MOROHA 初の日比谷野外大音楽堂ーーありふれた、どこにでも転がっているような勇敢なたくましき人生を。生きて、生き抜いて、俺は俺のことを幸せにしたい。
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MOROHA 撮影=森好弘
YAVAY YAYVA RECORDS presents MOROHA 単独ライブ 2019.7.13(SAT)日比谷野外大音楽堂
――鉛色の空に、日は落ちようとしていた。大勢の観客を前に、アフロは天を仰ぎながら口を開く。
「あぁ……俺の憧れていた空は、この空です。東京の空。おそらく曇っているから、星ひとつ出ない空。星の出ない空が欲しかった、恋しかった。俺の田舎は夜空がめちゃくちゃ綺麗だったから、それが嫌だったから、星の出ない空が欲しくて、俺はあの町を飛び出した」。
辺り一帯がゆるやかに色を沈めると、向こうの方にそびえ立つ高層ビルのあの窓この窓の明かりが、1つ、また1つと灯った。そのビルの光こそが、東京の星空なのだと思った。……これからお届けするのは、田舎の町の路上から飛び出した二人の男が織り成す、都会の夜の出来事。僕らが見たのは伝説か、それともあれは――。
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2019年7月13日。東京・日比谷公園大音楽堂で開催されたMOROHAのワンマンライブ「単独」は、あいにくの雨に見舞われた。傘の使用が禁止されている会場では、観客のほとんどがレインコート姿でステージを見守っていた。18時になり、アフロとUKが姿を表すと盛大な歓声と拍手が起きた。土曜日の夕方、野外ライブ、片手にはアルコール。気持ちの昂ぶっている観客を前に、アフロは第一声「ありがとう」ではなく、「楽しんで帰ってください」ではなく、「浮かれてんじゃねえぞ」と釘を刺す台詞を飛ばした。そして左手を突き出して「乾杯!」の一言とともにパンッ!とスポットライトが二人を照らす。こうしてライブは「革命」で幕開けとなった。
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その後、「YouTubeを御覧の皆様へ」、「一文銭」、「俺のがヤバイ」とアグレッシブな曲の連打は緩むことがなかった。アフロとUKの気勢に引っ張られるように、高く拳を掲げる観客たち。しかし、その拳は「tomorrow」で強く握りしめたまま下ろすことになる。
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そして、静かに下ろした拳は次の曲で涙を拭うハンカチとなった。アフロが遠くを見つめて話す。「絶対に野音やるから、絶対にZeppでやるから、デカイところでやるから、贅沢をさせるから、どこへでも連れて行ってやるから。……この手紙は、そんな言葉を真っ直ぐに信じてくれた女が、最後の力を振り絞って書いた手紙です」。そう言って、6曲目は「拝啓、MCアフロ様」へ。<日当たり悪い部屋ともさよなら 売れないバンドマンともさよなら>。都会の雨が火照った体にピタッと張り付いて、涙と混じって頬を伝った。<夢を掴んで 幸せになって 愛の歌しか歌えないような 腑抜けたつまらん奴になってね そしたら遠くで後悔するね>。そして青い照明とスモークに包まれたステージの上でUKがアウトロを演奏していると、近く飛んでいた鳥のさえずりが重なった。
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誰もが温かい気持ちになっていると、アフロが突然「音楽は金じゃない! 音楽は金じゃないんだ!」と叫んだ。「……って、そういうふうに言ってた奴から金が理由で辞めていきました。俺はそうなるのは御免だ。野音、この聖なる地で、俺は今日も金稼ぎに来たぜ」と言って、<金さえあれば 金さえあれば>と「米」を歌い上げた。その後、先ほどの発言を裏返すように「……世の中、金だって100%の気持ちで言い切れたら、思い込むことができたら、どれだけ楽なことでしょう。中途半端な俺は「やっぱり金がなくちゃ」と思ったり、ときに「お金なんかなくたって」そういうふうに思ったり。中途半端な俺は迷ってばかりです」。その儚い言葉はオレンジの照明の中に溶けた。8曲目に歌った「エリザベス」は、降り止まない雨さえも優しく抱きしめているようだった。
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気づけばライブが始まって1時間が過ぎ、時刻は19時。鉛色の空に、日は落ちようとしていた。「あぁ……俺の憧れていた空は、この空です。東京の空」。アフロの言葉に導かれて、みんなも一緒になって空を見上げた。月の見えない、ビルに囲まれた空だった。「俺の田舎は夜空がめちゃくちゃ綺麗だったから、それが嫌だったから、星の出ない空が欲しくて、俺はあの町を飛び出した」。そして「星が出ないなら、自分が輝くしかないだろう。そう言い聞かせて、始めたんだ。お前が、この街でやるって決めたんだろ。じゃあさ、やるからには時代をぶち抜けよ、上京タワー」。
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――花の都にあこがれて、飛んできた二羽の鳥。ちりめん三尺ぱらりと散って、花の都は大東京です。この東京という街は、いろんな人間が夢や希望を抱いてやってくる。欲望が渦巻く路地の名前は、人間交差点。アフロとUKもまた、14年前に長野県・上田市からこの地に舞い降りた。そして今、たった二人で野音を満員にする絶景を手にすることができた。それなのに……次に披露した「東京から遠い故郷へ」宛てたその歌は、どこか寂しそうだった。「遠郷タワー」の<「良かった 本当に良かった 故郷を捨てて あの街を捨てて しがみつく手を振り切って良かった」と言えるように>は「故郷を蹴飛ばした自分には、どこにも帰る場所はないんだ」と言ってるように聴こえた。
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終盤に差し掛かったところで、アフロが声優業をやっていることについて話す。「仕事の幅っていうのは、人間の幅だと思ってるから。あんなことやらない方がいいのに、という仕事ほどやらないと人間の幅が広がらない。それは、残念ながらラッパーの先輩から学んだんじゃなくて、周りの普通の仕事をやっている友達から学びました。だから自分が必要とされている場所では力一杯やりたいと思ってますし、音楽活動のこともそれ以外のこともお付き合いいただけたらと思います」。15曲目は「いくつものいつもの」で心のロウソクに火を灯すような、温かい空気が会場を包んだ。
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「ストロンガー」を挟み再び臨戦態勢に入ると、最後に歌ったのは「五文銭」。
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<声を揃えてなんてうたわれてたまるか 誰とも揃わねぇ俺だけのうただ>ジャンルに属さない、否、属せない二人はそこにいた。<「一人じゃないよ」なんて気休めを蹴飛ばして 「一人でもやれ」ってうたを叫べ>人間はいつだって一人ぼっちだ、生まれてくるときも死ぬときすらも。<革命のページは中指でめくるんだ>マイクとギターと照明だけ、大掛かりな演出を施さないMOROHAのステージはいつだってシンプルだ。だって素手でかかってくる奴を相手にするほど怖い喧嘩はないだろ。<どこへ?なぜ?どうして?何をもってそこまで?>その声は、そのギターの音は痛くてたまらなかった。<追いかけ続ける問いかけの答え 答え……>最後の言葉を投げると、アフロはこの日、一番の声で叫んだ。
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「伝説を作るんだ、伝説を作るんだ! ……そう思ってステージに飛び出した。別に野音じゃなくたって、50人のライブハウスだって、ビールケースの上でライブした10人しか入れないあのバーでのライブだって、伝説を作るんだ。そう思ってUKと一緒にステージへ飛び出した。だけど、歌い始めれば自分の書いた歌詞に気づかされる。俺は伝説を作れるような大それた人間ではないってことを。俺の歌は悔しさに打たれて、惨めさに打たれて、それでも辛うじて立ち上がって。どうにか日々を生きていくっていう、ありふれた、平凡な、どこにでもあるそんな人生の歌だ。こんなもんは、伝説じゃない」。アフロの言葉、一つ一つがUKのギターの声で。UKの弾く音色、一音一音がアフロの言葉に聞こえた。
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「だけど、その1日1日が、その一瞬一瞬が伝説よりも価値があるんだって、そう信じてる。信じて生きたいと思ってる。君もそうだろ? お前も、あなたもそうだろ?」。あの瞬間、ステージが眩しいと思ったのは照明のせいじゃなくて。二個の心臓の生気が生々しい光を放っていたから。アフロは言う。「俺はたくさん裏切ってきたし、たくさん負けてきたけど、いつか俺は俺自身のことを褒めてやりたい。よく頑張ったって、最後まで諦めなかったって。力いっぱい、俺は俺のことを抱きしめてやりたい。そしていつか、伝説じゃないこの人生を。ありふれた、どこにでも転がっているような勇敢なたくましき人生を。生きて、生き抜いて、俺は俺のことを……俺は俺のことを幸せにしたい」。不思議だった。計17曲を終えて二人がステージを去った後、空を見上げるとピンク色の夜空が広がっていた。あの日、僕らが見たのは伝説だったのだろうか、それともあれは――。
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取材・文=真貝聡 撮影=森好弘
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