水田航生主演、中毒性のあるミュージカル『REEFER MADNESS』が開幕 初日観劇レポート

レポート
舞台
2019.7.5

映画演劇文化協会が、魅力的な作品を若い才能と一緒に上演に取り組むという新しいプロジェクトの第一弾、ミュージカル『REEFER MADNESS』が、2019年7月4日(木)ついに開幕した。
この初日の模様をレポートしよう。

※ネタバレが気になる方はご自身がご覧になった後でお読みいただきたい。

<STORY>
アメリカの小さな町のハイスクール、厳格な講師(小林遼介)が「REEFER(大麻たばこ)」の害について保護者を前に講義を始めます。その会場で語られる世にも恐ろしい悲劇、「REEFER」の魔の手に絡み取られた者のたどるてん末とは…。


観客が席に着くのを静かに待つ講師役の小林は、全員が着席したのを見計らって講義を始める。のっけから声も振舞いもどこかオーバーリアクション気味なその様は、まさにB級ミュージカル・コメディのオープニングにぴったりだ。小林はまるで講談師のように滑舌良くこの物語を進めていく。

小林の話が一区切りしたところで本作の主人公ジミーが登場。ジミーを演じる水田航生は純粋さと年相応の好奇心を醸し出すイケメン高校生。彼女とのバカップル(笑)ぶりが非常にハマっている。
過去の作品でも好青年役を演じる機会が多く、それがピタっとハマる水田が、これまで積み重ねてきた好青年ポイントを全部チャラにしてしまうくらい、今回のジミー役では猛スピードで転落していく。しかもその顔にはREEFERでラリった微笑みをたたえながら。ジミーが初めてREEFERに手を出す瞬間は、見るものに「それに手を出したら人生の終わりだ。やめろ」と制止したくなる一方で、ジミーと同様、吸ったらどうなるんだろう、などと好奇心を掻き立てられる。結局、一度REEFERに手を出してしまった後の豹変ぶりは「これが水田航生?」と思わざるを得ない、立派な(?)薬物中毒者となり果てていた。

ジミーに目をつけたREEFERの売人ジャック役の岸祐二は、低音の魅力とイキな身のこなしで一般人を“客”にしたかと思った途端、狡猾で暴力的な男に変化する。男はもちろん女相手でも容赦せず殴るわ蹴るわ……もちろん殴る手と反対の手にはREEFERをちらつかせながら。悪魔のようなどSぶりにむしろ魅力すら感じさせる。ダークサイドな岸を観たかったファンにはたまらない役どころだろう。そして岸の魅力といえばやはり迫力満点の歌声。一節歌い出すと周りをすべて支配するような美しさと声量に心奪われてしまう。例えREEFERの売人であろうとも。いや、彼こそがREEFERなのかもしれない。

なお、岸はこのジャックの他にもう一つ、大事な役を演じる。ジャックとは正反対のその姿に初登場の場面では客席から歓声、悲鳴、そして笑い声が拍手と共に響いていた。このギャップがありすぎる2役こそが岸の正しいキャスティングだろう。尊敬を込めて「卑怯・オブ・卑怯」と呼びたい存在だ。

もう一人、ジミーがジャックに連れていかれた「REEFER DEN」(大麻の館)の女主人・メイ役の保坂知寿からも目が離せない。REEFER中毒であり、またジャックに依存しているため、どんなに暴力を受けようと彼の言葉には逆らえない哀れな女だ。保坂はその哀れな存在である事をキープしつつ、何かしら笑いを誘う。ジミーが真剣なやりとりをしているその台詞を気だるそうに勝手に繰り返し、合いの手を打っている。その一言一言が実におかしいので、観客は泣いていいのか笑っていいのか、どっちの芝居を観ればいいのか目のやり場に悩むばかりだ。
もちろん保坂も存分に歌う。前半で聴かせる切ない歌も、終盤に聴かせる魂の咆哮のような歌声もすべて堪能したい。

上記の3人に目がいきがちだが、ジミーの恋人メリー役の清水彩花(Wキャスト)のぶっとんだ行動力とパワフルな歌声、「REFEER DEN」のREEFER中毒者サリー役・ラリソン彩華のコケティッシュな色気と狂気、同じく「REEFER DEN」の住人ラルフ役・加藤潤一のどうしようもない負け犬感、もちろん何役もこなすアンサンブルキャストたちの存在も、この作品がコメディであるために必要不可欠な存在だ。

そう、マジメに語っていても本作は「コメディ」。上演中は何度となく笑いが零れ、笑いながらも「これを観て笑っている自分はいかがなものか」と皮肉も感じさせる痛快な作品なのだ。

「REEFER(大麻)」をテーマにした、能天気で中毒性のあるB級ミュージカル・コメディというウリだが、やっている事はB級にあらず、SS級の魅力にあふれた秀作だった。願わくば、同じくらいの規模の小屋でもっと回数を増やして上演してほしい。一度観ただけでは見逃している様々な見どころがまだまだありそうで何度でも楽しみたくなるのだ。

……これこそがミュージカル『REEFER MADNESS』が持つ「中毒性」に違いない。

取材・文=こむらさき 写真=オフィシャル提供

公演情報

ミュージカル『REEFER MADNESS』
 
■脚本:Kevin Murphy & Dan Studney
■音楽:Dan Studney
■作詞:Kevin Murphy
■翻訳・訳詞・演出:上田一豪
 
■出演:
ジミー:水田航生、ジャック:岸祐二、メイ:保坂知寿
メリー(Wキャスト):清水彩花/水野貴以、サリー:ラリソン彩華、ラルフ:加藤潤一、講師:小林遼介
堀江慎也 榎本成志 古川隼大 岩永俊 内山絋太朗
樋口綾 濵平奈津美 高橋莉瑚 杉山真梨佳 友部由菜
 
■公演日程:2019年7月4日(木)~7日(日)
■会場:新宿村LIVE
料金:全席指定 6,000円(税込)
 
■企画・製作:一般社団法人 映画演劇文化協会
■公演に関するお問合せ:一般社団法人 映画演劇文化協会 03-3591-4593(平日10:00~18:00)
■公演オフィシャルサイト:http://www.eibunkyo.jp/reefermadness/
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