ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』主演の高田茜にインタビュー~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマ シーズンにて5月中旬公開
Akane Takada as Kitri ©ROH 2014. Photo by Bill Cooper
英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルの高田茜は名門の中心ダンサーとして目覚ましい活躍を見せる。その高田が2019年春に主演した『ドン・キホーテ』全幕が2019年5月17日(金)~24日(木)「英国ロイヤル・オペラ・ハウス・シネマシーズン 2018/19」の一環としてTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開される。なお、この作品は同バレエ団による6月の日本公演(下記「公演情報」参照)でも披露されるので、予習にもうってつけだ。「SPICE」では、4月下旬、高田に国際電話で単独取材を実施し、『ドン・キホーテ』の見どころや近況、今後の目標について聞いた。
Akane Takada in rehearsal for Don Quixote, The Royal Ballet (c) ROH, 2019. Photgraph by Andrej Uspenski
■自分なりのキトリ像を追求したい
――今回『ドン・キホーテ』のキトリ役を踊られての印象はいかがでしたか?
キトリは気が強く自信満々で、街で一番人気がある太陽のような女性です。その情熱的なものを表現するのは難しくチャレンジングです。私としては“お姫様役”の方が演じやすいのですが、自分なりのキトリという人物像が頭にありました。でも、それと皆さんがイメージされるキトリとの差があると楽しんでいただけないので、そこは自己満足にならずにもっと研究したいです。
――バジル役はアレクサンダー・キャンベルです。
彼と『ドン・キホーテ』を踊るのは初めてでしたが、他で一番組んで踊っています。ユーモラスで笑わせてくれますし、コミュニケーションをとりながらしっかりリハーサルをやれる信頼できる相手です。『ドン・キホーテ』の公演中も本当に支えになってもらいました。彼は素晴らしいアクターなので楽しみながら踊ることができました。
■人間味とリアルさにあふれたアコスタ版『ドン・キホーテ』
――カルロス・アコスタ版『ドン・キホーテ』は2013年初演です。キューバ出身のアコスタらしくラテンのテイスト満載で、ダンサーの方々が掛け声を上げたり、ジプシーの野営地の場面では舞台上でギター生演奏があったりします。また第2幕の初めのキトリとバジルのパ・ド・ドゥは素敵ですね。アコスタ版に接して感じることは?
小さい頃から親しんでいたバレエなので自分なりのイメージがあったのですが、カルロスの求めているものは、もっと人間味にあふれリアルです。カルロスは「もっとラフに!」と言います。下町のバレエという感じですね(笑)。自ら声を出す場面のあるバレエというのは初めてだったので最初は皆恥ずかしがっていたのですが、最終的には皆で楽しみながらやっていきました。
――試写を拝見しましたが、アンサンブルのお芝居も細かく、初演から回を重ねて完成度が高くなっている印象です。指導陣のクリストファー・サウダーズ(ドン・キホーテ役)、ギャリー・エイヴィス(キトリの父・ロレンツォ役)といった名キャラクター・ダンサーでもある人たちがアコスタの意図を汲んで丁寧に指導しているのではないかと感じました。
ロイヤル・バレエのダンサーたちは短いリハーサル期間のなかでも、どうやってキャラクターを作り演じるかを考えて努力していりので頼りになります。今回は新しいメンバーが多かったですが、私もそうだったように先輩方の踊りから学ぶことが多いです。クリストファーやギャリーのような人がいるので演技が締まり、ストーリーがしっかり伝えられるバレエになるのではないかと思います。
――主人公二人の場面でもロレンツォ(キトリの父親)をだます狂言自殺は演技の見せ場です。そういったところで気を付けていることはありますか?
舞台上と客席側では時間差があるので早く動くと伝わりません。一つひとつの動きに意味を込めて演じないと、お客様の目には動作しか映らない。言葉で伝えてしまうと早い動きになってしまうので、舞台上ではゆっくりと演じるようにしています。
Akane Takada in The Royal Ballet's Don Quixote (c) ROH 2019. Photo by Andrei Upenski
■映画で見る醍醐味
――「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」は日本でも定着してきました。世界の多くの国々で上映されますが、撮影日の舞台はやはり緊張しますか?
映画は凄くクローズアップして撮られるので劇場とはまた違う臨場感や見方があると思います。でも、その分ダンサーにはプレッシャーがかかります。記録され一生残りますし、皆ピリピリしているのはあります。それで今回の『ドン・キホーテ』本番で初めて高熱を出してしまいました。そんなことは今まで一度もなかったのですが…。
――「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2018/19」のバレエは『ドン・キホーテ』に続いて、6月28日(金)~7月4日(木)公開『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』(クリストファー・ウィールドン振付)、『メデュ―サ』(シディ・ラルビ・シェルカウイ振付)、『フライト・パターン』(クリスタル・パイト振付)によるトリプル・ビル、8月23日(金)~8月29日(木)公開『ロミオとジュリエット』(ケネス・マクミラン振付)が控えています。
トリプル・ビルでシディ・ラルビの新作にセカンドキャストとして出ます。初めてお仕事するのですが素晴らしい振付家。彼の手の動きが素晴らしく、それを間近で見ることができて勉強になります。テーマはメデューサ。ギリシア神話的なリチュアルな感じで、現実味の無いような作品ですが、どのようになるのか楽しみです。後のニつは再演です。『ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー』もセカンドキャストですが、ウィールドンらしい作品でユニークな動きを取り入れています。『フライト・パターン』は移民問題がテーマで、ソリスト、コール・ド・バレエ(群舞)の人たちが一体となって踊り、心にずっしりと響きます。
マクミランの『ロミオとジュリエット』はロイヤル・バレエの代表作です。ロンドンにいらっしゃれないお客様にもご覧いただけるのは特別なことですし、演劇性の強い作品をクローズアップで見てもらえるのはうれしいです。
■一つひとつの舞台を大切に
――プリンシパルに昇格して3年、日々どのようにバレエと向き合っていますか?
今を大切に踊っていきたいです。バレエは体が資本ですし、長く踊りたいと思っても体が付いていかなければ踊れない作品も多いと思います。そういった限りあるなかで、どういうダンサーになりたいのかを突き詰めていくには時間が足りなかったりもするのですが、そこを乗り越え一つひとつの作品に意味を込めて踊っていくのが課題です。
――今季の残りに向けて抱負をお願いします。
6月に日本公演で踊れることは特別です。キトリ役にもう一度挑戦できるので楽しみですし、たくさんの方々にご覧いただきたいです。
Akane Takada and Alexander Campbell in The Royal Ballet's Don Quixote (c) ROH 2019. Photo by Andrei Upenski
取材・文=高橋森彦
上映情報
■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=don-quixote
公演情報
■日程:2019年6月21日(金)~6月26日(水)
■会場:東京文化会館(上野)
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■主な配役:
6/21(金)18:30 主演:マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフ
6/22(土)13:00 主演:ヤスミン・ナグディ、アレクサンダー・キャンベル
6/22(土)18:00 主演:高田茜、スティーヴン・マックレー
6/23(日)13:00 主演:ローレン・カスバートソン、マシュー・ボール
6/25(火)18:30 主演:高田茜、スティーヴン・マックレー
6/26(水)18:30 主演:ナターリヤ・オシポワ、ワディム・ムンタギロフ
*主演はキトリ役とバジル役
■日程:2019年6月29日(土)、6月30日(日)
■会場:神奈川県民ホール(横浜)
■演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■予定演目:
「シンフォニー・イン・C」(ジョージ・バランシン振付)
〈マーゴ・フォンテインに捧ぐ〉より「眠れる森の美女」“ローズ・アダージオ”(マリウス・プティパ振付)
「マノン」より三つのパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
「白鳥の湖」よりパ・ド・ドゥ(プティパ/イワノフ振付)
「三人姉妹」(ケネス・マクミラン振付)
ほか、アシュトン、ウィールドン、マクレガー、スカーレットの作品を予定
6/29(土)14:00
「シンフォニー・イン・C」
ローレン・カスバートソン-ワディム・ムンタギロフ、マリアネラ・ヌニェス-平野亮一、高田茜-アレクサンダー・キャンベル、ヤスミン・ナグディ-ヴァレンティノ・ズッケッティ
6/30(日)14:00
「シンフォニー・イン・C」
ナターリヤ・オシポワ-スティーヴン・マックレー、サラ・ラム-リース・クラーク、崔 由姫-マルセリーノ・サンベ、フランチェスカ・ヘイワード-アクリ瑠嘉
*その他の演目の配役は決まり次第NBSホームページ等で告知。来日プリンシパルは各日とも総出演予定。