全員強制杉並 -cover PARADE MUCCを添えて-~】という言葉どおり、すべてが【杉並縛り】であった。X JAPANの完コピバンド、X SUGINAMIのリーダーでありギタリストでもあるミヤらしい発案だ。
この日の参加アーティストは、MUCC、コーン杉並、PANDORA杉並 、GLAY杉並、ブルーハーツ杉並の5組。
PANDORA杉並
先陣を切ったのは、逹瑯率いる、Vo. 逹瑯(MUCC) Gt. MiA(MEJIBRAY) Gt. 海(vistlip)Ba. Masa(NOCTURNAL BLOODLUST) Dr. 足立房文(ex.フジファブリック)からなるPANDORA杉並であった。
SEを用いることなく、1曲目に用意されたLUNA SEAの「FACE TO FACE」が奏で始められると、ステージにかかった黒幕がゆっくりと左右に開き、PANDORA杉並が姿を現した。イベントライヴにありがちな“ノリ重視”の選曲とは真逆を行く混沌とした始まりに、オーディエンスは微動だにせず、その音と逹瑯の唄を静かに受け入れた。
様々な個性を持つプレイヤーで構成されたPANDORA杉並だが、今回から加入したギターの海を除き、この面子では“絶対に開けてはいけない箱”とされる【PANDORA】と、“あざむく”という意味を持つ【JUKE】、“声”という意味を持つ【VOX】を並べ、多数な楽曲を内蔵し人々に音楽を楽しませる演奏装置である“ジュークボックス”をかけたのであろう逹瑯らしい遊び心を備えたコピーバンド“PANDORA JUKE VOX”として、東京・大阪でのワンマンライブを共にしたメンバーとあって、この日も振り幅の広い選曲で楽しませてくれた。
足立のカウントから、海の妖しげなアルペジオに繋がれるとオーディエンスは歓喜の声を漏らした。L'Arc~en~Ciel の「浸食 ~lose control~」だ。真っ赤に照らし付けられるフロアで、オーディエンスは、その激しさと静けさが混在する愛しさに手を伸ばし、その音と唄を渇望した。
「今日は大いにリーダーを祝ってちょうだい!」(逹瑯)という一言を挟み込み、後半2曲は女性ボーカル曲Do As Infinityの「Desire」、椎名林檎の「ギブス」を披露。メタルをルーツとするMasaの重厚な低音とメタルと歌謡曲の幅広いルーツを持つMiAを軸とするサウンドで創り出された哀愁漂う女性目線の唄は、逹瑯というボーカリストを通し、より切なく情感溢れる詩(うた)となって届けられていたのがとても印象的だった。
コーン杉並
続いて登場したのは、この日の主役ミヤ率いるコーン杉並だ。
Vo. taama(ROACH) Gt. ミヤ(MUCC) Gt. 奈緒(アルルカン)Ba. Sacchan(DEZERT) Dr. SORA(DEZERT)で構成されたコーン杉並は、サウンドもヴィジュアルも圧巻の迫力だった。
奇怪な音色がフロアを侵食して始まった彼らのステージは、まさに、“始まり”を意味するスラングだとも言われている「It's On」で幕を開けた。Kornというバンドのサウンドを放つことを目的に集まった5人とあって、個々の音が突起させつつも、どこまでも激しく突き抜けながら1つにまとまって放たれる。その存在感は素晴しかった。DEZERTとして、日頃から同じバンドで共に音を放っているSacchan、SORAという絶対的なリズム隊が基盤をしっかりと作り上げているからこそ、ミヤと奈緒がとことん自由に、そしてアグレッシブにギターをかき鳴らせていたというのも大きいだろう。
そして、なんと言っても日本人離れしたボーカルが肝だろう。「Twist」で魅せたtaamaの歌唱は、右に出る者はいないと言っても過言ではないほどの個性を見せつけた瞬間だった。MCを差し込むことなく間髪入れずに音を届けた彼らだったが、ラスト1曲を残したそのとき、taamaが音を止めたのだ。
トラブルか!? と思いきや、片言で「明日は、何の日ですか?」とオーディエンスに問いかけ、メンバーが奏でる地獄の底から湧き出たかのようなヘヴィさの「ハッピーバースデー」で、ミヤを祝い、ラスト曲「Blind」を届け、ステージを締めくくったのだった。
GLAY杉並
3バンド目に登場したのは、YUKKE率いるGLAY杉並。若手を集めたというフレッシュな面子で構成されたGLAY杉並は、Vo. 奏多(ぞんび) Gt. 春(ザアザア) Gt. GAKU(FEST VAINQUEUR) Ba. YUKKE(MUCC) Dr. HAL(アクメ)。GLAYの「GROOVY TOUR」をSEに登場した彼らが1曲目に選んでいたのは「誘惑」。ド頭から、なんとも純度200%な勢いでGLAYである。あまりにも有名な「誘惑」とあって、客席は1曲目から大フィーバー状態である。“あの振り”で客席が埋め尽くされた光景は、とても綺麗だった。
「Yes,Summerdays」へと間髪入れずに続けられた後、ボーカルの奏多はMCを挟み、YUKKEへと繋いだ。「今日はこのような素晴しいステージに立たせて下さって本当にありがとうございます! ここでYUKKEさんの一言をいただきたいと思います!」(奏多) 「こんばんは。YUROです。フレッシュな面子を集めてみたんですが、みんなGLAY大好きなんで、リハをやっていても楽しいんですけど、好き過ぎるから、みんな厳しいんですよ! 特にGAKUくんが厳しくて、“YUKKEさん、そこコードこっちじゃなくて、こっちです!”って、絶対にミスを許さないんです!」(YUKKE)
それほどまでにGLAYを敬愛しているメンバーで構成されたという裏話を聞いた後に届けられた「SHUTTER SPEEDSのテーマ」。これもまた、JIROを崇拝しているYUKKEとしては、セットリストに入れない訳にはいかなかったのだろう。
もちろん、ここでは中央に立ち、さらにJIROに成りきるYUKKE。
この日は、ド頭から慣れないサングラスをかけてステージに上がり、JIROに成りきっていたYUKKEだったが、ミヤの誕生日を祝うということ以上に、GLAYに成りきれた時間を、誰よりも楽しんでいたように感じた時間であった。しかし、音楽を通して誕生日を祝おうという主旨は逸れていない、素晴しく盛り上がったステージは、「彼女の“Modern…”」で締めくくられたのだった。
ブルーハーツ杉並
杉並縛りラストはSATOち率いるブルーハーツ杉並。これが想像を超えたインパクトであった。
Vo. ガラ(MERRY) Gt. aie(gibkiy gibkiy gibkiy) Ba. 明希(シド) Dr. SATOち(MUCC)という、フレッシュなGLAY杉並に比べ、かなりなベテラン勢で構成されたバンドであったが、それ故、さすがと言うべきエンタテインメントなパンク精神をぶちかましてくれたのだ。
「人にやさしく」を1曲目に、声を張るガラの絶対的なポテンシャルには目を見張った。「人にやさしく」も、2曲目に届けられた「キスしてほしい」も、人間としての生き方や感情の在り方を素直に言葉にした歌詞が印象的な楽曲。音にも唄にも、そんな純粋さを感じさせてくれたのは、ブルーハーツ杉並として集まった4人の人間性が余計なものに覆われることなく吐き出されていたからなのではないかと思った。それほどまでに、純粋に引き込まれた感覚があった。ありきたりで使い古された表現ではあるが、4人が発したサウンドと唄には、【音楽の力】が宿っていたと感じた瞬間の連続だった。
「こんにちは! ブルーハーツ杉並です!」(SATOち)
SAOTちはドラム台から降りてボーカル位置に立ち、ガラと並んでMCを取った。一応年齢的には先輩にあたるガラだが、MUCCのメンバーからリスペクトありきのぞんざいな扱いを受けていることを、【MUCCのポイント】と称し、今回のこのブルーハーツ杉並でSATOちから誘われたことで、MUCCメンバーを制覇したことを夢烏(MUCCファンの呼称)に報告したのだった。
ラストに届けた「リンダリンダ」ではオーディエンスを巻込んで合唱させ、関係者席からも歓声が上がっていたほど、素晴しいライブを届けてくれた。
MUCC
トリを務めたのはMUCC。X JAPAN「Rusty Nail」から幕を開け、一気に盛り上げていく。直属の先輩でもあるcali≠gariの「せんちめんたる」からザ・スターリンの「ロマンチスト」への流れでは、オーディエンスがこの上ない盛り上りをみせた。
この選曲での盛り上りは、深く長くMUCCが愛されていることを証明していたと感じた。また、インダストリアルでBUCK-TICKの「love letter」やBOØWYの「BAD FEELING」などの選曲では、今のMUCCへの影響を大きく感じさせた場面だった。
BOØWYの「BAD FEELING」では、急遽、ガラをステージに呼び込んでのライブパフォーマンスも観れた。
リハーサルなしで飛び入り参加したとのことだが、プライベートでも交流の深い逹瑯とガラとの相性は非常に良く、ギターソロでは、MUCCの純粋なライブではなかなか見ることのできない、ミヤとボーカリストとの濃厚な絡みも見られた。これも、イベントライブという特性を武器とした見せ場。ガラというボーカリストの存在感が引き出した化学変化であったと言える。これに触発されてか、同じくギターソロでは、逹瑯とYUKKEの濃厚な絡みも見ることが出来たのだった。
ラストは【杉並縛り】を解き、純粋なMUCCで、7月25日にリリースとなったニューシングル「時限爆弾」のリード曲「生と死と君」を真摯に届けた。台詞を唱えるように大切に言葉が届けられていく「生と死と君」。愛する人との別れを想像させる歌詞が実に印象的。死生観だけではない深さが感じ取れるこの曲の“明ける夜と 生と死と君”という言葉に、この世に生を受けた日を祝う為に設けられたこの日の最後に、歌われた意味を深く結びつけていた自分が居た。
ニューシングル『時限爆弾』には、この他にもMUCCの新境地が伺える楽曲が揃う。常にMUCCらしくジャンルレスな個性を生み出していく彼らの音楽性には期待が高まるばかりである。
また、この企画ツアーは、冒頭でも記したように、各公演メンバーのバースデーライブとして行われる『MUCC 2018 Birthday Circuit』として、この先、8月13日の愛知・名古屋ボトムラインはSATOち(Dr)、21日の茨城・水戸VOICEは逹瑯(Vo)、11月5日の東京・TSUTAYA O-WESTはYUKKE(B)と、誕生日を迎える主役自らがプロデュースを務めるスタイルで展開されていくのだが、その詳細が見えてきたという情報が入ったので、お伝えしておこう。
まず、8月13日の愛知・名古屋ボトムラインで行われるSATOちday『MUCC 2018 Birthday Circuit ~夏だ!サマーだ!俺サマーだ!何も言えなくて…夏の日の2018~』は、SATOちが作曲したMUCCの楽曲をメインにセットリストを組む形でのワンマンライブとなる。メロディアスな歌メロを宿すSATOち曲故に、ヘヴィで激しいいつものライブとはまた違った景色を生み出すライブになりそうである。まさに、“この日しかないスペシャル”な世界観が見物である。
続いては、8月21日の茨城・水戸VOICEでの逹瑯day『MUCC 2018 Birthday Circuit ~Happy Birthday to 逹瑯 -君とムックとあいつとあいつとあいつ-~ 』。この日は、なんと、ゲストボーカル3名を迎えたワンマンライブになると言うから見逃せない!
ゲストボーカリストは追って告知されると言うのだが、交友関係の広い逹瑯ならではの発案と言えるだろう。どんな【PANDORA】の箱が開くことになるのか!? 是非、その目にしっかりと焼き付けてもらいたい。残すは11月生まれのYUKKEバースデーライブに先駆け夢烏のためのバースデー特別企画を行おうというのである!
これは、8月26日に大阪・なんばHatchで、夢烏day『MUCC 2018 Birthday Circuit~私達おめでとう!MUCC強化プログラム「MUCCかかってこいやあ!」~』として行われる。なんと、この公演は、ファンから曲を募集してセットリストを作成するという、“聴きたい曲が聴けちゃう夢のようなライヴ”なのである(投票期間は8月13日(月)~17日(金)予定)!
さらに歴代衣装から好きなものを夢烏が選んで投票できる“観たい衣装が観れちゃう夢のあるライヴ”でもある! こんな嬉しいサプライズ付きだと言うからには、駆けつけるほかない。是非とも、ここでしか観れないMUCCを体感してほしい。
取材・文=武市尚子、撮影=西槇太一
ライブ情報
『MUCC 2018 Birthday Circuit ~夏だ!サマーだ!俺サマーだ!何も言えなくて…夏の日の2018~』
8月13日(月) 名古屋ボトムライン (SATOち day)