太鼓芸能集団「鼓童」による浅草特別公演『粋』が6月に開幕 鼓童代表・船橋裕一郎ロングインタビュー
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新潟県の佐渡島を活動の拠点とし、世界各国で公演を行う太鼓芸能集団・鼓童。今年6月に上演される鼓童浅草特別公演『粋』について、また、鼓童の魅力について、代表の船橋裕一郎に聞いた。
浅草ならではの『粋』を表現したい
鼓童の船橋裕一郎代表
ーー浅草公会堂で開催する公演も2013年から続き、今回で7回目を迎えます。今年の公演はどんな内容になるのか教えてください。
去年は『道』という公演を浅草でやりました。その公演は僕らにとってはクラシカルなスタイルの舞台でした。お客様にも地元の方にもご好評いただきまして、ぜひまたこういった舞台をという声も多く頂きましたので、もう一回『道』をやろうかなと思ったのですが、7年目となる今回は自分たちの王道となるスタイルをやりながらも、もう少し浅草に思いを馳せる舞台にしようかなと思いました。
タイトルも直球ストレートど真ん中な感じで『粋』としました。浅草といえば、です。僕たちの覚悟の表れでもありますし、自分たちが思う粋な姿を表現できればと思います。かっこいい街の人たちや街の雰囲気を少しでも思い起こさせるような舞台を作り上げたいなと。三社祭に行ったり、地元の音や街についてより深く知り、自分たちの体から発せられる音や表現にできたらいいなと思っています。
浅草と佐渡は離れているように感じますが、祭りを通して地元をすごく愛しているところは共通している。僕たちもせっかく佐渡に拠点を構えているので、その佐渡の音もさらに勉強し浅草で演奏することで、少しでも粋な感じになれればいいと思います。
浅草は、6年間ずっと連続して公演をさせていただいています。都会にある拠点みたいな感じで、毎年帰れる場所になれたらいいなという思いが私たちにはあります。浅草の皆さんも、鼓童を応援してくださるので、これからも頑張っていきたいです。そして、今回は大きな節目になる公演になるかなとも感じています。
ーー着々と構想が出来上がってきているのですね。『道』とはまた違う公演になるというわけですか。
具体的に新しい曲も演奏したいなと思っていますし、4日間5回公演なので、毎回ちょっと違ったスパイスや驚きがあるようなものを用意できたらいいですね。
ーー練習は始まっているのでしょうか?
徐々に、です。ちょうど今は海外ツアー(※『鼓童ワン・アース・ツアー2019〜Evolution』北米ツアー)で15名のメンバーがアメリカに行っていますし、メンバーがそれぞれの場所にいるので、僕がプログラムの構成などをみんなに伝えて、各自で準備して、4月ごろに集まって集中的に稽古をして、また直前に集まって稽古をするという形です。
ーーそうなのですね。日本各地、世界各国を飛び回っていらっしゃるのでどのように練習しているのか気になっていました。
1年間の内ある一定の期間、全員で集まって、次のプロダクションの稽古をしています。そしてまたそれぞれ旅をしながら、考えたり練り込んだりして、何回かに分けて作品を作り上げていくという感じになっています。
「旅」は僕たちの大事なキーワード。いろんなところに行って、いろんなものを吸収することで、自分たちの舞台ができています。
鼓童はいま、「転換点」を迎えている
鼓童の船橋裕一郎代表
ーー船橋さんは2001年からメンバーとして参加されて、16年1月より代表になられました。ご自身20年近く団体に関わっていらっしゃるわけですが、今の鼓童はどういう局面にあるのでしょう?
そうですね、鼓童も変遷してきています。玉三郎さんとの出会いというのはとても大きかったと思います。玉三郎さんが芸術監督を退任されて(※坂東玉三郎が2012年から4年間芸術監督を務めた)、昨年は『道』という自分たちが培ってきた公演とともに、若いメンバーが新しい舞台を作りました。クラシックと新作を両方とも上演しました。自分たちの力でやっていこうという気持ちが芽生えていますし、世代も20~60代という三世代になって、次はいよいよ四世代目が入ってくるという時期。次の一歩を踏み出そうとしている時で、転換点なのかなと思っています。
ーー転換点ですか。
はい。『道』という舞台は約半世紀かけて自分たちがやってきた演目で構成されていて、自分たちを振り返る時間でもありました。新作に関しては、こうやって作り続けていくというのが自分たちの本道だと思いますので、その両方をしっかりやっていこうと、覚悟を決めて踏み出しています。上の世代から若い世代まで、頑張ろうという意欲が満ちていて、熱気ある空気感(舞台)になってきている時期です。大変なこともありますが、とても充実した時間を過ごしています。
ーーシネマ歌舞伎やMVの製作など様々なことをやられています。ファン層も着実に広がっているのかなと思うのですが、実感としてはいかがですか?
そうですね。ジャンル問わず、いろんなジャンルの方とコラボレーションさせていただいているので、幅広い方に興味を持って楽しんでいただけているかなとは思いますが、それでもまだまだ知らない人の方が多いですから、もっともっと裾野を広げて、鼓童の良さとか太鼓の良さを広めていけたらいいなと思います。
太鼓って、生の楽器なんです。素材としても非常にアナログな楽器でもあるので、生の体感をもっともっと伝えていけるといいかなと思っています。youtubeやSNSは広く伝えられるコンテンツだなと思うのでそれも有効に活用していきながらも、やはり実際に肌で触れ合うとか、お互いの体感を通した共感みたいなものを作っていきたいです。
具体的には舞台の演奏だけでなく、実際に高校の太鼓部に訪問したり、介護施設に行っておじいちゃん・おばあちゃんに太鼓に触れてもらったり。そういったふれあいを通して、老若男女多くの方々に、深い広がりができれば素晴らしいですね。
ぜひ生の音で体感してほしい!
鼓童の船橋裕一郎代表
ーー船橋さんが太鼓と出会われたのは大学時代だったそうですね。大学では考古学を専攻されていたとか……。
高校生の時から発掘のバイトに行くぐらい、歴史が好きでした。そこも今思えば共通しているかなと思うのですが、史料ではなくて、現場に行って、実際に触れて、歴史を学ぶことに魅力がありました。歴史の痕跡が自分の目で見られることがすごく楽しかったんです。色々な現場体験をしていましたけど、大学時代に太鼓にも出会ってしまって、そちらにはまっていってしまいました(笑)
もともと僕は神奈川県の郊外に住んでいて、地元のお祭りに参加する機会がなかったですし、ましてや太鼓に触れる機会が全くなかったので、たまたま太鼓に出会った時に電流が走ったといいますか、「血沸き、肉躍る」ような衝撃でした。部活で太鼓に触れるようになり、そして鼓童というものを知ったんです。太鼓を叩いて、世界中を飛び回る集団があるんだ、と。
鼓童には研修所のシステムがあり、2年間みっちり太鼓だけではなくて、歌も踊りも、農業も茶道も能も狂言も学びます。すごく厳しい環境ではあるのですが、とてもかけがえのない2年間を過ごせる。そこにも魅力を感じて、鼓童に入りました。
ーー船橋さんが思う、鼓童の魅力はどんなところなのでしょう。改めて教えてください。
自分たちは音に対してはとてもこだわりを持っています。しっかりと音を聞いていただくために、舞台はシンプルで研ぎ澄ました内容になるよう心がけています。
いろんな複雑な音が一つの音になって絡み合った時に、どういった心地よさや迫力が生まれるか。それらがより伝わるといいなと思っていますので、やっぱりぜひ生で一度見ていただけると嬉しいですね。生の音というのは何物にも代え難いものですし。
ーー鼓童は新潟県の佐渡島を拠点としていますが、佐渡の魅力はどんなところですか?
歴史があるし、自然も豊かな場所です。そして何より、住んでいる方々が温かい。僕たちのような旅の生活の人間にとってはありがたくて、集落の人も「次はどこに行くんだい?」なんて言いながら送り出してくれます(笑)。温かい人柄や地に足のついた感じがすごく素敵だなと思います。
自分たちの表現にとってはとても大切な場所です。思い切り太鼓を叩ける環境で稽古することによって、自分たちの表現がより深くできていると思います。確かに、新潟市から船で渡らなければいけなかったり、冬が厳しかったりと不便さはあると思うのですが、そういうものがあるからこそまた特別感がある場所になっているとも思います。ぜひ鼓童をきっかけに、佐渡にも興味を持っていただいて、実際に佐渡を訪れてくれたら嬉しいですね。
ーーこれからも佐渡を拠点にされるわけですね。
はい。それがあるからこそ、鼓童だなと思っています。佐渡という場所に、太鼓があって、そこに集まる人がいるからこそ鼓童と言えるのかなと、より深く今は思っているところです。とても大切にしていきたいです。
ーー最後に『粋』の意気込みをお願いします!
「粋」は浅草に思いを馳せた作品です。自分たちが今ある力を出し切って、自分たちなりの『粋』に昇華できたらいいなと思います。お客様には2時間で太鼓の音を存分に浴びて頂き、より元気に楽しい気持ちになって浅草の街でお買い物して、美味しいものを食べて帰っていただけたらなと思います(笑)。
鼓童の船橋裕一郎代表
公演情報
会場:浅草公会堂
出演予定:山口幹文、齊藤栄一、見留知弘、中込健太、三浦康暉、鶴見龍馬、渡辺健吾、大塚勇渡、米山水木、小平一誠、前田順康、木村佑太、平田裕貴ほか