山田うんインタビュー “前奏曲尽くし”で贈る3年ぶり待望の新作『プレリュード』まもなく開幕!

インタビュー
クラシック
舞台
2019.5.22
山田うん

山田うん

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振付家、ダンサーの山田うん主宰のダンスカンパニーCo.山田うんは2002年に創設され国内外で多くの公演を行ってきた。常に先鋭的で意欲あふれる創造を展開し、10数人が踊る群舞の迫力は他の追随を許さないものがある。2019年5月24日(金)~26日(日)世田谷パブリックシアターで行う3年ぶりの新作公演『プレリュード』(6月15日、まつもと市民芸術館での上演も有り)はクラシック音楽の前奏曲を使った舞台で、新メンバーも加わって新境地が期待できそうだ。振付・演出・構成・美術を手がける山田に『プレリュード』の創作方法やカンパニーの新展開、日本のダンスの現在に対する思いを存分に語ってもらった。

待望の新作のテーマは「前奏曲」

――Co.山田うんの公演は『モナカ』(2018年1月)、『十三夜』(2019年1月)、『いきのね』(2019年2月)と再演が続きました。何か理由があるのでしょうか?

私が2017年に文化庁文化交流使を務めていた頃はほとんど日本にいませんでしたし、ダンサーたちも他カンパニーの仕事などをしていたので時間が流れてしまいました。それに国内外から再演のお話をいただいて前々からスケジュールが固まっていたのも理由です。新作を創りたかったのですが、ここ2、3年は旧作を深めようと思って再演を中心にやってきました。

――3年ぶりのカンパニー新作公演のタイトルは『プレリュード』です。「さまざまなプレリュード(前奏曲)を使用した、“彼は誰時”を予感させる詩的なオムニバス作品」と謳われています。

『いきのね』(2016年10月)を創った時、タイトル通り何かが終わるというか、命が終わっていくというか、一つ大きな集大成のようでした。扱うものも人間の伝統・過去の匂いがする感じがしたんですね。そこから切り離された衝動とか息吹みたいな、呼吸が始まったばかりみたいなものを取り上げたいと数年前から思っていました。伝統とか儀式とかの枠組みの中での美しさとか正しさではない、もう少し軽やかなものを扱いたいなと。

山田うん

山田うん

――近年は作曲家のヲノサトルさんと協同作業を重ねてきました。

一旦休憩です(笑)。ヲノさんとはまた一緒にやりますが、今回はクラシック音楽を中心とした過去あるいは現存の作曲家の楽曲をお客さんともダンサーともシェアしたい気持ちがあります。

――どのようなプレリュードを使うのですか?

冒頭はワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」です。最後もワーグナーの楽劇で「ローエングリン」を使います。私の頭の中のアーカイブにいくつかのプレリュードが入っているのですが、冒頭はまずハ長調の明快なものからと思って選びました。フランス印象派のドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」もあります。ラフマニノフの明るい時代を反映したかのような「10の前奏曲」や、ピアニストとしてはあまりにも手が小さいということで辿り着いたスクリャービンの前奏曲といった、さまざまな背景が匂い立つ美しい前奏曲を使います。私はロシアの作曲家独特の陰影、鐘の響きのあるようなピアノの表現に惹かれるんです。というより日本人ダンサーとの相性を感じます。現代の作曲家のものではレーラ・アウエルバッハの曲を使ったりします。

――以前からクラシック音楽がお好きなのですか?

子供のころから物凄く好きです。振付をする時は音楽に合わせることもあれば動きだけを作ることもありますが、パーツを物凄くたくさん作って、それを組み合わせます。その時に私の頭の中に入っている数多くの音楽が骨組みになっているんですね。なので3分くらいの振付を組み立てると「これはスクリャービンに合う」とか「この人とこの人を組み合わせれば、ここの部分はラヴェルのあの曲が合うんじゃないかな?」とかなるんです。たとえばダンサー自身の衝動で作ってもらった動きを見た時に、クラシックよりもジャズのテイストが少し入っている方が動きが光ると思ったら「ジャズに傾倒していた作曲家の曲を使おう!」という風に選曲していきます。今回は全部で15曲使う予定です。

『プレリュード』リハーサル 撮影:羽鳥直志

『プレリュード』リハーサル 撮影:羽鳥直志

――ピアノによるプレリュードといえば、ショパンをイメージする方が多いと思います。

2008年の『ドキュメント』という作品でショパンのプレリュードをふんだんに使っているんですよ。実は、その時に使ったショパンのプレリュードだけで再演したいという思いがあったんです。でも年月を経ると、一人の作曲家のプレリュードだけでやるという押しの強さは要らないと思いました。最初と最後をワーグナーの楽劇にして、間にさまざまな作曲家のピアノ曲を中心に用います。

――今回は振付・演出・構成に加えて美術としてもクレジットされていますね?

今までも自分のアイデアで空間演出もやっていました。最近はお金も時間もないのでプリサイズかつ肉体で押していくものが多かったのですが、今回は「牧神の午後への前奏曲」の場面で美術をデザインしました。

――どのような過程で創作していますか?

最初に私の振付を徹底的に踊ってもらう時間を1週間くらい作ります。私が頭と体に持っている衝動のような振付を4、5人くらいのグループに2時間ずつガッツリあたえる感じです。「集中的に振付を渡す日」というのがあるのですが「私の体の中でこういう動きが生まれている」というのを体得してもらう。で、そういうのを5日間くらいやってから、その振付を少し伸ばしてみたり、その変形をあたえてみたり、個人やグループのワークにしてみたりしているうちにパーツが何十個もできるわけです。そして短いそのパーツをコラージュして作曲をするつもりで構成をする。結果そこにぴったりな音楽を見つけることができます。出来上がっているパーツをどういう順番でつなぐかに関しては、きっと多くの振付家が本能的に特別な脳を持っていると思いますが、私の場合は音楽的な発想に基づいています。いろいろな作曲家の曲を使いますが羅列でなく、なぜその順番なのかも考えて組んでいきます。

『プレリュード』 撮影:羽鳥直志

『プレリュード』 撮影:羽鳥直志

新戦力がもたらす特別なエネルギー

――Co.山田うんは17年活動してきました。今回久々にオーディションをされたそうですね。

元々カンパニーは20代の人を中心に構成し、作品ごとにオーディションをしていたので頻繁にメンバーが入れ替わっていたのですが、2013年以降は国内外での再演が続き、オリジナルメンバーが踊り続け、気付いたら皆ほぼ30代になっていました。30代になると生活についても、人生についても、身体についても、いろいろ考える時期ですよね。それで「将来どうする?」といった話をダンサー一人一人としました。そうすると何人かが少し休みたいと。そういう人が多かったので、新しいメンバーを入れようと思いました。また新作には30代だけでなく10代、20代の若い力が必要だと感じていたので、これは絶対にやらないとまずいという危機感があってオーディションを行いました。

――今年に入って相次いだ『十三夜』『いきのね』の再演は近年のカンパニーの集成的な趣がありました。そこからわずか3ヵ月で新メンバーも加わっての新作発表です。

変化の日々、激動の時でした。辞める人、お休みの人、新しく入ってくる人。言葉を尽くせないことがたくさんありました。新しく入ってきた人とは身体的な共通言語を共有した経験がないから動き一つ伝えるにも時間が足りないですし、 チームワーク作りも大変です。本来時間をかけるべきことがたくさん端折られていく日々です。年度が変わってまだ2ヶ月もたっていません。そんな中、皆驚くほどにとても頼もしいです。いろいろな世代がいる新しい関係の中で、価値観が揃わないことが素晴らしい。それが私にとって大事だと実感します。群舞を踊る仲間だけれども、それぞれが自立している、刺激し合うことが大事で、今その新しい緊張感の中で生まれてくる特別なエネルギーがあります。

山田うん

山田うん

――新加入した方々はバックグラウンドが幅広く、かつ実力派揃いですね。

応募者が100名を超え、全国各地そして海外のカンパニーにいる人も来ました。広い視野を持ち、素晴らしい教育を受けている優秀なダンサーが物凄く多かったです。皆さん独立して一人で充分活動できるかと思いますが、カンパニーを受けるということは、私の振付が踊りたいというよりも、カンパニーだからこそ出会える経験、技術習得、人との関係性を求めているんじゃないでしょうか。ダンスカンパニーは金銭的にも肉体的にも大変なのに、それでも来るんだなと驚きました。ダンサーって、自分が踊れる時はできるだけ全身で踊っていたい。その中で出会うべき人に出会いたいとか、自分が知らない自分に気づいて踊ってみたいとか、人に振付・演出されてみたいとかなものなのかもしれませんね。好奇心と向上心を持つダンサーが多くて勇気が出ました。それに川合ロンや木原浩太、西山友貴のように外部や自身の活動でも活躍する人に憧れて「あの人たちと踊ってみたい」と志望する人も少なくないようです。

『プレリュード』リハーサル 撮影:羽鳥直志

『プレリュード』リハーサル 撮影:羽鳥直志

「土着」にこだわる真意とは

――Co.山田うんは大所帯ですし運営は大変でしょうね。

もちろん大変です。ダンサーだけでなく制作・技術スタッフにも苦労をかけて申し訳ないです。でもカンパニーには苦労の何倍も感動的な素晴らしい瞬間もあります。貴重な経験やダイナミックな人生のチャンスも訪れます。とはいえ日本の中にいると、すぐ小さな社会の壁に私たちの常識を作り固定化したりされてしまいがちです。でも、そうじゃないんだよ、と。どんな困難や矛盾にも道を作れるということを示し続けたい。創作も踊りも、生きていくことも全てです。ちょっとやそっとで日本ではアーティストとしてもダンスカンパニーとしても続けていけません。だから自分一人の物差しでは経験できなかったようなことをカンパニーで経験してほしいし、お客さんにもそういう経験をしてもらえるようなものを創ることでその形を見せ、切り開き続けようねと。直接そうは言いませんが、ダンサーたちとの時間の中ではそういった意識を前提に無理難題を乗り越えてもらうことがあります。一人では無理なんです。一人でできる特別なことと、集団でできる特別なことは違っていて、集団でできることに固執しています。変化し、進化する集団――自分の中にもう一つモンスターを創っている気持ちになるんですね。それはいいことか悪いことか分からないですが、価値観や立場、境遇の違う人と関わることがどれだけ大事かといつも思います。この件については課題がたくさんあります

――日本のダンスについてのお考えを伺います。2016年12月には「コンテンポラリーダンスのゴッドマザー」と称され敬愛された黒沢美香さんが亡くなられました。先日は平成最後の日に伊藤千枝さん主宰の珍しいキノコ舞踊団が解散を表明し約30年の歴史に幕を下ろしました。今の日本のダンスの状況をどう受け止めていますか?

寂しいですよ…。美香さんが亡くなった時は寂しかったし、千枝さんの決断も寂しいし。でも寂しいとか言っているけれど、自分もまもなく50になり人生半ばを過ぎていて、ダンサーとして踊るのはあと何年あるんだろうとか考えます。私にとって未来というのは、時間的には昔よりも全然足りないんですよ。だからなのか私自身が後進にしてあげられることを意識するようになりました。私は別に大学で教えてもいないし、誰かに何かを教えてというのは一切やらないんですけれども、先生じゃないから伝えられることがあるんじゃないかなという気がしています。

山田うん

山田うん

――文化芸術活動において「社会における意義」みたいなことが問われ久しいですが、ワークショップなどに早くから取り組まれていますし、社会との関わり合いを大事にされていますね。

土着なんですよ、私のダンスのスタイルは。土着というのは土に着いているというのではなく社会に対しても、です。「社会に対してちゃんと立つ」ということも一つの土着だと思います。文化とか社会というものも、私たちの土じゃないですか。そこに立たなければ一歩も前に進めない。学校、福祉施設、日本のみならずさまざまな国でアウトリーチやワークショップ、ダンサーの育成などをやっていることは、お客様の前で踊ることと同じなんですね。アカデミックな中で踊りというものを進化させていくという文脈より、常に土着というものから切り離さないというのがスタイルです。

――厳しくても粘り強く踏ん張るしかない…。

人が去っていくのは寂しいですが、虚しさや寂しさも含めて私が踊っていく、振付を作っていく手掛かりなんですね。踊りというのは、上手くいかないとか寂しいという気持ちも含めて生きている喜びを放つことができる気がするんです。尊敬している人が亡くなったり、同世代の人が去ったりすることを無視できない。何とも言えない感情に蓋をするのではなく、受け入れる。私にも去りたいと思う気持ちが無きにしも非ずというか、この状況でダンスをやっていく中にはあまりにもつらいことがたくさんあるわけです。「つらいならやめれば?」と言われたら、どうしよう…。でも、つらいとか寂しいというのは人間当たり前で、踊りをやっていれば昇華できるので、ま、つまりあまりつらくないんですよね(笑)。そして全ての出来事、全ての感情は踊りを作っていく体の記憶に埋め込まれるのでいつか引き出せばいい。だから踊り手としても振付家としても成長することでいろいろなことをお返ししていこうと思います。

『プレリュード』 撮影:羽鳥直志

『プレリュード』 撮影:羽鳥直志

――最後に『プレリュード』への意気込みをお話しください。

一曲一曲が短い「プレリュード」という音楽性と、ダンサー一人一人の生み出す個性的なフレーズには同じクオリティのクリエイティビティがあり、その相性の良さで音楽とダンスの美しい時間を創り出すことができると思っています。また最近個人的に起こった出来事とか世の中のいろいろなことを含めて、新しい夜明けのようなもの、太陽がまだ見えていないけれど薄っすら明るくそこで時間が止まったような凄く長い時間の感覚があります。はっきり見えてないからこそ見える、聴こえるものがあると思います。新しいチームワーク、新しい時間の中で期待とか不安もありますが、それをなるべく形にしたい。夜が明けてほしいという希望を持った人たちに届くものを創りたいです。

取材・文・撮影=高橋森彦

公演情報

Co.山田うん 新作公演「プレリュード」
 
■振付・演出・構成・美術 :山田うん
■出演:
飯森沙百合/川合ロン/河内優太郎/木原浩太/黒田勇/田中朝子/西山友貴/仁田晶凱/長谷川暢/望月寛斗/山口将太朗/山崎眞結/山根海音/吉﨑裕哉

東京公演
■日時:
2019年5月24日(金) 19:00開演
2019年5月25日(土) 18:00開演
2019年5月26日(日) 15:00開演
■会場:世田谷パブリックシアター
■公式ホームページ:http://yamadaun.jp/
■お問合せ:Co.山田うん 090-2912-0436
 
松本公演
Co.山田うん 2019年ツアー「話のない物語」
『プレリュード』と世界初演『りゅうのめのなみだ』の二本同時上演。
■日時:6月15日(土)15:00
■会場:まつもと市民芸術館 実験劇場
■お問合せ:まつもと市民芸術館センター(10:00~18:00)
TEL.0263-33-2200
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