オフィスマウンテンが新作『能を捨てよ体で生きる』を上演~山縣太一&キャストインタビュー
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チェルフィッチュの看板俳優として活躍し、『ドッグマンノーライフ』が第61回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされるなど、不思議な磁力を放ち演劇界に風穴を開ける山縣太一。2015年の『海底で履く靴には紐が無い』で自ら主宰するオフィスマウンテンを立ち上げ、横浜のSTスポットで意欲作を手がけている。1年半ぶりの新作となる『能を捨てよ体で生きる』がどんな作品となるのか、また自身を取り巻く演劇界や俳優のあり方について、山縣太一に話を聞いた。「作・演出・振付・出演」として作品にコミットする出演陣の大谷能生、横田僚平、矢野昌幸、児玉磨利へのインタビューも敢行し、チャプターごとの2部構成で掲載する。
【chapter01/山縣太一インタビュー】
◆俳優が有機的に作品と関係する
――以前から太一さんは俳優が能動的に作品に関わっていくことの重要性を説いていました。今回の『能を捨てよ体で生きる』から、俳優陣のクレジットも「作・演出・振付・出演」とされましたね。
これまでずっと一緒にやってきた俳優さんたちなので、細かいところに関してはさらに自分で考えてもらって、稽古場でプレゼンしてもらっています。そのアイデアが有機的に作品に関係してくるのであれば、どんどん取り入れていきたいです。
――稽古期間は3ヵ月以上と、とても長くとっていますね。稽古を拝見して、今すぐに正解を見つけようとせず、じっくり試しているような印象を持ちました。
小劇場の稽古は1ヵ月くらいというところがほとんどだと思うんですけど、それだと俳優が台詞を覚えて稽古して、本番を迎えるころに作品ができていないんですよね。形にはなっていても、作品が成熟していないことのほうが多い。お客さんからお金をいただく以上、僕は初日までに絶対にやっておくべきことを通過しなければダメだと思っています。
平日は夜、土日は朝からという稽古スケジュールが一般的ですが、僕はそれもやめました。生活の大半を稽古に捧げなくてはならないじゃないですか。それぞれのマイライフを乱さないように、スケジュールを長くとる。週2回くらいのペースで時間をとっています。さらに、本は稽古初日までに必ず上げておきます。今回も稽古開始の2ヵ月くらい前には、みんなに渡しておきました。ある程度俳優の身体に台詞が入っている状態で稽古を始めたいので……。
台本を持ちながら稽古するのは、あんまり意味がないというか、効果的ではない。僕は台詞覚えがわりと早いほうなんです。長台詞の多いカンパニーにいたので、覚えてからやらないと身体が見えなくなるので、台詞は最低限入れてからやるというのが普通なんです。
山縣太一
――俳優さんたちは、どういうふうに台詞を入れているのですか?
抑揚をつけずに覚えてもらいますね。とにかく頭に文字が入っている状態がいいです。身体の動きが変わったことで声が変わっちゃうのはいいんですけど、台詞の声の出し方をあらかじめ決めてしまうと、色がついてしまって、身体の動きを変えられなくなる。固定された声がそこにあると、嘘くさくなるんです。できるだけ声に出さず、読んで覚えてもらうようにお願いしています。
◆美意識を捨てて、絞り出す
――これまでも含めて、どのように戯曲を書いているのですか?
毎日何かしら書いていますね。1日に400字詰めの原稿用紙1枚を書くということを自分に課しています。僕は必ず手書きにしています。じゃないと踊れる言葉が書けないから。手書きとワープロでは、言葉の動きやチョイスが変わると思うなあ。最後にパソコンでまとめるにしても、手書きのほうがいいですね。
――毎日書くということは、たとえば昨日書いたものが、いつか上演される次回作になるわけですか?
ずっと続けて書いているので、あんまり「この作品だ」という考えがないんです。過去に書いたものを使うこともないし……。書き溜めたものはあるけれど、それを台本に活かすこともないですしね。身体が書きたいものを書く。踊りながら書く。あとは俳優がどう動くだろうかと思いながら書くのが大切なので、文学的にどうこうというのはほとんど考えていません。僕の戯曲としての価値はゼロでかまわない。
台詞にしても、必殺フレーズもありませんから。お客さんがどういうふうに観てもいいと思ってつくっています。どこか余韻を残すというか。
――稽古場では、「センスがないように」「ダサくやってみる」という言葉が飛び交っていましたが、それはどういう意図ですか?
センスのある俳優が、それを捨てたときのセンスが大切というか……。センスにあぐらをかいていたらダメですね。美意識なんか捨てて、絞り出す姿を見たい。作品って、センスがよくてカッコいいことばかりじゃ、お客さんに残らなくなっちゃうんです。ダブついていたり、もっさりしたりするような手触りのほうが、作品として強いと思えることがありますよね。
――少々聞きにくいことを聞いてもいいですか?
いいですよ、なんでもお話します!
――太一さんがチェルフィッチュに出演しなくなったのはどういう経緯があったのか、気になっているんです。ツイッターでは、太一さんが「干された」と表現していたのですが……。
その通りなんですよ。きっかけはスケジュール的な問題ですね。チェルフィッチュは海外公演も多くて拘束期間が長いから、ほかの仕事をできない状態が続きます。断らざるを得ないこともあったし、僕の耳に届く前の段階で、制作サイドがオファーを断るようなこともあったりして。正直、俳優に海外公演のメリットはなくて、海外の演劇人と出会うようなチャンスがあればいいんですけど、行程がタイトで、それはできない。
僕はチェルフィッチュのメンバーなんですけど、次の作品(編注:2014年『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』)に参加しないということを、岡田(利規)さんからも制作からも聞かせてもらえず、聞いても話がボカされるようなことがあって、僕も気持ち的に切れてしまった。気持ちを切らさずにとことん話し合えばよかったと思ってはいるんですけど、僕と共演したいと思ってチェルフィッチュに参加した俳優が、結果的に僕が出ないことで一緒にできなかったのが申し訳ないです。
そんなことがあって、俳優はもっといろんなことを知っておかないと思うようになりました。たとえば、肖像権についても勉強しました。舞台のDVD化の肖像権なども調べたりしました。
――作品の評価というものが、演出家の功績と見られがちで、俳優はモノづくりに一切関わっていないように思われている現状にも声をあげていますね。
日本は、それが特に顕著なんですよ。たとえばヨーロッパだと、俳優が劇場に雇われているなど、雇用形態がはっきりしているでしょう。日本の新国立劇場でも、研究生はいても俳優の雇用ではないでしょう。
――太一さんがそうして俳優の権利に関して声をあげることは、なかなかに孤軍奮闘ですよね。
孤独なのはもともとです(笑)。そもそも、俳優としても僕はほかの俳優さんとは違うと思います。俳優さんに「なぜそういうふうに身体を動かしたの?」と聞いても、答えられる人がいないんです。それじゃダメで、ちゃんと俳優も自分の方法論を自覚して、言語化できなければこれから続けていくうえでダメになると思ったんですね。一人ひとりがメソッドを持つことが重要で、それが集合して作品ができていく。
方法論を持たぬままやっていくと、俳優を続けることがルーティンワークになってしまうんですね。使うべき脳や身体を使わずにやることが怖い。クリエイティブなことをしているはずなのに、繰り返すだけでクリエイティビティから離れてしまうということが起きている。創造の場にいるのに、何も作り出していないという。そういう俳優さんもいます。そうならないためには、言葉を持つことはすごく大切だと思うんです。
――俳優が自ら作り上げたメソッドも、メンテナンスされるわけですよね?
もちろんそうです。常にチューニングしながら、自分のメソッドを考え直すことも必要ですね。だから積極的にワークショップをやっているのかもしれないです。自分のメソッドを参加する俳優さんたちに伝えながら、変えていくべきところは変えていかないと。メソッドが固定化するのもまたルーティンですから。
左より、山縣太一、大谷能生、児玉磨利、横田僚平、矢野昌幸
◆「自分に向ける眼差し」を持つ俳優と……
――だいぶ過去の話になってしまいますが、俳優として演劇に関わるきっかけは劇団山縣家ですか?
そうですね、19歳くらいのときです。高校時代から何か表現するのは好きでしたね。高校では「デッドお笑い部」というところにいて(笑)、そこで、面白いことを考えて人にやらせていました。だから、今の原型がもう高校時代からありました。親父に劇団山縣家を誘われたのも、最初は照明を頼まれたんですよ。映像の照明も経験があったので、面白かったですよ。そこから俳優もやるようになって、STスポットのショーケースで岡田さんと出会って、チェルフィッチュに加わるようになりました。
――オフィスマウンテンでは大谷能生さんと共同作業されています。俳優としての大谷さんの魅力とは?
単純に誰かの言葉を聞くこと、相手に対応するということに、大谷さんは敏感なんです。横田くんとか、大谷さんから盗んでいる部分はたくさんあると思います。大谷さんは自分に厳しくずっとやっている。雄弁な身体を持っている。本番が近づくにつれ、俳優は無機質になる傾向にありますが、俳優には余分なものをそがないでいてほしいと僕は思っていて、大谷さんはそれを持ち続けている人だと思うんですね。
台詞には関係していないかもしれないけど、そこに何かあると感じさせる動きがあって、それはつまり、情報を持ちながら動けるということで、それが大谷さんの魅力ですね。演奏できるし、音楽の作り手でもあることが、俳優としても強い。それから言葉を持ちやすい身体をしていますね、大谷さんは。言葉を内包できる身体というか。批評家と言葉を持っていることも影響していると思うんですけど。
――そもそも、太一さんの好きな俳優のタイプというのは……。
自分に向ける眼差しがあって、自分の身体に対して見ようとする視線を持っている人が好きですね。
――それは俯瞰的な視線ですか?
というより、イメージとしては内視鏡に近いかもしれません。俳優に求めることとして、そこはすごくこだわっています。自分に向ける矢印が存在している俳優と一緒にやりたいですね。
【chapter02/出演者インタビュー】
◆印象に残る「構築されたダサさ」
――みなさんはこれまでもオフィスマウンテンに参加されていますが、今回、いつもと異なる部分はありますか?
大谷「台本はこれまで、なんとなくでも起承転結があるようなものだったのですけど、今回は特に起承転結がなくて。だ稽古中ですけど、どうやっていいのやらまだわからない(笑)。登場人物それぞれが語るモノローグが、かなりバラバラになっていますね。前回も前々回も、基本は同じ場所で話していて、何かを再現するとか、とある場所をリプレイするというやり方ができたんですけど、今回はそれができない状態なので、我々は今、どこで何をやっているのかを、もっとくっきりと動きでつくっていかないといけない。そこを試行錯誤している状態です」
――稽古場では、カッコよくしない、センスのよさでやらないという話がありました。
児玉「たぶんそれは私がずっと言われていることですね。お客さんが入って緊張して、カッコよくすることが逃げになることがあると思うんです。その場で出たダサさでなくて、構築されたダサさのほうが印象に残るし、太一さんのプレイにはそれがある気がします。めちゃくちゃダサくてゆるやかなんだけど、肉付きがよくてはっきりしているほうが重みがある。むずかしいんですけど、そうなったらいいなと思います」
――矢野さんは今回にあたって、ご自身に課していることはありますか?
矢野「今回は一部僕も台本を書いているんです。これまでも太一さんに言われてきたことですけど、自分で積極的にプレゼンして責任を持つということが大切なんですけど、自分で発動してやることがまだできていなくて、すみません(笑)」
――俳優陣のクレジットも「作・演出・振付・出演」となっています。
大谷「もっとはっきり俳優に自覚してほしいということですね。あとは、ほかの劇団も役者が作品に関わるべきだという主張でしょう。役者はとにかくないがしろにされがちな役割だから」
横田「俳優としても、クレジットされているように作品でそれができたらカッコいい。役者が関わることは当たり前にしたいですけど、まだ全体的にそういう状況にはなっていないので……。ある人から見たら、(俳優たちも演出としてクレジットされることに対して)すごく挑戦していると思われるかもしれません。でもいつか、それが当たり前だと発言できるようになりたいと僕は思っています」
稽古を細かく見つめながらも、にこやかなムードで演出
◆身体の可能性を目撃できること
――オフィスマウンテンに参加することの楽しさはなんですか?
矢野「毎回、役者としてスタートラインに立たされている気がします。鍛えられている実感がありますね。オフィスマウンテンに関わっていなかったら、自分は終わってたなと思います、ホントに。参加できてよかったと、毎回感じます」
児玉「オフィスマウンテンで私は楽しめていないんですけど(笑)、観る側としてもオフィスマウンテンは、お金を払ってよかったと思えるんです。お芝居って、なんとなく出来上がってしまって、なんとなく発表しちゃうことって、たまにあるんです。太一さんとはすごく丁寧につくっているし、なんとなくでやらずに、稽古でとりこぼすことなくやっているから、お客さんと対等な位置でやり合えるのは、ほかではないことだなと思います」
横田「僕は、自分の身体や共演者の身体から、見たことのない身体ができていることを実感します。身体にいろんな可能性があることを目撃できるのが楽しいです。舞台上はありがたいことに、お客さんが静かに観てくれるので、俳優として新しい身体に出会える。オフィスマウンテンの舞台でやっているような身体は、日常で出会えないじゃないですか。もし日常にあったら通報されちゃう(笑)。でもその、通報されちゃう身体と出会っているということがすごく楽しいですね」
大谷「僕は役者としてはここでしかやっていないから、比較して話すことはできないけど、モノづくりとして、僕のやってきたことに近いんです。音楽で言うと、プレイヤー主体でつくられたインプロビゼーション・ミュージックの方法と極めて近いところがあって、独断でなく、全員がきちんと自分のやることを考える部分ですね。21世紀のアートとして最先端であり、今後必要なことだと思います。まだ実際には19世紀的につくっているところばかりなんです。組織論に近い話ですけど、音楽と異なる場所で実践できているのは、貴重な機会を得ているんだと思っています」
撮影・取材・文/田中大介
公演情報
■作・演出・振付:山縣太一
■作・演出・振付・出演:大谷能生、横田僚平、矢野昌幸、児玉磨利
■音楽:大谷能生
■音響:牛川紀政
■日時&会場
2018年12月05日(水)~16日(日)◎STスポット
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前売 3,000円 / 当日 3,500円
■オフィスマウンテン公式サイト
http://officemountain.tumblr.com/