「東京国際音楽コンクール<指揮>」初の女性優勝者、沖澤のどかに聞く~ベルリンを拠点に世界へ

インタビュー
クラシック
2019.7.10
堂々の指揮。でも実はとてもシャイで、2匹の愛ネコ(=^..^=)を愛でるのがエネルギーの源

堂々の指揮。でも実はとてもシャイで、2匹の愛ネコ(=^..^=)を愛でるのがエネルギーの源


2018年秋、若手指揮者の登竜門「東京国際音楽コンクール<指揮>」で優勝した沖澤のどか。女性初、日本人としても18年ぶりの快挙だった。今年(2019年)5月のデビューコンサートを無事に終え、留学先だったドイツのベルリンを拠点に、いよいよ世界各地で本格始動する。日本でも、夏の演奏会が始まる。

眼前の空気をツーと切るように颯爽と舞台に登場する。しかも姿勢がいい。体軸が全くブレず、動きにムダがない指揮で、落ち着いて音楽に没頭できる。何か運動をしているのか尋ねたら「気が向いたときに近所を5キロくらいゆっくりジョギングしたり、筋トレしたり。プランクやスクワットはわりと続いています。もともと運動全般が好きで、走るのは特に良いリフレッシュになっています」という。

青森県出身で、子供の頃から「音楽は完全に生活の一部」だった。「母方の伯父が趣味でチェロを弾いていた影響で、4歳からピアノ、9歳からチェロ、16歳からオーボエを始めました。小学校では合唱部でしたが、長距離走が得意だったので大会のときだけ陸上部に借り出されたりもしました。小学5年から高校卒業まで青森ジュニアオーケストラ、中学はバスケ部、高校は吹奏楽部です」。陸上の得意種目は800メートル走だったとか。
 
音楽家を将来の目標に選んだのは高校2年の冬。短期語学留学先のシドニーで、人種も考え方も多様な文化に触れ、自身と対峙できた。チェロで私立音大に進学した姉がいて「最初はオーボエでの進学を考えましたが、語学留学を許してもらった手前、親に楽器を買って欲しいと言い出せず。今思い返すと世間知らずとしか言いようがありませんが、国公立の音大といえば東京藝術大学しか知らなくて、指揮科の受験要項のソルフェージュだけは昔から得意だったので、入れるかもと…」。

指揮のレッスンを受けたのは半年間、ほんの数回だったというが、無事に入学。しかし、すでに音楽家として活動している人が珍しくない学校で、何でも知ってて当然、できて当然という環境についていけず、悩んで休養した時期もあった。なんとか乗り越えて卒業し、2015年ドイツに留学。今春、ベルリンの音楽大学の修士課程を修了した。

 近々の国内演奏会のプログラムには、メンデルスゾーンの作品が複数入っている。NTTフィルハーモニー管弦楽団定期演奏会 (7月14日)では、本選の課題曲だった序曲「静かな海と楽しい航海」。やっとかめ室内管弦楽団演奏会(8月12日)では「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」と「交響曲第5番<宗教改革>」

 ドイツへ渡って間もなく、メンデルスゾーン基金の奨学生に選ばれ、研鑽を積んできた。「もともとメンデルスゾーンのピアノ曲は好きでした。管弦楽曲に対する特別な思い入れはなかったのですが、研修でライプツィヒを中心にゆかりの地をまわるうちに、いろいろな視点から知見を得ました。彼は裕福な家庭に生まれた神童として語られることが多いように思いますが、私はその洗練された音楽、透明な音色の中に何か『叫び』のようなものを感じます」

基金を設立し、彼の研究や楽曲普及に尽力し続けた指揮者のクルト・マズア(1927~2015)からも、多くを学んだという。「先生のお宅に伺って、メンデルスゾーンについて、音楽について、人生についてお話した日々はかけがえのない宝物です。先生がリハーサル中に何気なく指揮をされたときの音色は今でも頭から離れません」

ちなみに、デビューコンサートでは「交響曲第3番<スコットランド>」を指揮した。お気に入りの曲であることと、コンクールの審査員がメンデルゾーンの演奏を高評価したことも理由のようだ。また、アマチュアオーケストラを指揮する楽しさを尋ねると「一つの曲にたくさん時間をかけられることと、練習後の飲み会(笑)。大変なのは技術的な向上ですが、熱心さと向上心、探究心には毎回驚かされます。時々思ってもみないような良い音が出たりして、やめられません」

デビューコンサートを終えて「乾杯!」。左から熊倉優(3位)、沖澤、横山奏(2位)

デビューコンサートを終えて「乾杯!」。左から熊倉優(3位)、沖澤、横山奏(2位)

コンクール後「初めてロシアのオケを振って、全く新しい感覚を得ました。今は世界各地のオーケストラとの共演で、学び得られることが一番多いように感じます」という。今春『東京・春・音楽祭』でリッカルド・ムーティの指揮指導を受けたが、夏の多忙な合間を縫って、イタリア旅行も兼ねてムーティ・アカデミーを訪れるのを楽しみにしている。

取材・文=原納暢子

公演情報

●NTTフィルハーモニー管弦楽団定期演奏会
7月14(日)14:00開演、ミューザ川崎シンフォニーホール
一般1500円(全席自由)※未就学児の入場はご遠慮ください
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=2511&y=2019&m=7
D.ショスタコービッチ:交響曲第5番「革命」
F.プーランク:バレエ組曲「牝鹿」
F.メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」

 
●シンフォニーは友達!2019
きく・みる・まなぶ エンジョイ!オーケストラ
8月6日(火)11:00開演、岡山シンフォニーホール大ホール
500円(全席指定)※0歳から入場可。3歳未満は保護者1人につき、ひざ上に1人まで無料。
http://www.okayama-symphonyhall.or.jp/page01Detail.php?key=2911&tuki=8&nen=2019
※今年のコンサートテーマは「はじめてのオペラ! 情熱のカルメン」
【管弦楽演奏】岡山フィルハーモニック管弦楽団

 
●やっとかめ室内管弦楽団演奏会
8月12日(月・祝)14:00開演、杉並公会堂大ホール
1000円(全席自由)※未就学児の入場はご遠慮ください
http://yattokame.org/#nextconcert
F. メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
R. ワグナー 舞台神聖祝典劇「パルジファル」より《聖金曜日の音楽》
F. メンデルスゾーン 交響曲第5番「宗教改革」
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