KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2018、全公式プログラムと見どころを紹介

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2018.8.24
市原佐都子/Q『毛美子不毛話』 Photo by Mizuki Sato

市原佐都子/Q『毛美子不毛話』 Photo by Mizuki Sato

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今年のテーマは「女性」。女性とアート、女性と世界の関係を改めて考察する。

タイトル通り、国内外各地の「EXPERIMENT(実験)」を感じさせる、先鋭的なステージパフォーマンスが集結する「京都国際舞台芸術祭 KYOTO EXPERIMENT」(以下KEX)。7月に行われた記者会見を元に、第9回となる2018年度のKEXの概要を、公式プログラム15作品を中心に紹介する。



今回の公式プログラムの大きな特徴は、女性の作・演出家・振付家や、女性という性を強く意識した作品作りに挑むアーティスト/団体で固めたこと。正統派の演劇から美術や映像寄りなものまで、その表現スタイルはもちろん、セクシャリティとの向き合い方も、実に多様なアーティストが勢ぞろいしている。それぞれの作品を、上演日程順に簡単に紹介しよう。

掃除機からセックス・トイまで、様々なアイテムと自らの身体との関係を追求し続ける、韓国のジョン・グムヒョンは『リハビリ トレーニング』(10/6~8)を日本初上演。今回使用するのは、医療教育の現場で使われる原寸大の男性の人形。ジョンが人形を操作するうちに、次第にその関係が奇妙な形に変化していく様を見せていく。この2人? の様子を、場内を移動しながら好きな角度で楽しめるという鑑賞スタイルもユニークだ。
 
ジョン・グムヒョン『リハビリ トレーニング』 Photo by Mingu Jeong

ジョン・グムヒョン『リハビリ トレーニング』 Photo by Mingu Jeong

KEXには2010年以来二度目の登場となる、フランスのジゼル・ヴィエンヌ/DACMは『CROWD』(10/6・7)を日本初上演。大音響のダンスミュージックに合わせて、パーティに興じる若者たちの秘められた関係性を、一言も台詞を発せずに浮かび上がらせるという。ゴシックホラー風の妖しくも生々しい舞台を見せた前回とは対照的ながらも、人間の根源的な暴力性を突きつけられる世界という点では共通していそうだ。

ジゼル・ヴィエンヌ/DACM『CROWD』 Photo by Estelle Hanania

ジゼル・ヴィエンヌ/DACM『CROWD』 Photo by Estelle Hanania

ブラジル生まれで、ウィーンとヘルシンキを拠点とする多国籍アーティストのロベルタ・リマは、京都・伏見の酒造工程や、女性と酒にまつわる歴史にインスパイアを受けた『水の象(かたち)』(10/6~21)を世界初上演。期間中会場でインスタレーション作品展示を行い、10/8・14・21にその中でパフォーマンスを披露する。回によって内容は異なり、インスタレーションもまた変化していくという、まさに水のように自由な世界を展開する。

ロベルタ・リマ『水の象(かたち)』 Photo:Tomi Kattilakoski. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie.

ロベルタ・リマ『水の象(かたち)』 Photo:Tomi Kattilakoski. 2018. Courtesy of Roberta Lima and Charim Galerie.

沖縄を拠点とする映像作家・山城知佳子は、三画面映像インスタレーション作品『土の人』(10/6~11/18)の展示と同時に、本作と連動したパフォーマンス作品『あなたをくぐり抜けて』(10/12・13)を世界初上演。沖縄と類似した歴史体験を持つ韓国・済州島を舞台に、ヒューマンビートボックスなどを絡めながら“戦争の記憶”を描き出した本作から、どのような言葉と身体、音楽と動きが生まれるのかに期待したい。

山城知佳子『土の人』 ©Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associate

山城知佳子『土の人』 ©Chikako Yamashiro, Courtesy of Yumiko Chiba Associate

ウィレム・デフォーやフランシス・マクドーマンドを輩出した、アメリカの前衛劇団の名門・ウースターグループは、実際の出来事を元にした名作『タウンホール事件』(10/12~14)を関西初上演。1971年にNYのタウンホールで行われた、女性解放に関する討論会をテーマにした映画『タウン・ブラッディ・ホール』をベースに、フェミニズムを語る上で外せない伝説の一夜の出来事を、この討論に参加した女性作家の視点から再構築していく。

ウースターグループ『タウンホール事件』-クリス・ヘジダスとD・A・ペネベイカーによる映画『タウン・ブラッディ・ホール』に基づく Photo by Steve Gunther

ウースターグループ『タウンホール事件』-クリス・ヘジダスとD・A・ペネベイカーによる映画『タウン・ブラッディ・ホール』に基づく Photo by Steve Gunther

昨年のKEXに引き続いて参加する、ベルリン在住のアーティスト・田中奈緒子は『STILL LIVES』(10/13~16)を日本初上演。廃墟の遺物めいたインスタレーション作品に、人間の身体と照明効果を持ち込むことで新たな解釈を広げるというのが彼女のスタイルだが、今回は何と世界遺産・二条城の御殿内で上演。伝統美と歴史の重みに囲まれた空間での上演は、観る側のみならずパフォーマー側にも大きな変化と刺激を与えそうだ。

田中奈緒子『STILL LIVES』 Photo by Henryk Weiffenbach

田中奈緒子『STILL LIVES』 Photo by Henryk Weiffenbach

クラシックバレエとクラブカルチャーをミックスさせたクールなダンスで、2014年のKEXで大きな支持を集めたフランスのダンスデュオ、セシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョーは『DUB LOVE』(10/18~20)を日本初上演。巨大音響システムから流れる大音量のダブサウンドに乗せて、バレエのポワント(つま先立ち)を多用したダンスを見せるという。前回同様、優美と俗気が渾然一体化したような空間を目撃することができるだろう。

セシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョー『DUB LOVE』 Photo by Laurent Philippe / Divergences

セシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョー『DUB LOVE』 Photo by Laurent Philippe / Divergences

「ヴェネツィア・ビエンナーレ2018」で銀獅子賞(舞踊部門)を受賞した振付家、マレーネ・モンテイロ・フレイタスは『バッコスの信女-浄化へのプレリュード』(10/20・21)を日本初上演。調和と理性のアポロン/野生と衝動のバッコスという2人の神に引き裂かれる人間の姿を描いたギリシャ悲劇のテキストを元に、音楽&ダンスを大胆に盛り込んだ、過激ながらもユーモアにあふれた世界を見せていく。

マレーネ・モンテイロ・フレイタス『バッコスの信女—浄化へのプレリュード』 Photo by Filipe Ferreira

マレーネ・モンテイロ・フレイタス『バッコスの信女—浄化へのプレリュード』 Photo by Filipe Ferreira

KEX三度目の登場となる、ドイツのパフォーマンス集団She She Popは『フィフティ・グレード・オブ・シェイム』(10/24・25)を日本初上演。青少年たちの性を描いた名作戯曲『春のめざめ』と、映画化もされた大ヒット官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』をモチーフに、性教育のレクチャーの体裁で“性”について多方面から考える。出演者たちの姿を不気味にユーモラスに切り貼りする、視覚効果面でも楽しませてくれるはずだ。

She She Pop『フィフティ・グレード・オブ・シェイム』 Photo by Doro Tuch

She She Pop『フィフティ・グレード・オブ・シェイム』 Photo by Doro Tuch

毛美子不毛話』で「第61回岸田國士戯曲賞」最終候補にノミネートされ、攻撃的なほど“女性”を全面に出した作風で審査員たちを圧倒した市原佐都子/Qは『毛美子……』『妖精の問題』の2作品(10/25~28 ※1つの回に付き1作品を上演)を関西初上演。理想の靴を探す女性と奇妙な人々との出会いを描く『毛美子……』に、落語・ミュージカル・セミナーの三部作形式で送る一人芝居『妖精……』。どちらを観ても、嫌悪と痛快の境界線へと果敢に攻め込んだ言葉の数々に、戯曲賞審査員たち同様に圧倒されることだろう。

市原佐都子/Q『妖精の問題』 Photo by Mizuki Sato

市原佐都子/Q『妖精の問題』 Photo by Mizuki Sato

ベルリンと福岡を拠点とするダンサー・振付家の手塚夏子/Floating Bottle​は『Dive into the point 点にダイブする』(10/26~28)を世界初上演。手塚が2001年から取り組んでいる「西洋近代化を一つの境に、居住する地域・コミュニティの芸能を観察し、そこから現代を生きるための芸能を立ち上げる」というテーマに共鳴した、スリランカのヴェヌーリ・ペレラ&韓国のソ・ヨンランと共同制作。「西洋近代化」の視点をアジア全域──特に国境や権利などの「線引き」が強化された事実に焦点を当てた作品になるそうだ。

手塚夏子 Floating Bottle Project vol.2『Dive into the point 点にダイブする』 Photo by ST spot

手塚夏子 Floating Bottle Project vol.2『Dive into the point 点にダイブする』 Photo by ST spot

5年前にKEX初参加を果たし、映像と音楽、虚構と現実を奔放にミックスした世界で衝撃を与えた、アルゼンチンのロラ・アリアスは『MINEFIELD-記憶の地雷原』(10/26~28)を日本初上演。1982年に英国とアルゼンチンの間で勃発した「フォークランド紛争/マルビナス戦争」について考える芝居を、双方の国の退役軍人たち自身に演じてもらうという大胆な企画。あの戦争の真実に迫るだけでなく、人間の記憶の曖昧さも同時に考えていく作品だ。

ロラ・アリアス『MINEFIELD—記憶の地雷原』 Photo by Tristram Kenton

ロラ・アリアス『MINEFIELD—記憶の地雷原』 Photo by Tristram Kenton

以上の公式プログラム以外にも、KEX期間中に日本で滞在制作を行うチリのアーティスト、マヌエラ・インファンテの報告会『CHI-SEI.』(10/28)や、京都で活動する若手を中心とした36作品がエントリーした「フリンジ企画」などもあり。また10/5に、京都市内で各種パフォーマンスが一晩中行われるアートイベント「ニュイ・ブランシュKYOTO2018」でもプレイベントが開催される。

この記者会見には、公式プログラム参加アーティストを代表して、山城知佳子と市原佐都子が登壇。それぞれ「大きな舞台でのパフォーマンス作品は初めて。映像作品の空間や人物を取り出したような、一体感のある場を作りたい」(山城)「自分にリアリティのある問題があった時“作品にしたい”と思う。その際は私との関係や視点で作るから、女性中心的な世界になるのは当たり前のこと」(市原)と、自らの世界とKEXでの抱負を語った。

記者会見に出席した山城知佳子(左)・市原佐都子(右)。 Photo by Miwako Yoshinaga

記者会見に出席した山城知佳子(左)・市原佐都子(右)。 Photo by Miwako Yoshinaga

#MeToo運動の広がりで、改めてアートジャンルにおける男女の差についてスポットが当たっている現代に、偶然とはいえ狙ったかのように「女性」についてとことん考えさせる企画をぶつけてきた今年のKEX。とはいえ、ストレートに女性の権利について訴えるような作品もあれば、「女性が作った」と特に意識させないような作品もある。むしろ「女性アーティスト」と一言で言っても、その志向と手法と“性”の意識は、アーティストの数だけ違いがあるのだ──ということを感じるだけでも、約1ヶ月間京都に通う価値は大いにありそうだ。関西エリア以外の人には、公演付きの宿泊プランもあるので、併せてチェックしておこう。

取材・文=吉永美和子

公演情報

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2018」
 
■公式プログラム参加アーティスト:
ジョン・グムヒョン、ジゼル・ヴィエンヌ/DACM、ロベルタ・リマ、山城知佳子、ウースターグループ、田中奈緒子、セシリア・ベンゴレア&フランソワ・シェニョー、マレーネ・モンテイロ・フレイタス、She She Pop、市原佐都子/Q、手塚夏子/Floating Bottle、ロラ・アリアス
■日程:2018年10月6日 (土) ~28日 (日)
■会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール“アルティ”、元離宮二条城、ほか
■料金:公演によって異なる。
※学生・ペア割引あり。
※公式プログラム全作品を鑑賞できるフリーパスや、3演目セット券なども発売(前売のみ)。
※年齢制限のある作品も含まれているので、事前にご確認を。
■公式サイト:http://kyoto-ex.jp/
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