上口耕平×多和田任益×小早川俊輔インタビュー 『僕のド・るーク』“友達”がテーマの濃密な会話劇に挑む

インタビュー
舞台
2019.2.27
(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

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演劇のみならず、TV、映画などでも幅広く活躍している演出家・脚本家の鈴木勝秀。独自の演出法を追求し、観客の想像力をかき立てる刺激的な作品を次々と生み出している彼が、2016年に上演された『僕のリヴァ・る』以来3年ぶりにる・ひまわりと組んで、『僕のド・るーク』を上演する。

公演のテーマとなっている「ドルーク」は、ロシア語で「友達」を意味する。登場人物は男性5人のみの会話劇で、3つのオムニバスストーリーから様々な「友達」の関係性を描き出す作品だ。絵本を元にした「森の主と少年」、2つ目の物語はイギリスの劇作家ピーター・シェーファーの戯曲「アマデウス」とはまた違う関係を描いた「サリエリとモーツァルト」、3つ目の物語は夏目漱石の「こころ」を、それぞれモチーフにしている。

友達とは何か? とあらためて問われると、一言で返答することは難しい。そんな問題提起にもなりそうなこの作品に挑むキャスト陣から、上口耕平多和田任益小早川俊輔の3人に話を聞いた。

会話劇なんだから言葉気を付けて(笑) (上口)

インタビュー前に、カメラマンによる3人の写真撮影が行われた。「どういうポーズ取りましょうか?」「こんな感じかな?」と積極的に声を掛け合いながら、楽しそうに撮影に応じる3人。その様子はまさに仲の良い「友達」という雰囲気だった。

ーーみなさんすごく仲が良くて、既にチームワークが出来上がっていますね。以前から面識があったのでしょうか?

上口:多和田くんは、出演している舞台を見たことがありました。小早川くんとは、この間の年末年始にかけて上演された、る・ひまわりの舞台『歳が暮れ・るYO明治座大合戦祭』の大阪公演(1/19)に僕がゲスト出演したときに共演しました。

多和田:僕と小早川くんは、共演は今回が初ですが旧知の仲です。以前、一緒にレッスンを受けていた時期があるんです。

上口:じゃあ年齢も近いの?

小早川:同い年です。

上口:同い年? その二人の間になんで僕がおんねん!(注:上口は1985年生まれ、多和田と小早川は1993年生まれ)

小早川:保護者?(笑)

上口:みんなを守るべくしてここにいるんですね。なるほど。

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

ーー会話劇、しかも3つのオムニバスストーリーで構成されていて、それぞれ皆さん何役か演じます。この作品の出演依頼が来たときの感想を教えてください。

上口:「会話劇」と銘打ってあるところにまず興味を引かれました。僕は元々ダンスから始めた人間なので、お芝居や歌の世界に挑戦していく中で、言葉を紡いで伝えることに対する憧れもあって、この作品ではそれを突き詰められるのではないか、とワクワクしました。

多和田:5人の会話劇、しかも上口さんが主演、というのを聞いて、僕はいつかご一緒したいと思っていたので、ついに念願がかなうという思いでした。

上口:共演したいと思ってたなんて、今初めて聞いた。

多和田:言う機会なかったんですよ。舞台裏とかで見かけても、上口さんの方が先輩だし、なかなかこっちから声かけられなくて。

小早川:スルーしてたってこと?

多和田:「あ、上口さんだ」と思いながら……スルーしてた。

上口:ちょっと、その言い方(笑) 会話劇なんだから言葉気を付けて(笑)

小早川鈴木勝秀さんはいつか絶対ご一緒してみたいと思っていた演出家さんなので、そこは一番の喜びでした。共演者の方たちも一緒にお芝居をしてみたいと思っていた人ばかりです。上口さんは先月共演したときに、登場した瞬間からその場の空気を支配しているな、という印象で、今回座長としていてくださるので安心感を感じています。

責任を持って、この作品を精いっぱいやりたいです(多和田)

ーーこの3つのオムニバスストーリーが、それぞれ全く違う雰囲気の作品なのに、同じ着地点に向かって集約されていく台本の構成がさすがだなと思いました。

上口:本読みをしてあらためて思ったのが、絵本を題材にしている「森の主と少年」は短くて一番シンプルな話なんですが、それをまず冒頭に持ってきて、なおかつ砕けたニュアンスで「演劇ってこういうふうに楽しむんだよ」って柔らかく見せる。そして、その後「サリエリとモーツァルト」の物語、「こころ」と展開がある中で、それぞれの物語が終わった後に、また「森の主と少年」の続きが挿入されることによって観客の心がすごく和らぐと思うんです。この劇全体の最後も「森の主と少年」で終わっていく、というこの構成によって、一貫してお客様を安心させている効果がすごい、と思いました。

ーーそのポイントになる「森の主と少年」の少年役を小早川さんが演じます。少年、青年、老人、と演じていくそれぞれの合間に別のストーリーが挟まるという構成で、別のストーリーにおいては別の役も演じなければならないので、なかなか切り替えが大変そうですね。

小早川:読んだときにまず難易度が高いな、と思いました。少年は半袖・短パン着て動き回ってるところから始まり、青年で齢が近くなりますけど、青年の中でも三段階あって、その微妙な変化をどうつけていったらいいのか、また老人のエピソードは、劇全体の最後というすごく大事な部分でもありますよね。でも木の役を演じるのが小林且弥さんで、今回初めて共演できるのがとても楽しみだった役者さんなので、短い稽古期間ではありますが一緒に詰めていけたらいいな、と思っています。

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益 

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益 

ーー多和田さんは、「サリエリとモーツァルト」でモーツァルト役、「こころ」で私役、と役の振れ幅が広いですね。

多和田:僕にとっては、技術的なことも含めて大きな挑戦になるので、この役を与えていただいたからには責任を持って、この作品を盛り上げるために精いっぱいやりたいです。

ーーそして上口さんが「サリエリとモーツァルト」でサリエリ役、「こころ」でK役です。

上口:サリエリは、モーツァルト役の多和田くんとの二人の空気が大事かな、と思っています。本読みで初めてモーツァルトとサリエリとして会話したときに、方向性のようなものが見えた気がしました。モーツァルトの人物像が多和田くんの持っているピュアな部分と重なるというか、ちょっと危うい果実のような雰囲気が彼にはあるので、それをひたすら見守る気持ちでいれば成立するんじゃないかな、と感じられて、これから稽古をしていくのが楽しみです。

楽しみがあふれる・ぜ(小早川)

ーー多和田さんと小早川さんは、スズカツさん(鈴木勝秀の愛称)とのお仕事は今回が初めてとのことですが、上口さんはいかがですか?

上口:1度だけ、10年前に『SEMINAR』という作品でご一緒しました。まだ僕も舞台に出演するようになって間もない頃だったので、2日目くらいから通し稽古をやられて、さすがにびっくりしました。今日スズカツさんが「僕はすぐ通し稽古をやるとかって言われてるみたいだけど……」っておっしゃってて、「いやいや、実際そうだったし!」って(笑)

ーー多和田さんと小早川さんは、スズカツさんに対してどのようなイメージを持っていましたか?

多和田:ちょっと怖い人なのかな、と思っていましたが、実際は意外とチャーミングな面があって、そのギャップが素敵だな、と思いました。初めてご一緒するのでいろいろ不安だったんですが、こちらから聞きに行ったらわかりやすくアドバイスをしてくださいました。すごくこの作品を愛していらっしゃるということが伝わってきたので、ちゃんと僕も愛をもってやっていかねば、とあらためて気が引き締まりました。スズカツ作品は一回観たら、もう一度観てみたい、より知りたいと思わせる力を持っていると思うので、その力のある演出に食らいついて行きたいです。

小早川:僕は1/10にサラヴァ東京で行われたスズカツさん演出のリーディング公演を見に行ったんです。小さな会場での公演だったんですが、小規模だからこその作品を届けたい、というスズカツさんの世界観が独特でした。終演後にスズカツさんがお話しされていたのですが、それがすごくユーモアにあふれていたので、ご一緒させていただけることがますます、楽しみがあふれる・ぜ、と思いました。

上口:いまの「ぜ」は必要やったんか?(笑) なんのニュアンスやったんや?

多和田:妙な間ありましたよね(笑)

小早川:ちょっと字余りでした。あふれ出しました。

「ドルーク」らしく仲が良い三人

「ドルーク」らしく仲が良い三人

ーー3人でお話しされているとき、すごく会話のテンポがいいですし、皆さん関西の方のイントネーションになりますよね。ご出身はどちらですか?

多和田:僕、大阪です。

上口:僕は和歌山。

小早川:大阪です。普段は出ないんですけど、上口さんが関西弁やから僕も出ちゃいますね。

上口:僕もダンスレッスンとかはずっと大阪に通っていました。今度、関西弁のお芝居をやってみたいんですよね。東京で初めてお芝居をやったときに、どうしてもセリフに気持ちが乗らなくて。でも、試しにセリフを関西弁に変換して言ってみた瞬間に、解き放たれるように感情が豊かになったんですよ。だから、セリフで行き詰まったときは、一回関西弁で言ってみてどういうニュアンスになるか確認するんです。

多和田・小早川:それすごくわかります!

上口:でしょ? 例えば「俺はアマデウスやねんけど」って言ったときに、このラフなニュアンスが標準語になると違っちゃうんです。だから、多和田くんとか小早川くんみたいな20代の若手が中心でバリバリの関西弁で全編やる芝居ってどうかなぁ、と思うんですけど……って、すいません、『ド・るーク』から話それちゃって。

密な会話劇で「友達」を思い描ける作品に

ーー面白いお話しが聞けてよかったです。関西弁のお芝居、ぜひ皆さんの出演で見てみたいですね。では最後に、公演に向けての意気込みをお願いします。

小早川:今回初めてのダブルキャストでの出演となるので、自分と同じ役を他の人がやっているところを見られるのが楽しみの一つでもあります。5人という密な会話劇の中で自分も成長していきたいですし、スズカツさん演出ですから何度見ても楽しめる作品になると思います。

多和田:「友達」と「仲間」って同じような感じがするけれども、実は意外と違うよな、といったようなことを僕自身がこの台本を読んで感じました。一公演で3つの物語を楽しめるという文学的な魅力も伝えられると思いますし、「友達」という大きなくくりから色々なことが想像できると思うので、言葉の中に隠された“思い”を、一つひとつお客様に伝えられるように丁寧にやっていきたいと思います。

上口:3つの物語は、それぞれ描かれている世界も国も時代も違うし、表現方法も違うんですけど、「友達」とか「身近な人」への思いって一緒なんだなと一貫して感じられる部分があると思うんです。どの言葉に心が動くか、どの瞬間にときめくか、観る人それぞれの感じ方があると思いますが、でもきっと見終えた後には、友達だったり家族だったり自分の身近な人のことを思い描いてもらえるような作品になると思います。この作品の“言葉の魔法”をエンジョイしてください。

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

(左から)小早川俊輔、上口耕平、多和田任益

稽古序盤にして、既に「友達」のようなチームワークの良さを見せてくれた3人。そこには、ただ仲が良いだけではない、お互いへの信頼感やリスペクトがあることが感じられた。決してなれ合いではない、適度な緊張感を保ちつつ、彼らがどのような「友達」の形を示してくれるのか。劇場でぜひ確かめて欲しい。

取材・文=久田絢子 撮影=ジョニー寺坂

公演情報

『僕のド・るーク』
■上演台本・演出:鈴木勝秀
■出演:上口耕平、多和田任益、辻本祐樹、小早川俊輔/井澤巧麻(W キャスト)、小林且弥/鎌苅健太(W キャスト) 
 
■日程:2019 年 3 月 7 日(木)~10 日(日)
■場所:オルタナティブシアター 
3 月 7 日(木)  19:00 (小林且弥、小早川俊輔) 
​3 月 8 日(金)  14:00 (小林且弥、小早川俊輔) / 19:00 (小林且弥、小早川俊輔)
3 月 9 日(土)  13:00 (鎌苅健太、井澤巧麻) / 18:00 (鎌苅健太、井澤巧麻)
3 月 10 日(日) 12:00 (小林且弥、井澤巧麻) / 16:00 (鎌苅健太、井澤巧麻)

※詳細は「る・ひまわり」公式ホームページ(http://le-himawari.co.jp/
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