中村佳穂 2年かけて作り上げたアルバム『AINOU』ーー彼女から放たれる圧倒的なエネルギーの凄み

インタビュー
音楽
2019.1.15
中村佳穂

中村佳穂

画像を全て表示(5件)

もちろん名前は知っていたが、音源を聴いた事もライブを観た事も無かった。だからこそ、しっかりと聴いてみたいと思い、良い意味でフラットな気持ちで、アルバム『AINOU』を聴いた。シンプルに言うと衝撃を受けたのだが、その衝撃がどういうものだったかと言うと、渦巻いてるような異様なエネルギーというか……。煮込んだからこその濃さではあるのだが、深く閉じた感じたではなく、全体的にポップに突き抜けている。とにかく会ってみて、この音は何なのかを聞いてみたいと思った。ちゃんと本人の口から聞かないとわからないから。会って話を聞いて、また衝撃を受けた。あまりにも彼女の頭の回転が速すぎて、全く話についていけないのだ。何度も何度も振り落とされそうになる感覚。約20年インタビュアーをやっていて、それなりの経験はあるし、最近では自分より若い20代の演者の話を聴く事も普通になってきているが、今まで体験した事の無かった時間……。2年かけた合宿スタイルで、演奏メンバーとアルバムを制作していくという発想自体が規格外なのもある。そして、インタビュー中はアルバム同様、彼女から放たれる圧倒的なエネルギーの凄みを浴びるだけで、何も太刀打ちする事が出来なかった。これが仕事なので当たり前だが、丁寧に原稿はわかりやすくにまとめさせてもらったが、インタビューが終わった瞬間は、このインタビューを上手くまとめられるのかという不安すらあった。演者を簡単に天才と言うのは、書き手として脳が無い様で好きじゃないが、彼女の事は心から天才だと想った。出来れば、インタビューを読む前に、アルバムを先に聴いて欲しい。そうすると、ここまで僕が言っている意味が手っ取り早くわかってもらえると思う。

中村佳穂

中村佳穂

――まず、今回のアルバムは、かなり時間をかけて制作されたと聴いてるのですが、どれくらい時間はかかったのでしょうか?

2年かかりました。制作が終わってからリリースされるまで半年あったんで、全部で2年半ですね。でも、制作に入る時点で2年くらいはかかるなと思っていたんです。というのも今までの作り方とは違う作り方をしようと思っていて。今まではソロの肉付けという感じで各地の人とセッションをしていたけど、今作はデモを完全に作りこんでから、東京に持っていく感じだったので、衝動的に作るというより、緻密に作りました。ただトラックに歌をのせるというより、イチから作り方を考えましたね。

――おひとりではなく、サポートメンバーを巻き込んでの2年というのは凄いですよね。

メンバーは別の仕事で生計を立てていて、月に何回か、この日に会おうというやり方でした。だから、あまり苦ではなかったですし、お互いに凄く良かったとこだなと思います。また、合宿で良かったころは、メンバーの家がスタジオになってる人が多くて、そこで生活をするように制作できたことです。楽器を置きっぱなしにしたまま、みんなでご飯を作って。で、寝て、起きたら、楽器は前日のまま置かれているみたいな。だから、夕ご飯の話と同じ感じで、さっき録音したビートの話も出来るんです。会ってない時は、アプリを共有して意思疎通を取っていましたね。そういう生活だったので、何を好きか、何時間寝るか、それこそ歯磨きの長さなんていう、メンバーみんなのルーティンまでわかるようになってました。お昼寝タイムも挟んでましたし、6時、7時には夕飯を作り始めて、12時には寝て、朝8時、9時には起きてました。朝が一番はかどるとメンバーに言われて、お昼にはランニングとかもするんです。健康的生活の延長線上で、かっこいいものを作る感じですね。

中村佳穂

中村佳穂

――メンバーのみなさんが別の仕事で生計を立ててるとはいえ、今のお話を聴いてるだけでも、かなりの時間を共有する作業になりますよね。

「あなたの人生を奪ってしまう事になるのですが、タイムスケジュールに組み込んでください」と、2016年の時点でお願いはしていました。

――なるほど。中村さんはバンド編成だけでなく、弾き語りもされるわけじゃないですか。だから、おひとりで作業できる選択肢もある中で、わざわざ、バンド編成で、そして、その中でも今回の様な時間がかかる制作スタイルを選ばれた事が凄いなと思うんです。

弾き語りの時は、日記のようにピアノを2時間くらい弾いて、それをライブで落とし込んでいってました。ダサいダサくないとか考えずにストレートに出してましたね。でも、メンバーとは、どういうビートが私に合うかを咀嚼しながら試していって、ただただストレートではなく、何度も冷まして作業を進めていきました。それが私たちなりの新しい作り方だったし、私のソロをメンバーも良いと思ってくれていた分、私のソロに負けたくないとも思ってくれていたんです。だから、お互い咀嚼し合えました。

――いわゆる楽曲を中村さんひとりで完全に作り込んでから、デモテープとしてメンバーに渡すというよりは、一緒に本当にイチから楽曲を作るという感じだったんですね?

そうですね。あの時のテイクとあの時のテイクを足したらというような作り方もありましたし、6割まで作って、そこから別のを合体させるというのもありました。メンバーは1分とかでビートも作れるんです。だから、色々なものを、その場で作っていくのですが、本当にギリギリに出来上がった感じです。

中村佳穂

中村佳穂

――じゃあ、2年間という期間もレコーディングというより、その前段階の曲作りをされていた感じなんですね?

はい、レコーディングに入る直前のギリギリまでやっていましたね。いわゆる、レコーディングは2018年の6月ですかね。それまで、ずっと作業をやってました。なので、合宿回数は数えられないですね。10回までは数えてましたが……。

――もちろん大変な作業だったとは思いますが、それだけ時間をかけられるというのは、近年中々無い事だと思うんです。

豊かな環境ですよね。

――陶芸家が作っては壊して作るじゃないですけど、そういう果てしない作業ですけど、豊かな時間の使い方というか。

(陶器を)一度置いて、もう1回見直してみたいな感じですよね。まぁ、後、すごく良い意味で暇だったんです。暇に持っていける生活をしてるんですよ。だから、無駄に持っていける制作が出来るんです。ボーっとしてる時間を無理やり組み込んでますし。豊かだなと思いますし、ゆったり作れているんですよ。半日くらいボーっと楽器触ってるだけの時間もありましたし、東京のスタジオで、わざわざスタッフにヴィンテージのドラムを組んで用意してもらっても、「違う」となって止めたりもしました。妥協しない癖がついてるんです。ただただ良い物を作ろうという気持ちですね。

――そのストイックな感じは、物凄く感じました。とにかくパワーが凄いんです、1曲1曲の。その中でも、個人的には「アイアム主人公」が好きでした。

「アイアム主人公」は、レコーディング中に作ってますね。リード曲にするか、最後まで迷った曲でした。詩という意味では一番遅かった曲ですね。

――実際、リリースされてからの反響はいかがですか?

ずっと、みんなエゴサしています! 「むっちゃ褒められてるで!」みたいな(笑)。聴いて下さるみんなが良いと思うかどうかは、常に不安でしたから。特に良いスピーカーとかで聴いたら、むちゃくちゃおもしろいと思うんです。聴いて、驚きがあれば嬉しいですね。アトラクションに乗ってる気分というか。100トラックくらいは重ねていますからね。抜きの音楽を目指したんですけど、むちゃくちゃ抜いて100でした。

――やはり、他に類を見ない作り方ですよね。今後も、こういう作り方をしてみたいと思いますか?

こういう作り方は、いい意味でフラストレーションがたまりますからね。今回、捨てた音にも輝きはあるので、そこにフォーカスしても良いものは作れると思いますね。アナザーストーリーじゃないですけど。ただ、もうちょっと短い算段で出来るのかなとも思います。まぁ、これは彼らの結晶ですよね。作ってる時は、これほど良いものになる感覚も無かったですし。どこか、突飛な曲が良いと思って作っているとこもありましたから。

――でも、このアルバムが本当に不思議なのは、これだけ煮込んで作っているのに全く難しく濃くなり過ぎず、しっかりとポップなんですよね。

嬉しいです。常にメンバーの間で「ドープ禁止! ポップネス!」と言ってましたからね(笑)。

――最高ですね。凄くたくさんお話が聴けました。ありがとうございました。

取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邉一生

イベント情報

『ツキノポリタン』
2019.1.20(日)new
得三(名古屋 今池)
open17:00 start18:00
前売り¥3000+1drink
当日¥3500+1drink
おとぎ話
中村佳穂BAND
 
『NEWWW vol.17』
2019.2.19(火)new
WWW(東京 渋谷)
open18:30 start19:30
前売り・当日¥1000(+1drink/オールスタンディング)
さとうもか
ジオラマラジオ
中村佳穂BAND
 
GRAPE VINE「ALL THE LIGHT」対バンツアー
2019.2.21(木)new
CLUB QUATTRO(名古屋)
open18:15 start19:00
前売り¥4320
SOMETHING SPECIAL
GUEST:中村佳穂BAND
 
GRAPE VINE「ALL THE LIGHT」対バンツアー
2019.2.22(金)new
BIGCAT(大阪 心斎橋)
open18:00 start19:00
前売り¥4320
SOMETHING SPECIAL
GUEST:中村佳穂BAND
 
GRAPE VINE「ALL THE LIGHT」対バンツアー
2019.3.1(金)new
東京都 マイナビBLITZ赤坂
open18:00 start19:00
前売り¥4320(1F2F 共に)
SOMETHING SPECIAL
GUEST:中村佳穂BAND
 
『帰ってきたエフエックス』
2018.3.24(日)new
Zepp Fukuoka(福岡
open 10:00
strat 11:00
四星球/SCOOBIE DO/SHANK/め組/おいしくるメロンパン
Lenny code fiction/torch/RAMMELLS/High祭 
3/24:KEMURI/日食なつこ/ミオヤマザキ/ベッド・イン
eastern youth/中村佳穂/Have a Nice Day!
エドガー・サリヴァン/ラックライフ/Absolute area/Brand New Vibe
High祭 and more!

リリース情報

中村佳穂『AINOU』
発売中
DDCB-14061 / ¥2,800+税
[収録曲]
01. You may they
02. GUM
03. きっとね!
04. FoolFor日記
05. 永い言い訳
06. intro
07. SHE’S GONE
08. get back
09. アイアム主人公
10. 忘れっぽい天使
11. そのいのち
12. AINOU
シェア / 保存先を選択