大衆演劇の入り口から[其之六]・後編 トリプルインタビュー!劇団KAZUMAを支える三人衆にお話伺いました!
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左から柚姫将副座長、千咲大介座長(劇団千咲)、冴刃竜也副座長
まっすぐ、ひたむきな目。アンニュイな艶に潤む目。パッと瞳に華がひらくような目。三者三様の目が舞台に光る。柚姫将副座長33歳、冴刃竜也副座長33歳、千咲大介座長(劇団千咲)32歳。劇団KAZUMAを支える三人衆は花盛り!9月に訪れた平針東海健康センターで、幸運にも3人同時にお話を伺うことができた。
―それぞれ、もう長い役者生活を送ってらっしゃいますね。
柚姫将副座長(以下、将) 自分の初舞台は19歳で、最初から劇団KAZUMAだけです。一馬座長が一回役者を辞めてるときに、保険会社で働いてて、保険会社の上司がうちの近所の人だったんですよ。で、座長が旗揚げするために役者に戻るっていうときに、その人を誘ったんです。旗揚げにはやっぱり人数が要るんで、他に誰かいませんか?ってことになって、紹介されたのが俺です。座長とその人がうちに来て。で色々話をして、入るようになったんですね。
冴刃竜也副座長(以下、竜) 初舞台は16歳です。そのときは、まだ劇団KAZUMAは旗揚げ前で、最初はふじ劇団(劇団ふじ)にいました。初代藤ひろし先生のところです。大介も一緒です。
※初代藤ひろし先生…九州の大衆演劇を支えてきた大ベテラン役者。藤美一馬座長の師匠でもある。
千咲大介「劇団千咲」座長(以下、大) 初舞台は16歳ですね。僕も最初は初代藤ひろし先生のところです。5年くらいいました。
―大介さんは一度役者を辞められていたそうですね。
大 はい、一度辞めました。でもそのときも、また必ず戻るって思ってましたね。役者が楽しかったんです。それまで何にも知らない世界だったんで、新鮮でしたね。
今日はどうなる?お客が変われば舞台が変わる
―11月はいよいよ浪速クラブですね。大阪のお客さんに受けるものってありますか?
大 お笑いかな?真面目なお芝居でもお笑いを入れたほうが大阪では受ける。アドリブ要るね。
将 うん。今日みたいに真面目な芝居でも、どっかに笑いは絶対入れた方がいい。
(9/20の芝居『兄弟仁義 男の詩』のこと)
―それは皆さん、事前に今日はこうしようって決めてるんですか?
将 いや、何を言おうとかあんまり決めずに咄嗟に思いつきでやったりとか…基本、舞台の上でいきなりポン!と振ります。で、周りの反応見て楽しむっていう(笑)。
―大阪だからこの芝居が特に受けるとかっていうのは…
大 あんまないな…その日その日で客層が違うもんね。
将 毎日お客さんていうのは変わるんです。たとえば…笑いのお芝居が好きですか?って聞いたら全員が手を叩いたとします。暗いお芝居が好きですか?って聞いたら誰も叩かなかった。じゃ、笑いのお芝居でいこうって思うでしょ。でも、次の日に笑いのお芝居がいいですか?って聞いたら誰も叩かず、悲しいお芝居がいいですか?って聞いたらみんなが叩くときもありますから。
大 同じお芝居もその時によって、今日は笑いに持っていったり、今日は泣きに持っていったり。そのときのお客さんの反応を見て、空気を読んで、ああ、こういうほうが今日は喜ぶかなーって。
―気になっていたことが…2年前の浅草公演の『男の人生』で、将副座長が『本来の自分の役は黒幕に操られてるだけのような奴だけれども、“今日は”黒幕役の役者さんの演技に合わせて自分も悪い奴になっていった』 とおっしゃっていたんです。つまり本番の舞台上で、“その日の”役が作られているっていうことでしょうか?
将 まず、みんながそれぞれ自分の設定を決めてるんです。こいつはこういう役って。俺はそう思ってやってるって。そしたら、相手からボンってセリフを言われて『いや、ちょっと待てよ』っていう性格の役もあれば、『待てコラァ!』ってなる性格の役もあるじゃないですか。相手の言い方次第で、この性格だったら怒るやろな、とか怒らないやろな、とか。そこで芝居っていうのは毎回変わると思います。
―セリフではなくて、自分で決めたキャラクターがあるんですか。
将 そう、俺らは『セリフを追うな』『セリフを待つな』って言うんですよ。筋を覚えろって俺らは言われるんです。セリフが決まってなくても、筋を辿っていって最後のチョンまで辿り着けば、芝居っていうのはうまくいくんですよ。そこに向かって、みんながそれぞれ自分の設定を持ってスタートするわけなんですよ。
―舞踊ショーの曲も、お客さんに合わせて変えられているのでしょうか?
将 というか…うちって基本的には個人舞踊の曲決めてなくて、開演中に曲決めてるんですよ。
―え?!
竜 開演前の時点では、ショーのトップの曲とラストの曲しか決まってないんです。
―じゃあ、相舞踊とか一人じゃ決められないのは誰が決めてるんですか?
将 竜也君と他二人の相舞踊だったら、まあ、竜也君が決めたり…竜也君が、“なんか好きなん出していいよ”って言ったりもするし。みんなで決めてます。出てる人間の誰かが決めるっていう。別にこの人が絶対決めるっていうのはないですね。そのほうが臨機応変が効くんですよね。この人に頼り過ぎ、じゃあいざこの人が舞台に出てました、決める人がいない、パニックになるでしょ?
―はい。
将 ということは、全員が決めれないとおかしいんですよね。
柚姫将副座長 左・立ち役(男役) 右・女形(どちらも2015/9/19) 筆者撮影
舞台について非常にわかりやすく説明してくれた柚姫将副座長。芝居でも常に“お客さんにわかりやすく”を心がけた、細やかな工夫を見せてくれる。主役はもちろん、敵役、子分役、女形、いずれの役にも全身全霊、全力投球!という感じの演技が光る。朗らかで温かい持ち味の役者さんだ。
「僕たちが入ったばかりの頃は、ホントに見て覚えろの世界だった」
―その場その場でお芝居を作っていくって、経験が長くてもスゴイことだと思うんですけど、最初はそれこそ大変ですよね…?
将 最初は大変でした。だからお芝居大っ嫌いでした。
竜 最初は好きな人いないと思うわ(笑)
将 俺らの時代って、けっこう厳しかったですもんね。怒られなかった日はなかった。
竜 そうですね~、はい。僕は今でも芝居は嫌いです。
―(笑) 副座長になってからもあんまり好きじゃないですか?
竜 好きじゃないです、はい。僕は、そもそもあんまり“喋る”っていうのが得意じゃないんで。人見知りとかも、めっちゃするんで。
―好きな芝居とかないんですか?これだったらとか、自分が主役のものとか…
竜 全然ないです。俺はもう…なんて言うんですか、ちゃらんぽらんなんで…
―あの、書いちゃいますよ?その通りに…
竜 僕は全然いいですよ(笑) 雑誌のインタビューとかでも全部正直に言って、正直に書かれてるんで…。カッコつけたこと言う必要もないですし、その人が読んでどう思うか…俺は全然気にしないです。
―竜也さんが舞台で楽しいって思うのはどんなときですか?
竜 舞台でですか…うーん…
将 芝居の中で自然の流れでアドリブが入って、段々お笑いになったりするときってあるでしょ。そのときの竜也くんはすごいイキイキしてます。そのスイッチがどこなのかは、俺にはわかんないですけどね。
竜 それは自分でもわからないです。
―ご自分でも?!
竜 はい。どこで自分のスイッチが入るのか…
―昨日のお芝居では、大介さんとの絡みが多くて楽しそうでしたが。
(インタビュー前日の芝居『平公の恋は浜の兄弟』では、二人の仲の良さが伝わるアドリブがたくさんあった)
竜 昨日はもう…めっちゃ楽しかったです(笑)
―一回聞いてみたかったんですけど…竜也さんの踊りってすごい独特だと思うんですよ。“滑るように踊る”というか。他に誰もしていない、観たことのない動きをしているというか。
将 そうそう。スッ、スッって踊るんですよね。俺けっこう見てるんですよ。真似しても多分できないと思いますね。やっぱ上手いなっていつも思いますもんね。
竜 どうなんですかね…
―どうやって身についたものなんですか?
竜 我流です。僕たちが入ったばかりの頃は、ホントに見て覚えろの世界だったんです。最初に基本の踊りの手・動きだけは教えてもらえるんですけど、後は見て覚えろって。
―竜也さんの踊りの独自性っていうのは、色んな人が感じていると思います。連れて行った友人とかも、すごい面白い動きしてるなって言ってました。
竜 ホントですか?ありがとうございます。
冴刃竜也副座長 左・立ち役(男役) 右・女形(いずれも2015/9/20) 筆者撮影
冴刃竜也副座長は喋るのが苦手とのことだったが、芝居では、カラッとしたきっぷの良いセリフ回しを聞かせてくれる。舞踊ショーでの、手足がススーッと滑っていく独特の踊りは必見!特に女形舞踊はとろりと濃い艶を引くようで、出てきた瞬間に空気が変わる。
やってみたい芝居と、今やっていること
―大介さんの女形は、凛々しい男役とのギャップがありますね。眉がすごい可愛らしいというか、特徴的だなと思うんですけど、なんかこう、“困った”感じの。
大 上げてます、自分で。化粧は普通にこう(まっすぐ)なんですよ。表情を変えてるんで。
―じゃあずっと、力入れてるんですか、眉のとこ。
大 はい。
―あの表情ってパッと初めて見たときに、今まで見たことない表情だなって思ったんですけど。
大 困ってます(笑)
―いつからああいう表情でやってるんですか?
大 わからんっす。徐々に変わっていくんで、タイミングはわかんないです。自然とそうなりますね。男役と女役のギャップも、自然にできてくるものですし。
―皆さん、漫画や映画を見てこれを芝居にしてみたいっていうのはありますか?
将 そうっすね…これっていうのは決まってないですけど、全員が目立つような芝居ってないのかな、と。
大 誰が主役とかじゃなくね。
将 そう、これ、全員、みんな主役やないかって。やっぱり各自それぞれ、色んなファンの方っているじゃないですか。そしたらせっかくたまたま来たのに、自分のファンの役者がちょっとしか出てなかったーとか、嫌な役だったーとかはね…。それだったら一回、全員が良い役で。たとえば映画とかで、こっちの物語と、ここの物語と、ここの物語、3つのシナリオが進んで行って最終的に重なるみたいなのがあるでしょ。
―ありますね。
将 ああいう感じのやつってないのかなーって思いますね。
―雑誌の大介さんのインタビューの中で、映画の中から芝居にしてみたいとか、最後にどんでん返しがある芝居をしてみたいっていうのがあったと思うんですけど。
大 あー、やってみたいですね。ただの願望ですけど(笑)
―『プリズン・ブレイク』とか、アメリカのドラマがお好きと伺ったので、そういったハリウッド的な面白さがお好きでいらっしゃるのかなと。
大 好きですね。洋画けっこう好きなんで。
―特にこれが好きっていうのありますか?
大 『プリズン・ブレイク』(笑) ダントツですね。
将 ベタ惚れやね(笑)
大 や、もう…ヤバかったもん。ちょうど鈴蘭南座乗っとるときでね、見よるとき。朝8時とかまで見てた。開演15分前に起きたりして。
将 元気やねー(笑)
―舞台で活かしてみたい、というのはありますか?
大 海外のやつはあんまり活かしようがないですもんね…。リアクションも違うし。
―日本に置き換えて、とか。
大 してみたいですけど…そうなってくると人数も大道具も小道具もいるし。筋もね、1時間でまとめないといけないんで難しいんですよ。端折りすぎたらわからんし。だから昔ながらの芝居ってホントようできとる。
将 ショーは、大ちゃんが来て新しいものも増えました。うちに今までにないトップショーを作ったりとか…。あと曲だけの踊りとか。照明にこだわったやつとか。
大 うんうん。お芝居は筋が決まってるものなんで、色んなショーのパターンを作っていきたいとは思ってます。
千咲大介「劇団千咲」座長 左・立ち役(男役)(2015/9/20) 右・女形(2015/9/19) 筆者撮影
昨年から劇団KAZUMAに参加した千咲大介座長。機敏。芸達者。そして華やか!立ち役(男役)は大輪の花がひらくようだ。うって変わって女形の憂い顔は、お人形がたたずんでいるような愛らしさ。芝居の聞き取りやすいセリフ回しや、軽々とした粋な身のこなしも客席を魅了する。
(9/20、平針東海健康センターにてインタビュー)
浪速クラブ公演はちょうど開幕したばかり。老若男女が集う小さな芝居天国に、個性豊かな彼らがやってきた。この一か月、どんな名場面が生まれるだろう?公演は11/29(日)昼の部まで!
⇒過去記事:大衆演劇の入り口から[其之壱]劇団KAZUMAの“人間の匂い”
人気を集める太鼓ショー。(2015/6/4) 筆者撮影
●阪神高速松原道「なんばIC」より10分