山本卓卓と百瀬朔にインタビュー KAATキッズ・プログラム『二分間の冒険』で「冒険」の意義を現代に問う
(左から)山本卓卓、百瀬朔
現代の演劇シーンを牽引するアーティストとともに、大人も子どもも本気で楽しめる舞台を創作する“KAATキッズ・プログラム”。この夏は、およそ30年にわたって子どもたちに読み継がれてきたファンタジー小説『二分間の冒険』(岡田淳原作)が舞台化される。本公演の台本・演出を手掛ける、劇団「範宙遊泳」主宰・山本卓卓(やまもとすぐる)と、主人公の悟を演じる百瀬朔に本作の見どころを聞いた。
「子ども」は想像よりも「大人」だった
ーー本公演の原作は1985年初版です。まずは原作をお読みになった第一印象を教えてください
山本卓卓(以下、山本):僕は児童文学というものをあまりたどって来ませんでした。『ハリー・ポッター』シリーズすら読んでいない。児童文学について、ある種の偏見を持っていました。「きっと子ども向けだから子どもっぽくいろんなことがあるのかなぁ」なんて思っていたんですけど、そんなことはないんですね。主人公の悟の設定は小学6年生ですが、非常に人間な感じがして、言っていることも、子どもっぽくなく大人っぽい。そこにまずびっくりしました。
それから原作を同時に批評的な目で読んだ時に、原作は80年代に書かれましたが、今の2019年に置き換えた時に、ちょっと価値観が変わっているなぁと思うところもあって。今回、舞台にする時には、もう少し「今」ということを強調して書きたいなと思いました。
山本卓卓
百瀬朔(以下、百瀬):僕は結構本を読むタイプだったのですが、この作品は読んだことがありませんでした。改めて読ませていただいた時に思ったことは、大人が思うよりも小学6年生は大人なんだなということ。今回の舞台には実際の小学6年生の子もいるんですけど、彼/彼女らなりにいろいろ考えているんですよ。(演じる悟と同じ)小学6年生の時に自分が何を考えていたかということはあまり覚えていないのですが、自分が大人になってみて、「子どもはこんなことを考えているのだろう」と決めきった感情で子どもを見ていたと気づかされましたね。
ーー「今」を強調するということでしたが、具体的にはどんな演出プランを描いていらっしゃるのですか?
山本:例えば、昔書かれたものを現代の設定で改めて示す時に、強烈に観客にそれを理解させる道具の一つとして携帯電話があると僕は思っています。今回は携帯電話が象徴的に出てくる場所もあって、おそらくそれを見ることによって、これは「今の時代なんだな」ということが示せると考えているんです。
ーー今回は、エキストラも出演されるそうですね
山本:はい。当初キャストに関して制作側から少人数でと提案されたんですよ。でも、少ない人数では描けないものが多すぎるし、来年以降はツアーもできればと考えているので、各地のお芝居に参加したい子どもたちとできる箇所を残しておきたいという風に思った。それで、大勢のエキストラを募集しました。
それに、この話は「わたし」と「あなた」が出てきて、さらに「みんな」というのが出てくる。「わたし」と「あなた」だけではなく、「みんな」の中で、また「わたし」を発見していくお話だと僕は理解しています。少人数だと「みんな」にならないじゃないですか。「みんな」という存在がどうしても必要だから、そこをエキストラに託しているという感じですね。
ーー今回も、山本卓卓さんの演出らしい、文字を使った演出はあるのですか?
山本:出てきます。それはもう本当に僕に染み付いている感覚なので。僕たちは今、文字情報が常にある。携帯電話から出てくる文字情報もそうですし、多分80年代よりも文字に触れることが多いはず。僕にとっては文字を使うから現代的だよという気持ちは全くなく、ただ日常で当たり前のこととして文字を出すという感覚なんです。
それをなぜかコンサバティブな演劇人たちはかなり嫌うんですけど、僕はこんなに科学も芸術もアップデートされているのに、演劇だけが遅れをとっていることにすごく問題意識を感じています。別に何と思われようが、知ったこっちゃないという感じで、文字を使っていくという方針です。
ーー「キッズ・プログラム」という枠ではありますが、お子様に合わせてレベルを下げてということはないということですね?
山本:全くないですね。あっても、ルビをふるぐらいかと。レベルを下げる……それはやはりどうなのかなと思うんですよ。今回、本物の小学生も出演するんですが、僕らが彼らを子ども扱いして、作るのは嫌。大人に声をかけるのと同じような感じで、子どもには声をかけています。「???」な顔をしたら言葉を足すようにしているんですけど、同じレベルで、対等に話すことはかなり意識しています。作品もそうなるといいなとは思っています。
(左から)百瀬朔、山本卓卓
現代に問う、「冒険」の意義
ーー原作が書かれた80年代と現代は社会状況も変わってきていますが、今における「冒険」はどういう意味を持つと思われますか?
山本:この本が書かれた80年代は冒険ができていたと思うんです。僕だって小学生の頃、冒険をいっぱいしていましたから。まぁ裏山で遊ぶとか、そんなレベルですけど、全然行けた。別に親に特別な許可を取る必要もなく、何時に帰ってきなさいよ、ぐらいで良かった。
でも今、その「冒険」ができるのかなと思った時に、できないと僕は思う。家庭にもよるのでしょうが、「どこ行ってくるの?」と聞かれて「あそこの裏山に行ってくる」というと、「危ないからやめなさい」と言われる。嫌だと言うと、「じゃあ、私も行く」と言われてしまう。親がついてきたら、それは冒険ではない。昔ほど見させたくないものに触れられない社会になっていると思うんです。親が見せたくない世界に子どもたちはより触れられない。そんな気が僕はするんですね。それはちょっとゆゆしき事態だという思いが僕の中であります。
冒険が許されなくなると、失敗することが許されなくなってくるし、怪我することが許されなくなってくる。そして迷うことが許されなくなってくるんですよね。失敗すること、怪我すること、迷うこと。これは、大人になればなるほど絶対に出くわすものです。年をとればとるほど、絶対に付きまとうのに、その予行演習ができない。それはちょっと可哀想。いいものだけを見る世界に生きるのは可哀想だなと。すごく大袈裟なことを言うと、本作で、冒険の意義というのを問い直したいなと思っています。
ーー百瀬さんにとって「冒険」とは?
百瀬:子どもの頃、冒険をしたことはそこまでなかったかな。遊戯王カードとかで遊んでいたので(笑)。一方で、冒険の捉え方はもっと広いのかもしれないと思うんです。竜と闘うことだけが冒険ではない。生きていく中で、きっと冒険と置き換えられるようなこともあると思うんです。今回の舞台でも、やりながら僕もドキドキしたり、ハッとさせられたりしています。一緒に冒険させていただいているというか、自分にない経験をさせてもらっているかなと思っています。
毎年届く「あけましておめでとう」メール
ーー稽古場はどのような雰囲気なのですか?
百瀬:楽しい雰囲気です。僕は歳が離れたメンバーと舞台でお芝居をする機会がなかなかない、というか初めてなので。子どもたちのストレートな表現や、毎回違うお芝居をしてくることはとても勉強になるし、楽しいです。卓卓さんはそういったところも掬ってくださるし、意見を出しあう稽古場なので、すごくいい雰囲気ができていると思います。
ーー山本さんと百瀬さんは以前朗読劇でご一緒されたそうですね。数年が経ちますが、お互いに変化などは感じられますか?
百瀬:変わったところも変わっていないところもたくさんあるんですけど……すごく楽しかった記憶があります。朗読劇なので数日しかご一緒できなかったのですが、僕の周りの人たちもその作品を覚えてくれていて「すごく良かった」とずっと言ってくれて。また卓卓さんとやりたいなと思っていたので、今回は念願がかなった感じです。
百瀬朔
山本:僕は毎回毎回、関わったからにはその俳優をとにかくベストな状態に持っていきたいと思っています。どの作品も常に。だから俳優さんにそう言ってもらえるのはすごく嬉しくて、ありがたいです。その中でも朔ちゃんは、1回一緒にやってからすごく気になる存在だったんですよね。絶対いつかチャンスあればまたやろう、お芝居をちゃんと作りたいなと思っていたんですけど、僕の方も色々キャスティングがあって、ベストな時期を探っていたんですね。
……でも、そういうことって、意外と成就しないこと多いじゃないですか。だけどずっと頭の隅に彼といつか仕事をしたいという思いがあった。その思いが切れなかったのは、なぜか。それは朔ちゃんが、毎年毎年明けましておめでとうメールを必ずくれたから。それが要因の一つではあるとかなり思っていて。単純なことだと思うんですけど、すごく僕の中で残るんです。だけど……「おめでとう」って僕が返すと特に返ってこなくて(笑)
百瀬:いや、返している! 絶対返してますよ! ご飯行きましょうね、ぐらいで毎年終わっていましたけど(笑)
山本:そうだね(笑)。だから僕の中では妄想で何回も彼とご飯は食べているし、妄想で毎年会っている気がしていた(笑)。今回こうして再会した時に、彼がたどってきたものを栄養にして、ここまでたどり着いてきたんだなと。ちょっと偉そうですけど、その成長を感じ取りました。自分の欲望と、周りとの関係の中で、殺されることなくね。時間や人のせいで潰されちゃう人もいっぱいいると思うんですけど、そういうことをちゃんと栄養に変えてきたなと思いましたね。
「大人にも絶対楽しんでもらえる」
ーー最後に意気込みをお願いします!
百瀬:キッズ・プログラムという名前は付いていますけれど、子ども向けということではないと僕は思っています。大人の方も絶対楽しんでいただけるものになるとは思っています。そして、見てハッピーになれる作品が一番だと思うんですよ。劇を通じて、何か素敵な言葉を拾ってもらったり、ちょっと考えさせられるところがあったり、という『二分間の冒険』になっていると思うので、気軽に観に来ていただきたいと思います。
山本:意気込みとしては、毎回作品を作る時に思うんですけど、作品で終わるということではなく、これが社会を巻き込んだり、地域創造につながったり、議論を呼んだり……家庭内議論でも全然良くて、家庭だって社会の単位だと僕は思っているんですけど、そういう風に利用されるものになるといいなと思います。
(左から)百瀬朔、山本卓卓
取材・文=五月女菜穂 撮影=岡崎雄昌
公演情報
公演会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
原作 岡田淳(偕成社刊)
上演台本・演出 山本卓卓(範宙遊泳)
アニメーション/ひらのりょう(FOGHORN)
音楽/加藤訓子
出演 百瀬朔、佐野瑞稀、下川恭平、亀上空花、小林那優、埜本幸良、青山勝
声の出演 犬山イヌコ
おとな 3,500 円
こども(4 歳~高校生) 1,000 円
こども・バックステージツアーデー 1,500 円 (8/18、8/20、8/22、8/23のみ)
8/18、8/20、8/22、8/23は終演後、こどもたちに向けたスペシャル・バックステージツアーを開催。
※舞台の仕組みやセットの裏がわをのぞけるツアーです。
撮影ポイントもあり!夏休みの絵日記にもぴったりです。(約 30 分予定)
※参加にはバックステージツアーデーをご購入ください(各回 20 名限定)
※バックステージツアーには本券 1 枚につき、おとな 1 名同伴可能です。