舞台『毛皮のマリー』稽古場レポート! 美輪明宏が「無償の愛」を演じる

2019.3.25
レポート
舞台

撮影:御堂義乘

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1967年、劇団天井棧敷を主宰する寺山修司美輪明宏(当時は丸山明宏)に“あて書き”したという伝説の舞台作品『毛皮のマリー』が3年ぶりに復活する。寺山亡き後は美輪が自ら演出し何度も上演を重ねている演劇史に残る傑作舞台の稽古場を伺う事が出来た。怪しく退廃的、かつ魅力的なこの世界が作り出される模様をレポートする。

男娼・マリー(美輪)と、マリーが自分のことを“お母さん”と呼ばせている美少年・欣也(藤堂日向)との奇妙かつ淫靡な関係、さらに美少女・紋白(深沢敦)や下男(麿赤兒)らといった、二人に絡む人々の姿を猥雑に、ゴージャスに、そして哀しく描いていく物語。

撮影:御堂義乘

撮影:御堂義乘

最初に目にしたのは麿赤兒演じる醜女のマリーが一人語る場面から。白雪姫さながらに鏡を見つめ「この世で一番美しいのは?」と問う醜女のマリーにステージ上には10人を超す“女”たちがその答えを語る。中にはマリリン・モンローや小野小町といった歴史上の美女たちもおり、彼女たちから放たれる答えに悶える醜女のマリー。麿が舞台のほぼ中央にいてぐっと場を引き締め観る者を惹きつけるが、その姿や言葉に自分の中にあるドロッとした感情を突き付けられている気がした。そして醜女のマリーの妄想の世界で“女でもあり男でもある者”たちが踊り狂い、愛を交わす。極めて醜悪だが目が離せない。

撮影:御堂義乘

撮影:御堂義乘

話はさらに進み、マリーが名もない水夫(三宅克幸)と戯れる中でマリーと欣也の親子関係の「真実」を告白する。マリー演じる美輪は豊かな声色で自身の身の上を紡ぐ。少年時代の苦悩、そこから生まれた憎悪の感情をまさに「台詞だけ」で具現化していく。人としての存在感の強さのせいか、まだライトが入っていない稽古場であっても美輪にスポットライトが当たっているかのような錯覚を感じさせていた。

撮影:御堂義乘

一方、欣也役の藤堂は、マリーのもと純粋培養で育てられた美少年という役どころを愛くるしい表情をたたえながらもどこか壊れやすいガラス細工のよう。マリーとの関係をうっかり聞いてしまってからの苦悩する様は実に痛々しい。まるで蝶がその薄く柔らかい羽をぶつけながら箱の中で暴れ傷ついている風情にも見えていた。

稽古終了後、美輪に改めて話を聴いた。先に実施したインタビューと共にご覧いただきたい。

撮影:御堂義乘

ーー今日の稽古を振り返っていかがでしたか?

体力勝負ですね。人でなしの役ですから。私の芝居はすべて長台詞が多いんです。『双頭の鷲』ほどではないですが、(マリーという役も)長台詞が多くてエネルギーの配分が大変なんです。

ーー演じていて一番そのエネルギーを使う場面はどこですか?

やはり水夫さんに親子関係を告白するところです。長台詞はいろいろな技術がいるんです。例えば音程ですが私は2オクターブ近い音域の中で行ったり来たり、また台詞の速度もプレストからレントまで、そして強弱やリズムも。音楽であればタンゴやマンボ、フォックストロットやジルバ……そういった音楽を伴奏なしで台詞の中で歌うんです。「台詞は語らず歌え」という事ですよね。また、それを若い人たちにも伝えていかないといけないので、自分の稽古は置いておいて(笑)芝居作りの打ち合わせをして。それだけで疲れちゃうんですよ。

ーー初演(1967年)から半世紀が過ぎました。演じる美輪さんも様々な経験を重ねていらっしゃいましたが、改めてこの作品を見つめて、初演の頃とは異なる感情が生まれる事はありますか?

それが、不思議な事に同じなんですよ。父性愛でも母性愛でも、また他人からの愛であっても「無償の愛」というのはまったく変わらないものなんです。先日上演した『愛の讃歌』でイヴ・モンタンにピアフがお説教する場面でも「自分が愛する人が健康で平和で生きてさえいればそれが何より。自分の事なんかどうでもいい。とにかく与えて与えて与えっぱなし。それが愛なのよ」と語る台詞があるんですが、まさにその言葉通りなんです。
例えるなら渋谷で男女が待ち合わせして、片方が1、2時間待たせていて「ごめんごめん」と現れたとき、「私がどれだけあなたを待っていたか」と待たされていた自分のプライドが先に出てしまうのが「恋」で、それは自分本位のもの。「ううん、いいの。私も今ついたばかりだから」と返しつつも、実際に待っている間は「あの人はどこかでケガでもしていないだろうか」と相手の事ばかり心配して自分の事なんてどうでもいい、と想う気持ちが「愛」なんだと思います。男同士であっても、男女であっても、年寄りと若い人であっても、異国人同士であっても、人間が人間を愛する「無償の愛」を誰も非難する事はできません。それがこの作品のテーマだからこそ、昔も今も同じ想いで受け止めていられるんです。

撮影:御堂義乘

取材・文=こむらさき 写真=オフィシャル提供

公演情報

『毛皮のマリー』
 
日程:2019年4月2日 (火) 〜2019年4月21日 (日)  ※公演終了
会場:新国立劇場 中劇場
 
作:寺山修司
演出・美術:美輪明宏

出演:
美輪明宏
藤堂日向 麿 赤兒 深沢敦
大野俊亮 三宅克幸 プリティ太田
小林永幸 真京孝行 松田拓磨
米田 敬 谷沢龍馬 菅沼 岳 川瀬遼太
樋口祥久 岡本祐輔 吉岡佑也 岩井克之
大濱和朗 重岡峻徳 重松直樹 
※都合により、美少女・紋白役は若松武史に替わり深沢敦が演じます。
 
料金:
S席10,500円 A席7,500円(全席指定・税込)
 
お問い合わせ:パルコステージ 03-3477-5858(月~土11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)
公式サイト:http://www.parco-play.com/web/
 
<その他の公演>
日程:2019年4月25日 (木) ※公演終了
会場:福岡市民会館
 
日程:2019年5月5日 (水) ※公演終了
会場:愛知県芸術劇場 大劇場
 
日程:2019年5月24日 (金) 〜2019年5月26日 (日)
会場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ