人形ジャンルの新たな才能を見出す【P新人賞2018】に人形劇団LimLim『空き地のおうち』~最終選考上演会レポート

2019.3.22
レポート
舞台

【P新人賞2018】及び【観客賞】をW受賞した、愛知の人形劇団Lim Lim『空き地のおうち』上演より

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人形劇(PUPPET)と、オブジェ+身体によるパフォーマンス(PERFORMANCE)の頭文字を冠した【P新人賞】は、「人形劇やオブジェ、身体表現を使った作品で上演時間45分以内、出演者は5名程度まで」という規定のもと、全国から参加者を募る賞だ。“人形ジャンルの明日を担う斬新な才能を発掘する”ことを目的に、名古屋の「損保ジャパン日本興亜人形劇場ひまわりホール」を管理運営する〈愛知人形劇センター〉が主催し、2011年から毎年開催している。8回目を迎えた2018年度は、応募のあった全7団体から一次審査を通過した3団体が最終選考へ進出。去る2019年2月16日(土)・17日(日)の2日間にわたり、最終選考上演会及び最優秀団体を決める観客投票と選考委員による公開討論会が行われた。

最終選考委員による公開討論会の様子


【2018年度 最終選考上演作品】
◆人形劇団LimLim『空き地のおうち』(愛知県)
 作・演出・美術:大森直子 
 出演:大森直子、清島直美、今野香織、丹羽亜弥子、藤川周子
◆劇団ドクトペッパズ『うしのし』(東京都)
 演出・構成:劇団ドクトパッパズ 
 出演:稲垣郁、大山晴子、古賀彰吾、下村界
◆HOLIDAYS『ちゃぶ台』(東京都)
 作・演出:深堀絵梨 
 出演:うえだななこ、鹿野祥平、深堀絵梨

劇団ドクトペッパズ『うしのし』上演より


 

HOLIDAYS『ちゃぶ台』上演より


実行委員長及び公開討論会の司会は〈愛知人形劇センター〉理事長で演出家の木村繁が務め、最終選考委員には、鹿目由紀(劇作家・演出家・俳優、劇団あおきりみかん主宰)、くすのき燕(NPO法人日本ウニマ理事長)、智春(演出家・振付家、肉体演劇作家、クラウン)、水谷イズル(現代美術家)の4名があたった。16日と17日に1回ずつ全3作が連続上演され、各作品の舞台転換時間には参加団体代表者へのインタビューも行われた。両日とも終演後に観客投票(3作とも鑑賞した観客のみ、1人1票)を実施し、17日の観客投票後に公開討論会が行われ、続いて2日分の観客投票と選考委員の投票(1人50票を3作品に配分)結果を発表。それにより【観客賞】を獲得及び選考委員による82票を得票した、人形劇団LimLim『空き地のおうち』が2018年度の【P新人賞】に輝いた。

人形劇団LimLim 受賞の様子

人形劇団LimLimは、名古屋市西区に住む3歳から10歳までの子どもを持つ母親7名で構成された劇団だ。受賞作品では、学校で嫌なことがあった日の帰り道、知らない道を通った少年がたどり着いた空き地の家で動物やオバケなどと遭遇する、小さな冒険物語を賑やかに展開した。選考委員の講評は以下の通りだ。

【人形劇団LimLim『空き地のおうち』講評】
<くすのき燕>
少年が歩くシーンは丁寧に作られている一方で、少しぞんざいなところもあった。空き地に着くまでのテンポは良かったが、以降のテンポが落ちてしまったのは残念だった。オバケが飛ぶシーンは研究の余地あり。フワッと飛ぶようきっちり出来ると、ファンタジーとしてもっと素敵な作品になるはず。セリフを言う時の遣いはもう少し丁寧にした方が良い。方向転換の時など、人間の都合で動かすのではなく人形としての動きが丁寧に出来ていたのはとても良かった。
<智春>
不思議な魅力を持った作品。子どもを持つママたちのグループだからかもしれないが、度胸が座っている。エネルギーもあり、それが表現として良い方に出ていたと思う。ただ、袖から出てくる時に体が縮こまっていたのが気になった。揃いの鼻眼鏡はチープな印象で、もっと良いものがあるのでは? と思い、観客としては遣い手の顔も見たいと思った。スピーカーを目立つ位置に置いていたのも気になり、見せるならもっと効果的な使い方もあったのではないかと思った。
<水谷イズル>
良く出来ていると感心して観ていた。人形が生きているようで感情移入でき、テンポも間も良い。移動するシーンで、街並みが通り過ぎていく表現や俯瞰で見せるような工夫がよく出来ていて、特に何も言うことがないぐらい。ストーリーは“迷い家(マヨイガ)”というカテゴリーに分類されるものだと思うが、成長期にみる夢のような、子どもの不安定な気持ちや自立していく過程、空き地という日常ではないところから大事なものを受け取る様子がよく描かれていた。
<鹿目由紀>
モグラから地底人へ繋がる場面など面白く観た。確かに空き地に着いてからのテンポが落ち、それは何故かな?と考えた時、家のサイズが気になった。家が小さいので最初から「小さいのが住んでいるな」と思い、最終的にヘビが出てきた時にそうだよな、と。出てくるものと違うサイズの家にしたり、出方の工夫やドアを使うか使わないかの選択肢など、もう少し考えられるのではないかと思った。歩くシーンはずっと見ていたいほど良かったが、動きが止まると家を中心に見てしまうので、最後の変化が少し足りなかったかなと思う。
 

また、惜しくも受賞を逃したHOLIDAYS(観客票、選考委員票ともに第2位)と劇団ドクトペッパズ(観客票、選考委員票ともに第3位)も、それぞれの団体の特色を活かした意欲作を展開して健闘した。

HOLIDAYSの『ちゃぶ台』は、ちゃぶ台を挟んで生活する夫婦の物語を、座敷童の存在もまじえながら身体表現を中心として描いた作品で、出演者3人の身体性への評価は高かったものの、ちゃぶ台のあり方や人との関わり方の工夫、常識をくつがえすような可能性の広がりがもっとあっても良かったのでは? という意見が挙がった。

そして、長年連れ添った老人と牛の関係を、牛の死を通して切なく微笑ましく糸操りで描いた劇団ドクトペッパズの『うしのし』は、小さな人形と広大な風景の対比で時にダイナミック、時に幻想的に見せたが、牛が死ぬまでの老人との関係性の描き方が足りない点や、ビニール素材による風景表現がチープに見えてしまった点、操作面での注意点などが指摘された。

三者三様にクオリティーの高い闘いは実に見応えがあり、個人的にはこの2団体の次回作も観たくなった。

今回受賞した人形劇団LimLimには賞状と賞金20万円、2019年度に「ひまわりホール」での新作招待上演が授与され、W受賞した【観客賞】では副賞として「どえりゃー名古屋めしセット」も贈呈された。【P新人賞】は今年も引き続き開催予定なので、来年のこの時期に行われる2019年度の最終選考上演会もお楽しみに。また、冒頭に挙げた規定のもと、人形劇団に限らず自らを新人だと思う創作者なら個人、団体を問わず応募可能につき、興味のある方は〈愛知人形劇センター〉公式サイトのご参照を。

愛知人形劇センター 公式サイト:http://aichi-puppet.net
問い合わせ:052-212-7229(平日10:00~18:00)
           mail@aichi-puppet.net ※極力メールで問い合わせを。 

【これまでの受賞団体】
2011年◇Puppet Theater ゆめみトランク『やぎのおはなし』(愛知県)
2012年◇人形劇団ネンネンネムネムねむり鳥『幽霊(ネムリドリ・ゴースト・ストーリィ)』(東京都)
2013年◇banco(バンコ)『さなぎのとき』(神奈川県)
2014年◇ベビー・ピー『山ぐるみ人形劇 桜の森の満開の下』(京都府)
2015年◇人形劇団望ノ社『DEBRIS』(栃木県)
2016年◇影の色彩ワヤンプロジェクト『夜叉ケ池』(石川県)
2017年◇劇団オレンヂスタ『MANGAMAN』(愛知県)
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