棚橋弘至の「自分でストーリーを作り出す」仕事術~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術【コラム】

コラム
スポーツ
2018.9.26

徐々にファンに認められたエース棚橋

この人、凄いな。

先日、41歳でG1クライマックス自身3度目の優勝を飾り、21日から公開の映画『パパはわるものチャンピオン』にも主演している棚橋弘至のインタビューへ行って来た。他にも数社の媒体が取材に来ていて、まず5社で棚橋を囲んで共同インタビュー、それから各社15分ほどの個別インタビューと撮影に入る。…と文字にするとあっさりしているが、その様子を見ながら「すげーな。自分にこれと同じことができるだろうか?」と考えてしまった。

ライターもたまに本を出版すると、いくつかの取材やイベント出演が入る。けど、どうしても質問内容は被るし同じようなことを話すので、こちらも心身ともに疲弊してくる。就活面接を繰り返すとやたらと疲れるあの感じ。プロモーション活動が好きな物書きはほとんといないと思うが、選択肢が無数にある娯楽多様化時代だからこそ、もはや自分である程度の販促活動をしないと成立しないのが現状だ。いや、それはどのジャンルも同じかもしれない。プロ野球にしても、プロレスにしてもだ。

今回、柴田勝頼Tシャツを着ていった自分はもちろん、同行の30代後半のA編集マンも昔からのプロレスファンである。80〜90年代のプロレスを熱心に見ていたファンからしたら、棚橋弘至の存在というのはひと言で説明するのが難しい存在だ。正直、デビュー当初はいい印象を持っていなかったファンも多い。なぜなら、自分たちが応援してきたプロレスラー像とはあまりに違いすぎるキャラクターとスタイルだったからだ。

でも、その異端の棚橋が、傾きかけていた新日本プロレスを立て直す原動力になったのはまぎれもない事実。地道に膨大なプロモーション活動をこなし、リング上では体を張った。「この人、凄いな」の積み重ね。彼は最初から支持されていたわけではなく、その過程で徐々にファンに認められていったエースなのである。
 

失敗を恐れず、自らテーマを提示する男

棚橋は何冊かの著書を出しているのが、そこから分かるのは「自己テーマ設定の巧みさ」だ。自ら分かりやすいストーリーやアングルを作り出し、それをファンに提示し共有する。

例えば今回のインタビューでは、過激な攻防が増えた最近の新日のリングについて「今はケニー・オメガを中心に技を出して出して出して重ねていくプロレスというのがトレンドなんです。それがファンに受け入れられて盛り上がっているんだけど、一方で情報量が多すぎて『あそこが勝負のポイントだったよね』みたいなところがないんですよね。これは完全にアンチテーゼなんですけど、今、新日のリングには棚橋の抑止力が必要なんですよ」と不敵に笑う。

そして、「自分は技を出さずに勝つレスラーになりたい」と宣言するのだ。時代の流れを見て、どうすれば棚橋弘至というレスラーの存在が際立つのか考え抜き、今後のテーマ、いや“最新の棚橋の楽しみ方”を提示してみせるのだ。

仕事に悩む会社員へアドバイスするとしたら、という質問には「僕の経験上、意外と皆さんトライしてないんですよね」とズバリ言う。

「トライアンドエラーってよく言うじゃないですか。エラーでいいんですよ。エラーをしないと、どこが悪いかとか、どこに伸びしろがあるか分からない。なので、失敗を恐れずに。これを棚橋語にすると『怒られてもいいや。やってしまえ』と。人としての成長につながるかもしれないと考えたら、一瞬怒られたって別にいいじゃないですか。守りに入るんじゃなくて、攻めのスタンスです」
 

棚橋が指摘していたオカダ・カズチカの課題

ちなみに棚橋の著書『全力で生きる技術』(飛鳥新社)の帯には、「失敗するから成功できる」の一文が確認できる。3年前の自身2度目のG1優勝直後に出版された本書で興味深いのは、オカダ・カズチカについて触れた箇所だ。当時破竹の勢いで快進撃を続けていた20代のオカダに対して、「対戦相手との関係性をファンにアピールするだけの“言葉”を獲得したら、オカダはさらに階段を昇れるはずだ。僕はいつもこの“試合の見方”をプレゼンしてきた」と指摘する。

その上で「オカダが真に“自分の言葉”を持ちはじめたら、誰もかなわないと思う」と書くわけだが、ここから3年が経ち、30歳になったオカダはセコンド外道さんのマイクからついに自立した。まさに自分の言葉を獲得しようとしているわけだ。棚橋の先見の明とプロレス頭脳はさすがのひと言である。

正直に書くと、自分の好きなレスラーは柴田勝頼だし、今一番楽しみにしているのはケニー・オメガvs飯伏幸太のIWGPヘビー級王座戦だ。それでも、棚橋のコメントは常に気になってしまう。現在41歳。年齢を重ねることに対し、恐れより、40代の生き方の新たなストーリーを獲得したという思いの方が強いのではないか。

近いうち、それを自分の言葉で提示してみせるのだろう。いったい次に何を見せてくれるのか?……ってあれ? こんな期待をしてしまう俺は、もしかしたら棚橋のファンになってしまったのだろうか。

棚橋弘至、つくづく恐ろしい男である。

 

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